富士通の会計システムの不具合のせいで 英国の700人以上の郵便局長が横領の罪を着せられた事件は,この正月にドキュメンタリー・ドラマが放映されたことで今また最重要ニュースに急浮上しています。
10年以上も前に発覚していた英国史上最大規模の冤罪事件と言われる「郵便局スキャンダル」が,スナク首相まで登場して大きなニュースになっています。
冤罪の被害者に対する 完全な保証が行われてない,完全には解決していないことも問題の要素のようです。
‘BBC NEWS’ が Jan.18,2024付けで この事件の詳細を報じていました。
下記,拙訳・転載します。
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“Post Office scandal: The ordinary lives devastated by a faulty IT system”
「‘Post Office’ の不祥事: 欠陥のあるITシステムによって破壊された日常生活」
コンピューター・ソフトウェアの欠陥により「ポスト・オフィス」の支店から現金がなくなったかのように誤って見られ,900人以上の郵便局長が起訴された。
スキャンダルの被害者は現在,政府によって迅速な免罪(exoneration)と補償が約束されているが,すでに何百人もの人々の生活が台無しにされている(ruined)。これは英国史上最大の誤審と言われている。
仕事,会社,家を失った人もいる;彼らは経済的に破綻したままになった。有罪判決を受けて刑務所に送られた人もいた。裁きを待っている間に亡くなった人もいた。 自殺した人もいた。
犠牲者の多くは自分だけだと感じていたが,他の何百人もの人々が同様の経験に耐えていた。これらは彼らの物語の一部である。
アラン・ベイツはポスト・オフィスの不正との戦いの顔となった。 彼の話は,1999年から2015年の間に同じく不当に有罪判決を受けた,少なくとも他の736人の話の定義を明らかにすることだった。
郵便局長だったアランは,1998年に海辺の町ランディドノーにある郵便局の窓口のある店を引き継いだ。パートナーのスザンヌと一緒に,自分の貯金をこの事業に注ぎ込んだ。しかし,すぐに,彼は巨額の不足 - つまり失われたように見えるお金 -に直面することになったが,説明はなかった。
ポスト・オフィスは他の何百人に対するのと同様に彼を非難した。しかし,自らの明らかな損失に計り知れないプレッシャーを感じていた他の多くの郵便局長とは異なり,アランは責任を認めなかった。同氏は誤った不足額について懸念を表明した。 彼は戦おうとした。
アランの契約は打ち切られた。 彼は 2003 年にポスト・オフィスから解雇された。しかし,過去 20年間,何が起こったのか真実を明らかにするために運動を続けてきた。彼はまずウェブサイトを立ち上げ,同様の問題に直面している可能性のある他の郵便局長に呼びかけた。
2009年,彼と他の 6人は ‘Computer Weekly’ のインタビューで,ポスト・オフィスで使用されているコンピュータ会計システムである ‘Horizon’ の欠陥(flaws)について初めて公の場で発言した。
何千時間もの作業が続いた(ensued)。
彼は法廷審問(court hearings)に出席し,会議を組織し,国会議員や閣僚の支援を受けて前進した。メディアや政治家も徐々に注目するようになった。ニュース報道が警鐘を鳴らし始めた。
ポスト・オフィスとの調停(mediation)が失敗に終わったとき,アランは,500人以上の元郵便局長が関与した集団訴訟の主任原告(lead claimants) 6人のうちの1人となった。
彼らは裁判官に対し ‘Horizon IT’ システムにはソフトウェアの欠陥があり,それが口座の不足を引き起こしたと述べた。
彼は法廷で,自分のせいではない経済的損失について責任を問われるとは決して信じないと語った。
「この事件はあまりにも不当に思えるので,私はそれが可能であるとは考えなかった。」と彼は言う。
裁判官も同意した。 ‘Horizon’ システムには欠陥があり,555人の郵便局長のグループが集団訴訟で勝利し,2021年に郵便局長の第1回目の有罪判決が覆される道が開かれた。
アランの物語と名前は,ITV ドラマ「ミスター・ベイツ vs ポスト・オフィス(Mr Bates vs The Post Office)」の焦点となり,郵便局スキャンダルに対する国民の意識が再燃した。
「これは私が今まで経験した最高 もしくは 最悪の無給の仕事だった。」と彼は言う。 「毎日毎日それを続けるだけだ。それを手放すことはできなかった。」
シーマ・ミスラは,虚偽会計(false accounting)と窃盗(theft)の罪で不当に有罪判決を受けたとき,第二子を妊娠していて8週目だった。サリー州のウェスト・バイフリート村にある彼女の郵便局の監査で,7万ポンド以上の不足が判明した。
シーマは数年前にも会計の不一致(discrepancies)を発見していた。 ポスト・オフィスからは返答が得られず,事業を失う可能性があると警告された彼女は,明らかな不足分を補うために店からレジにお金を送り始めた。シーマは帳尻を合わせるために親戚から多額のお金を借りたが,その中には義理の妹からの2万2000ポンドも含まれていた。彼女は自分が「地球上で最も愚かな(dumbest)人間」であるように感じたと語った。
「他にも問題なくやっている郵便局はたくさんある,『あなたが問題を抱えているのだ』と言う。私は朝早くまでフロアにいて、何が問題なのかを見つけようとしたが,見つけることができなかった。」
ポスト・オフィスは彼女を起訴した。
彼女は,‘Horizon’ コンピュータ会計システムからの情報に基づいて 1999年から 2015年の間に起訴された 736人のうちの 1人であり,その割合は平均して 1週間に1人だった。さらに 283件の訴訟がクラウン検察局を含む他の機関によって起こされた。
シーマは2010年に懲役15ヶ月の判決を受け,息子の10歳の誕生日の日にブロンズフィールド刑務所に送られ,総額4万ポンドの賠償金の支払いを命じられた。
夫のダビンダーはインドにいるシーマの両親を含む家族に嘘をつき,彼女が刑務所にいることを明かさなかった。彼は,彼女の電話に出られなかったことを言い訳し,シーマが刑務所から両親に知られずに話せるように,時々,固定電話に彼の携帯電話につなげてシーマが両親と電話で話せるようにした。
「もし妊娠していなかったら,自殺していただろう。」と彼女は言う。「本当に最悪だった。まさかそこから生きて帰れるとは思わなかった。」 態度良好のため早期に釈放されたシーマは次男を出産した。
合計236人の郵便局長が刑務所に送られた。現在までに95件の有罪判決が覆されている。シーマの有罪判決もその一つだった。
彼女は,2021年4月の春の日に控訴院(Court of Appeal)で祝った39人の郵便局長のうちの1人だった。
「ポスト・オフィスが破れた2005年以来,私の人生のあらゆる幸せな瞬間があった」とシーマは言う。 彼女はまだ補償を待っているが,「それがどうなるかは分からない(no idea what it will be)」。
ピーター・ホームズは2015年に脳腫瘍(brain tumour)のため74歳で亡くなった。6年後,彼の有罪判決は控訴院で覆された。
正義を受けずに死んだのは彼だけではない。アラン・ベイツは,この間に60人か70人が亡くなったと推定している。 自ら命を絶った人もいる。
51年間結婚していたピーターの未亡人マリオンは,亡き夫の評判はポスト・オフィスによって「傷つけられた(destroyed)」と語る。
ピーターはニューカッスル・アポン・タイン郊外のジェスモンドにある郵便局のマネージャーをしていた。 彼は元巡査(police constable)だった。 彼はジェスモンドで育ち,警察に勤務していた間はそこを拠点としていた。 ピーターはコミュニティ内でよく知られており,非常に尊敬されていた。
他の人たちと同じように,彼も ‘Horizon’ システムで不足金があることに気づき始め,自分のお金を使って金額のバランスをとった。しかし,その額は彼がカバーするには大きすぎるまでになった。
ポスト・オフィスが彼の口座を監査した後,ピーターは46,000ポンドを盗んだ容疑で告発され,2008年に停職処分を受けた。
彼はマリオンに心配しないでと言い続けたが,彼女は「何かが間違っていることは分かっていた」と言う。 何週間もの間,ピーターが朝の準備をしているときに具合が悪いと言うのを 彼女は聞いていた。彼はマリオンに,今,咳をしただけと話した。
捜査を受けている間,彼は花屋の臨時配達ドライバーとして働き始めたが,新しい雇用主に自分が起訴されているとは言えないと感じて退職した。
彼は 2010年1月に有罪判決を受け,3ヶ月間 -毎日,午後7時から午前7時までの外出禁止令を言い渡された。地元新聞はピーターの写真を一面に載せた記事を掲載した。
「それが何よりも彼を破壊したと思う。」とマリオンは言う。「地球上で誰かを騙したり,お金を巻き上げた最後の人間にピーターはなった。」
その後,外出禁止令(curfew)が明けても,彼はほとんど外出しなくなったという。彼は,がん患者を病院に搬送する慈善団体へのボランティア活動を検討したが,身元調査が行われると知り,やめることに決めた。
有罪判決を受けて,ピーターは他の郵便局長たちの窮状(plight)を知った。
彼はアラン・ベイツに連絡し,健康状態が悪化する(deteriorated)直前にピーターは有罪判決に対して上訴した。彼が亡くなる前に,彼の事件を再審査する決定が下された。
2021年4月,マリオンは亡き夫の有罪判決が覆されたことを聞くため,息子とともにロンドンの王立裁判所(the Royal Courts of Justice)を訪れた。 シーマと同様,ピーターもその日 有罪判決を取り消された元郵便局長39人のうちの1人だった。
「奇妙な(funny)気分だった。」とマリオンは言う。「本当に少しほろ苦かった(bittersweet)。」
「あの虹の向こうでピーターに会ったら,誰もが彼らにふさわしい正義を手に入れた-それが良いことも悪いことも醜いこと-と彼に伝えたい。」
アンジャナ・セティとバルジット・セティはエセックス州ロンフォード近郊で2つの郵便局を経営し,そこで3人の子供を育てた。アンジャナは郵便局で育った。彼女の父親は郵便局長だった。家族は仕事の経験が豊富だった。
事業が順調に進んだため,ポスト・オフィスから 2番目の支店を開設するよう勧められた。そこで 2001年に,彼らは 12万ポンドのローンを組んで,新しい店を購入して立ち上げた。
しかし,すぐに物事はうまくいかなくなり始めた。 ‘Horizon’ コンピュータ・システムで不足金が生じ始め,その額は 17,000ポンドにまで増加した。
差額をカバーする余裕がなくなり,セティス家は新しい支店を閉鎖した。 彼らは経済的に破産したままになった。夫婦の息子,アディープ(38)は,それ以来,両親にとって家庭生活は苦労の連続だったと語る。
バルジットは現在進行中の公開捜査に証拠を提出しているが,父親は依然として家族に何が起こったのか話すのが難しいとアディープ氏は言う。
「私がメディアをやっているのには理由がある。彼は崩壊せずにはそのことについて話すことができない。彼はすぐに怒り,感情に走り,それをコントロールすることができない。そのせいで彼は精神的に壊れてしまった。」
セティ家と同じように,シャジア・サディクも故郷ニューカッスルで複数の郵便局を経営していた。 彼女は 2人の幼い子供たちとともにライトンの店の上に住んでいた。
しかし,2016年10月,彼女は自分の店の1つから約4万ポンドがなくなっていると知らされた。 彼女は何が問題だったのかを理解しようと,「トイレット・ペーパーほど」長いレシートを印刷した。
40歳の女性は最終的に起訴されなかったが,彼女の店は閉鎖された。そして,その地域の人々は彼女を泥棒とみなした。
ある日,彼女の2人の子供が家の外で車から降りてきたときに,彼女は卵と小麦粉を路上で投げつけられた。彼女は今でもそれが誰だったのか疑問に思っている。
その夜,シャジアさんは家の荷物をまとめてその地域を離れることに決めた。 家族は現在,オックスフォードシャー州バンベリーに住んでいる。
「ひどいものだった」とシャジアさんは言う。「私はこのことをずっと忘れない。」
ジョー・ハミルトンの郵便局の顧客は,切手を購入する前に,併設されたカフェでケーキを買うことができた。彼女の話は,ITV ドラマの中心的なテーマの 1 つである。
ある感情的なシーンでは,パニックに陥ったジョーが,長い一日を終えて帳尻を合わせようとし始める。 ‘Horizon’ ソフトウェアは彼女の目の前に,損失が倍増していることを示しているが,ヘルプラインのオペレーターは彼女の懸念を無視した。
ジョーはポスト・オフィスのエリア・マネージャーに訪問を要求するす。彼女は「問題を抱えているのは自分だけだ」と言われる。 ジョーは借金を支払うために家を借り直す必要があり,借りていると考えていた金額をカバーするために友人から借金した。
2006年に3万6000ポンドの不足で起訴された彼女は,虚偽会計(false accounting)の罪で有罪を認めるよう説得された。 「刑務所に行くのが怖かったので,他に選択肢がないと感じた」と彼女は言う。
彼女の人生は一変した。 彼女は店を手放さざるを得なくなり,犯罪歴のせいで新たな仕事に就くのも困難になった。彼女は,自分が有罪であると信じていない村の人々のために清掃の仕事をして生計を立てていた。
彼女の有罪判決は最終的に2021年に取り消された。彼女はその難儀(ordeal)に対していくらかの金銭的補償(financial redress)を受けており,それを「かなりの額の(good chunk)」お金だったと説明している。 「夫は昨年ガンと診断されたが,ありがたいことに治療費を賄える少しのお金があった。
「賠償金を得るチャンスがあったので,犯罪者扱いされて(criminalised)幸運だったと思う。まったくスキャンダラスだ。家,会社,結婚など,山ほどのお金を失った人がたくさんいる。」
しかし、彼女はまだ答えを探している。 「なぜこんなことが起こったのか知りたい-連鎖はどこまで進んでいるのだろうか?人々は言われたことをやっているのだろうか,それとも自分たちが悪いことをしたのだろうか?それが私にとって重要なことだ,なぜなら私はまだそれを理解していないから。」
ジョーは,最終的な和解に合意したスキャンダルの被害者わずか30人のうちの1人である。つまり,ほとんどの人は,経験したトラウマの代償をまだ一銭も受け取っていないことになる。
ITV のドラマは,不当な扱いを受けた郵便局長の物語にスポットライトを当てたが,彼らのほとんどはまだ救済を待っている。
セティ家は20年以上経った今も最終的な補償を待っている。アディープは,ポスト・オフィスからのオファーの中には「侮辱的(insulting)」なものもあったと述べた。
彼は,この問題が再び脚光を浴びていることを喜んでいるが,まだポスト・オフィスと争っているような気がすると言う。「今でも,正直者ではないような扱いを受けている。」と彼は言う。
‘Horizon’ のスキャンダルは彼の両親の人生に20年も関係していた。「彼らが望んでいるのは,最終的な補償と ポスト・オフィスのことを二度と考えないことだけだ。」
4,000人以上が,3つの別々の制度にわたって補償を受ける資格があると伝えられていると推定される。 しかし,そのうち何人が、耐えた損失を完全に取り戻すことができるだろうか?
一つ確かなことは,郵便局長はもはや孤独ではないということである。
ジョー・ハミルトンは今,「自分の人生を進めた」と語った。しかし、彼女は今でも正義のために戦うグループの一員である。「全員がお金を手に入れるまで,戦いをやめることはできない。」と彼女は言う。
「優先すべきは,人々が実際に負っているお金を受け取ることだ。」とアラン・ベイツは言う。「できるだけ早く彼らに知らせるころ。彼らは自分たちの人生,あるいは残されたことをやっていくことができなくなる。」
同氏は今週,このスキャンダルの調査で,「あまりにも長く続いてしまった」と語った。「人々は苦しみ,死につつある。」
(転載了)
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これらの被害者を早い段階で救うことは 富士通にとって それほど困難なことではなかったような気がします。
会社として どのような考えを持っていたのか,本気で事に当たったのか,気になります。
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