ウクライナ侵攻 1年5ヶ月後のプーチンの動機分析
9月27日,「ロシアのウクライナ侵攻の翌日,『インサイダー』に掲載されたプーチンの侵攻理由」を転載しましたが,侵攻から 1年5ヶ月後,同じく ‘Business INSIDER’ に掲載された,動機の分析を主とする記事を読んでみました。
プーチンが何故 ウクライナの占領(?)統治(?)に固執するのか 知るヒントになりそうです。
‘INSIDER’,Jul 4, 2023付け
“Why did Russia invade Ukraine? Experts break down Putin's motivations and excuses for launching his war.”
「なぜロシアはウクライナに侵攻したのだろうか? 専門家がプーチンの戦争開始の動機と口実を分析する。」
と題する記事です。
以下,拙訳・転載します。
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・ロシアは2022年2月にウクライナへの本格的な侵攻を開始した。
・‘Insider’ はなぜそれが起こったのか,そしてプーチン大統領の動きの背後にある動機について3人の専門家に話を聞いた
・彼らは,ロシアがウクライナの歴史と最近の地政学的変化をどのように見ているかを強調した。
ロシアは 2022年2月24日にウクライナに侵攻して世界を驚かせ,現在まで続く 激しい戦闘を開始した。ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は,侵略を開始した理由についてさまざまな公的説明を行っている。
プーチンが挙げた理由,それが現実とどのように一致するか,そしてロシアが独立主権国家に軍隊を派遣したその他の考えられる理由を以下に挙げる。
Putin sees Ukraine as Russian
プーチン大統領はウクライナをロシアとみなしている
ウクライナは,1991年12月にソ連が崩壊する数日前に国民投票(referendum)で独立国宣言を行うまではソ連の一部だった。それ以来,この国は独立を維持してきた。しかし,プーチンは依然としてウクライナをロシアと呼び,それ自体が国家であることを否定している。彼は2008年,当時の米国大統領ジョージ・W・ブッシュに対し,ウクライナは国ですらないと語っている。
英国バース大学(the University of Bath)のロシア政治専門家スティーブン・ホール(Stephen Hall)は,多くのロシア人が今でもこの考えを持っており,「それはクレムリンだけではない」と述べた。
ホール氏は,「ロシアはウクライナの首都キ-フを『ロシアの都市の母(mother of Russian cities)』とみなしており,プーチンにとってそれが自国の外にあることはあり得ない」と語った。
ホール氏は,ロシアは数千年にわたって存在してきた大国であるという自国の主張を裏付けるために,ウクライナの領有権を主張する必要があると付け加えた。「それがなければ,ロシアは千年の歴史を主張することはできない。モスクワが森だった1200年前,キ-フはすでに存在していたからだ。」と同氏は語った。
Recreating a Slavic Brotherhood
スラブ同胞団の再構築
現在の主権国家のうち15ヶ国はかつてソ連の一部であり,専門家らによると,ロシアは近隣のベラルーシや他の中央アジアの旧ソ連諸国よりもウクライナのことを重視しているという。
ホール氏は「プーチンの意見は常に,ウクライナ人とロシア人は同じ民族であり,ロシア,ベラルーシ,ウクライナのスラブ同胞団(the Slavic Brotherhood)の一員であるというものだった」と述べた。
ベラルーシはすでに本質的にロシアの傀儡国家(puppet state)であり,同国への軍事侵攻はほとんど無意味となっている一方で,ウクライナは近年ますます西側との連携を強めている。また,ベラルーシはウクライナよりもはるかに小さく,ロシアはその歴史を主張することにあまり関心がないと,シラキュース大学(Syracuse University)のロシア政治専門家ブライアン・テイラー(Brian Taylor)教授は指摘する。
イェール大学のロシア・東欧・ユーラシア研究プログラムの共同創設者であるトーマス・グラハム(Thomas Graham)は,ウクライナは「何世紀とは言わないまでも,数十年にわたりロシアの政治的想像(political imagination)」にとって重要であったと述べた。
ロシアに関する元米国大統領補佐官のグラハムはまた,ウクライナ領土は19世紀からロシア帝国の石炭,鉄鋼,鉄の多くを供給するなど,歴史を通じてロシアの経済力を助けてきたと述べた。同氏は,「ウクライナのドンバス地域がなければ,19世紀末から20世紀初頭にかけてロシアは大国にはならなかっただろう」とも付け加えた。
Putin blamed the West
プーチン,西側諸国を非難
テイラーは,ウクライナ侵攻はプーチンの「長年にわたって醸成されてきた(brewing)不満(grievances)」を反映していると述べた。
プーチンにとって,「ロシアにはウクライナを統治する権利がある。ロシア人とウクライナ人は一つの国であり,一つの民族である。両者はソ連崩壊時に不法(illegitimately)かつ人為的に(artificially)分離されたものであり,ロシアの自然な友好関係からウクライナを引き離そうとした西側諸国に責任がある」としているとテイラーは言った。
プーチンは侵略の開始時に,NATOの東欧への拡大が 長年にわたって行ってきた批判を繰り返すことを強いたと非難した。
ホールは,NATOが国境に向かって拡大することでロシアを脅かしているという考えは「ロシアのプロパガンダの物語(narrative)の大部分を占めている」と述べた。同氏はまた,NATOは単に拡大するのではなく,通常は外部の脅威を認識したことが動機となって各国が加盟を申請していると指摘した。 東ヨーロッパでは,その脅威はロシアから来ることが多い。
例えば,リトアニアの首相は2月に,インサイダーに対して,同国は「プーチンのおかげで」NATOに加盟したと語った。
しかし,プーチンはその口実をひっくり返し,「責任のなすり合い(blame game)」をしていると彼女は語った。
A NATO excuse
NATOの言い訳
ホールは,プーチンが西側軍事同盟に対してすでに強い疑念(misgivings)を抱いているであろう国際聴衆を説得するためにNATO路線を利用していると述べた。そして,ロシアがこのように感じている少数派とさえ関与できれば,「ロシアが西側の関与を阻止しようとするために利用できる選挙上の発言力が生まれる」と同氏は述べた。
ホールは,たとえNATOが拡大していたとしても「それはロシアがウクライナで行ったことを正当化するものではない」と付け加えた。
ウクライナ自身とNATOとの関係は,親ロシア軍(pro-Russian forces)がウクライナ東部に侵攻した2014年以降に深まり,紛争が始まり,2022年の侵攻まで続いた。しかしテイラーは,NATOの拡大疑惑がどのようにしてこの戦争につながる可能性があるのかについて「理解しやすい(coherent)説明」が見当たらないと述べた。
フィンランドが今年初めにNATOに加盟するまでは,2004年以来新たにNATOに加盟した国はなく,当時でさえエストニア,ラトビア,リトアニアなど「かなり小さな国」だった,とテイラーは指摘した。
同氏はまた,NATOはこの地域に追加の軍隊を配備しなかったとし,「したがって,これらの国の追加によってロシアの目前にこの軍事力が創設されたわけではない」とも述べた。実際,テイラーは,2014年に親ロシア軍がウクライナの一部を占領するまで,米国は欧州における軍隊の規模を削減していたと語った。
It's all about the 'Nazis'
すべて「ナチス」に関するもの
プーチンが最も頻繁に主張することの一つは,「ナチス」がウクライナを運営しており,彼らを阻止するにはロシアが介入(intervene)しなければならないというものだ。
これは,ウクライナではヴォロディミール・ゼレンスキーというユダヤ人の大統領がおり,同国の指導部がナチスに支配されているという証拠はないにもかかわらずである。テイラーは,ウクライナにはナチスのイデオロギーに共感する人たちがいるが,「それは少数のグループだ。彼らは政治的に権力や重要性を持ったことはないが,存在する」と語った。
「しかし,ロシアの政治にもナチスが存在し,米国の政治にもナチスが存在する」と彼は言った。
専門家らは,ウクライナ・ナチスに対するロシアの繰り返しの主張を理解する鍵は,ロシアがこの用語を西側諸国とは異なる使い方をしていることにあると述べた。
「ロシアでは,ナチズムとは何か,そしてファシズムとは一般的に何なのかについて,西側諸国とは異なる認識を持っている」とホール氏は語った。「彼らにとってナチズムはロシア恐怖症(Russia-phobia)だ。だからウクライナ人は反ロシアだからナチスなのだ。」
また,プーチンは西側諸国の支持を得るためにこのナチスの考えを推進しているが,西側諸国ではウクライナにはナチスの問題があるという議論に対して人々は常に「敏感(susceptible)」だった,とホールは述べた。
同氏は,プーチンの戦略の一部は「壁に物を投げて,何が刺さるかを見る」ことだと述べた。
But really, Putin just wants a legacy
しかし実際のところ,プーチンはただ遺産を望んでいる
グラハムによれば,プーチンがウクライナ侵攻を求める公的圧力を受けていたという証拠はなく,プーチンの推論(reasoning)の少なくとも一部は個人的なものであったことが示唆される。
専門家3人はいずれも,プーチンの,歴史書で崇拝されたい(revered)という願望が攻撃の動機となった可能性が高いと述べた。
ホールは,プーチンの不安は「私がロシアの歴史の脚注(footnote)になるのか,それともピョートル大帝,女帝キャサリン(Catherine the Great),スターリンと同じように私についての本が書かれるのか」ということだと語った。
テイラーもこれに同意し,プーチンは自分自身を「ロシアの領土を回復する偉大な歴史的なロシアの指導者」とみなしており,70歳になった今,自分の遺産について考えていたと述べた。
"What have the great Czars done? They've expanded Russian territory," Graham said.
「偉大な皇帝たち(Czars)は何をしたというのか?彼らはロシアの領土を拡大したのだ。」とグラハムは語った。
Even so, why now?
それにしても,なぜ今なのか?
上記のことをすべて考慮しても,なぜ侵略が起こされたのかは興味深い(intriguing)疑問である。専門家らは,ロシアが2022年2月に侵攻した理由は複数あると指摘した。
1つはコメディアンや俳優としてのキャリアを経て2019年に権力を握ったゼレンスキー氏の登場だ。 ホールは,「プーチンがゼレンスキー氏に関し,ウクライナで操作できる(manipulate)人物がいると信じていた」と述べた。
テイラーは,「2019年の選挙中,ゼレンスキー氏も潜在的により親ロシア的な人物とみなされていた。彼はロシア語圏の出身で,彼の第一言語はロシア語だった」と述べた。
しかし 2021年,ウクライナはプーチン大統領の最も近い同盟者(allies)の1人を反逆罪(treason)で起訴した。
テイラーは,「ヴィクトル・メドヴェチュク(Viktor Medvedchuk)の逮捕により,プーチン大統領は『ウクライナを平和的にロシアの支配下に置くという目標は失敗した。したがって,残された唯一の選択肢は軍事的手段である』と認識した」と述べた。
同氏はまた,プーチンがもっと早く全面侵攻を開始しなかった地政学的な理由も指摘した。
理由の一つは,ドナルド・トランプ米大統領が政権を握ったことだ。テイラーは,「トランプは 少なくとも公の言葉ではプーチンに対して非常に友好的で,尚且つ,彼はNATOを公然と批判した。」と述べた。これは,プーチンが 同盟関係が「内部から崩壊するようなもの(kind of shatter from within)」になるかどうか様子を見守ることができることを意味した。しかし2021年に,より強力なNATO支持者であるジョー・バイデン大統領が就任した。
テイラーはまた,新型コロナウイルス感染症のパンデミックも理由として挙げ,プーチンは「その2年間は通常よりもはるかに孤立していた」と述べた。グラハムは,プーチンの最近の「誇大妄想(megalomania)」傾向は,彼が「極度の孤立」にあることで「悪化(exacerbated)」したと述べた。
Putin saw his chance
プーチンはチャンスを見た
グラハムは,プーチンも2022年の世界政治の状況からいくつかのチャンスを見いだした可能性が高いと考えている。
グラハムは,ゼレンスキーは侵攻前の支持率が低く,ウクライナのエリート層の間でいくつかのいざこざ(squabbling)があったため,プーチンはゼレンシキー中心に団結しない可能性が高いと考えていたと指摘した。
米国のアフガニスタンからの「混乱した」撤退,ドイツと英国の新指導者,フランス大統領への圧力はすべて,ロシアの侵略に対抗できる「有能な西側指導者(capable Western leadership)」が存在しないとプーチン大統領が考えたことを意味していると同氏は述べた。
これらすべてを踏まえて,プーチンはウクライナに侵攻し、数日以内に(in a matter of days)キーフを占領できると考えた。
しかし,彼の期待通りに事が進むことはほとんどなかった。
"Almost all of Putin's assumptions turned out to be wrong," Graham said.
「プーチンの想定のほぼすべてが間違っていたことが判明した。」とグラハムは述べた。
(転載了)
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プーチンの妄想と誤算が分析されています。
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