川久保玲さんのことば “There is no pleasure in the work”
朝日新聞の (コラム)「折々のことば」(10月26日)に 表題のことばがあり,「『コムデギャルソン』 を主宰する 川久保玲さんが 英紙ガーディアン電子版(9月15日)のインタビューに答えた。」とありました。
“There is no pleasure in the work” の ‘pleasure’を何と訳すか,「楽しみ」,「喜び」,「満足」 などのうち何が適当でしょう。
朝日新聞は 「仕事に喜びはありません。」と訳していましたが,私は 「喜び」より 「楽しみ」の方が適切だと思いました。
‘The Guardian’の記事を読むと,川久保さんへの質問はすべて,川久保さんの夫で コム・デ・ギャルソン・インターナショナルのCEO エイドリアン・ジョフィ(Adrian Joffe)氏の通訳を通しており,彼女は ほぼ日本語で話しています。
彼女が日本語で何と言ったか 知るすべはありませんが,「仕事に楽しみはない。」 あるいは 「仕事に楽しさを感じることはない。」の方が自然のような気がします。
このインタビュー記事,‘The Guardian’の‘The Fashion autumn/winter 2018’のコーナーの ‘A rare interview with Comme des Garçons designer Rei Kawakubo’(「コム・デ・ギャルソン」のデザイナー 川久保玲との珍しい(or 最高の)インタビュー」の見出しの記事の,この言葉が出てくる部分の前後を抜粋して読んでみました。
インタビューアーが,通訳 ジョフィの話を聞いているというシチュエーションを考慮して読みましょう。
(以下 部分転載)
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“She said I should explain to you the amount of work she has to do, the shops she has to design as well as the collections. It never stops,” Joffe says.
Does she, famously unenthralled by fashion history, ever think about what her legacy will be?
They chat for several minutes, then Joffe turns to me and says, “She’s never thought about it. She doesn’t care about or believe in posterity.”
She says something in Japanese – the tone is dismissive – and he turns to her and says, in English, “Everybody else thinks about it! You are the only one who doesn’t think about it. That’s why designers make foundations, because they care about history, about what will be their legacy. You are the only one who thinks like this.”
She says something else, quieter this time. “She says when she’s not here any more, she doesn’t care if nothing is here any more,” Joffe says with the hint of a sigh. “She is highly unusual.” She looks at me, and smiles.
川久保は,さっきよりも 静かに 何か言った。「彼女は 地上から自分がいなくなった時,ここに何も残っていなくても気にしない,と言っている。」 とジョフィは小さくため息をつきながら言った。「彼女は とても独特だ」。 川久保は私を見て,ほほ笑んだ。
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やはり ‘pleasure’は 「楽しみ」,「楽しさ」がよさそうに思います。
しかも 質問の動詞が ‘enjoy’です。
ここで 川久保さんが拘っている(かも知れない) ‘job’ではなく ‘work’から,この二つの違いを考えるとー
1. 〔会社・他人などから依頼された〕仕事
5. 大変なこと
6. 《コ》ジョブ
1. 労働,仕事,研究,作業,労力
2. 職業,勤め口
‘work’は この意味を含んでないところが,川久保さんが拘ったところかも知れません。
現役時代に 「仕事は楽しいか?」と訊かれた時,直接的ではありませんが,
「その質問を たった今,地の底の坑道から,真っ黒な顔をして上がってきた炭鉱夫にできますか? 」 と逆質問で答えることにしていました。訊くまでもないだろうの意です。
これは かつて 伊丹十三氏が何かの本に書いていた受け売りです。尋ねる炭鉱夫がいなくなっていたとしても 同じことです。
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