有名な小説の書き出しは-
‘GQ UK’ の ‘Culture’,Mar.5,2024付けに
“First impressions count – these opening lines are the best in literary history”
「第一印象は重要 – これらの書き出しは文学史上最高」
のタイトル記事がありました。
人生の折り返しは とっくに過ぎていますが,後学のため読んでみました。
下記,拙訳・転載します。
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サリー・ルーニー(Sally Rooney)の次の小説の冒頭は外れた – しかし,それは偉大な小説に匹敵するか?
第一印象は非常に重要である。この意味では,芸術も人生と何ら変わらない-小説における最高の書き出しは,読むのを止めさせることなく 読者の注意を引きつける。場合によっては,すぐに小説の雰囲気に引き込まれてしまうことがある。時には予期せぬ角度から開始することもある。そしてそれらのいくつかは,あらゆる文学の中で最も有名な引用にある。
しかし,この書き出しはどうだろうか? 「この若者は魅力的に見えなかった。葬儀の時のあのスーツ。歯に矯正器具を付けていて,思春期の若者のこの上ない不快感を覚える。(Didn’t seem fair on the young lad. That suit at the funeral. With the braces on his teeth, the supreme discomfort of the adolescent.)」 これらは,サリー・ルーニーの 4 作目の小説 “Intermezzo” からのものである。彼女の本の周りではそのような過剰表現(hype)があり,彼女の出版社は,まるで映画の予告編のように書き出しから最後までからかっていた(teased)。
ページに掲載されるかどうかを確認するには,9 月にリリースされるまで待つ必要がある。なぜなら,それが素晴らしい冒頭のセリフのもう一つの特徴だからだ:つまり,そこから生まれる期待は,その後の展開によって満たされなければならない。ここではその中から最高のものをいくつか紹介する。
Mrs Dalloway by Virginia Woolf
ダロウェイ夫人/ヴァージニア・ウルフ
Mrs. Dalloway said she would buy the flowers herself.
ダロウェイ夫人は自分で花を買うと言った。
For Lucy had her work cut out for her. The doors would be taken off their hinges; Rumpelmayer's men were coming. And then, thought Clarissa Dalloway, what a morning – fresh as if issued to children on a beach.
なしにろ,ルーシーは,あれもこれもで手いっぱいなのだから。ドアは蝶番から外されるだろう;ランペルメイアーの男達が直しにやって来るから。それにしても,とクラリッサ・ダロウェイは思った,なんとすてきな朝だろう―まるで浜辺にいる子供らに降り注ぐように新鮮だ。
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ヴァージニア・ウルフのモダニズムの傑作は,裕福な(well-to-do)ロンドンの主婦が主催する盛大なパーティーの日に続く。 オープニングでは,ウルフが登場人物たちの頭の中をくねくねと進み(wriggles),彼らの意識の流れが思考から思考へとどのように流れていく(darts)かを示す様子がすぐに確立される。
A Tale of Two Cities by Charles Dickens
二都物語/チャールズ・ディケンズ
It was the best of times, it was the worst of times, it was the age of wisdom, it was the age of foolishness, it was the epoch of belief, it was the epoch of incredulity, it was the season of Light, it was the season of Darkness, it was the spring of hope, it was the winter of despair, we had everything before us, we had nothing before us, we were all going direct to Heaven, we were all going direct the other way – in short, the period was so far like the present period, that some of its noisiest authorities insisted on its being received, for good or for evil, in the superlative degree of comparison only.
それは最高の時代であり,最悪の時代だった。知恵の時代であり,愚かさの時代だった。信念の時代であり,不信の時代だった。光の季節であり,暗闇の季節だった。希望の春であり,絶望の冬だった。我々の前に全てがあり,我々の前に何もなかった。我々は皆,真っすぐに天国を目指しており,また一路その逆を歩んでいるかのようだった ― 要するに,この時代は現代とあまりにも似ており,最もうるさい権威者の一部は,良くも悪くも,この時代を最上級の比較においてのみ受け入れようと主張した。
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非常に分厚い(chunky)小説の非常に分厚い書き出しの文。チャールズ・ディケンズは決して内気で隠居しているわけではないが,『二都物語』の冒頭 ― フランス革命時の二都市はロンドンとパリだった -を見れば,この広範囲に広がった(sprawling)本が大文字E (capital-E)のすべてについての物語であることが明らかだ。
Anna Karenina by Leo Tolstoy
アンナ・カレーニア/レフ・トルストイ
Happy families are all alike; every unhappy family is unhappy in its own way.
幸福な家庭は みな似ている;不幸な家庭はいずれもそれぞれに不幸なものである
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最も有名な書き出しの 1つであるこの一文は,社会理論を提示しているが,同時に約束も提供している:これから我々は,非常に不幸な - そして非常に特異な不幸な - 家族についての物語を読み始める。 その後に起こるのは,アンナ・カレーニナとヴロンスキー伯爵の間のもつれた(tangled),運命の愛の関係である。
Midnight’s Children by Salman Rushdie
真夜中の子供たち/サルマン・ラシュディ
I was born in the city of Bombay… once upon a time. No, that won’t do, there’s no getting away from the date: I was born in Doctor Narlikar’s Nursing Home on August 15th, 1947. And the time? The time matters, too. Well then: at night. No, it’s important to be more… On the stroke of midnight, as a matter of fact. Clock-hands joined palms in respectful greeting as I came. Oh, spell it out, spell it out: at the precise instant of India’s arrival at independence, I tumbled forth into the world.
私はボンベイ市で生まれた ・・・ 昔々のこと。いやそれじゃだめだ,日付から逃れるわけにはいかない:ナルリカル医師の産院で 19478月15日に生まれた。何時に? 時間も重要だ。そう:夜だ。いや,もっと正確であることが重要だ ・・・ えー,実は真夜中かっきりだった。時計の針が恭しく手を合わせて私の誕生を迎えてくれた。ほう、もっと書くなら:つまり,まさにインド独立達成の瞬間に,私は世界に転げ落ちた。
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『真夜中の子供たち』は,現存する英国で最も偉大な作家の一人であるサルマン・ラシュディの最高の小説かもしれない - 2008年に,ブッカー賞の最初の40年間で最高のブッカー賞受賞作に選ばれた。書き出しの段落ですぐに,サリーム・シナイの声が我々を惹きつける。サリーム・シナイはとりとめのない(meandering)語り手で,英国からインドが独立して最初の1時間に生まれた他のすべての子供たちと同様、テレパシー能力を持っている。
Pride and Prejudice by Jane Austen
高慢と偏見/ジェイン・オースティン
It is a truth universally acknowledged, that a single man in possession of a good fortune, must be in want of a wife.
裕福で独身の男が,妻を望んでいるにちがいない,というのは 普遍的に認められる真実である。
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非常に有名で,オンラインでもよく取りざたされているが,史上最高の古典ロマンスの 1つである『高慢と偏見』をまさに期待するだろう。この広く認められた真実に続くことは,全体的により複雑で イライラさせる(nail-biting)が,最終的にはすべてうまくいく。
Trainspotting by Irvine Welsh
トレインスポッティング/アーヴィン・ウェルシュ
The sweat wis lashing oafay Sick Boy; he wis trembling. Ah wis jist sitting thair, focusing oan the telly, tryin no tae notice the cunt. He wis bringing me doon. Ah tried tae keep ma attention oan the Jean–Claude Van Damme video.
シック・ボーイの額から,汗が滝のように流れ落ちていた;震えている。俺はひたすらテレビを見つめ,やつに気づかないふりをした。こいつにはうんざりだ。俺は,ジャン=クロード・ヴァン・ダムのビデオのことだけに注意を向けようとした。
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罵り(swearing),ヘロインの禁断症状(withdrawal symptoms),そして強烈なスコットランド訛り - 初めて見たときから,『トレインスポッティング』がどのようなものかを正確に知る。 顔を殴り,これらのページに正確に何が含まれるかを明確な言葉で教えてくれる書き出しの1つ。映画化では違う方向に進んだが,同様に良かった。
Moby-Dick by Herman Melville
白鯨/ハーマン・メルヴィル
Call me Ishmael.
私をイシュマエルと呼びなさい。
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最初の文はわずか 3単語だが,『白鯨』は大きい:大きな魚 (ここで話しているのがマッコウクジラ(sperm whale)なので,厳密には哺乳類) を題材とした壮大な小説である。我々のナレーターであるイシュマエルは,名ばかりの(titular)鯨とその不倶戴天の敵(sworn enemy)であるエイハブ船長よりも脇役だが,途中でいくつかの哲学的な脱線(digressions)を伴いながら,物語を語るのは彼である。
Invisible Man by Ralph Ellison
見えない人間/ラルフ・エリソン
I am an invisible man. No, I am not a spook like those who haunted Edgar Allan Poe; nor am I one of your Hollywood-movie ectoplasms. I am a man of substance, of flesh and bone, fiber and liquids – and I might even be said to possess a mind. I am invisible, understand, simply because people refuse to see me.
私は目に見えない人間だ。いや,私はエドガー・アラン・ポーにつきまとった人々のような幽霊ではない; 私はハリウッド映画の心霊体の一人でもない。私は物質,肉と骨、繊維と液体を持つ人間であり,精神を持っているとさえ言えるかもしれない。私が目に見えないのは,単に人々が私を見ることを拒否しているからと理解している。
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『見えない人間』は 20世紀の偉大な小説の 1つであり,米国黒人体験を微妙に実験的に扱った作品である。その書き出しでは,人々があなたの存在を受け入れることを拒否した場合,あなたは物理的には見えるが,社会的には見えなくなるという中心的な前提(premise)が提示されている。これらの最初の文は,その後に続く物語を反映している:ファンタジー色を帯びているが,非常に政治的である。
Bridget Jones’s Diary by Helen Fielding
ブリジット・ジョーンズの日記/ヘレン・フィールディング
January: An Exceptionally Bad Start. Sunday 1 January. 129 lbs (but post-Christmas), alcohol units 14 (but effectively covers 2 days as 4 hours of party was on New Year), cigarettes 22, calories 5424.
1月:非常に悪いスタート。 1月1日 日曜日。 体重129ポンド(ただしクリスマス後),アルコール単位 14(ただし,新年はパーティー4時間だったので実質2日分),タバコ22本,カロリー 5424。
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1996年,ヘレン・フィールディングは,神経質で(neurotic)独身の 30代のブリジット・ジョーンズを世界に紹介した。彼女は生活と愛における功績をひるむことなく詳細に記録している。最初の日記の書き出しで,彼女はこれからも続けようと思っていることを始める。
The Bell Jar by Sylvia Plath
ベル・ジャー/シルヴィア・プラス
It was a queer, sultry summer, the summer they electrocuted the Rosenbergs, and I didn’t know what I was doing in New York.
奇妙で蒸し暑い夏,彼らがローゼンバーグ一家を感電死させた夏で,私はニューヨークで何をしていたのかわからなかった。
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シルヴィア・プラスの『ベル・ジャー』の書き出しは,うだるような(oppressive)暑さ,早すぎる死,そして目的のなさといった深い不安感を即座に引き起こす。小説が進むにつれて,この最初の文はますます意味を帯びてくる。
As Gregor Samsa awoke one morning from uneasy dreams he found himself transformed in his bed into a gigantic insect.
ある朝,グレーゴル・ザムザがなにか気がかりな夢から目をさまし,自分がベッドの中で 巨大な虫に変わっていることに気付いた。
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フランツ・カフカの不穏な短編小説の最初の一行は,パロディの題材になるほどよく知られているが,文脈を踏まえて読むと,本当に心に響く。人間が虫になるという要点を的確に捉えていると同時に,適切に説明されることのない「不安な夢(uneasy dreams)」についての少しぞっとするような言及も加え,物語の不気味な(uncanny)謎の雰囲気を保っている。
Fear and Loathing in Las Vegas by Hunter S Thompson
ラスベガスをやっつけろ/ハンター・S・トンプソン
We were somewhere around Barstow on the edge of the desert when the drugs began to take hold. I remember saying something like “I feel a bit lightheaded; maybe you should drive…” And suddenly there was a terrible roar all around us and the sky was full of what looked like huge bats, all swooping and screeching and diving around the car, which was going about a hundred miles an hour with the top down to Las Vegas. And a voice was screaming “Holy Jesus! What are these goddamn animals?”
麻薬が蔓延し始めたとき,私たちは砂漠の端にあるバーストーあたりのどこかにいた。「ちょっと頭がくらくらする;車に乗ったほうがいいかもしれない…」みたいなことを言ったのを覚えている。 そして突然,私たちの周りで恐ろしい轟音が鳴り響き,空は巨大なコウモリのようなものでいっぱいになり,すべてが急降下し,金切り声を上げ,ラスベガスまでトップで 時速約100マイルで走っている車の周りに飛び込んだ。そして声が「聖なるイエスよ!このいまいましい動物は何ですか?」と叫んでいた。
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ハンター・S・トンプソンの気の狂った(gonzo)小説は,作者と同じくらい突飛な(outlandish)作品であるが,恐るべき薬物摂取の描写がトンプソン自身をモデルにしていることを考えると,何の驚きもない。これは最初の段落で紹介されたテーマである:幻覚によるコウモリが急降下し始めると,我々はとんでもない事態に陥ることがわかる。
(転載了)
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アーヴィン・ウェルシュの『トレインスポッティング』は スコットランド訛りそのままの文章なので 翻訳不能で,文献を参考にしました。
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