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2015年5月 4日 (月)

フレデリック・フォーサイスの “The Fist of God”

Img_8737フレデリック・フォーサイス(‘Frederick Forsyth’,1938~ )の(戦争)サスペンス小説読破計画で 13作品目として  「神の拳(1994)」(上下) (‘The Fist of God’,1994)を読みました。

今まで読んだのはー
   ・「キル・リスト(2014)」(‘The Kill List’,2013)
   ・「コブラ(2012)」(‘The Cobra’,2010)
   ・「アヴェンジャー(2004)」(上下)(‘Avenger’,2003)
   ・「アフガンの男(2010)」(上下)(‘The Afghan’,2006)
   ・「戦士たちの挽歌(2002)」(‘The Veteran’,2001)
   ・「オデッサ・ファイル(1974)」(‘The Odessa File’,1972)
   ・「悪魔の選択(1979)」(上下) (‘The Devil's Alternative’,1979)
   ・「イコン(1996)」(上下) (‘Icon’,1996)
   ・「第四の核(1984)」(上下) (‘The Fourth Protocol’,1984)
   ・「マンハッタンの怪人(2000)」 (‘The Phantom of Manhattan’,1999)
   ・「シェパード(1975)」 (‘The Shepherd’,1975)
   ・「ジャッカルの日(1971)」 (‘The Day of the Jackal’,1971)
の12作品です。

物語は1990年3月22日,弾道学の権威,カナダ人の天才科学者 ジェラルド・ヴィンセント・ブル(‘Gerald Vincent Bull’,1928~1990)が,ブリュッセルの自宅(アパート6階)のドア前で5発の銃弾を受けて殺害されるところから始まります。

ブルは実在した人物で,この殺害事件は実際に発生して報道されており,フォーサイスは報道内容に矛盾せずその殺害状況を描写しています。
犯人として 英国,イスラエル,イラクの各情報機関が疑われましたが,未解決事件のためフォーサイスも小説の中で犯人(犯行組織)を特定していません。
これらの国の情報機関が疑われる理由は,ブルが関係していた「バビロン計画」に起因します。
(ここは実話)ブルは1988年にイラクと契約して(後に)「バビロン計画」と言われる 砲身長 150m,口径 1mの巨大砲開発に協力していたことが判明しており,1991年8月,湾岸戦争終了後の国連査察で,実験用に作られた 全長45m,口径35cmの砲が発見されました。(発見後に「バビロン計画」の存在が明らかになった。)

この「バビロン計画」が,小説の中では 「砲身長:180m,口径:1m,射程:1,000km」(大和の46cm主砲の砲身長:20.7m,射程:42km)の巨砲として完成しており(暗殺が遅かった?),タイトルである 『神の拳』が砲弾として込められる,として描かれます。

この小説は イラクのクウェート侵攻から湾岸戦争終結までを描いていますが,史実とフィクションが混ざり合って 当時のニュース報道の記憶が甦ります。
報道されてないところで この小説で描かれているようなことがあったとしても不思議ではない,という気になります。

巻頭に示された,主な登場人物は読む気を失いそうになる,相変わらずの多さで,このうち,少なくとも(知っている限りでは)下線を施した人物は実在です。
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物語はクウェート侵攻から湾岸戦争終結までの実際の時系列に沿って(時々,前後することはありますが)展開します。
復習するとー
   1990/8/2 イラク軍 クウェート侵攻開始
   1990/8/8 イラクのクウェート併合宣言
   1990/8    多国籍軍 サウジアラビア進駐開始 ‘Operation Desert Shield
   1990/11/29 国連安保理決議 ‘クウェート撤退期限:1/15’
   1991/1/17 多国籍軍 空爆開始 ‘Operation Desert Storm
   1991/2/23 多国籍軍 陸上部隊 進攻開始 ‘Operation Desert Saber
   1991/2/24 空爆停止
   1991/2/27 or 28(?) クウェート市解放・米国 停戦発表
   1991/3/3 暫定停戦協定
   1991/4/11 停戦協定発効

登場する組織はー
  ・米英軍
  ・米英情報部門
  ・多国籍軍
  ・イスラエル情報部
  ・フセイン以下イラクの幹部

これら組織の動き,策謀,作戦の詳細な記述を軸に,作品の主人公と言える SAS(‘Special Air Service’,英陸軍・特殊空挺部隊)少佐・マイク・マーチンの活躍が描かれます。
マイク・マーチンは祖母のインド人の容貌(褐色の肌,黒い眼と髪)を隔世遺伝で持ち,イラクで育ってアラビア語に堪能で,アラブ人として十分に通用するため,イラク侵攻後のクウェートに潜入して スパイ活動とゲリラ活動を行い,その後,金のためにフセインを裏切ったイラク高官からの情報を入手し,リヤドに送る命を受けバグダッドに潜入します。

マイク・マーチンは,その後の作品 「アフガンの男(2010)」(‘The Afghan’,2006)で再登場し,退役後でありながら,キューバの米軍施設に5年間収監中のアフガン人に身をやつして,アルカイダ組織に潜入し テロ計画の阻止活動にあたります。

バグダッドで最後の最高機密を入手直後,無線連絡の電波から潜伏場所が発覚しそうになったため,マイク・マーチンは2月18日,バグダッドから脱出し,トラックを乗り継いで砂漠地帯に向かいます。砂漠で ビニール袋に包んで埋めていた ヤマハの125ccモトクロス・バイクを掘り出してサウジアラビア国境に到達した後,フランス軍のパトロール兵に発見され,ブラック・ホーク・ヘリでリヤド空軍基地に帰還します。

Operation Desert Saber’開始が近付いているとき,マイク・マーチンによってもたらされたのは 「バビロン計画」による巨大砲が隠されている山岳地帯の位置情報でした。
陸上部隊の進攻開始時に 「神の拳」が発射される危険性が高く,進攻開始前に,発射ボタンを押す一瞬の隙も与えずに 一発のミサイルで殲滅する必要があると判断されましたが,巧みに偽装されているため航空写真でのピンポイント特定が不可能だったため,決定された作戦は HALO(‘High Altitude Low Opening’,高高度降下低高度開傘)による空挺部隊の潜入,捜索,ミサイル誘導のための赤外線目標標示でした。
ハイアットのスイート・ルームで,久しぶりの入浴後,眠りこけていたマイク・マーチンは 作戦本部に呼び戻され,航空写真から偽装基地有無の最終確認のための意見を求められます。彼は 航空写真から,付近に点在する村が偽物であることを明確な根拠をもって指摘すると同時に,作戦参加を志願します。
その後,マイク・マーチンは 潜入計画を立て,自ら指名した3人のSASの部下と共に C-130 ハーキュリーズ輸送機に乗り込みます。
離陸は 2月21日21時45分,陸上部隊の進攻が2日後に迫っていました。

かなりの長編でしたが,興味深い内容と,それほど複雑さがない展開で読み切りました。

*余談1:
湾岸戦争のきっかけとなった 1990年のイラクのクウェート侵攻で思い出すことがあります。
かつて働いていた会社が,クウェートの国営会社に,1980年頃,ある製品を納入しました。そして1990年夏,その会社から製品の改造見積りの依頼が到来し,その見積り業務が(適切な選択で)私のグループに回ってきました。直観で1億円を超えると思われる改造工事だったので,赤字を出さず,適正な利益を出すための見積りは,複数の有能な人間で少なくとも延べ50時間以上を要する仕事と思われ,ちょうど進行していた仕事が遅れ気味の状況だったので,見積り方針を立てながら その後の作業展開に悩んでいました。
そして 見積り依頼を入手して数日後,イラクがクウェートに侵攻したことをニュースで知りました。当時のクウェートの状況が どのようなものであったか想像に難くなく,見積り依頼は流れ(クウェートからの連絡はその後,一切なくなり),世界情勢を顧みることなく,個人的には肩の荷が下り,ほっとしました。

*余談2:
篠原 慎さんの翻訳は 相変わらずの国語力が示され,自らの浅学さを思い知らされます。
例えば 次のような多数の熟語・ことわざが登場しました。

鎧袖一触(がいしょういっしょく)
阿諛追従(あゆついじゅう)
独擅場(どくせんじょう):現在は間違って「独壇場」が遣われている。
拳々服膺(けんけんふくよう)
九仞の功を一簣に虧く(きゅうじんのこうをいっきにかく )
蹌踉(そうろう)

Img_8741_2*余談3:
フォーサイスの小説を読むときには,‘Post-it’を使用します。
確認のため読み返したくなるであろうページや 初めて知った言葉,情報のページにメモを書いて貼っておきます。
記憶力に自信がない前期高齢者の強力なサポートになり,糊部分が透明なタイプは 本の文字を隠さないので有効です。

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