2020年の世界の軍事費傾向
‘SIPRI(Stockholm International Peace Research Institute)’「ストックホルム国際平和研究所」の ‘Fact Sheet’ として April 2021 付けで “TRENDS IN WORLD MILITARY EXPENDITURE, 2020”(2020年の世界の軍事費の傾向)と題する報告書がありました。
以下,部分拙訳・転載します。
*************************
2020年の世界の軍事費は1981億ドルと推定されており,SIPRIが世界の総軍事費を一貫して見積もった最初の年である1988年以来の最高水準である。2020年の世界の軍事費は,実質ベースで2019年より2.6%高く,2011年より9.3%高かった(Fig.1参照)。世界の軍事負担(世界の国内総生産(GDP)に占める世界の軍事費)は,2020年に0.2パーセンテージ・ポイント増加して2.4%になった。この増加は主に,世界のほとんどの国が2020年にCovid-19のパンデミックに関連して深刻な景気後退を経験した一方で,軍事費は全体的に増加し続けたという事実によるものだった。
このファクト・シートは,2020年の地域および国の軍事費データと2011年から20年の10年間の傾向に焦点を当てている。データは,更新されたオープン・アクセスのSIPRI軍事費データベースからのものであり,1949年から2020年までの国別の軍事費データを提供する。
THE TOP 15 MILITARY SPENDERS IN 2020
2020年の軍事支出トップ15
上位15ヶ国の軍事費は2020年に1630億ドルに達し,世界の軍事費の81%を占めた(Fig.1参照)。2019年から2020年の間に,トップ15の構成とランク順にいくつかの変化があった。
最も注目すべきは,イスラエルがトルコに代わってトップ15に入り,英国が,軍事費が10%減少したサウジアラビアを上回り,2020年には5番目に大きな支出になった。上位15ヶ国の3ヶ国を除くすべての国で,2020年の軍事費は2011年よりも高かった。例外は,米国(–10%),英国(–4.2%),イタリア(–3.3%)だった。
中国の軍事費の76%の増加は,2011年から20年の10年間でトップ15の中で群を抜いて最大だった。
2011年から2020年の間に大幅に増加した他の上位15ヶ国は,韓国(41%),インド(34%),オーストラリア(33%),イスラエル(32%)だった。
推定7,780億ドルの軍事予算で,米国は2020年も世界最大の支出国であり,世界の軍事費の39%を占めている(Fig.2参照)。2020年に,米国は続く12の最大の支出国を合わせたのとほぼ同じくらいの軍事費を費やした。2020年の米軍の負担はGDPの3.7%で,前年比0.3パーセンテージ・ポイント増加した。
2020年の米国の軍事費は2019年より4.4%高かった。2020会計年度は,米国の支出がピークに達した2010年から2017年までの継続的な実質的な減少に続いて,米国の軍事費が3年連続で増加した年だった。2018〜20年をカバーする会計年度の増加は、研究開発への集中的な投資,および米国の核兵器の近代化や大規模な武器調達などのいくつかの長期プロジェクトの実施に起因する可能性がある。近年の増加の主な推進力は,中国やロシアなどの戦略的競争相手からの米国への脅威と,ドナルド・J・トランプ前米大統領が枯渇した軍隊と見なしたものを構築するように促したことだった。
2020年に世界で2番目に多い軍事支出である中国は,世界全体の13%を占めていると推定されている。2020年に軍に費やされた2,520億ドルは,2019年より1.9%高く,GDPの1.7%に達した。中国の軍事費は26年連続で増加している。この成長は,中国の長期的な軍事近代化と拡大プロセスの結果である。中国の国防省によると,2020年の増加は,「権力政治」に関連する中国の国家安全保障に対する脅威の認識に一部起因していた。
2020年のインドの軍事費は729億ドルで,2019年より2.1%高く,2011年より34%高くなっている。この増加は主に,カシミールをめぐるインドのパキスタンとの継続的な紛争,中国との新たな国境の緊張,およびアジアとオセアニアの主要な地域大国としての中国とのインドの,より一般的な競争に起因している可能性がある。
ロシアの軍事費は2020年に617億ドルで,2019年より2.5%高く,2011年より26%高くなっている。2019年と2020年のロシアの支出の増加は,2017年と2018年の減少に続いた。2017年以前は,ロシアの軍事費は18年連続で増加していた。ロシアの軍事費は2020年に全体的に増加したが,Covid-19パンデミックの経済的影響はすぐに顕在化したようで,2020年のロシアの実際の軍事費は当初の軍事予算より6.6%低かった。
北大西洋条約機構(NATO)加盟国による2020年の軍事費は合計11,030億ドルだった。上位15の軍事費支出国のうち6つは,米国,英国,ドイツ,フランス,イタリア,カナダのNATO加盟国である。これら6ヶ国を合わせると,NATOの総支出の90%(995億ドル)と世界の軍事費の50%を占めている。
上位15の支出国では,軍事的負担は中国を除くすべての国で2019年から2020年の間に増加した。世界のほぼすべての国のGDPは,主にCovid-19パンデミックの経済的影響の結果として2020年に減少した。ほとんどの国では,これにより,2020年に軍事費が増加したか減少したかに関係なく,軍事負担が増加した。
2020年の上位15の支出国の中で最も顕著な軍事負担の増加には,サウジアラビア(+0.6パーセンテージ・ポイント),ロシア(+0.5パーセンテージ・ポイント),イスラエル(+0.4パーセンテージ・ポイント),および米国(+0.3パーセンテージ・ポイント)が含まれる。
(転載了)
******************
日本の,GDP比 1% の律義さが目立ちます。
ここで 確認すべきは 軍事費の定義です。
SIPRI は次のように示しています。
*******************
Definition of military expenditure
軍事費の定義
SIPRIの軍事費には,可能な限り,以下に関するすべての現在および資本的支出が含まれる:
・平和維持軍を含む軍隊
・防衛プロジェクトに従事する国防省およびその他の政府機関
・訓練され,装備を持ち,軍事作戦に利用可能であると判断された場合の準軍組織(paramilitary forces)
・軍事宇宙活動
このような支出には、次のものが含まれる。
・人員
・現在の人員,軍隊および民間人へのすべての支出
・軍人の退職年金
・職員とその家族のための社会福祉
・運用と保守
・調達
・軍事研究開発
・軍事建設
・軍事援助(援助国(donor country)の軍事費)
除外される軍事関連の支出:
・民間防衛
・以前の軍事活動のための現在の支出
〇退役軍人給付金
〇解除費
〇武器生産施設の転換
〇武器の破壊
*********************************
| 固定リンク | 0
「ニュース」カテゴリの記事
- 「日本 被団協」へのノーベル平和賞授与,告知のプレス・リリース(2024.10.13)
- 日本「被団協」ノーベル平和賞受賞,例えば BBCの速報では-(2024.10.12)
コメント