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2021年9月24日 (金)

“Golden Ray” 転覆事故,公式報告書の欠落事項。

8月26日付けで NTSB(国家運輸安全委員会)が発表した,自動車運搬船 “Golden Ray” の転覆事故(2019年)に関する最終報告書に対して,‘Captain.com’ が疑問を呈しました。

下記,拙訳・転載します。

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The Missing Question from the NTSB Report on MV Golden Ray: WHY?
MV Golden Ray’ に関するNTSN報告書から欠落した疑問:何故?」(Sept.17,2021

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2019年98日の早い時間にジョージア州ブランズウィック(Brunswick)の港を出てすぐに “MV Golden Ray” が転覆してから2年後,国家運輸安全委員会(NTSBthe National Transportation Safety Board)は事件に関する最終報告書を917日に発表した。
事故は,乗船したパイロットの監督下で,船が外洋に向かって68度旋回したときに発生した。

船の速度が上がり,20度の転舵が命じられると,“Golden Ray” は8度を超えて傾斜(heel)し,回復することはなかった。船は主要な航路から外れていたが,左舷に60度傾斜(list of 60 degrees)し,パイロット用のハッチが開いていたため,船は浸水し,セント・サイモンズ・サウンド(St. Simon’s Sound)の底に沈んだ。沿岸警備隊とタグボートが応答し,パイロットと乗組員の19人をすばやく救助した。更なる救助活動により,船内に閉じ込められていた残りの4人の乗組員が救助された。

46ページの報告書には,目撃者,証言,NTSBの専門家による調査から収集された事故に関する情報と事実データが満載されている。事実と分析を検討した後,彼らは次の決定をした。

Golden Ray” 転覆の考えられる原因は,安定性計算プログラムにバラスト量を入力する一等航海士(chief officer)のエラーであり,これは、船の安定性の彼の誤った決定につながり,その結果,外洋に向けて旋回中の “Golden Ray” に発生した力に抵抗するのに十分な復元性のレバーを持ってなかった。

NTSBは,天候,航行中におけるバラストまたは燃料の移動,推進および操舵システムの誤動作(malfunction),貨物の移動,水路の障害物,または船倉での火災を除外した。それらのいずれも存在しない状態で,当局は,船の21のバラスト・タンクからの読み取り値を船体安定性コンピューター(the shipboard stability computer (LOADCOM))に適切に入力することに失敗した,貨物担当士官を兼務していた一等航海士(First Mate)の行動,より適切には不履行に焦点を合わせた。 このエラーにより,船舶の安定性が誤って決定された。そのエラーと,船がスピードを上げて外洋に向かう最後のターンで船を適切な姿勢に保つのに十分なメタセンター高さ(metacentric height)(GM)が不足していたため,船が8度以上に傾斜したときに重心と浮力によるモーメントが船を転覆させた。

ほとんどのNTSB報告書と同様に,誰が,何を,どこで,どのように調査したかを,詳細に説明している。しかし,明らかに欠けているのは「何故か?」である。

一等航海士は,6ヶ月以上この船に乗り,6年間 自動車運搬船に乗り,10年間 一等航海士として勤務していながら,バラスト・タンクからのデータを ‘LOADCOM’ に正しく入力できなかったのはなぜか。なぜ,彼は,コンピューターの示す液位が実際の測定値と一致することを確認するために,タンクを計測するように操舵手に命じた後,間違ったデータを入力したのか。このデータを ‘LOADCOM’ コンピューターに直接自動的にリンクするシステムの自動化機能を使用できなかったのはなぜか? 最後に,なぜNTSBはこれらの質問をしなかったのか?

最終的に,NTSBは運営会社である ‘G-Marine Service CompanyLimited2つの勧告を行った。

まず,安全管理システムを見直し,安定性の計算を検証する手順を確立し,監査手順を実施する。調査によると,一等航海士は,すべての積み込み作業の前後に船舶の安定性を判断するために ‘LOADCOM’ を使用したにもかかわらず,‘LOADCOM’ による訓練を34時間しか受けていなかった。彼はまた,この情報にアクセスした唯一の乗組員だった。‘G-Marineは事務所を利用して積荷計画を作成したが,積荷後の最終情報は船が出航するまで受け取られなかった;本ケースでは,船が転覆後 2時間経過していた。

2番目の勧告事項は,航行中および船が壊滅的な(catastrophic)傾斜になって浸水し,4人の機関部員の閉じ込めにつながったときに開いたままだったいくつかの水密ドアに対処する必要があった。驚くべきことに,この事故の再発を防ぐための勧告事項や行動はなかった。ブランズウィック港を離れる自動車運搬船,または米国の港が,その安定性に関する声明または報告を提供する要求はなかった。しかし,おそらくNTSB報告書で扱われていない最も明白な問題は,データが正しく入力されなかった理由である。

一等航海士は事故後に証言録取を行ったが,NTSBの公聴会で出頭することも,利用できるようにすることもできなかった。誤ったデータが ‘LOADCOM’ に入力されたという事実は,一等航海士が任務における大きな過失を犯したことを示しており,これは,彼が6ヶ月間使用した船舶の安定性を判断するために使用する主要なツールに慣れていなかったという事実が断言されることになる。または,意図的に誤ったデータをインプットし,バラスト・タンクから ‘LOADCOMへのデータ自動リンクを使用できなかったのは,要求される8.3フィートのGMではなく,6フィートであることが示されることを恐れたためである。

私たちは再度,質問したい,それはNTSB報告書では決して尋ねられなかった,何故?

船のバラスト水処理プラントについては,報告書では一度も議論されていない。これは,船の水バラスト・システムの詳細を示す46ページの図に示されている。

Golden Ray” がブランズウィックの前の港であるフロリダ州ジャクソンビルに航海したとき,要求喫水の31フィートにするために,1,500MTのバラストを降ろした。航海後,バラスト水の追加をしなかった。

ブランズウィックに到着したとき,それはまた、最大許容喫水が33フィートで,36フィートの水路を航行したときに,バラストを追加することに失敗した。ブランズウィックでは,船は自動車を降ろして積み込み,貨物重量を373 MT増加させたが,バラストを調整しなかった;何故?

答えは,船がバラスト水を積むとき,水がバラスト水処理プラントを通過するという事実にある。水がタンクに積み込まれる前に,堆積物(sediment),沈泥(silt),および生物(biological organisms)を水から取り除くには時間がかかる。セント・サイモンの茶色の水と比較して,大西洋の開けた青い水にはこの物質が少なくなっている。さらに,米国沿岸警備隊によると,バラスト水処理プラントで収集された物質は,米国の水域に排出することはできず,さらなる処理のために陸上に汲み上げられる。

では,経験豊富な一等航海士が,コンピューターによる計測が確認されたことを知っていたのに,なぜ‘LOADCOM’ に誤った読み取りを入力したのだろうか? ‘LOADCOM’ のデータが事故で破壊されたため,はっきりと知ることはできないが,一等航海士は,船が壊滅的な傾斜運動を起こすとは考えておらず,許容できるGMを示すことを意図していたようである。彼はおそらく,海岸から離れて青い水にバラスト水を入れるつもりだった。

一等航海士がブランズウィックを離れてバラスト積みするつもりだったのか,それともボルチモアでの最終貨物作業が完了するまで待つつもりだったのかはわからない。

NTSBがこの問題に対処しなかったということは,現在 ジョージア州ブランズウィックに出入りする自動車運搬船が,過去2年間,および米国の他のすべての港で,バラスト水処理プラントの汚染(fouling)を回避するために誤ったデータを入力するオフィサーを船に乗せている可能性があることを意味する。 直接 ‘LOADCOMコンピュータを,バラスト・タンク・センサーにリンクして,調査で確かめ,それから,船の安定性を測定するために,会社のエンジニアリング事務所と,貨物と安定性データの確認を待つことにアップ・リンクしておくことに関する怠慢は,このレポートでは対象にされなかった。

しかし,これらの要因が事故の一因となった。

一等航海士のみに焦点を当て,‘G-Marine Servicesが船の復原性に関する効果的な船管理システムを備えていないことに焦点を当てることにより,米国海域で転覆する別の自動車運搬船の可能性が排除されず,大幅に減少していない。

調査用の公開処理予定表(public docket)には,インタビューの記録,写真,その他の調査資料など,1,700ページを超える事実情報が含まれている。

46ページの船舶事故報告書はhttps://go.usa.gov/xMWcnからオンラインで入手できる。

(転載了)
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Stability” 計算を誤ったことは明確ですが,何故 誤ったかに対する調査・検討が不十分ということです。

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