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2023年5月21日 (日)

‘Eurasia Group’ による “Top Risk 2023”

ニューヨークに本部を置く 世界最大の政治リスク専門コンサルティング会社 ‘eurasia group’ が 年初に “TOP RISK 2023” を発表しています。
遅ればせながら,部分拙訳・転載します。
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1  Rogue Russia / ならず者 ロシア
2  Maximum Xi / マキシマム 習
3  Weapons of mass disruption / 大量破壊兵器
4  Inflation shockwaves / インフレの衝撃波
5  Iran in a corner / 追い詰められたイラン
6  Energy crunch / エネルギー不足
7  Arrested global development / 世界的な発展の阻害
8  Divided States of America / 分断された米国
9  Tik Tok boom / Tik Tok ブーム
10  Water stress / 水ストレス

我々は(ほぼ)パンデミックを乗り越えている。ロシアにはウクライナで勝つ方法はない。欧州連合はかつてないほど強力になっている。NATOはその存在理由を再発見した。G7は強化が進んでいる。再生可能エネルギー(renewables)は非常に安くなりつつある。米国のハード・パワーは依然として比類のないものである。米国の中間選挙は明らかに正常だったそして民主主義にとって最大の脅威となる候補者の多く(特に選挙の権限を持っていたはずの候補者)が選挙戦で敗れた。

一方,ドナルド・トランプ氏は大統領就任以来最も弱体であり,多くの共和党議員が共和党の指名獲得に向けて同氏との対決を準備している。落とし穴があるはずである。

大きな問題は:個人の小さなグループが異常な量の権力を蓄積し,不透明な(opaque)環境で限られた情報を使って重大な(profound)地政学的な影響を与える決定を下していることである。

統合されたグローバリゼーションを一方の極に持つ地政学のスペクトルにおいて,これらの発展はもう一方の極にあり,今日の世界に不釣り合いな(disproportionate)量の不確実性(the uncertainty)をもたらしている。

今年の我々の最大のリスクは,これらの主体とその影響に偏っている:「ならず者ロシア」,「マキシム 習近平」,「大規模破壊(mass disruption)兵器」,「追い詰められたイラン」はすべて,監督も,適切な専門家の意見も,彼らの行動を制約するチェック・アンド・バランスもない,深刻な構造的課題と(内外の)強い反対に直面している国際主体から来ている。

独裁政権(dictatorships)はより強固になり(consolidated)つつあると同時に,つまずいている(stumbling)。ウラジーミル・プーチン大統領のロシアは,深刻な経済的・軍事的衰退に直面しており,指導者としてG20サミットに出席するには孤立しすぎている一方,NATOはかつてないほど強くなっているように見える。ロシアの最も重要な軍事同盟国であるイランは,イスラム共和国を権力に導いた1979年の革命以来最大の国内不安と並行して,非常に敵対的な地政学的環境に直面している。

中国はゼロ・コロナ(昨年の最大のリスク)の問題に対してまったく準備ができていなかったので,前例のないデモを引き起こし … そして習近平国家主席の政策が突然転換し,米国やヨーロッパより2年遅れて制限措置を終了させた。彼らの軌跡(trajectories)は,程度の差こそあれ,ますます持続不可能になっている。

より広く言えば,人類発展の進捗は,世界的なパンデミック,ヨーロッパでの地上戦争,大規模なインフレ・ショック,増大する気候変動によって逆戻りさせられている。数十年に及ぶグローバリゼーションが前例のない世界的成長を推し進め,強固な(robust)世界的中流階級の出現を経て,現在,世界の80億人の大多数が,教育レベル,平均余命,経済的幸福,安全と安心の面で,良くなるどころか,むしろ悪化しているのを目の当たりにしている。2023年には人類発展への逆風が強まるだろう。

米国のリーダーシップは両刃の剣だ。

ロシアの失敗した戦争から1年が経ち,米国は世界の単独の世界軍事指導者としての地位を確立したばかりである。中核同盟国は,広義の国家安全保障に関して米国に依存していることを明確に認識している。

米国の比較経済力は,パンデミックやロシア戦争を経て,2008年の世界金融危機後よりも強くなっている。欧州では,米国の世界的地位が戦争の恩恵を受けている一方で,欧州諸国と日本は産業空洞化(deindustrialization)と平和の配当の永久的な終焉に直面しているというささやきが大きくなっている。

中国もまた,他の主要国よりもはるかに大きな経済的課題に直面している。同国の経済は2030年までにGDPで米国を超えると依然として予想されているが,超えられない可能性が高まっている。そしてもしそうなったとしても,中国の人口は2100年までに半減するため,これは中国の世紀の到来を告げる(herald)ものではない。今後数十年間で本当に優れたパフォーマンスを発揮する主要な中所得国があるとすれば,それは間もなく世界第3位の経済大国 (そして最大の民主主義国家) となるインドだろう。

しかし,模範を示すという点では,米国の場合はまったく異なる。
1989
年,米国は世界をリードする民主主義輸出国だった。

今日,米国は民主主義を損なうツールの主要な輸出国となっている - これは,利益を最大化しながら市民社会の構造を引き裂き,前例のない政治的分裂,混乱,機能不全を生み出すアルゴリズムとソーシャル・メディア・プラットフォームの結果である。この傾向は急速に加速している- 政府によってではなく,自分たちの行動が社会的,政治的に与える影響をほとんど理解していない少数の個人によって動かされている。

ハイテク百億長者は世界の不安定に対して,プーチンや習よりも大きな脅威なのだろうか? それは不明確だが,問うべき正しい質問であり,世界の民主主義にとって重大な課題であり,代表的な政治制度の脆弱性(vulnerability)と,国家による管理と監視(surveillance)の増大する魅力(allure)を浮き彫りにしている。2006年に ‘J カーブ’で示したように,開かれた社会が最も安定していた。その理由の 1つは,テクノロジーが社会を強化し,権威主義体制(authoritarian regimes)を弱体化させたことである。

それから 20年も経たない 2023年には,その逆が当てはまる。

それは民主主義の終わりではない(NATOや西側諸国の終わりでもない)。しかし,我々は依然として地政学的不況(geopolitical recession)の真っ只中(in the depths)におり,今年のリスクはユーラシア・グループ設立以来25年間で最も危険な状況に直面している(encountered)。

And now, our top risks
そして今,我々の最大のリスクは:

(*10の ‘Risk’ のうち,‘8’ および ‘10’ の記述を下に示し,他は省略する)

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Divided States of America / 分断された米国

まず,良いニュースである。2022年の中間選挙は,次の米国大統領選挙での憲法危機への滑りを止めた。共和党が下院の多数派を獲得したからでも,民主党が上院を制したからでもない。最も重要なことは,全米の有権者が,2020年の投票でバイデン氏がトランプ氏に勝利した正当性を否定した州知事または国務長官に立候補した事実上すべての候補者を拒否したことだ。そして将来の州レベルでの選挙を管理するのは知事と国務長官である。米国の政治が今年のトップ・リスクのリストで上位に表示されないのはそのためだ。

But it still made the cut.
しかし、それでも成功した。

米国は依然として,世界の先進産業民主主義国の中で最も政治的に二極化し,機能不全に陥っている国の一つである。米国の有権者の党派的な二極化の進行は,中核となる連邦機関:つまり政府の三部門と,自由で公正な選挙を通じた平和的な権力移譲の正当性を侵食し(erode)続けている。

その結果,政治権力は州に委譲されており,ワシントンが残した空白地帯に足を踏み入れ,気難しく硬化した連邦政府では実行できない議題を追求する党派がますます主導するようになっている。したがって,例えばテキサス州とカリフォルニア州の政策の方向性の違いは,5年前よりもはるかに顕著になっている。

この二極化は,あなたが予想するほど米国の世界的な地位に影響を及ぼさない。米国の先進産業同盟国や世界中のパートナーは,直接的な軍事調整だけでなく,より広範な非対称脅威(対テロ,サイバー防衛)や世界経済(半導体、金融取引)の国家安全保障関連要素の両方において,国家安全保障関係において依然として米国に大きく依存している。
ラテン・アメリカ,東南アジア,サハラ以南アフリカの発展途上国,特に中東の産油国では,この考えは当てはまらなくなってきている。しかし,この変化は米国の政治的機能不全(political dysfunction)よりも,中国やその他の国の台頭と関係がある。

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それにもかかわらず,米国を予測可能な規制体制を備えた一貫した市場として考えることに慣れている企業にとって,この環境はますます困難になるだろう。各州は伝統的に刺激策(incentive packages)を通じて企業投資(corporate investment)を競い合ってきた。しかし現在,保守的な政治家は環境・社会・ガバナンス(ESG)規制などの問題をめぐって大手雇用主と喧嘩を売って差別化を図る(differentiating)一方,左派政治家は彼らの州でビジネスを行うことについて,より労働者寄り,消費者寄り,環境コストを増大させる政策を追求している。州レベルの政治を熟知すること(mastery)がビジネス戦略の成功の中心となるため,この乖離(divergence)により米国企業と外国企業の両方にとって長期的な投資計画がより困難になるだろう。

2年前の16日の国会議事堂暴動(the Capitol riots)に参加した人の一部が現在刑務所に送られていることからも,米国では政治的暴力のリスクが継続している。国民の怒りを引き起こす二極化(polarization)は米国人の生活の構造的な特徴となっており,その一部はソーシャル・メディアによって促進されている(fueled)。

もちろん、赤と青の敵対意識(animosity)はここ数十年にわたって高まる傾向にある。しかし今日,米国人のおよそ3分の2は,反対派の議員を単に間違っているだけでなく,不誠実(dishonest)で不道徳(immoral)であり,国そのものに対する脅威であると見なしている。そして,脅迫と暴力が政治的に正当化されるという信念が両党の党員の間で高まっており,その傾向は共和党員の間でより顕著である。非民主的な手段で政治的議論を解決しようとする米国人の傾向(propensity)が強まっており,大規模な抗議活動や一回限りの(one-off)政治的暴力行為のリスクが高まるだろう。

これらすべての理由から,米国の深刻な政治的二極化は依然としてリスクであり,2023年まで増大すると予想される。

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10 Water stress / 水ストレス:

今年,水ストレスは世界的かつスステム的な課題となるだろう… 政府は依然としてそれを一時的な危機として扱うだろう。

2022年,水位の低下によりアフリカの食糧危機が悪化(exacerbated),ヨーロッパでは輸送と原子力生産が停止し,中国では工場の閉鎖につながった。また,水不足により,米国は西部の州で水の放出を制限することを余儀なくされ,ラテン・アメリカで社会不安(social unrest)を引き起こし,企業と地域社会の間の緊張が高まった。2023年の予測はさらに悪化する。水ストレスは新たな常態となり:河川の水位は過去最低水準に低下し,世界中の企業の 3分の2 が自社の事業やサプライ・チェーンに対する重大な水リスクに直面することになる。

各国では,水関連の紛争の数はすでに1980年代から急増しており,2023年には新たな高みに達すると予想されている。その影響は中東とアフリカで最も大きくなり,そこでは水は,民兵組織(militias)が希少な資源をめぐって争う場所では「引き金」として機能し,過激派(militants)が給水ポンプ,タンク,パイプを破壊する場所では「犠牲者」として機能するだろう。

水不足はまた,中東(シリア,イラク,イエメン)で難民の流出を引き起こし,北アフリカ(アルジェリア,モロッコ,チュニジア)の経済見通し(economic prospects)を脅かし,アフリカの角(horn of Africa)(エチオピア,ケニア,ソマリア)で 食料価格を高騰させ,農民に移住を強いることによって食糧不安を増大させるだろう。国内不平等への波及効果は,高インフレ,失業,疾病の発生,エネルギー不足など,他の経済的・社会的危機と組み合わさった地域で社会不安を増大させるだろう。

水ストレスの影響は悪化するだろうが,それに対処する政府の能力は向上しないだろう。
水の利用可能量が恒久的に減少することに適切に備えることができなかった政策立案者は,資源を突然(abruptly)制限し,再配分する短期的な緊急措置に頼ることになるだろう。:

While the consequences of water stress will worsen, governments’ ability to handle them will not improve
水ストレスの影響は悪化する一方,それに対処する政府の能力は改善されない

米国の政策立案者は,一方では発電,水の放出,工業生産,食料生産,そして他方では水の保全のどちらかを選択する必要があるだろう。2023年に発効する水制限(一部の州ではコロラド川の水供給量が最大21%削減される)で最も大きな被害を受ける米国の農家はさらに多くなり,水不足対策として収穫を見合わせる(forgo)ことが求められるだろう。

欧州はさまざまな課題に直面するだろう。 ノルウェーは水力発電を国内利用のために維持するために電力輸出を制限しなければならない可能性があり,オランダやドイツからの法的異議申し立てにさらされる可能性がある。また,ライン川とポー川の水位低下は内陸輸送に混乱をもたらし,西ヨーロッパの広範な経済活動を妨げるだろう。

ラテン・アメリカでは,政治的決定により,飲料会社など水を大量に消費する産業は,乾燥した地域から水が豊富な地域へ施設を移転することになるだろう。地元の政策立案者はサンティアゴ・デ・チリの先例に従い,顧客間で順番に断水を実施し,小売業やサービス業に影響を与えるだろう。

There are no quick fixes in sight.
すぐに解決できる方法はない。

何十年もの間,富裕国は水不足を,二国間援助を通じて緩和できる,貧しい国に影響を与える問題として扱ってきた。これにより,淡水化プラント(desalination plants)などの技術的ソリューションへの慢性的な(chronic)投資不足が生じ,淡水取水量の 70% を占める農業分野での使用は依然として法外に(prohibitively)高価である。国際協力も役に立たない。
締約国会議またはCOPとして知られる気候と生物多様性の国際交渉が注目(traction)を集めている一方で,砂漠化(desertification)に焦点を当てたCOPは無視されたままである(聞いたことがある?)。2022年5月の前回の調査では大きな進展はなかった。
そして,今後開催される国連水会議(UN Water Conference)などの他の世界的な取り組みは、今年の水ストレスに影響を与えることはない。

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水政策には危機からリスク管理への移行が求められる。この変化は2023年には具体化(materialize)せず,投資家,保険会社,民間企業は自力でこの課題に対処する方法を見つけ出す必要がある。
(転載了)

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