アガサ・クリスティの小説改訂版で原文が修正されている。
‘The Telegraph’ 電子版,Mar.30,2023付けで
“Agatha Christie thrillers lose their teeth”
「アガサ・クリスティのスリラーがその歯を失う」
の見出し記事がありました。
下記,拙訳・転載します。
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Passages rehashed to suit modern sensitivities
現代の感性に合わせて再書き直しされた一節
アガサ・クリスティの小説が現代の感性に合わせて書き直されている,と ‘The Sunday Telegraph’ が明らかにしている。
ポワロとミス・マープルのミステリーで,「ハーパー・コリンズ(HarperCollins)」が発行する新版のために元の文章が作り直されるか,完全に削除された。子供たちのグループに不満をぶつけている英国人観光客のキャラクターは,最近の再発行から削除された。笑顔の人々への言及,および彼らの歯と体格に関するコメントも,新しいバージョンから削除された。
史上最も成功した小説家であり,販売部数でシェイクスピアに次いで 2番目のクリスティは,ロアルド・ダール(Roald Dahl)とイアン・フレミング(Ian Fleming)に続き,古典的な作品が現代の出版社によって死後に(posthumously)編集される最新の作家になった。
クリスティの作品の新版は、ハーパー・コリンズによってリリースされる予定であるか,2020年以降にリリースされた。‘The Telegraph’ が見た新版のデジタル版には,1920年から 1976年までに書かれたさまざまなテキストへの多数の(scores of)変更が含まれており,特にクリスティの主人公(protagonists)が英国外で出会う登場人物について,説明,侮辱,または民族性への言及を含む多数の文章の記述が削除されている。
多くの場合,ミス・ジェーン・マープル(Miss Jane Marple)またはエルキュール・ポワロ(Hercule Poirot)の内面の独白(monologue)を通して,著者自身のナレーションが変更されている。ミステリー内でしばしば冷淡な登場人物が発する台詞の一部もカットされている。
1937 年の小説「ナイル殺人事件(Death on the Nile)」で,アラートン夫人のキャラクターは,子供たちのグループが彼女を悩ませている(pestering)と不平を言い,次のように述べている。「彼らは戻ってきて,じっと見つめる。彼らの目にはただ嫌悪感を覚え,鼻もそうだ。私が本当に子供が好きだとは思えない。(they come back and stare, and stare, and their eyes are simply disgusting, and so are their noses, and I don’t believe I really like children.)」。
これは新版では削られ,次のように述べられている:「彼らは戻ってきて,じっと見つめる。 そして,私が本当に子供を好きだとは思えない。(They come back and stare, and stare. And I don’t believe I really like children.)」 語彙も変更され、「オリエンタル」という用語が削除された。
物語の他の描写も,場合によっては変更されており,オリジナルでは 事件について黙っていることを理解しているためニヤリ(grinning)とすると記述されていた1人の黒人の使用人は,現在は黒人でも笑顔でもなく,単に「うなずいている(nodding)」と記述されている。
1964年のミス・マープルの小説「カリブ海の秘密(A Caribbean Mystery)」の新版では,彼女に微笑んでいる西インドのホテル従業員が「とても素敵な白い歯(such lovely white teeth)」を持っていると,アマチュア探偵は黙って考えていたが,「美しい歯(beautiful teeth)」への同様の言及とともに削除された。
同じ本は,著名な女性キャラクターを「彫刻家が享受したであろう黒い大理石の胴体(a torso of black marble such as a sculptor would have enjoyed)」を持っていると記述しているが,これは編集版には見られない。他の記述も変更され,ヌビア人 (Nubian people,何千年もの間エジプトに住んでいた民族グループ) への言及が「ナイル殺人事件」から多くの場合 削除され,その結果,「ヌビアの船頭(the Nubian boatman)」は単に「船頭(the boatman)」になっている。
クリスティの 1920年のデビュー小説である「スタイルズ荘の怪事件(The Mysterious Affair at Styles)」の対話は変更され,ポワロはかつて別の登場人物を「もちろんユダヤ人(a Jew, of course)」と述べていたが,現在はそのようなコメントはしてない。
同じ本で,「ジプシー・タイプ(of gypsy type )」であると説明された若い女性は,現在は単に「若い女性」であり,ジプシーへの他の言及は文章から削除されている。
1979年の短編集,‘Miss Marple's Final Cases’ には,怒って朝食を要求するインド人裁判官のキャラクターが含まれている。元の文章は「彼のインドの気性(his Indian temper)」と述べているが,「彼の気性(his temper)」というフレーズに変更されている。「ネイティブ(natives)」への言及も削除されるか,「ローカル(local)」という言葉に置き換えられた。
改訂された本全体で,人種の記述が変更または削除された。これには,ホテルの部屋に向かって歩いているときに,夜の茂みの中で黒人女性を見ることができなかった「カリブ海の秘密」の一節全体が含まれる。
“n-----” という言葉は,クリスティの散文(prose)と彼女の登場人物が話す会話の両方で,改訂版から削除されている。
彼女の小説「Final Cases」と「スリーピング・マーダー(Sleeping Murder)」にも変更が加えられている。 クリスティの作品が変更されたのはこれが初めてではない。 彼女の 1939 年の小説「そして誰もいなくなった(And Then There Were None)」は,人種差別用語(racist term)を含む別のタイトルで以前に出版された。
The Sunday Telegraph, London
(転載了)
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“n-----” は “negro” でしょうが,新聞に表示することすら避けることになっていることに驚きました。
このような原作の修正に対して 批判,反対の声もあるようです。
代表作である 「そして誰もいなくなった(And Then There Were None)」は 発行して,すぐに改題された歴史があるようでー 英文Wikipedia “And Then There Were None” には次のように書かれています。
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It was first published in the United Kingdom by the Collins Crime Club on 6 November 1939, as Ten Little Niggers, after the children's counting rhyme and minstrel song, which serves as a major plot element.
1939年11月6日に ‘the Collins Crime Club’ によって「10人の小さなニガー(Ten Little Niggers)」として イギリスで最初に刊行された-このタイトルは子供たちの数を数える韻とミンストレルの歌の後,主要なプロット要素として機能した。
The US edition was released in January 1940 with the title And Then There Were None, taken from the last five words of the song.
米国版は 1940年1月に 歌の最後の5語から取られた “And Then There Were None” というタイトルで発行された。
Successive American reprints and adaptations use that title, though Pocket Books paperbacks used the title Ten Little Indians between 1964 and 1986. UK editions continued to use the original title until 1985.
1964年から1986年の間,‘Pocket Books’ のペーパーバックは ‘Ten Little Indians’ というタイトルを使用していたが,米国の連続した再版と改作はそのタイトルを使用している。英国版は1985年まで元のタイトルを使用し続けた。
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日本語訳は 1939年に雑誌 『スタア』で 清水俊二が 「死人島」として連載したのが初出で,1955年6月に早川書房から 『そして誰もいなくなった』 として刊行されたようです。
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