「井上陽水英訳詞集」(ロバート・キャンベル著・文)を読んだ。
図書館に借り出し予約していた 「井上陽水英訳詞集」が返却されたとの連絡が8月7日,図書館からあって借りてきました。
5月14日 講談社刊 ロバート・キャンベル著 「井上陽水英訳詞集」 301p.,¥2,916 です。
6月29日 朝日新聞の書評で取り上げられているのを見て,7月1日に 図書館に購入要求票を提出したところ,まだ購入はしてないが,既に購入要求票を出していた方がいたので,未だ購入してない本を借り出し予約で待っていました。
Native English Speaker にして 来日 30余年の日本文学者(近世・近代)のロバート・キャンベルさんによる井上陽水さんの歌詞の英訳とくれば,その質を信頼できる英訳として読みたくなるのは当然です。
本の構成は次のとおりです。
はじめに pp.1-12
第1章 時を彷徨う中で pp.24-53
第2章 余白に気をつけろ pp.55-177
第3章 井上陽水英訳詞集(50曲) pp.179-301
Endless Desire(限りない欲望)
If We Could Live Life Again(人生が二度あれば)
Rupture(断絶)
If by Chance Tomorrow It Is Clear(もしも明日が晴れなら)
Go on Home(家へお帰り)
No Umbrella(傘がない)
Map of the World from a Frigid Room(つめたい部屋の世界地図)
To the East,then to the West(東へ西へ)
It's So Damn Hot(かんかん照り)
Summer Festival(夏まつり)
Into Our Dream(夢の中へ)
Images of the Heart(心もよう)
The Two Who Can't Go Home(帰れない二人)
A World of Ice(氷の世界)
An Evening Cloudburst(夕立)
Clockwork Beetle(ゼンマイじかけのカブト虫)
A Two-toned Top(二色の独楽)
A Show with No Invitations(招待状のないショー)
Blue Sky,All by Myself(青空,ひとりきり)
A Turn in the Road(曲り角)
Words toward the End(結詞)
Warings from the Blue Darkness(青い闇の警告)
A Miss-something Contest(ミス コンテスト)
My Soft-word Darling(甘い言葉ダーリング)
Somehow It's Shanghai(なぜか上海)
Come out to Sea(海に来なさい)
Pegasus the Victor(勝者としてのペガサス)
Jealousy(ジェラシー)
A Perican Puzzled(とまどうペリカン)
Canary(カナリア)
Just One Wish(お願いはひとつ)
Can't Grasp It(ワカンナイ)
45 Minutes to Her Back(背中まで45分)
Ballerina(バレリーナ)
A Just-so Serenade(いっそ セレナーデ)
I Can't Dance So Well(ダンスはうまく踊れない)
No Trinkets These Tears(飾りじゃないのよ 涙は)
Wine-red Heart (ワインレッドの心)
So Miscast(ミスキャスト)
Smoldering(恋こがれて)
The Last News(最後のニュース)
Boyhood Days(少年時代)
A Tight Fit(Just Fit)
The Sighs of Do-re-mi(ドレミのため息)
Lying Diamods(嘘つきダイヤモンド)
Purity of Asia(アジアの純真)
The Ship without Cargo(積み荷のない船)
On the Top Floor(ビルの最上階)
Frame aound the Painting of a Lengthy Slope(長い坂の絵のフレーム)
The Dreams Goes on(覚めない夢)
詞は メロディとリズムを考慮した,歌える英訳ではなく,より正確に歌詞の意味を尊重した,読むための英訳(読詞)を心掛けたそうです。
キャンベルさんは NHKのSONGSの井上陽水さんの回でコメントを述べたことがあって 陽水さんとその詞に興味を持っていることは知っていましたが,本書で 接した歴史を知りました。
キャンベルさんは 1979年 21歳で初来日し,しばらく東京で過ごし,このとき 井上陽水さんの歌を聞いたとのことです。
そのときの感想:「井上陽水は上手い,こんな歌手がいるのだ。」
次に来日したのが 1985年 27歳,九州大学に籍を置き,研究生,その後 専任講師になり,1995年に上京するまでの約10年間を 福岡市で過ごしています。
私は 1968年から1972年までの4年間,福岡市で大学生活を送ったので,キャンベルさんの知っている福岡は私の知っている福岡の約20年後ということになります。
キャンベルさんは 「リバーサイドホテル」(1982年)を福岡市,それも 那珂川沿い西中洲のラブホテル(の雰囲気)と考えていたようですが,20年前に住んだ私の ぼんやりしたイメージもほぼ同じでした。
次の文がありました。
「那珂川のいわば左岸にはふたつの色合いがありました。性風俗に従事する人たちが辻の物陰に屯しているのが上流に向かって路地の左側,川に面した路地の右側には新しいホテルと着飾った金持ちそうな男女がいる。
賑やかな街から一筋奥まったところのホテルの鉄の扉を開けてチェックインし,私は博多のネオンに揺蕩う中州をなんとはなしに眺めていました。
有線ををつけると陽水さんの 『リバーサイドホテル』が流れました。1982年にリリースされた『LION&PELICAN』の中の一曲です。飯塚なのか田川なのか,まだ田舎だった筑豊からやってきたであろう若い男女を想像しました。」
この若い男女は 五木寛之著「青春の門」の信介と織江を連想させますが,織江が女給をしていたのは若松のキャバレーで,二人が結ばれたのも若松でした。
「春吉のブロック」に関する描写は 20年経っても変わってなかったことが確認できますが,「路地の右側には新しいホテルと着飾った金持ちそうな男女がいる。」は よく分りません。
又,「リバーサイドホテル」に関する記述の後に 「・・・ 橋を渡ったところの寿司屋の先にある狭い路地の入口付近,住吉橋のずっと手前にあったのがホテルIです。意匠を凝らした大理石をふんだんに使った,イタリア人の設計によるデザイナーズホテルでしたが,・・・ 」と書いています。
このホテルI は,私が暮していた時代にはなかった 「ホテル イル パラッツォ」(IL PALAZZO)で,予約サイト「一休」から予約できるホテルで,所謂,ラブホテルではありませんが,那珂川左岸に面する,ラブホテルがあって不思議ではない場所にあります。
川に浮かぶプールはありませんが,室内には円形のジャグジー・バスがあって 「リバーサイドホテル」の雰囲気があります。しかし,このホテルができたのは曲がリリースされた後の 1989年です。
一曲のみ ここに(遠慮がちに,密かに)転載します。
************************************
東へ西へ
To the East, then to the West
昼寝をすれば夜中に眠れないにはどういう訳だ
Why's is to hard to sleep nights on days that you've napped?
満月 空に満月 明日はいとしいあの娘に逢える
A full moon - there's a full moon in the sky,
and tomorrow I get to see my sweetheart.
目覚まし時計は母親みたいで心がかよわず
The alarm clock is like mom, we don't commune so well.
たよりの自分は睡眠不足で だから
Yours truly,the one who should be strong, is sleep deprived,
so everyone hang in there,hang in everybody.
ガンバレ みんなガンバレ 月は流れて東へ西へ
The moon flows out to the east,then to the west.
電車は今日もスシヅメのびる線路が拍車をかける
Today's train is packed again like sushi,spurred on by tracks that stretch far out.
満員 いつも満員 床にたおれた老婆が笑う
“Jammed full,always jammed full.” An old lady who fell down laugh back.
お情け無用のお祭り電車に呼吸も止められ
My breath is cut off on this cutthroat carnival train,
身動き出来ずに夢見る旅路へ だから
can't budge an inch;I'm off on a trip into dreams,
ガンバレ みんなガンバレ 夢の電車は東へ西へ
so everyone hang in there,hang in everybody.
The train of dreams runs to the east,then to the west.
花見の駅で待ってる君にやっとの思いで遭えた
Finally I met you waiting at the station near the flowering trees.
満開 花は満開 君はうれしさあまって気がふれる
They're in full bloom,the cherries are all out
ー so thrilled,you went over the edge.
空ではカラスも敗けないくらいによろこんでいるよ
In the sky,you know,ravens are as thrilled as we are.
とまどう僕にはなんにも出来ない だから
Me, puzzled,I can't do anything,
ガンバレ みんなガンバレ 黒いカラスは東へ西へ
so everyone hang in there,hang in everybody.
Black ravens fly east,then to the west.
***************************************
日本語原文での,日本語特有の曖昧な「主語」,「性別」,「単数・複数」,「時制」,「目的語」などを 英訳においては 明確にする必要があり,それらを考えることを通して,井上陽水の詞の心を明らかにしていました。
私より 英語の総合力は上であろう家人は 50作品 すべてをコピー(自身でキーを打って)しました。
その感想はー
・分り易い英語になっている。
・‘blue sky’,‘darkness’,‘dream’ の三語の頻出が印象的。
でした。
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