ニューヨーク・タイムズが選んだ2022年のベスト・ブックス 10冊
‘The New York Times’が Nov. 29, 2022付けで “The 10 Best Books of 2022”を発表しました。
選出は ‘The staff of The New York Times Book Review’によるもので 2022年の 傑出した(standout)フィクションとノン・フィクションを5冊ずつ選んでいます。
私自身は読むことはないと思いますが,下記,拙訳・転載します。
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【Fiction】
“The Candy House, by Jennifer Egan”
「キャンディ・ハウス」 ジェニファー・イーガン著
この待望の続編(sequel)を読むために,イーガンのピューリッツァー賞を受賞した「ならずものがやってくる(A Visit From the Goon Squad)」を読んでいる必要はない。しかし,2010年の本の時期尚早に(prematurely)ノスタルジックなニューヨーカー(New Yorkers),知性に訴える(cerebral)美しさ,そしてレーザーのように鋭い現代性を取り入れた作品の愛好家にとって, “The Candy House”は家に帰ったようなものである- ディストピアではあるが。
今回,イーガンの登場人物はさまざまな形で宇宙の創造者であり,囚人である。テクノロジーの驚異によって,人々は自分のメモリ・バンク全体にアクセスし,コンテンツをソーシャル・メディアの通貨として使用することができる。
その結果,SF(sci-fi)よりも親しみやすく,輝かしく 非常に楽しい家ができあがり,そのすべてが イーガンの特徴である独創的な自信と,- おそらく最も印象的な- 心で表現されている。 「ザ・キャンディー・ハウス」は,それが意味する全てで,その瞬間である。
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“Checkout 19, by Claire-Louise Bennett”
「チェックアウト 19」 クレア=ルイーズ・ベネット著
アイルランドを本拠地とする英国人作家のベネットは,2015年のデビュー小説 “Pond”で初めて舞台に登場した。彼女の 2冊目の本は,1冊目の言語芸術(linguistic artistry)と暗い機知(dark wit)のすべてが含まれているが,さらに爽快である(exhilarating)。
“Checkout 19”は,表向きは(ostensibly)ロンドン郊外の労働者階級の町で言語に恋をする若い女性の物語だが,珍しい設定がある:人間の心だ - 素晴らしく,驚くべき,奇妙で(weird),非常に面白いものである。
この本を説明するために使用される可能性のあるすべての言葉 - 実験的,オートフィクションの(autofictional),超現実主義的(surrealist)- は,“Checkout 19” の純粋な喜びを伝えることができない。あなたは夢中になり,喜んで,読書がどれほど楽しいかを思い出し,あなたの人生の人々とそれを共有したいと熱望するだろう。それは本へのラブレターであり,本への議論でもある。
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“Demon Copperhead, by Barbara Kingsolver”
「デーモン・カッパーヘッド(残虐なマムシ)」 バーバラ・キングソルバー著
キングソルバー の強力な新しい小説は,現代のアパラチアを舞台にしたチャールズ・ディケンズ(Charles Dickens)の“David Copperfield”の綿密な再話であり,アーティストの意識がどのように形成されるかという問題に大きな焦点が当てられているにもかかわらず,子供の頃の貧困,オピオイド依存(opioid addiction),農村部の追い立て(rural dispossession)などの問題を駆け抜ける(gallops through)。ディケンズのように,キングソルバーはあからさまに(unblushingly)政治的であり,膨大な規模で活動し,豊富な魅力と,これまで地球に忍び寄ったと思えるすべての存在で彼女のページをアニメーション化する。
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“The Furrows, by Namwali Serpell”
「ザ・ファ-ロウ(溝)」ナムワリ・サーペル著

この豊かな重構造の本は,悲しみの性質,それがどのように時間を伸ばしたり縮めたり,記憶を作り直したり,別の現実を夢見させたりするかを探求している。「何が起こったのかは言いたくない」とナレーターは言う。「どんな感じだったか伝えたい。」
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“Trust,by Hernan Diaz”
「トラスト」ヘルナン・ディアス著
ディアスは 20世紀初頭の米国の富の秘密を明らかにし,ニューヨークの金融業者の目まぐるしい台頭と彼の妻の不思議な(enigmatic)才能について詳しく描く。ヘンリー・ジェイムズ(Henry James)からホルヘ・ルイス・ボルヘス(Jorge Luis Borges)までの文学の巨人に敬意を表しながら,小説の4つの部分のそれぞれが異なる視点から語られ,物語を方向転換する(そして読者の期待を覆す)。誰のバージョンのイベントを信頼できるか?
小説の背後にある物語に焦点を当てたディアスのスポットライトは,資本主義の背後にある暗い仕組みと,いわゆる歴史上の偉人の背後にある認められてない姿を探し出す。爽快な(exhilarating)追求である。
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【Nonfiction】
“An Immense World: How Animal Senses Reveal the Hidden Realms Around Us, by Ed Yong”
「広大な世界: 動物の感覚が我々の周りの隠された領域をどのように明らかにするか」エド・ヨン著
ヨンは,この本で確かに手ごわい仕事を自身に与えた - 人間を「感覚の泡(sensory bubble)」の外に出させ,人間以外の動物が世界をどのように経験しているかを考えさせる。しかし,我々が持っていない感覚を理解することの大きな困難さは,我々一人一人がほんのわずかな現実でしか獲得できないことを思い起こさせてくれる。
ヨンは素晴らしい語り手であり,驚くべきたくさんの動物の事実が,この本を深遠な結論に向けて前進させている:この広大な世界の広さは,我々がいかに小さいかを認識させてくれるはずである。
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“Stay True: A Memoir, by Hua Hsu”
「真実に留まる:回顧録」 ファ・スー著
この静かに胸を締め付ける回顧録の中で,スーは 1990年代半ばにバークレー校で用心深い(watchful)音楽愛好家としてキャリアをスタートさせ,自分の好みを丹念に(fastidiously)キュレーションし,他人の好みを容赦なく(mercilessly)判定していたことを思い出す。
それから彼は,日系米国人のフラット・ボーイ(frat boy:友愛会に所属する男子学生)であるケンに会った。彼らの友情は強かったが,短かった。3年も経たないうちに,ケンはカージャックで殺された。
スーは彼らの関係の軌跡をたどる - 最初はありそうもないように見えたものだが,最終的には彼の人生に定着し,両方の若い男性が伸びて成長できるトレリス(trellis:格子)になった。
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“Judgement Strangers to Ourselves: Unsettled Minds and the Stories That Make Us, by Rachel Aviv”
「我々自身の見知らぬ人: 不安定な心と我々を作る物語」 レイチェル・アヴィヴ著
この豊かでニュアンスのある本で,アヴィヴは極度の精神的苦痛に苦しむ人々について書いている。6歳のときに拒食症(anorexia)だと言われたという彼女自身の経験から始まる。その個人的な歴史により,彼女は,物語がどのように人が経験していることを明らかにし,何が人々を歪めるにかに特に敏感になった。
これは反精神医学(anti-psychiatry)の本ではない - アヴィヴはあらゆる状況の詳細を認識しすぎているため,これほど広範囲にわたるものに屈することはできない。彼女がしているのは,共感と不確実性のためのスペースを保持し,衝動に飛びついて説明するのではなく,さまざまなストーリーを探求することである。
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“Under the Skin: The Hidden Toll of Racism on American Lives and on the Health of Our Nation, by Linda Villarosa”
「肌の下:米国人の生活と私たちの国の健康に対する人種差別の隠された犠牲」 リンダ・ビジャローサ著
事例の歴史と独立した報告を通じて,ビジャローサの注目に値する 3冊目の本は,奴隷制度の遺産と - それを哲学的に正当化するために生まれた反黒人主義の教義 - 生殖,環境,精神などの黒人の健康に与える影響を優雅にたどる。
これらの構造的不平等に目覚めた彼女の長い個人的な歴史から始めて,ジャーナリストは人種と医学に関するさまざまな物語を再配置する - 急増する黒人の妊産婦死亡率。 心臓病と高血圧の増加。 黒人が心理療法を拒否するという,しばしば繰り返される格言は,黒人の劣等感の証拠ではなく,医療制度における人種差別の証拠として。
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“We Don’t Know Ourselves, by Fintan O’Toole”
「我々は 自分自身を知らない」 フィンタン・オトゥール著
多作のエッセイストであり評論家でもあるオトゥールは,この独創的な物語を「近代アイルランドの個人史」と呼んでいる - 野心的なプロジェクトだが,彼は élan とうまくやってのける。オトゥールは,アイルランドの 60年間の歴史を彼自身の人生と対比させながら,劇的に変化する国を巧みに(deftly)描写し,彼の社会学にユーモアと哀愁(pathos)を吹き込む(infuses),狡猾で(sly)自虐的な(self-deprecating)伝記を含めることに成功している。
そう,あなたは教育を受ける - 世俗主義(secularism)の増加,ケルトの虎,人権について - しかし,彼の力の頂点で才能のあるおしゃべり人によって乱暴に騒々しく(uproariously)楽しまれるだろう。
(転載了)
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