ヴェルヌの 「地軸変更計画」 を初めて読んだ。
小学生の頃,海外の小説家で知っている一人が 「ジュール・ヴェルヌ」でした。
他は,コナン・ドイル,エドガー・ライス・バローズ,・・・ 。
ヴェルヌの 「地底探検」,「十五少年漂流記」,「海底二万哩」などは 何回も読み返したものです。
ジュール・ヴェルヌ(1828~1905)が,1889年に発表した 「地軸変更計画」(創元SF文庫,2005,原題:‘Sans Dessus Dessous’,『上も下もなく』 or 『上もなく下もなく』)を 図書館で借りて,初めて読みました。
日本語に初翻訳されたのは 1996年 「ジャストシステム」(出版社)による発行時で,子供の頃は読むことができなかった作品でした。今回,図書館で初めて知った作品です。
この小説が書かれた時代 1889年,まだ北緯83度~84度付近までしか人類は到達できておらず,北極点(北緯90度)までの 6度,すなわち 1度を約110km とすると 北極点の周り 半径 660kmの範囲は 人類未到達で,土地(島)があるのか,海だけなのか解明できていませんでした。
登場するのは,「月世界旅行」(‘De la Terre à la Lune’,直訳は『地球から月へ』 1865年,および ‘Autour de la lune’,直訳は 『月を周って』 1870年)で 大砲が撃ちだす有人弾丸による月旅行を計画・実行し,月を周って地球に帰還するという芸当を成し遂げた,南北戦争後の大砲専門家が作る 「大砲クラブ」です。
時は 19世紀後半,話は,米国 バルティモアで開催された,あるかないか分らない,北緯84度より北の北極の土地の競売会から始まります。入札者は 個人ではなく 国の代表であり,米国の代表は 「北極実用化協会」で,この団体が 最終的に,英国代表との一騎打ちの結果,1平方マイル当たり,200セント,合計 80万ドル強で落札します。
そして この協会を運営しているのは 「大砲クラブ」会長,インペイ・バービケインが社長の会社でした。
このクラブこそ,20余年前 人間を乗せた弾丸を 長さ 200mを超える大砲で月に向かって撃ち出した(「月世界旅行」,1865 & 1870)連中だったのです。
彼等の,この落札,北極圏領有の目的は 北極地域に大量に存在していると推定される石炭を手に入れて大儲けすることでした。
しかし,北緯84度以北の極地に行くことは,この時代,ほぼ不可能であり,うまく到達できたとしても 石炭を採掘する作業は更に不可能と思われました。
それ以前に,彼の地に土地(大陸)が存在していることすら不明だったのです。
ここに,驚くべき計画がありました。バービケイン達の計画は,黄道面(地球の公転面)への垂直線から 23度28分(原文のまま)傾斜している地球の地軸(自転軸)を 黄道面に対して垂直に変え,現在の北極点を 北緯67度の温暖な気候地帯として採掘可能な地域とするという,地球上の四季を失くし,地球は勿論,他の地域住民の迷惑を顧みない我が儘なものでした。
その手段として,赤道付近で地軸にほぼ平行に,すなわち地表の接戦方向に砲弾を撃ちだし,その反力による(地球中心回りの)モーメントで地軸を移動させるというもので,「大砲クラブ」の書記にして数学者,マストンの計算によれば 質量 18万トンの砲弾を撃ち出すことが必要でした。
この情報が漏れると世界はパニックになりました。
計画通りに行なわれ,成功したと仮定したした試算ではー
「14億の人々を脅威にさらし,・・・ 地球規模の大惨事を引き起こす・・・」
「海面変化 最大 8,000m による窒息死(高山化) あるいは 溺死」
「新しい海の底に沈むのが,シベリアのサモイェード人やラップ人,フエゴ人,パタゴニア人,タタール人,中国人,日本人,アルゼンチン人だけなら,先進諸国はこの犠牲を受け入れただろうか?」
*注:日本は 明治維新から 約20年,日露戦争勝利によって存在を世界に知らしめたのは この小説が発表された15年後の1904年であり,西欧諸国にとって日本は まだ とるに足らない後進国だった。
この脅威の計画に対して 世界は これを中止させようと,実行場所を探しますが,見つかりません。米国は,計算し,実行場所を知っているマストンを拘留して 白状させようとしますが口を割りません。
計画実行直前に,キリマンジャロ山脈の南,ワマサイ国 「ザンジバル駐在米国領事」から キリマンジャロの山麓で1年前から工事が行われているとの情報が入りますが,現地に分け入り,計画を阻止するには 時すでに遅く,計画は実行されます。
実行仕様はー 砲身として キリマンジャロ山塊に水平に開けられたトンネル,すなわち爆薬抗: 直径27m,長さ 600m 内壁は鋳鋼製のパイプで装甲,砲弾は1,000トン弾を180個合体した砲弾長 105m,質量 18万トン,新型火薬 2,000トン でした。
そして,誰にも邪魔されることなく,確かに発射しましたが,地球のどこにも 何の変化もなく,計画は失敗しました。
しばらくして,この計画に関心を持ち,実行前に計画データを入手していた,フランスの数学者 ピエルドゥーが,フランスの新聞に計画のミスに関する記事を書きました。
これによれば,ミスしたのは計算の基礎データ,地球の周囲 4万km を 4万m としていたことで,この 3桁の間違いが 最終的に12桁のミスとなり,計画(地軸23度28分移動)を成功させるためには 18万トン砲弾を 1兆発,同時 発射する必要がありました。
このミスは マストンが計算を黒板に書き始めてすぐに,何度かの電話があって,慌てて何枚か継いだ黒板を倒して,その際,“0” が 3個 消えてしまったことが原因でした。
終りにー 「地球の運動の条件を変えることは,人類に許される範囲を超えた行為なのだ。人間は,創造主が宇宙の仕組みの中に打ちたてた秩序を,何一つ変えることはできないのだから。」とありました。
この小説は,いくつかの点で,それまでのヴェルヌの作品との違和感があって,彼に 「本当に あなたが書いたのか?」という質問状が寄せられたそうです。
この「地球を動かす」というテーマで思い出すのは 中学生のとき観た,東宝映画 「妖星ゴラス」(1962年)です。これは 地軸の傾斜を変えるより 更に過激です。
このケースは,地球に衝突するコースを進む,推定質量:地球の6,000倍の妖星(=凶事の前兆と信じられる不吉な彗星)との衝突から 地球を守るため,南極大陸に,地球の外に向けて噴射する巨大なロケット推進装置を建設して(一基ではなく 数十基),地球をロケットとして移動させ,公転軌道を変えるー という話です。東宝の特撮映画には 欠かせない,巨大な「せいうち」のような古代モンスターが建設途中で覚醒して 大暴れするというシーンもありました。
その結果,成功したのかどうか,どのような気候等の影響があったのか等についての記憶はありません。
が,「巨大大砲を撃って 地軸を変える」から 73年経って 「地球をロケットとして公転軌道を変える」 では 時代は変わっても内容レベルは大して変わってないようです。
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