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2021年5月26日 (水)

スエズ運河での “Ever Given” の事故について

3月23日にスエズ運河で座礁して 329日に離礁するまで, 他船の航行を妨げていた超大型コンテナ船Ever Given20,000TEU)の運航は自由になりましたが,損害賠償の問題でスエズ運河内(おそらく途中のGreat Bitter Lake)に拘束されました。その後の進展はどうなっているでしょうか?解放されたと言う話は聞きません。

拘束が始まってすぐの 43日付け,‘The Guardian’ に興味深い視点の記事がありました。下記,拙訳・転載します。
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Wind ... or worse: was pilot error to blame for the Suez blockage?
...またはさらに悪いこと:パイロットのエラーはスエズ運河閉塞の原因として責められないのか?

ほとんどの海難事故は人為的ミスを伴うが,“Ever Given” が世界の海運を止めた真のストーリーはそれほど簡単には説明できない。トラブルは午前517分に始まった。20,000個のコンテナを積んだ超大型コンテナ船(ULCVUltra Large Container Vessel)“Ever Givenは,スエズ湾の南から15分前にスエズ運河に入った。

運河の仕組みは次のとおりである: 船は前夜に停泊し,翌朝早く出発するのを待つ。ポートサイド(Port Said)から南に向かう船団(convoy)が午前330分に通航を開始し,北に向かう船団が午前5時に出発する。両船団はグレートビター湖(Great Bitter Lake)で出会い,そこで南行きの船団が錨を下ろして相手を通過させる。スクーターの速度で移動する,建物の高さの船のみを対象とした,通過スポットのある田舎道を考えてみるとよい。

120マイルの長さの運河の大部分が狭いため,船団を組む。両側通航部は,2015年にエジプトが多額の費用をかけて建設し,南行きの船団移動を11時間に短縮した。しかし,両側通航部は22マイルの長さしかなく,残りの航路では,船は非常に細いルートを一列に並んで通航する必要がある。

Ever Given は大きく,重かった。世界の海運では普通のことだが,“Ever Given の通常のルートは,アジアからの貨物を取りに行くために東に向かい,荷を積んで戻ることだった。“Ever Given はまた幅が広く,‘beam’ (または ‘width’)は,194フィートで,水中の深さ(喫水)は51フィートだった。 ULCVは,20フィート換算のコンテナが20,000個を超える容量を持つ船舶に与えられた仕様である。スエズ運河規則では,“Ever Given のサイズの船には特別な許可が必要だが,本船はスエズ・マックス(Suezmax)としての資格を持っている。これは,運河を通過する船の最大寸法である。

天候は穏やかではなかった。
左舷船尾(the port quarter,左後方)から30mph13.4m/sec)の風が吹いていただけでなく,砂嵐もあった。“Ever Givenは港を出て,8ノットで進んだ。
私が,2010年にコンテナ船でスエズを通過したとき,ゆっくりとした速力(amble)に感じたのを覚えている。それはまた退屈な(dull)ものだった:緑の水,砂,あちこちにいくつかの住居。数時間後,乗組員がなぜそれを「砂漠の溝(ditch in a desert)」として軽蔑した(scorned)のか理解した。簡潔な(laconic)一等航海士でさえ,「砂,砂,砂」という意見を表明するために動かされた。 パイロットが居眠りしている(dozed)間,私たちはブリッジに立っていたので,事故(mishap)はあり得ないと思える,と私はその時,船長に話した。「間違っている」と彼は言った。

かつて,彼は,パイロットが船を砂の上に乗り上げさせたとき,運河に入るためにコンテナターミナルを離れていたことを思い出した。船長はパイロットを倒して介入して船を岸から降ろし,そして当然の休憩を取った。「私が戻ってきたとき,私は 『血まみれのパイロットはどこだ?』と言った。」それから私は彼の頭が飛び出すのを見た。 彼はデッキにいて,祈っていた。」

スエズ運河は穏やかに見えるかもしれないが,浅い運河で大きな船をナビゲートするのは難しい場合がある。船には,地元の知識を身に付けている「スエズ・パイロット」と「スエズ・クルー」が乗船する。これらの役人は,ボンドロッカーからのマールボロのカートンと品物によって「潤滑」されなければならないことはよく知られており,スエズ運河に対する乗組員のニックネームである「マールボロ運河」(the Marlboro canal)につながる。
「エジプト人がピラミッドを建てることはできなかったと思う」と機関長はかつて私に言った。「彼らにはできなかった:当時,彼らはマールボロをもらえなかった。」

これは,運河が大きな国民的誇りの源であると信じているエジプト人にとって不快だが,私の旅行では,スエズ・パイロットはランチメニュー全てを食べてから,ソファ,キャプテンの椅子,当直士官の椅子で,居眠りをしていた。二等航海士は指示のために彼を起こし続けなければならなかった。

Ever Given が出発した朝,パイロットが何をしていたかはわからない。私が乗船した船のほぼ3倍のコンテナを運んでおり,午前517分に船が最初に港の岸に向かったのはわかっている。ただし,軌道(trajectory)は修正された。次の25分間(衛星データに基づくこのシミュレーションで見られるように),船は13ノット以上まで速度を上げた。これについての1つの説明は,風にうまく対処したことだった。

午前542分頃,明らかに問題が発生していた。船は左舷,右舷,再び左舷,再び右舷に揺れ,最後に船首が右舷に鋭く揺れ,アジアに激突した。船は運河の幅よりも長かったので,船はくさびとなって岸に打ち込まれた。

船はそこで6日間留まり,世界貿易の90を輸送する海運界で,毎日世界の海運の10以上を運ぶルートを塞いでいた。結局,船は非常に重要であり,飛行機で運ばれるものはほとんどないことに,一般の人々は突然気づかされた。

スエズでトラブルに巻き込まれまた,“OOCL Japan” は,2017年に操舵を失い,土手に打撃を与えた: それはいくつかの道路と通過する車を破壊し、数時間で解放された。2004年,ロシアの石油タンカーである “Tropic Brilliance” は,機械的な問題の後で同様にくさびとなって運河を3日間閉鎖した。

当初,スエズ運河庁長官(chief of the Suez Canal Authority)のオサマ・ラビー中将が “Ever Given” の窮状に与えた支配的な(prevailing)理論は,「強風と砂嵐」だった。土曜日までに,ラビーの見方は変わった。天候が関係している可能性はあるが,「技術的エラー,または人的エラー」が関係している可能性があるとした。

私はこれにうなずき,居眠りしているパイロットを思い起こし,仮定を立てた。海難事故の大部分は,引退した船長の言葉を借りれば,事故の「前,最中,後のいずれか」でのヒューマンエラーに関係している。

同じ風の影響を受け,同じ運河の水を走っていた(steaming)が,曲がった(veered)船はなかった。前方を走っていた “Cosco Galaxy” は “Ever Givenと同じくらいの大きさだったが,何も起こらなかった。船団の他の19隻は,衝突の危険があった(完全に停止するには1マイルほどかかる)ことを除いて,何の問題もなく進行した。

砂嵐が視界不良を引き起こした可能性があるが,船は夜間にはレーダーを使用して運航する:はっきりと目視する必要はない。積載したコンテナの巨大な壁は,風が吹くと帆として機能し,コースから外れる可能性がある。パイロットは風を過剰に補償できた(overcompensated)だろうか?

あるいは,ほぼ確実に疲れ果てていたため,乗組員は事故に十分な速さで対応しなかったのかもしれない。スエズ運河の船団は早くから動き始めるだけでなく,コンテナ船での生活 -日常的な隔離と4時間の当直で13回 -で 疲れ果てている可能性がある。私のトランジットの間,2等航海士は前の3夜の間,夜に3時間眠り,船団移動の前夜には眠らなかった。さらに,パンデミックでは,世界の150万人の船員(seafarers)の多くが何ヶ月も上陸できなかった。 倦怠感は広範囲に及んでいる。

それから水がある。運河は穏やかに見えるかもしれないが,その水は大きな船に奇妙なことをする可能性があり,吸引力を生み出したり,船を岸に向かって引っ張ったり,船首を傾けたりする,複雑な流体力(hydrodynamics)を引き起こす。「スクワット効果(squat effect)」が発生する可能性があるのは,海とは異なり,運河の水をそのままにしておく必要があるためである:水は船の下に集まり(bunches),流れは船体の下で加速し,圧力が低下して船体を下方向に吸い込む。

スクワットは,船首がもち上がり,船尾が沈むときに起こる。船が岸に近づきすぎると,「岸効果(bank effect)」に支配され(take hold),同様に危険な流体力が発生する可能性がある:速度,圧力,吸引力によって船がコースから外れ,回転させられることがある。舵を使用して過剰に修正すると,事態を悪化させる可能性がある。「岸効果」は非常に複雑で,博士号(の研究:PhDs)全体がそれに対して行われている。船が大きければ大きいほど,吸引力は強くなる。

「それは常に2つのことに帰着する」とノース・カロライナ州のキャンベル大学の海事史家(maritime historian)であるサル・メルコリアーノ博士(Dr Sal Mercogliano)は言う。「機械起因,または人間起因。風や天気であっても,風を検出する能力があるので,それは人間起因である。その朝,強風が発生する可能性があることを彼らが知っていたのなら,なぜ船を運河に入れたのか?」

2つの調査がすでに進行中である。“Ever Given” は,台湾の会社が運航し,インド人が乗組員を務め,日本企業が所有しているが,パナマ船籍である。これは,船が旗の登録簿から旗を借りることができ,パナマが世界最大であるためである。
国際海事機関(International Maritime Organization)の安全調査規則に基づき,パナマは,船がエジプトの海域で立ち往生した場合でも,安全調査を行う。パナマの調査は有責性(culpability)をカバーしないが,エジプトはすでに「船の耐航性(seaworthiness)と乗組員の行動」の調査を開始している。

国際海運会議所(the International Chamber of Shipping)の事務局長であるガイ・プラッテン(Guy Platten)氏は,「これで複雑な一連の出来事であったことが究明できるだろうかと疑っている」と述べている。ますます大きな事故(mishap)の連鎖。原因が人的または機械的であり,神の行為または不可抗力(force majeure)ではないことが判明した場合,保険会社は目が眩む(dizzying)金額の損害賠償責任を負う。「多くの責任追及(finger-pointing)があるだろう」とメルコリアーノは言う。パナマによる予備報告はすでに機械的故障に原因があるとした。一方,所有者の正栄汽船は,英国の高等裁判所に,オペレーターの “Evergreen” に対してすでに提訴している(filed a claim)。

私たちは常に誰かのせいにする必要があり,風よりも人間を投獄する方が常に簡単である。

大型船で起こったことに対して船員を非難することは,国際海運会議所や他の海事協会を不安にさせている。2007年,25万トンの原油を運ぶ “Hebei Spirit” は,韓国の大山邑の外に停泊しているときにサムスン重工業のはしけに衝突し,深刻な油汚染を引き起こした。ジャスプリット・チャウラ(Jasprit Chawla)船長は警笛を5回鳴らし,はしけに電話をかけようとした- しかし,チャウラと一等航海士は18ヶ月間投獄された。別の交通機関の状況でこれを想像してみよう:駐車中の車に座っていて,衝突されて,刑務所に行くことになる。

ある意味で,“Ever Given” の座礁は,高額な問題から世界貿易の円滑な航海までを除けば,大規模な海事災害の最良のシナリオだった。けが人はおらず,何も汚染されなかった。船の離礁の速さ– 6は,エジプト人にとって誇りの源となる可能性がある。彼らの勇気あるタグボートと疲れを知らぬ掘削機で,土手に突っ込んだ船を高速で運河に戻し,自身のエンジンを使用して運河を上らせたことに,ほとんどの海事安全の専門家が頭を悩ませた。それは,スエズをより安全にすることができるものについての有益な議論を引き起こした:エジプトは船団の間で共有するのに十分な数を持ってないが,船はタグボートによってエスコートだれるべきか? 船はより扱いやすいサイズに小型化する必要があるか?

「この事件は,日常生活におけるグローバルな海運の重要性と、それが支えるグローバルなサプライチェーンの繊細な性質を舞台に上げた」とプラッテン氏は声明で述べている。これらの巨大な船が存在する理由である消費財に対する私たちの飽くなき欲求で,私たちが得るものの価格がコストに見合うかどうか疑問に思うだろうか?

「私たちがより多くの救命ボートを船に載せるには,1,500人の乗客とジャックがタイタニック号で死ぬことが必要だった」とメルコリアーノは言う。「海事法は血で書かれている。」

by Rose George
Rose George has written for the Guardian, New York Times, London Review of Books and others. She is the author of The Big Necessity:

Adventures in the World of Human Waste; and Deep Sea Foreign Going: Inside shipping, the invisible industry which brings you 90% of everything

(転載了)
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私自身,35,6年前,今回 事故を起こした運航会社 ‘Evergreenのコンテナ船に乗って スエズ運河を紅海から地中海に抜けたことがあります。

このとき 上述にあったように パイロットが乗ってくる前に,航海士が 「マールボロ」を何カートンが準備しているのを見て,何事かと尋ねると,詳細な答えは覚えていませんが,「パイロット用。何もしないのに もらうモノだけはもらう。悪しき習慣。」と かなりパイロット(あるいは スエズ運河庁)を軽蔑した内容の答えだったような気がします。

実際,スエズ運河庁から派遣される(船は断れない)“Suez Pilot” と “Suez Crew” が仕事をしている姿を見ることはありませんでした。
Suez Pilotに関しては,今回の事故を機会に,その「業務」,「能力」,「たかり」など 国際機関による調査・改善が望まれます。
尚,「1,500人の乗客とジャック」のジャックは レオナルド・ディカプリオが演じた「ジャック・ドーソン」ですね,老婆心ながら・・・ 。

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