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2023年1月25日 (水)

タイでのタンカー爆発事故の報じられ方の不思議

1月17日 タイの造船所に停泊(係留?)していたタンカーが爆発しました。

例えば 「YAHOO!ニュース」では 次のように報じています。
タイで石油タンカー爆発 1人が死亡9人が負傷(1/18付け)
タイ中部サムットソンクラーム県で1月17日朝,石油タンカーが爆発し,1人が死亡,少なくとも9人が負傷する事故が発生した。
 現地時間の午前9時半ごろ,メークロン川に停泊中の石油タンカー『スムーズシー22』が突然爆発炎上した。少なくとも消防車4台,消防艇2隻などが出動して消火活動に当たった。
 事故発生直後,船内にいた16人の内1人が死亡,5人が負傷して病院に搬送された。
 爆発の威力はすさまじく,遺体の一部は 500メートル先で発見されたという。消火作業は難航し,昼頃には新たな爆発も発生した。
 当局者によると,タンカーは12日にメンテナンスのため,2万リットルの重油と軽油を積んだ状態で造船所に停泊していた。
 爆発は,作業員が船の内外で溶接作業を行っているときに起こったとみられている。
(最終的には ミャンマー労働者 8名が死亡)

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他のメディアも ほぼ同じ内容を伝えています。

因みに 本船の仕様等は次の通りです。

IMO No. 9870991
Name: “SMOOTH SEA 22”
Type :Oil Tanker(Oil Product Tanker)
Flag : Thailand
Deadweight(載貨重量): 6,500ton
L=113m,B=18m
Year of Built : 2018

この報道で 誤解を生じやすいと思われるのは 「2万リットルの重油と軽油を積んだ状態」という個所です。
他のメディアは 「3万リットルの重油と2,500リットルのディーゼルオイルが積まれていた。」
などと書かれ,いかにも その油が原因と思わせる書かれ方で,単位がリットルで示され大きな数値になっています。
TVの報道でも 上のように「オイルに引火し爆発か」としています。
しかし この油は 燃料で,Ton で表せば(欧米のメディアから) F.O.(燃料油):25ton,ディーゼル油:20ton であってごく普通,あるいは少ない量であり,多くの場合,機関室にそれらのタンクがあります。

爆発は 明らかに ホールド(貨油槽)で発生しています。この爆発の大きさ(デッキ板全体が吹き飛んでいる,犠牲者の脚が 500m離れた場所で発見)はガスによるものとしか考えられません。
おそらく 造船所に入る前に,貨油は降ろされています。
では 何故 ホールドで爆発が発生したか?
残油(降ろすときに残された少量の油)が気化したガスがホールド(タンク)に充満し,溶接工事の火花が引火したと考えるのが自然です。
すなわち 積んでいる燃料油とは無関係の事故で,記事中に示すのは意味のないことでしょう。

タンカーが造船所に入り,工事を行う場合,ホールド内を清掃し(残油を取り除く),さらに デッキ上の全ての孔を開放して空気を送り込み,最終的には 工事前に ガス濃度を計測して安全を確認するのが常識と思われます。
おそらく これらの手順を踏まず 工事を実施したのでしょう。安全管理者の存在は?
まだ この事故の原因に関する報道はありません。

因みに 爆発性のガスの他に タンク内に入る場合に注意を要するのは 酸素濃度です。
閉鎖したホールドに穀物を積んでいる場合,穀物の呼吸による酸素消費で濃度が下がる場合があるし,何も入ってないタンクであっても囲壁鋼材の腐食(錆)によって酸素が消費されている場合があります。
このようなタンクに入る場合,酸素濃度を確認するする必要があります。
空気中の酸素は 約21%で,16%で危険,10%で致死といわれており,安全限界は18%なので,通常 19%以下では 入るのをやめるのが普通です。

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