‘THE TRACE/Investigating gun violence in America’,Mar 6, 2023付けで
“How Many Guns Are Circulating in the U.S.?”
「何丁の銃が米国で流通しているのだろうか?」
と題する調査結果がありました。
下記,拙訳・転載します。
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我々は,銃暴力をめぐる会話の中心となる,しかし,とらえどころのない(elusive)データ・ポイントを特定しよう(pin down)と試みている。
米国には人口よりも銃の数が多いという話は何年も聞かれてきたが,正確な計算は依然としてつかみどころがない。
銃の販売を追跡したり,全国規模の拳銃登録簿を確立したりする連邦法が提案されているが,銃規制反対団体(the gun lobby)から多くの抵抗があった。正確な数字の代わりに,銃所有者の調査,業界の情報開示,連邦の銃の身元調査の数字があるが,どれも包括的なもの(comprehensive)ではない。
流通している銃の数を正確に特定(pinpointing)できれば,銃の販売と銃による暴力の関係をより深く理解できる可能性がある。研究者たちは,銃の増加は銃による死亡の増加を意味することを一貫して指摘しているが,銃の権利擁護者たち(gun rights advocates)は反対の主張を続けている。一方,銃による年間死亡者数は前例のないレベルにまで急増している。
ここでは,米国の民間銃の保有数(civilian gun stock)を定量化することを試み,そのプロセスを通じて,なぜそうすることが非常に複雑なのか,またその数値が銃による死者数とどのように相関している(correlate)のかを説明する。
How many guns have been manufactured for the U.S. market?
米国市場向けに何丁の銃が製造されたか?
米国の認可を受けた銃器製造業者によって製造されたすべての銃には,文書記録(paper trail)が付いている。しかし,その紙の記録で何が起こるのか-そして誰がそれにアクセスできるのか-は,熱い議論のテーマとなっている。
現在,連邦の認可を受けたディーラーがアルコール,タバコ,銃器,爆発物局(the Bureau of Alcohol, Tobacco, Firearms and Explosives)に販売量を報告する義務がないため,個別の購入に関する完全なデータはない。しかし,銃器製造業者はATF(Bureau of Alcohol, Tobacco, Firearms and Explosives)にその数字を報告する義務があるため,認可を受けた製造業者から毎年何丁の銃がFFL(Federal Firearms License)に出荷されているかはわかっている。
同庁は年次銃器製造・輸出報告書(Annual Firearms Manufacture & Export Report)で銃の生産数と輸出入の数字を発表している。「製造」は ATF によって「暦年中に商業的に製造および廃棄された銃器」と定義されている。
ATFの歴史的データによると,1899年以来 米国市場向けに4億6,500万丁以上の銃器が製造されている。この数字には外国の銃器メーカーからの輸入が含まれているが,国内の銃器メーカーによる輸出は含まれていない。
このデータには,軍ではなく法執行機関(law enforcement)によって購入された銃が含まれている。
スイスに本拠を置き,世界の銃の在庫に関する定期報告書を発行している団体 ‘Small Arms Survey’ は,2018年に米国の地方警察,州警察,連邦警察が保有する銃器の数は100万丁をわずかに超えると推定した。
Why are exports excluded?
なぜ輸出が除外されるのか?
この記事は米国で流通している銃に焦点を当てているため,他の国に出荷された銃は含まれていない。しかし,ATFのデータによると,米国は小型武器の最大の輸出国であり,1899年以来2500万丁以上の武器が海外に輸出されている。
ATF の集計によると,最大の銃輸出会社は国内販売トップでもある:シグ・ザウエル(Sig Sauer);スターム・ルガー(Sturm, Ruger & Company); そしてスミス&ウェッソン(Smith & Wesson)。
Do manufacturing figures equal the number of guns in circulation?
製造数は流通している銃の数と同じか?
否。製造数は,毎年流通から外れる銃器の数を考慮していない。銃は耐久性があり,適切にメンテナンスされていれば 1世紀以上使用できる。しかし,錆びたり壊れたりする。1990年代初頭に銃所有者を調査し,初めて国内の銃の量を定量化しようとした,デューク大学の公共政策名誉教授(professor emeritus)フィリップ・クックによると,銃は警察に没収され(confiscated),破壊され,他国に違法に輸出されている。
クック氏は銃の調査(census)をまとめる際に,壊れた銃,没収された銃,違法に輸出された銃の数を計算するために,民間銃のストックの合計から毎年差し引く数字を計算しなければならないことに気づいた。同氏は,この削減率(attrition rate)をどうあるべきかについて「苦労した(struggled)」と述べた。
「ゼロではないことは承知しており,5%に達する可能性は低いだろう」と彼は言った。「保守的な『もしもの計算』として 1%を使用した。」クック氏は,その結果の数字が,調査回答者が所有する銃の数に関する報告と一致していることに気づいた。ATF は,1899年から 1945年までの製造,輸入,輸出された銃器の累計数を提供しているが,年次の内訳はない。クックの削減率を 1946年から毎年適用すると,1億1,200万丁以上の銃が失われ,約3億5,200万丁の銃が流通していることになる。
研究者の中には,クック氏の削減率が更新される可能性があると考えている人もいる。
「その1%という数字に意味があるのかどうか,そして銃の販売が急増した過去10年ほどでその数字を削減すべきかどうかは未解決の問題だ」と,2016年に,銃所有者に関して画期的な調査を行った,ハーバード大学の公衆衛生研究者であるデボラ・アズラエル(Deborah Azrael)氏は述べた。
さらに,法律で義務付けられているにもかかわらず,すべての銃器メーカーが市販銃床(gunstock)を毎年 ATF に報告しているわけではない。2022年5月に発行されたATFの報告書によると,現役の銃器製造業者の平均30%が2016年から2020年の間に製造報告書の提出を怠っていた。これは多いように聞こえるが,同庁によれば,報告者以外の企業のほとんどは小規模な製造業者であり,その製造量が「全体の製造量の比較的小さな割合」を占めているという。
経済学者のユルゲン・ブラウアー(Jurgen Brauer)氏は、小型武器調査の2013年の作業報告書で,2001年から2010年の間にATFに報告されなかった,新たに製造された武器を約32万丁と推定した。これは公式の合計の1パーセントにも満たない。
最後に,ATF データには 3Dプリントで製造された銃やキットから組み立てられたほとんどの銃は含まれていない。DIYの銃器は当局に報告する必要はなかった。2022年に発効した規則では,私的に製造された銃器にはシリアル番号を刻印することが義務付けられており,これにより今後は製造に関する,より正確な情報が得られる可能性がある。
How does the ATF’s figure compare to other available estimates?
ATF の数値は他の入手可能な推定値とどう比較されるか?
多くの報道機関や研究者は,毎月流通する銃の数の代用として,FBI の身元調査の数字を使用している。しかし,さまざまな理由により,身元調査は売上と 1 対 1 に対応するものではない。中には携帯許可の申請や更新が隠蔽されているものもあり,人々は1回の身元調査で複数の武器を購入することができ、少なくとも1つの州(ケンタッキー州)は月に1回,許可所持者の身元調査を実施している。
過去 25年間の FBIの身元調査の数字と,同時期の ATFの銃の製造および輸入の数字を比較したところ,身元調査の数は銃の生産数を 2対1 上回っていた(outnumbered)。
銃器産業の業界団体である全米射撃スポーツ財団(the National Shooting Sports Foundation)は,ATF,米国際貿易委員会(the U.S. International Trade Commission),議会調査局(the Congressional Research Service)などの多数の情報源を活用した銃器製造報告書(firearm production reports)を発行している。2020年,同団体は「民間所有の銃器の推定総数は4億3,390万丁である」と報告した。 この数字は,流通を離れた銃を考慮したものではないようだ。
How has gun production changed over time?
銃の製造は時間の経過とともにどのように変化したか?
ATFのデータによると,米国の銃器メーカーは2016年から2020年にかけて年間平均900万丁以上の銃を製造し,米国企業は年間平均500万丁弱の銃器を輸入していた。2020年,合計1,100万丁の銃が製造され,680万丁が輸入された。
年間の製造量と輸入量は歴史的にはるかに低かった。15年前,1年間に合計約700万丁の銃が製造および輸入された。この傾向は,全米初の黒人大統領であるバラク・オバマの当選後,大幅に増加した。銃器の総製造量と輸入量は 2008年と2009年の間に 30%増加し,2008年以前のレベルに戻ることはなかった。2009年以来,製造と輸入の合計は 152% 増加した。
製造と輸入の他の急増は,オバマ大統領が二期目に立候補して当選した2011年から2012年(38%)と,ドナルド・トランプが大統領に立候補を宣言して選挙に勝利した2015年から2016年(25%)にも見られる。 前年比で最も大きな伸びを記録したのは2019年から2020年で,パンデミック関連の銃販売急増により,前例のない4,000万丁(62%)の銃が店頭から飛び去った。(パンデミック需要は,輸入銃器の前年比最大の増加を説明している可能性が高い: 2019年から 2020年の間に 71% 増加した。) 逆に,トランプ大統領が当選した2016年から大統領に就任した2017年にかけて,銃の需要は減少したようだ(24%)。
ATF によると,2000年には米国の人口 10万人あたり 1,397丁の銃が製造されていたが,2020年までにその数字は 3,410丁に急増した。
Has the type of guns being manufactured changed?
製造される銃の種類は変わったか?
米国で製造される銃の大部分はハンドガンだが,常にそうであったわけではない:1990年代初頭までは,ライフルと散弾銃の売り上げが いつも(routinely)ピストルやリボルバーを上回っていた。このようなデータが入手可能な最新の2021年には,ハンドガンが国内銃器製造の57%を占め,800万丁近くが製造されたのに対し,長銃の製造はわずか33%,200万丁弱だった。
これは,レクリエーションや狩猟のために銃を購入する人が減り,護身用に銃を購入する人が増えたという米国の銃所有の文化的変化と一致している。NSSF(the National Social Security Fund:国家社会保障基金)によると,1990年以来,米国で製造されるライフル銃の3分の1以上はAR-15のような半自動ライフルだった。
ATFによれば,過去10年間で,完成品の銃を作るために「他の部品と組み立てられる前に販売される」フレームやレシーバーなどの銃の部品である、いわゆる雑多な銃器の製造も増加しているという。
What’s the relationship between gun production and gun deaths?
銃の製造と銃による死亡の間の関係は?
1968年に遡って銃の製造と輸入を年間の銃による死亡者数とともにグラフ化したところ,銃メーカーが生産を増やすと銃による死亡者数が増加することがわかった。
研究者らは,銃製造の増加が銃による死亡の増加と関連しているからといって,それが原因であるとは限らないと警告した。しかし,多くの場合,銃による死亡者数と生産数は同じ年にピークに達した。
銃による死亡率がそれまでの記録で最も高かった年,1974年には,それまでで最も多くの銃が製造された。次の10年間で製造量はわずかに減少し,銃による死亡率も同様に減少した。1993年には,銃による死亡率が史上 2番目に高くなると同時に,製造量と輸入量の新記録が達成された。その後 5年間で,製造量と輸入量は 42% 減少し,銃による死亡率は 1993年の 10万人あたり 15人から 1998年には 10万人あたり 11人へと劇的に減少した。
2008年から2013年にかけて,製造量と輸入量が132%増加したにもかかわらず,銃による死亡率は基本的に変わらず,10万人あたり約10人が死亡した。しかし,数年前から銃器数と銃による死亡者数が再び増加し始めた。パンデミック初年度となった2020年,銃器会社はこれまで以上に多くの銃を製造・輸入し,銃による死亡者数は記録上のどの年よりも多く,4万5000人以上となった。2021年,銃による死亡者数は4万8,830人と新記録となった。同年の銃器輸入量はまだ発表されていないが,2020年の数字と同様であれば,製造・輸入量が初めて単年で2000万丁に達する可能性がある。
ATFは年に1回 製造量を発表し,そのたびに,私たちはここでその数を更新していく。
銃による死亡と銃の生産との関係をより詳細に調査したところ,銃の製造,特に拳銃の製造と自殺との関係が銃による死亡全体よりも強いことがわかった。しかし,相関関係(correlation)は因果関係(causation)ではない,とベテラン研究者らは言う。
ハーバード大学の研究者デビッド・ヘメンウェイ(David Hemenway)氏は,銃が簡単に手に入ると銃による死亡が増えることを繰り返し発見しており,家庭での銃所有レベルの方が民間銃床(civilian gunstock)の規模よりも重要である可能性があると述べた。同氏は,銃所有者を対象とした以前の調査を引用し,「銃の在庫が増加した時期もあったが,世帯の銃所有レベルは安定しているか,低下している」と述べた。同氏はまた,一世帯当たりの銃の数は,銃の生産数よりも銃による死亡とより強く相関している可能性があると述べた。 「銃は長持ちする(last a long time)」と彼は述べた。
しかし,パンデミック以降,状況は変わった可能性がある。ATFの銃器追跡データによると,2020年に警察が回収した銃器の数は,2019年より「犯罪までの時間」が短く,この場合は購入から1年以内に回収されたという。
ラトガース大学カムデン校の犯罪学者(criminologist)ダニエル・セメンザ(Daniel Semenza)氏は,銃の入手可能性と銃による死亡との相関関係も研究しており,過去半世紀のさまざまな時点で銃の生産と銃による死亡がどのように増減しているかに衝撃を受けたと述べた。「100パーセントの相関関係ではないが,かなり近い相関関係がある。」と彼は言う。同氏は,今回の研究結果は研究者らが長年観察してきたことを裏付けるもので,「銃が増えると,銃の存在が原因で銃乱射や自殺,口論が致命的になるなど,リスクが高まる。」と述べた。
銃の生産量増大に伴って 銃による死者数も増加しているため,この国の銃暴力の蔓延(epidemic)に対して 銃産業がどの程度の責任を負っているのかという疑問が生じる。
その可能性は法廷で議論されており,銃の権利保護団体は,銃の製造業者と販売業者を公共の安全を危険にさらした(endangering)として告訴することを認めた最近のニューヨーク州法に異議を唱えている。他の3つの州も同様の法律を制定しており,製品の犯罪的悪用に起因するほとんどの訴訟から銃器会社を守る2005年の連邦免責(immunity)を回避しよう(circumvent)としている。この問題は最高裁判所まで争われる可能性がある。
How many guns do people near me own?
私の近くにいる人は銃を何丁持っているか?
ATF 製造量は州または地方レベルで分類されていない。そのため,近隣で何人が撃たれたかはわかっているが,近隣住民の何人が銃を持っているかはわからない。銃が FFL に出荷されると,そこで紙の記録は終了する。
ハーバード大学の研究者アズラエル氏は,「何百万丁の銃が保管されているかを知ることができれば,非常に役立つだろう」と語った。ATF が製造を「暦年中に商業的に製造および廃棄される」と定義する方法は,FFL に出荷されたすべての銃が販売されることを前提としている。特にパンデミック下での需要と生産の急増は,銃器店で売り切れが生じているような印象を与えるかもしれないが,必ずしもそうではない,とアズラエル氏は語った。
ATFは,民間人の手に渡った機関銃,短銃身の(short-barreled)ライフルと散弾銃,サイレンサーの数を州ごとに内訳している。それは,それらが国家銃器法(the National Firearms Act)によって規制されており,譲渡には連邦政府の承認が必要だからだ。しかし,これには米国で販売されている銃の大部分が含まれない。
ランド研究所(the RAND Corporation)の上級行動科学者(senior behavioral scientist)であるアンドリュー・モラル(Andrew Morral)氏は,州レベルでの銃所有データがないことが銃暴力研究の妨げになっている(impedes)と最近 ‘FiveThirtyEight’ に語った。局所的なデータがなければ,研究者は銃の所有が銃による死亡率に与える影響を正確に評価することができない。セメンザ氏は,民間銃器の数のより正確な計算は「非常に重要」だと述べ、たとえデータに注意点があるとしても、研究者やジャーナリストが射程距離や推定値の代わりに正確な数字を使用することを望んでいると付け加えた。そうしない理由の一つは,過去の製造量の数字を見つけるのが簡単ではないからだと彼は語った。
「これは,非常に厄介な(cumbersome)言語で書かれたさまざまな文書の束に記載されている」と彼は言った。「そして,遡れば遡るほど,データを解析するのは難しくなる。」
セメンザ氏はまた,米国の銃の数は把握できない(unknowable)という「根強い通説(this persistent myth)」を指摘した。 「それはほとんど自己成就的な(self-fulfilling)予言(prophecy)だ。」
(転載了)
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Wikipedia “Estimated number of civilian guns per capita by country” によれば,2017年における 100人当たりの保有銃の数はー
米国:120.5,日本は 0.3 です。
米国(民間)には 国民一人当たり 1.2丁の銃が存在します。
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