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2015年5月28日 (木)

フレデリック・フォーサイスの “The Price of The Bride”

フレデリック・フォーサイス(‘Frederick Forsyth’,1938~ )の(スパイ)サスペンス小説読破計画で 15作品目として  「売国奴の持参金(1991)」 (‘The Price of The Bride’ in The Deceiver’,1991)を読みました。

今まで読んだのはー
   ・「キル・リスト(2014)」(‘The Kill List’,2013)
   ・「コブラ(2012)」(‘The Cobra’,2010)
   ・「アヴェンジャー(2004)」(上下)(‘Avenger’,2003)
   ・「アフガンの男(2010)」(上下)(‘The Afghan’,2006)
   ・「戦士たちの挽歌(2002)」(‘The Veteran’,2001)
   ・「オデッサ・ファイル(1974)」(‘The Odessa File’,1972)
   ・「悪魔の選択(1979)」(上下) (‘The Devil's Alternative’,1979)
   ・「イコン(1996)」(上下) (‘Icon’,1996)
   ・「第四の核(1984)」(上下) (‘The Fourth Protocol’,1984)
   ・「マンハッタンの怪人(2000)」 (‘The Phantom of Manhattan’,1999)
   ・「シェパード(1975)」 (‘The Shepherd’,1975)
   ・「ジャッカルの日(1971)」 (‘The Day of the Jackal’,1971)
   ・「神の拳(1994)」(上下) (‘The Fist of God’,1994)
   ・「騙し屋(1991)」(‘Pride and Extreme Prejudice in The Deceiver’,1991)
の14作品です。

Img_8800本作品「売国奴の持参金」は,日本では 「マクレディ・シリーズ」四部作の第二弾ですが,オリジナルは,この4つの作品が,1冊に収められており,作品のタイトルは 日本発行での第一弾に付けられた‘The Deceiver’(騙し屋)です。

主人公のサミュエル(サム)・マクレディ,イギリスの秘密情報機関 SISSecret Intelligence Service)の一部門である  DDPS(‘Deception, Disinformation and Psychological Operations’, 「欺瞞,逆情報及び心理工作」)の部長が,冷戦終結によって開始されたSIS組織の人員整理計画のスケープゴートにされて引退勧告を受けます。
現役に留まるため,開催を要請した聴聞会で,弁護役として指名した 10歳若い副部長 デニス・ゴーントが 聴聞会の委員に語る マクレディの功績を示す2番目の事件です。

タイトルの「売国奴の持参金」の原題は ‘The Price of The Bride’ 「花嫁の持参金」で,亡命希望者が,亡命前に流し得る,あるいは 直接持参し得る情報を指す「業界用語」とされ,この情報の質と量によって,亡命後の立場,報酬,生き方が左右されます。

事件はサッチャー首相が引退した1986年の英国で発生しました。
この前年 1985年,ゴルバジョフがソ連 共産党書記長に就任しています。

戦闘演習視察のために,招待されて英国滞在中のソ連軍事情報部隊 ‘GRU’(the Soviet Military Intelligence Corps)の一人のメンバーが CIAのロンドン支局員の住まいに電話し,自身を ピョートル・オルローフ KGB大佐と名乗って,米国への亡命を願い出ます。
電話を受けたCIA 特別プロジェクト・オフィス所属・ロンドン支局駐在の情報員 ジョー・ロスは オルローフに与えられた30分内での回答条件故に,上司との協議が間に合わず,単独の判断でオルローフをオックスフォードシャー米空軍基地から米国に連れ帰ります。

オルローフのもたらした情報は,多くの国でソ連のスパイ逮捕につながり,かつ,ソ連の軍事計画に関する重要な情報の提供もあって,非常に価値があると見做されます。
CIAが,価値ある『資産』(亡命者)を得て喜んでいる一方,マクレディはオルローフには何かがあると直感し,その疑いを KGBロンドン駐在官事務所のトップでありながら,マクレディに密かに情報を流している ゴドロフ,コード・ネーム「記念品」(‘Keepsake’)に確認します。
「記念品」は オルローフが亡命者でなく,おとり(‘plant’)であって,CIAの高官をソ連の「もぐら」(二重スパイ)にでっち上げ,結果として CIAに内部抗争の種をまき,局員の士気を低下させ,かつ,SISとの協力関係を潰すこと目的とする 「ポチョムキン計画」を実行する任務を負っている主張します。

英米は彼ら自身の互いの情報源の信頼性を譲らず,両者の協力関係は相互疑念に変わります。
オルローフが,想定されるCIA内の裏切り者を間接的に特定することに最終的に成功して,事態の展開が加速するのと同時期に,「記念品」が突然モスクワに戻ったことで マクレディは窮地に立たされます。

CIAの内部崩壊を防ぎ,「記念品」が彼を騙してないことを自ら証明するために,マクレディは,すでにソ連内部で疑われ始めている「記念品」を,モスクワから脱出させるためモスクワに潜入します。
「記念品」は,マクレディへの忠誠とオルローフの裏切りの,疑う余地のない証拠を持ち出すために,モスクワに戻ったことを明らかにします。

しかし,職務に忠実,かつ性急すぎたCIA職員 ジョー・ロスが,オルローフが特定したCIA高官を殺害することを防ぐことには間に合いませんでした。
物語は,仮面を剥がれたオルローフが 処刑を受け入れて終わります。

フォーサイスは,いつものとおり 実話を織り込んで ストーリーに真実味を持たせています。

本作品においては,実在した 「ケンブリッジ5人組」(Cambridge Five)が出てきます。
1930年代,ケンブリッジ大学在学中に共産主義にかぶれた(?)5人が,ソ連情報局のリクルートによってスパイとして活動を始め,エリートであった彼らは英国の外務省やMI6などの職員になって,英国とその同盟国の外交,軍事,諜報などに関わる大量の情報をソ連に手渡した後,1950年代に 彼らのスパイ活動は露見して,メンバーの多くがソ連に亡命しました。
  そのうち4人はー
   ・キム・フィルビー(‘Harold Adrian Russell “Kim” Philby’,1912~1988) MI6工作員/部長。
   ・ドナルド・マクリーン(‘Donald Duart Maclean’,1913~1983) 外交官。駐米大使館勤務時代,原子爆弾に関する米英共同開発の機密情報をモスクワに流した。
   ガイ・バージェス(‘Guy Francis de Moncy Bueress’,1910~1963) BBCキャスター/MI6工作員。
   ・
アンソニー・ブラント(‘(Sir) Anthony Frederick Blunt’,1907~1983) 美術史家/ロンドン大学教授/MI5工作員。美術顧問として女王の美術コレクションの鑑定人をつとめ,ナイトの称号を受けた。美術史関係で日本語に翻訳された著作もある。後にスパイ行為が発覚してナイトの称号剥奪。
    と判明していましたが,残りの1人は コード・ネームの 「リスト(‘Liszt’)」しか判明していませんでした。

(参考)彼ら ‘Cambridge Five’を題材とするいくつかの小説が書かれています。
  ・‘The Untouchableby John Banville,1998
  ・‘The Cambridge Spies: The Untold Story of Maclean, Philby, and Burgess in Americaby Verne W. Newton,1991 (ノン・フィクション?)

  ・‘The Trinity Six’(ケンブリッジ・シックス) by Charles Cumming,2011

本作品において,亡命の証明として オルローフに,経歴からして知らないはずがない 5人目が誰であるかを言わせるように 「記念品」は マクレディを通じて ジョー・ロスにアドバイスします。
しかし,結局,間に合わず,無実の罪を着せられたCIA高官は ジョー・ロスの手で暗殺されます。
他方,「記念品」は 自らのソ連裏切りの証拠として,この5人目のスパイを暴露する書類をマクレディに渡します。

CIAに犠牲者を出しましたが,CIA内の混乱と,CIASISの協力関係の崩壊を防ぎ,「ケンブリッジ5人組」の最後の1人を明らかにした,マクレディの仕事の一つでした。

因みに オルローフがCIAに渡したソ連軍の情報等は全て正しいものでしたが,ゴルバジョフが既にペレストロイカを提唱し,組織等の改革に乗り出していて,程なく古新聞になる情報ばかりでした。 南米で摘発されたスパイも,ほぼ用済みの現地調達の連中でした。

冷戦末期の非情なスパイ戦を描いています。

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