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2016年10月21日 (金)

1,000億円の受注工事で 2,300億円の赤字ではー

10月18日,三菱重工が大型客船建造事業から撤退すると発表しました。

1990年,日本の造船所として 50年ぶりに本格的大型客船 「クリスタル・ハーモニー(Crystal Harmony)」(現・飛鳥Ⅱ)を建造して以来,日本の造船会社では 唯一 大型客船を手掛けていた三菱重工でしたが,遂に撤退しました。

撤退の理由はー

  ・ドイツのアイーダ・クルーズから 125,000総トンの大型客船 2隻を10年ぶりに受注し,1隻目を予定より1年遅れで 今年(2016年)3月に引き渡し,2隻目を今年度(2016年度)中の引き渡しを目指して建造中 2隻の受注額 約1,000億円に対して 2,300億円(2,400億円との報道もあり)の赤字を出した。

・複雑な設計に対応できる人員がいないのに受注を急いだことや,海外顧客とのやりとりにも不慣れで調達先の変更を繰り返した。

・設計段階から船主の承認がなかなか得られず,客室や空調などの仕様の確定作業は難航。

・設計あと戻り,承認遅れ → 資材調達,現場工程混乱。

結局,海外向け大型客船を設計する 「設計能力(最新知識,技術力,交渉力,語学力,センス,人数,・・・ )が不足」 という結論でしょう。

日本の造船会社では Ⓐ構造(船殻)設計者,Ⓑ機関艤装設計者,Ⓒ電気艤装設計者,Ⓓ外艤装設計者等に比べて Ⓔ内装設計者の数が少ない,貨物船設計体制の最適人員構成であるのに対し,客船設計においては おそらく ⒸとⒺ,特にⒺ内装設計者の必要人数が大きく,これがボトルネックとなって設計スケジュールに大きく影響することが容易に想像できます。
三菱重工が全工場の内装設計者を掻き集めても 設計人員の歪は解消できなかったのでしょう。内装専門会社にアウトソーシングしても事態はそれほど変わらないと思われます。
工作現場の人員構成も同様でしょう。
貨物船と客船では 仕事内容のバランスが違いすぎます。

現場では建造遅れを最小にするため 多くの作業員を投入しましたが,3回 ボヤが発生したりで 混乱も大きかったようです。
ピーク時には コントロール限界を超える5,000人超の作業員が1隻に投入されたとも言われています。(三菱重工・長崎造船所 全四工場の従業員数が 5,000人強)

「週刊東洋経済」(2016/4/16)によれば,1番船,2番船の 「設計」および「建造」の計画と実績は下図のとおりです。

Planactual

1番船の計画設計期間が 約2年間だったのが,実績はほぼ2倍となり,設計終了も1年半以上遅れています。設計費だけでも 計画の2倍(おそらく それ以上)はかかったと思われます。

建造は,設計が固まってないまま,完工時期を抑えるためには 計画どうりの日程で開始せざるを得ず,設計が固まってからの 改正(修正)工事が多かったことが容易に想像できます。
1番船の 計画建造(+試験)期間は2年弱で 2014年度末引き渡し予定だったのが 1年遅れの2015年度末の引き渡しになっています。
契約がどうなっていたか分りませんが,引き渡し遅延 1年のペナルティは相当の額でしょう。

客船の設計・建造をコマーシャル・ベースで行うことは,日本の造船所には,もはや無理だという結論になったようです。

かつて 「クリスタル・ハーモニー」の 50年ぶりの客船建造時には,客室のモックアップ・モデルを作って そこで 設計者夫婦が1週間生活して不具合の確認,改良をしたとのことでしたが,引き渡し後1年の補償期間を過ぎたドックで 全客室のバスタブを変える工事が必要になったとの話を読んだことががあります。

バスタブが深すぎて 多くの乗客からクレームがあったとのことです。
日本人が好みがちな 「肩までゆったりつかれる深いバスタブ」は 欧米人からすれば好ましくなく,そのセンスがなければ 欧米人向けの客船の設計は難しいでしょう。
設計段階における船主要求の狙いの理解もままならず,設計承認を手間取る状況も起こります。

日本のカーフェリーのように 「展望浴場あり」をセールス・ポイントにするのとは全く異なるセンスで 客船の設計をする必要がある,ということです。
貨物船の設計には不要・無駄と思われる客船向きの設計能力を持つ設計員は多くはいないでしょう。

教訓としてー
自衛隊艦艇(要するに軍艦)の設計・建造は,民間造船会社が手掛けているので,仕事を途切れないように続けていなければ 艦艇技術(人を含んで)の確保は難しいことになり,何年も空白期間があって 「さあ造れ」 と言われても 一級の艦艇を造るのは もはや無理です。

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