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2017年3月 7日 (火)

「バーニング・オーシャン」を観逃せない理由がある。

2月に 「クリミナル  2人の記憶を持つ男」を観に行ったとき,映画館で手にした今後公開予定映画のチラシを見て驚きました。そのときまで,この映画の存在を知りませんでした。
この映画が描いている実際に起こった事故は,私にとってはかなりショッキングなものでした。

FrontBack

4月公開予定の 『バーニング・オーシャン』(‘Deepwater Horizon‘,2016),‘Biopic Disaster Film’(実録大惨事映画)です。
(邦題を 原題と違う英語の片仮名表記とすることに違和感あり。)

2010年にメキシコ湾で爆発火災を起こして沈んだ 石油掘削リグ(‘ultra-deepwater, dynamically positioned, semi-submersible offshore drilling rig - 超深水 動的位置修正 半潜水型 石油掘削リグ)の事故を描いた映画です。事故により海中で噴き出し続ける原油はいくつかの手を打っても止まらず,ほぼ3ヶ月後の最終対策までの流出原油量は 78万トンと言われています。
因みに ‘dynamically positioned’は,海底にドリルで穴をあけて原油を採取するとき,リグが風や潮流で移動すると,海底まで下ろしているドリル・ロッドが折損するので,定めた位置からの移動を GPSで検知し,リグのLower Hull 底部に備えた8基のスラスターを自動的に動かし,位置を許容範囲内に修正するシステムを意味します。
又,本リグは Upper HullLower Hull をつなぐ 4本の Column の断面形状を工夫して,波浪影響による動揺を最小に抑えることにより 世界最高の稼働率を謳っていました。

映画のチラシにはー
    「2010年4月20日
     メキシコ湾沖80キロ
     石油掘削施設 “ディープウォーター・ホライゾン”
     建設当初より安全面に問題
     本格的稼働が大幅に遅延
     親会社の指示による強制稼働を開始
     海底油田からの泥の逆流を検知
     天然ガスの逆流を検知
     22時 大爆発
     爆発時刻の施設内作業員126名

とあり,「実話」 と書かれています。

何故 驚いたか,そして,この映画を観なければならない理由とは?

Drytow_aこの映画の主役である石油掘削リグ ‘Deepwater Horizon’は,2001年に韓国・現代重工で建造されたものです。

右の写真は完成後,稼働海域まで 重量物運搬船で運ばれている(Dry Tow)様子です。

2010年に,この爆発・火災・沈没事故が新聞やTVニュースで報じられ,燃え上がる炎と高く立ち上る黒煙を見た時,初めはそれほど気にしませんでしたが,そのうち 問題のリグが ‘Deepwater Horizon’と知って驚き,事故の報道を追って,結果的にオペレーション・ミスが原因であることを知って 安心(?)しました。
但し,行方不明者11人, 負傷者17人と報告されています。

このリグは詳細設計以降建造までを現代重工が実施しましたが,基本設計は私が勤務していた会社が受注し,私はその構造設計を担当(engineer in charge/design approver)しました。
現代重工による詳細構造設計図面もクライアントからの依頼を受けて review しました。
(韓国・蔚山駐在は精神的/体質的に耐えられそうになかったので,建造中の検査・監督業務は遠慮しました。)
1998年から1999年にかけて(関係ありませんが,この時期,米国内空港の喫煙室が廃止されつつあった),クライアントとの技術打ち合わせや,設計・建造審査するアメリカ船級協会も経験のないスペックだったため,アメリカ船級協会との強度解析・評価方法の打ち合わせに米国 ヒューストンに,4回出張しました。
本ブログのプロフィール写真は,出張中に,予定された稼働海域であるメキシコ湾を見に行ったときのものです。計算対象の海象は世界で最も厳しい北大西洋だったし,メキシコ湾の海を眺めても何の参考にもなりませんが,気分的に見たくなって,メキシコ湾を望むガルベストンまで足を伸ばしました。

構造強度的問題はありませんでしたが,さて 事故はどのように描かれているでしょうか。

主演は 私の好きな映画 「ザ・シューター/極大射程」(‘The Shooter’,2007)で 元海兵隊のスナイパーボブ・リー・スワガーを演じた マーク・ウォールバーグ(‘Mark Wahlberg’, 1971~  )です。

Deepwater_horizon_poster_bDeepwater_horizon_poster_a

このリグの設計に関連して 強く記憶に残っているのは,ほぼ基本設計が終了した段階の最終打ち合わせに出向いた時,既に クライアントの会社に常駐していた現代重工の若い韓国人スタッフに,建造の容易さ(=建造コスト削減)を目的として,最も強度的に厳しく,重要なヶ所への部分的設計変更を執拗に求めて食い下がられたことです。
「強度的に変更不可,議論の余地なし。」 と言っても諦めず,オフィスの外まで追いかけてくる彼を 「明日 日本に帰るので,今から土産を買いに行く。付き合う時間はない。」 と あしらいました。
彼の 青白い顔と,この要求が通らなければ韓国に帰れないと言わんばかりの必死さが 可哀相になりましたが,もし,あのとき,彼の要求を認めていたら,更に 不安になっていたことでしょう。
エンジニアが構造変更を要求するなら,オリジナルからの強度低下がなく,同等以上の強度を有すること,規定精度内の建造・組立を保証する方法などを (正しいか,合理的かは reviewするので,嘘でもいいからー)理論的に示す資料をもってするのが常識であって,泣き落としや,脅しで迫られても 相手にできません。
設計ミスに起因する事故,特に人身事故があれば,設計者としての罪を問われる可能性がある身としては,情が設計変更の理由になるはずがありません。

基本設計をしながら 完成した実物を見ることがなかった,今は存在しない構造を,奇しくも,その爆発・炎上・沈没事故を描いた映画で確認することになりました。

Replica
上の写真は撮影に使われた 実物の 85%大レプリカです。流石 ハリウッド,なかなか よくできています。
新入社員が実施した Heli. Deck 構造と下部サポートの構造計算書をチェックしたことを思い出させます。しかしー

Replica_a
見る角度を変えると,Upper Hull は途中まで,Column はー 裏側は骨のみ,反対側は やぐらです。

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映画・テレビ」カテゴリの記事

コメント

tintinさん,コメント ありがとうございます。
アメリカでは 大きな事件だっと思います。
BPの賠償金を調べたところ 諸々の合計で $54.6 billion とありました。
私が勤めていた会社が責任を負っていたら ・・・。

投稿: 管理人 | 2017年3月 8日 (水) 17時25分

貴重なお話をありがとうございます。事故発生当時はアメリカにおりました。一体どうなるのか、不安な気持ちでニュースを見ていたのを思い出します。たしか最近BPが膨大な賠償金を支払ったというニュースを聞いたような。ある意味、核心的なところで繋がっていらしたのですね。中東あたりの建築、インフラ受注も韓国企業の存在感が大きいのですが「安さ」へのこだわりが半端ないということもよくわかりました...

投稿: tintin | 2017年3月 8日 (水) 08時20分

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