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2015年2月 2日 (月)

フレデリック・フォーサイスの “Icon”

フレデリック・フォーサイス(‘Frederick Forsyth’,1938~ )の(戦争)サスペンス小説読破計画でー

   ・「キル・リスト(2014)」(‘The Kill List’,2013)
   ・「コブラ(2012)」(‘The Cobra’,2010)
   ・「アヴェンジャー(2004)」(上下)(‘Avenger’,2003)
   ・「アフガンの男(2010)」(上下)(‘The Afghan’,2006)
   ・「戦士たちの挽歌(2002)」(‘The Veteran’,2001)
   ・「オデッサ・ファイル(1974)」(‘The Odessa File’,1972)
   ・「悪魔の選択(1979)」(上下) (‘The Devil's Alternative’,1979)
の 7作品を読みました。

Img_8218時代を遡る順番で読んでいくつもりでしたが,順不同になっています。
  今回は 8作品目 「イコン(1996)」(上下) (‘Icon’,1996)です。
  今回も 図書館の開架書架には置いておらず,閉架書庫から出してもらって借りました。
  20年近く前の本ですが,一度も貸し出されることなく そのまま閉架書庫に収められたと思われるような新品同様に見えました。
買うなら 一冊 \1,900,上下巻合わせて \3,800 の立派な値段です。

Img_8223Img_8224

ページを開くと 登場人物が 3ページに亘って書き連ねられています。
この登場人物の多さに,若干 読書意欲を削がれますが,何とか読み始めました。

時代,場所,人物,出来事が複雑に錯綜する,フォーサイス特有の,相変わらずの展開で始まり,子供の頃からクラスメイトの名前さえ真面に覚えられなかった(覚えなかった)貧弱な記憶力と前期高齢者の弛んだ脳みそ故に,苦しめられました

物語は 「その夏,小さいパン一塊の値段が百万ルーブルにはねあがった。」の書き出しで始まります。その1999年の夏のロシアが 主な物語の舞台です。
この小説が書かれたのが 1996年(発行年)以前なので,ロシアにおける 1998年の ‘1/1000のデノミ’,そして 同年8月の「デフォルト」が考慮されておらず,百万ルーブル払えば 4,5人で結構なディナーを食べることができた,私がロシアに滞在した1997年のインフレが,さらに その2年後には パン一塊が百万ルーブルとなるハイパー・インフレとして継続しているとする設定です。

又,作品が書かれた1990年代半ばは,ロシアの初代大統領エリツィン(1991年~1999年在職)の時代であり,エリツィンによる「チェチェン侵攻」(1994~1996)や 選挙運動のために米国からキャンペーンのプロを呼んだことなどが巧みにストーリーに反映されています。

前半(上巻)は,1999年に起こる事件(作戦)の背景を,米ソ冷戦時代のスパイ戦を中心に描いた長いプロローグで,読み続ける心が折れるような複雑な(場所,時,組織)展開ですが,後半(下巻)は一気に読むことができました。

前半は,ロシアを我がものにしようとする イゴール・コマロフ愛国勢力同盟(UPF)指導者が選挙によって権力を手に入れた後の,ナチスに匹敵する非情なロシア統治方針を示した 「黒いファイル」が偶然 外部に持ち出された後,英国情報部が手に入れ,英国人と米国人を中心とする非公式組織がコマロフを潰す作戦を立てる経緯と,その作戦実行のためロシアに潜入する工作員として選ばれる元CIA工作員 ジェイスン・モンクの,1975年にCIAに採用されてから 1994年にCIAを退職するまでの経緯の,2本の経糸を中心に描かれます。
   「黒いファイル」には ベラルーシ,バルト三国,さらに旧ソ連南部地方,すなわち,ウクライナ,グルジア,アルメニア,モルドヴィア各共和国の再征服に関する項目があって,20年近く経った現在でも 違和感がない内容です。

  モンクはCIA工作員時代,巧みな心理的接近により 1984年から1988年にかけて 4人のロシア人情報提供者を得ますが,CIAの防諜部門所属 エイムズの私的かつ経済的理由による国家への裏切りー情報漏洩により,全員を失います。
  1994年に FBIがエイムズを逮捕し,事態を知ったモンクは 情報提供者に対する保護責任を果たせなかった悲嘆と怒りから エイムズに協力したCIA幹部のマルグルーを 問答無用で殴って病院送りにしてCIAを辞することになります。

後半(下巻)は,カリブ海の島で遊漁船を経営して穏やかに暮らしているモンクに,元英国秘密情報部(SIS)長官 ナイジェル・アーヴィン卿が仕事の依頼に来るところから始まり,舞台はロシアに移って モンクがアーヴィン卿の作戦に従ってコマロフの黒い陰謀を打ち砕くミッションを展開します。
モンクは 「二度とロシアに足を踏み入れない」と固く誓っていましたが,「黒いファイル」を見せられ,開かれた,新しいソ連(ロシア)を切望して情報提供者になり 無念の最期を遂げた4人への謝罪と鎮魂の気持ちから このミッションを引き受けます。
  ミッションは 「黒いファイル」に迫害計画が示されていたチェチェン系マフィアの協力の下で行われました。

この時代,(現在は知りませんが)ロシアではマフィアが軍隊並みの勢力で台頭し,マフィア間の‘血で血を洗う’激しい抗争がありました。
1996年から1997年にかけて 私がロシアに滞在したとき,ロシアにおける殺人犯の検挙率は 3%(日本では未検挙率が3%)と言われており,高級ホテルの入り口には金属探知機のゲートが設置され,高級レストランの入り口には迷彩服を着た,いかにも元兵士と思われる,いかつい警備員が警戒にあたっていました。これらの警戒は マフィアを対象にしたものだったので,日本人の私が ボディ・チェックを受けることはありませんでした。しかし,警備員に「カラテができるか?」と問われ,酒が入っていたので 「日本人男子の半分は黒帯だ。」と余計なことを言って 「しまった。」と思ったことがありました。

尚,訳者あとがきに 次のように書かれています。
「・・・ 読者の方々はすでにもうご存じと思いますが,フォーサイスは本書を最後に筆をたつことになりました。まだまだ書けるのにと思うと残念ですが,長編八本,中編六本,ドキュメンタリー一本,短編を数本と書き続けてきて,もういい,という心境になったのでしょう。・・・ 1996年10月 篠原慎 」

しかし,実際にはこの作品が最後にはならず,この作品の後 「マンハッタンの怪人(2002)」(‘The Phantom of Manhattan’,1999)「戦士たちの挽歌(2002) 短編集」(‘The Veteran’,2001),「アヴェンジャー(2004)」(上下)(‘Avenger’,2003),「アフガンの男(2010)」(上下)(‘The Afghan’,2006),「コブラ(2012)」(‘The Cobra’,2010),「キル・リスト(2014)」(‘The Kill List’,2013) の五本の長編(or 中編)と一本の短編集を書いています。

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