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2014年4月22日 (火)

急旋回で転覆する,Sewol号の事故からー

韓国で発生したフェリーの転覆・沈没事故で船内に取り残された乗客が哀れです。

船で何らかの異常を感じた時に閉鎖空間に留まることの意味は,海賊襲来時を除いて思い当たりません。

この事故の原因・状況は 現時点(4月21日)までの情報では 「急旋回による傾斜」→「貨物,車の移動・荷崩れ」→「傾斜の進行」→「浸水」→「傾斜の進行」→「転覆」→「沈没」 と考えられているようです。
4月21日には新たに 急旋回以前から傾斜していたという情報もあって,ほとんど転覆寸前の状態で航行していたということになります。
又,管制センターとの30分間の交信が発表されましたが,旅客船の乗組員とは思えない,ほとんど素人の発言が続いて呆れるばかりでした。

今後 明らかにすべきは 「急旋回した理由」,「貨物,車の固縛状況」,「改造による重心の上昇程度と出港時・事故時のGM値(復原力)」,「航海士の発令と操舵手の対応の適切性」 などでしょう。
人的被害を大きくした 政府を含む関係者,特に乗組員の行動やシステムの不備,不手際,ミスなどは当然 検証する必要があります。
船会社の安全教育以前の,船員としての資質(知識・意識・能力)を問わざるを得ず,韓国の海運全体の問題となるでしょう。(朝鮮人の民族性まで問題を広げることはないでしょうが・・・)

Gm1 ここで,船の転覆について考えてみます。
船が旋回,波などが原因で傾斜した時,元に戻る力を復原力と言いますが,この復原力は 「メタセンター高さ」で決まり,「メタセンター高さ」は 重心:G と メタセンター:M の距離:GM です。
「メタセンター」とは(傾斜したときの)浮心(断面での浮力中心)から上方(重力の反対方向)へ伸ばした線が船体中心線と交わる点で,通常範囲の傾斜では 浮心は「メタセンター」周りに動きます。

「メタセンター高さ」:GMが 大きければ復原力は大きくなります。(但し,復原力が大きすぎると ローリング周期が短くなり 乗り心地が悪くなるので客船では ほどほどの値にすることが必要です。)
メタセンターは喫水下の形状(特に船幅)で決まります。
重心は 船体自重,積荷(油,水を含む)重さ 及び それらの分布で決まります。

ここで思い出すのは 約30年前,台湾籍のコンテナ船に便乗してヨーロッパに向かったときの シンガポール港を出た直後の出来事です。

私は 出港時の操船の邪魔になるので 操舵室にいるのを遠慮して,同じデッキの左舷「ウィング」と呼ばれるオープン・スペースの端に立って周りの景色を眺めていました。
この時,急に右舷に舵が切られたのです。
おそらく 前から来る船を避けるためだったと思われます。
航海速力 20数ノットのコンテナ船ですが,速力はまだ10ノットをやや超えた程度でした。
それでも 船は左舷側に傾斜し始め止まりません。
ドアを開けていた操舵室から悲鳴に近い叫び声が聞こえました。
ブリッジデッキの左舷端にいた私には海面がみるみる接近するのが見え,このまま転覆するのではないかと思われました。

こんなとき 操舵手(発令は航海士)は 慌てて反対舷(左舷)に舵を切ってはいけません,船は転覆します。唯一 有効なのは 速力を落すことです。

そのうち 何とか傾斜は止まり,元に戻りました。

すぐに 船長から一等航海士に きつい口調で指示がありました。
中国語なので分りませんでしたが,GMの確認だったと思われます。

後から聞いた話ですが,積み付け計算に誤りがあって GMがほとんど 零だったということで,二重底のバラスト・タンクにバラスト水の追加をした,とのことでした。
バラスト水追加前に ローリング(横揺れ)周期を計ったところ 30秒を超え,明らかに健全なGMを確保してないことが分りました。
大型船で健全な復原力(GM)を持っている場合,ローリング周期は 最長 20秒そこそこと思われます。
ローリング周期が長いのは 乗り心地はいいのですが,復原力が相対的に小さいということです。

その後,私の乗ったコンテナ船は マレーシアを経由して インド洋,紅海,地中海,大西洋を無事 航海して ハンブルグ港に着きました。

(追記 4/24)
本事故に関するいくつかのブログを見ていて,「潜水艦との衝突回避行動が原因の転覆・沈没事故の疑惑あり」と書いているものがありました。
その一つの根拠として 「セウォル号の球状船首底部に,接触痕があったにもかかわらず、韓国当局は言及していない」とありました。(そのブログ筆者は「東大工学部船舶工学科」出身とのこと)
しかし,これは 考えすぎと思えます。船舶工学科出身であるとのことを考慮して 敢えて言えば,意図的に誤った情報を流しているかのようです。
確かに 船首部が水面上にあったとき,船首底部に 塗装が剥げた接触痕があり,日本のTV局の中継アナウンサーが そのことに少し触れていましたが,特に その後,それが問題にはなりませんでした。

これが 潜水艦や その他艦船などとの接触が原因とするのは 無理があります。
塗装は剥げていましたが 凹みなどの構造の損傷は見られませんでした。

では この傷の原因は何か?
これは 通常の運用におけるアンカー・チェインの接触痕と考えられます。
アンカリング時,船は潮流や風により動きます。例えば 右舷のアンカーが常に船の右舷にあり続けるとは限らず,船が移動して 相対的にアンカーが船の左舷後方に位置することもあり得ます。このとき,アンカー・チェインは球状船首の側部および底部に接触しペイントを傷つけることがあり得ます。
これらのことは 船舶工学科出身でなくとも 合理的思考ができる人間なら辿り着ける結論でしょう。
セウォル号の接触痕は チェインによるものとして合理的な位置(方向),形状であったと思います。

修理や定期検査でドックに入った船の該当部に,この接触痕のない船を見つけることはできないでしょう。

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