フレデリック・フォーサイスの “The Fourth Protocol”
フレデリック・フォーサイス(‘Frederick Forsyth’,1938~ )の(戦争)サスペンス小説読破計画,今回は 「第四の核(1984)」(上下) (‘The Fourth Protocol’,1984)です。
フォーサイスにとっては 5作品目の長編小説です。
・「キル・リスト(2014)」(‘The Kill List’,2013)
・「コブラ(2012)」(‘The Cobra’,2010)
・「アヴェンジャー(2004)」(上下)(‘Avenger’,2003)
・「アフガンの男(2010)」(上下)(‘The Afghan’,2006)
・「戦士たちの挽歌(2002)」(‘The Veteran’,2001)
・「オデッサ・ファイル(1974)」(‘The Odessa File’,1972)
・「悪魔の選択(1979)」(上下) (‘The Devil's Alternative’,1979)
・「イコン(1996)」(上下) (‘Icon’,1996)
と読み進めてきて これが9作品目です。
原題の ‘The Fourth Protocol’(第四議定書)は 1968年に米・英・ソ間で署名され 62ヶ国で調印された 「核拡散防止条約」(‘Treaty on the Non-Proliferation of Nuclear Weapons’)に付属したとされる四つの秘密議定書のうちの「第四議定書」を意味します。この議定書は小型の核爆弾の製造と他国への持ち込みを禁止する内容で,これを侵す企みとこれの阻止が本作品のメインテーマです。
彼の小説の特徴は その時代を,執筆時の数年後(本作の場合,発行が1984年で,舞台は 1987年)にもってくることで,執筆時の(世界)情勢,社会傾向から 起こっても不思議ではない,あるいは無理がないと思われるような国際的事件,企みを描き出すことで,発行時点における一種の警鐘となっています。
発行された1984年は 1979年に首相になったサッチャー女史の全盛期(?)であり,アルゼンチン軍による英領フォークランド諸島占領時の英艦隊派遣による奪還(1982)があり,既得権益にしがみつく労働組合(労働党)と対立の時代でした。これらの背景は考慮されていますが,発行年に英国を訪問したソ連共産党政治局員 ゴルバチョフ氏を交渉相手として認知し,冷戦の終焉をもたらした政治指導者とも言えるサッチャー女史は考慮されていません。
発行前年 1983年9月の大韓航空機撃墜事件は引用されているので発行ギリギリまで推敲されていたようです。
舞台は,鉄の女,マーガレット・サッチャー政権の1987年 英国。
余命わずかとなったソ連共産党中央委員会書記長が歴史に名を残すため,KGBにも秘密で,英国で密かに共産革命を起こすことを計画。保守党のライバルである労働党に,ソ連が支援する活動家を忍びこませ,総選挙で彼らに堂々と勝利させ,政権を奪取しようというものです。
そのために書記長が仕組んだのは,総選挙の期間中に英国内の米軍基地で核を爆発させる計画でした。米軍の核が誤爆したと思わせることにより,米国への反発を誘起させると同時に 選挙で反核を強く訴えていた労働党に,浮動票を取り込ませる作戦です。
小型核爆弾は 9個のパーツに分けられ,様々なルートで,様々な偽装を施した品物として 9人のクーリェ(運搬人)によって英国に持ち込まれ,英国内でスティール・キャビネットの中に組み立てられます。
英国で核爆弾のパーツを受け取るのは,英国人として生活する KGB非合法化活動局工作員 バレリー・ペトロフスキー少佐,移動手段として現地で調達したのはBMW・K100(1983年発売開始,小説発行時の新型バイク)でした。
少ない手がかりから 執拗に,姿が見えないペトロフスキー少佐を追い詰めるのは MI5(‘Military Intelligence Section 5’,国内治安維持を担当する情報機関。因みに ジェームズ・ボンドは MI6 所属。)の課長 ジョン・プレストン。
苦労の末探し出したペトロフスキーのアジトを急襲するのは SAS(‘Special Air Service’,特殊空挺部隊)の中隊でした。相手が1人の工作員とは言え,核爆弾のボタンを押すのを阻止するには警察には荷が重すぎるとの判断でした。
ストーリーは上記プロットのように単純には展開せず,相変わらずの複雑さで,最後の最後には 裏取引きがあったことが明かされます。
登場する銃器類はー
SASが 急襲時に使ったのは ドイツ製短機関銃 ‘Heckler & Koch MP5’,ペトロフスキー少佐の護身用は フィンランドの ‘Sako Triace Target’でした。サコー・トライエースには 間違いなく自害できるように青酸カリウムが仕込まれた弾が装弾されていました。
しかし,ペトロフスキー少佐は自身を撃つ間もなく,射殺せず逮捕するために急襲に同行したMI5のプレストンの目の前で,SASの将校に射殺されます。既に 何発かの銃弾を受けて抵抗できず,核爆弾のボタンを押せる状態になかったペトロフスキー少佐の頭を敢えて撃ち抜いたSASの行動にプレストンは 裏取引きの疑いを抱くのでした。
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