「8月16日,アメリカン航空が 米国のスタート・アップ企業・ブーム・スーパーソニックが開発を進めている超音速旅客機『オーバーチュア(Overture)』の発注決定を発表した。」との報道を見ました。
この マッハ 1.7の旅客機の存在(開発途中)を知りませんでした。
かつて(1976年―2003年),英仏の企業が共同開発し,成層圏をマッハ2.2で飛ぶ超音速旅客機(SST:supersonic transport)「コンコルド」が存在しました。(生産は 20機)「エール・フランス」と「ブリティッシュ・エアウエィズ」が運航していましたが,収益性(燃費の悪さ,定員の少なさ),ソニック・ブーム(騒音)や オゾン層の破壊などの環境問題,墜落事故等から運航停止になりました。
今回の超音速旅客機が どんなものか,英文 Wikipedia を読んでみました。
以下,拙訳・転載。(写真は 全て ‘Boom Technology’ のサイトから)
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概要
この超音速旅客機とは-
“Boom Overture”
「ブーム オーバーチュア」(Boom Overture)はマッハ 1.7 (1,000 kn; 1,800 km/h; 1,100 mph),航続距離 4,250 nmi (7,870 km; 4,890 mi) の 65 ~ 88 人乗りの超音速旅客機(supersonic airliner)であり,ブーム・テクノロジー(Boom Technology)によって 2029 年に導入される予定である。同社は,500 の実行可能なルートがあれば,ビジネス・クラス運賃の超音速旅客機 1,000 機の市場が存在する可能性があると主張している。2017 年 12 月までに 76 件のコミットメントを集めた。航空機はデルタ翼構成 (コンコルドと同様) を持つ予定で,複合材料(composite materials)で製造される。2022 年に発表された再設計に続いて,4 つの乾式 (非アフターバーナー) 15,000 ~ 20,000 lbf (67 ~ 89 kN) ターボファン(four dry (non-afterburning) 15,000–20,000 lbf (67–89 kN) turbofans)を搭載する予定である。離陸騒音または地上ブーム(overland boom)の規制は,適合または変更される可能性がある。
Market
市場
同社によると,毎日 500 のルートが実行可能とのことである。水上 マッハ 1.7 では,ニューヨーク/ニューアークとロンドンは 3 時間 30 分,ニューアークとフランクフルトは 4 時間の飛行になる。
距離が 4,500 nmi (8,300 km) の場合,太平洋を横断するフライトでは途中給油が必要になる:サンフランシスコと東京は 6 時間となる。
2035 年までに 1,000 機の超音速旅客機の市場が存在する可能性がある。‘Boom’ は,2016 年のドルベースで,割引なしで,オプションと内装を除いて 2 億ドルの価格を目標としている。同社は,プレミアム利用可能な座席マイルあたりの運用コストは,亜音速ワイド・ボディ航空機よりも低くなると主張している。
‘Boom’ の工場は,10 年間で 1,000~2,000 機の潜在的な市場向けに,年間最大 100 機の航空機を組み立てる規模になる。
‘Boom’ は,ニューヨーク・ロンドン間往復で 5,000 ドルの運賃を目標にしており,コンコルドの運賃はインフレ調整後 20,000 ドルで,唯一の利益が出るルートだった。同じ燃料燃焼により,亜音速ビジネス・クラスと同様の運賃が可能になる。
サンフランシスコ - 東京,ロサンゼルス - シドニーのような長距離路線では,ビジネス・クラス 15席に加えて,フルフラットのファースト・クラス 30席が提案される可能性がある。
2016年3月,リチャード・ブランソン(Richard Branson)は,‘Virgin Group’ が 10機の航空機のオプションを保有しており,‘Virgin Galactic’ の子会社である ‘The Spaceship Company’ がジェット機の製造とテストを支援することを確認した。名前のないヨーロッパの航空会社も 15 機のオプションを保有している。 2つの取引の総額は 50億ドルである。
2017年のパリ航空ショーでは,51 件のコミットメントが追加され,76件の未処理分(backlog)に多額の手付金(deposits)があった。2017年12月,日本航空は 5つの航空会社からの76 機への誓約(commitments)の中で最大20 機のジェット機を事前注文したことが確認された。
‘Boom’ の CEO である ブレーク・スコール(Blake Scholl) は,2,000 機の超音速ジェット機が 500 の都市を接続すると考えており,ロンドンからニューヨークへの片道料金は,既存の亜音速ビジネス・クラスに匹敵する 2,000 ポンドを約束している。
2021年6月3日,ユナイテッド航空は,2029 年までに旅客便を開始する予定で,追加の 35機のオプションを備えた 15 機の ‘Overture’ 航空機を購入する契約に署名したと発表した。
2022年8月16日,アメリカン航空は 40機のオプションを追加して 20 機の ‘Overture’ 航空機を購入することに合意したと発表した。
Order Summary
注文概要
Development
開発
2016年3月までに,同社は航空機の部品の概念図と木製のモックアップを作成した。
2016年10月に,デザインは 155 フィート (47 m) に拡張され,10 席を追加して最大 50 名の乗客を収容できるようになり,翼幅がわずかに拡大され,3 番目のエンジンが追加されて,最大 180 分の目的地外着陸時間(diversion time)を持つ ETOPS(extended range operation with two-engine airplanes) が可能になった。機は,より高密度の構成で55人の乗客を収容できる。2017年6月には,その導入は 2023 年に予定されていた。2018年7月までに,2025年に延期された。当時,1,000 回を超える模擬風洞試験が実施されていた。
‘Boom’ は当初,亜音速長距離航空機(subsonic long-range aircraft)と同様に,空港の騒音をステージ 4 に保ちながら,マッハ 2.2 の巡航速度を大洋横断航空会社の時刻表に合わせて利用率を高めることを目標としていた。飛行機の構成は、2019年後半から2020年初頭にかけて、エンジンの選択,サプライ・チェーン,生産サイトで開始するためにロックされることを意図していた。
旅客機とそのエンジンの開発と認証は 60 億ドルと見積もられ,シリーズ C(管理者注:スタートアップに対する投資ラウンドの1つの段階)の投資家が必要だった。
資金調達の B ラウンドで十分な資金が調達され、デモンストレーター (XB-1) を飛ばして技術を証明し,受注残を積み上げ,エンジン,航空構造,航空電子工学の(avionics)の主要サプライヤーを見つけ, 多くの特別な条件と前例を使用して,認証プロセスをレイアウトする。
2019年6月のパリ航空ショーで,‘Boom’ の CEO であるブレーク・スコールは,6 機の航空機で 2 年間のテスト・キャンペーンを行った後,‘Overture’ の導入を 2023年から 2025~2027年に延期すると発表した。
2020年9月,同社は,エア・フォース・ワンとして使用できる ‘Overture’ の開発を米国空軍と契約したことを発表した。
2020年10月7日,‘Boom’ は XB-1 デモンストレーターを公開しました。これは,2021年にカリフォルニア州モハベ航空宇宙港(Mojave Air and Space Port)から初めて飛行する予定だった。同社は,2021 年に ‘Overture’ の風洞試験を開始し,2022 年に,月間 5~10 機の航空機を生産できる製造施設の建設を開始する予定である。最初の ‘Overture’ は2025年に発表され,2029年までに型式認証を取得することを目指している。ブレーク・スコールの推定によると,フライトは 2030 年に可能になるはずである。
‘Boom’ は現在,マッハ 1.7 の巡航速度を目標にしている。
2022年1月,‘Boom’ は,‘Boom Overture’ 超音速旅客機をさらに開発するために,米国空軍の AFWERX プログラムから 6,000 万米ドルの助成金を発表した。
2022年7月,‘Boom’ は ‘Northrop Grumman’ とのパートナーシップを発表し,米国政府とその同盟国向けの特別なバリアントを開発した。
2022年7月19日,‘Boom’ は ファーンバラ航空ショー(Farnborough Airshow)で ‘Overture’ の再設計として生産モデルを発表した。
Design
デザイン
その翼構成は,コンコルドの 75% スケール・モデルのように設計された,低超音速抗力(low supersonic drag)のための従来の複合デルタである。SAI(specific acoustic impedance,比音響インピーダンス) Quiet Supersonic Transport (QSST) や、Aerion AS2 の層流超音速フロー技術とは異なり,低いソニック・ブームはない。
翼のアスペクト比が 1.5 と低いため,低速での抗力が高く,航空機は離陸時に高い推力を必要とする。‘Boom’ は,着陸時の機首上げ姿勢にも対処する必要がある。
機体のメンテナンス費用は,他の炭素繊維旅客機と同程度になると予想される。
‘Overture’ は,乾式 (アフターバーナーなし) エンジン,複合構造,およびコンコルドの開発以来の改良された技術によって,コンコルドの 4 分の 1 のコストで稼働するはずである。
55 席の旅客機の重量は 77,100 kg (170,000 ポンド) になる。
長さ 170 フィート (52 m),幅 60 フィート (18 m) で,10 名のファースト・クラスを含んで乗客45 名,あるいは 75 インチ (190 cm) のシート・ピッチで55 名がある。
2021年に,‘Boom’ は 65名 から 88名 の能力を持つ 205 フィート (62 m) のより長い長さを提示した。
最大離陸重量または必要なエンジン推力の変更は開示されていない。
FAA(Federal Aviation Administration,連邦航空局)と ICAO(International Civil Aviation Organization,国際民間航空機関)は,大陸上での超音速飛行を可能にするためのソニック・ブーム(sonic boom)規格に取り組んでいる。
NASA は,コンコルドの 105 PNLdB よりも低い 75 PNLdB ブームの一般的な受容性を評価するために,2022年に初めてロー・ブーム・フライト・デモンストレーターを飛行させる予定である。
‘Overture’ は,ボーイング 777-300ER のような現在の旅客機よりも離陸時の騒音が大きくないと予想される。超音速ジェット機は FAA の離陸騒音規制(takeoff noise regulations)から除外され(exempted),制限騒音よりも加速に最適化されたより小さいエンジンを使用することで,燃料消費量を 20~30% 削減できる。
2017年,‘Honeywell’ と NASA は,地上での混乱を最小限に抑えるために,飛行中のソニック・ブームを示す予測ソフトウェアとコックピット・ディスプレイをテストした。
2022年7月に発表された設計変更には,エンジンの数を 4 つに増やすことが含まれていた。これにより,技術的に難しくない小型のエンジンを使用できるようになり,騒音を下げる出力レベルでの離陸が可能になった。抗力を減らすためにガル・フォーム(gull form)の翼と胴体(fuselage)を再設計した。
Engines
エンジン
‘Boom’ は,コンコルドのロールス・ロイス/スネクマ・オリンパス(Rolls-Royce/Snecma Olympus)とは異なり,アフターバーナーのない適度なバイパスのターボファンを使用したいと考えている。
利用できる唯一の選択肢はジェット戦闘機エンジンであり,商用航空に必要な燃費も信頼性もない。2016年11月現在,10 台の販売台数に基づいてこのようなエンジンを開発できるエンジン・メーカーはない。
‘Boom’ は,最新のワイド・ボディ航空機と比較して,単位距離および座席あたりの 3 倍の燃料消費量と相まって,高速ジェット・エンジンの騒音に対処する必要がある。
クリーン輸送に関する国際評議会(the International Council on Clean Transportation)は,超音速機はビジネス・クラスの乗客 1 人あたり,亜音速機の少なくとも 3倍の燃料を消費すると見積もっている。
エンジンは,既存のターボファン・エンジン設計の修正版を意図しているが,メンテナンス・コストは高くなる。2018年に,商用エンジンの派生物(derivative)か白紙の(clean-sheet)デザインのいずれかが選択される予定だった。
輸出規制のため,軍用エンジンである可能性は低い。
55 席の旅客機は,アフターバーナーのない 15,000~20,000 lbf (67~89 kN) のエンジン 3 基を搭載し,亜音速ジェット機よりもメンテナンス間隔が短くなる。新しい低圧スプールを備えた既存の商用エンジン・コアを中心にエンジンを開発することは,白紙からの設計よりも優先される。より大きな直径のファンは,より高い燃料燃焼とより短い航続距離のために、より高い巡航推力要件を持つが,より高いバイパスとより低い離陸ノイズのために好まれる。
吸気圧縮には低圧コアが必要であり,既存の 3–4:1 バイパス比ターボファンの派生品は,離陸時の騒音と抵抗力の妥協点であり,優れた燃料効率を備えている。
ロッキード・マーチンのスカンク・ワークス(Skunk Works)のデイブ・リチャードソンは,全体的な圧力比が低い適切なエンジンはほとんどないと指摘した。
GE J79,GE YJ93,GE4,PW J58,またはロールス・ロイス オリンパスなどの 1950 年代から 1960 年代のエンジンの開発は,より高い効率が追求されたときに終了し,その後のはるかに高温のコアのための材料科学の進歩は,長時間の超音速耐久性に最適化されていなけれならない。PW JT8D または GE J79 は,現在のエンジンよりも適している。また,途方もない開発コストにより,新しい低バイパス比ターボファンの可能性は低くなる。
2020年7月,同社はロールス・ロイスとエンジン開発で協力する契約を締結したと発表した。
Fuel
燃料
この航空機は,2021年に運用される商用航空機とは対照的に,100%持続可能な航空燃料 (SAF:sustainable alternative fuel) で飛行することが意図されており,50% の SAF で飛行することが認定されたエンジンを使用している。
Specifications
仕様
General characteristics
一般特性
・Capacity(定員): 65 to 88
・Length: 205 ft (62 m)
・Wingspan: 60 ft (18 m)
・Max takeoff weight: 170,000 lb (77,111 kg)
・Powerplant: 4 × Rolls-Royce medium-bypass turbofans without afterburners, 15,000–20,000 lbf (67–89 kN) thrust each
Performance
性能
・Maximum speed: Mach 1.7 (2,083 km/h)
・Range(航続距離): 4,250 nmi (4,890 mi, 7,870 km),(管理者注:成田-L.A.=5,440 mile)
・Balanced Field Length(最短離着陸距離): 10,000 ft (3,048 m)
(転載了)
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製造会社 ‘Boom Technology, Inc.’ に関する情報は Wikipedia から
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‘Boom Technology, Inc. (trade name Boom Supersonic)’ は米国の会社で 2014 年にデンバーで設立された。2016 年初頭に ‘Y Combinator’ の「スタートアップ・インキュベーション・プログラム」(起業支援プログラム)に参加し,‘Y Combinator’,‘Sam Altman’,Seraph Group’,‘Eight Partners’ などから資金提供を受けている。
2017年3月には,‘Continuity Fund’,‘RRE Ventures’,‘Palm Drive Ventures’,‘8VC’,‘Caffeinated Capital’ などのベンチャー・ファンドから 3,300 万ドルが投資された:‘Boom’ は 2017年4月までに合計 4,100 万ドルの資金調達を確保した。
2017年12月,日本航空は 1,000万ドルを投資し,会社の資本金を 5,100 万ドルに引き上げた。これは,XB-1「ベビーブーム(Baby Boom)」デモンストレーターを製造し,そのテストを完了し,55 席の旅客機の初期設計作業を開始するのに十分だった。
2019年1月,‘Boom’ はさらに 1 億ドルを調達し,総額1億5,100 万ドルになり,2019 年後半にデモンストレーターの初飛行を計画していた。
2022年1月,同社はノース・カロライナ州グリーンズボロのピードモント・トライアド(Piedmont Triad)国際空港の 65 エーカーの敷地に 40 万平方フィートの製造施設を建設する計画を発表した。
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新しい会社であることは分かりますが,設計技術者を どこの会社から引き抜いたのか,集めたのかについての情報はありませんでした。
不思議なのは ・・・ 成田ーL.A.,成田ーS.F. 間距離は 航続距離を超えるようですが JAL はどういう考えでしょうか?
スタートアップ企業: イノベーションを起して短期間のうちに圧倒的な成長率で事業を展開する企業。設立年がいつかということよりも,そのビジネスモデルの革新性,解決される社会課題の大きさ,そして IPOや M&AといったExit戦略がある企業のことを指す。
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