デンマークは ポール・ワトソンの身柄をどう扱うか
‘The Copenhagen Post’,Sept.3,2024付け
“A dilemma of law and ethics: Denmark to decide fate of imprisoned anti-whaling environmentalist Paul Watson”
「法と倫理のジレンマ:デンマークが投獄された反捕鯨環境保護活動家ポール・ワトソンの運命を決定する」
の見出し記事を以下,拙訳・転載します。
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グリーンランドの裁判所は,2010年に日本が発行した反捕鯨活動を理由とした国際逮捕状に基づき7月にヌークで逮捕されたカナダ系アメリカ人の環境活動家ポール・ワトソンを日本への引き渡しを視野に入れて拘留し続けるべきかどうかをめぐり,水曜日(8月4日)に新たな審理を行う予定である。
グリーンランドの裁判所は水曜日,カナダ系アメリカ人の環境活動家ポール・ワトソン氏を日本への引き渡しを視野に入れ,引き続き拘留すべきかどうかについて新たな審理を行う予定である。ワトソンは2010年に日本が発行した国際逮捕状に基づき,7月にヌークで逮捕された。:
ワトソンの反捕鯨運動は,数十年にわたり,フェロー諸島を通じて日本,アイスランド,ノルウェー,デンマークを標的としてきた。
ワトソンと日本との捕鯨をめぐる対立は長年続いている;デンマーク警察が彼を逮捕したとき,彼は日本の新しい捕鯨母船「関鯨丸」を妨害する任務に就いていた。この船は肉の貯蔵能力が800トンある。
その量に達するには,捕鯨船は100頭以上のミンク鯨を殺さなければならない-これは,鯨の全重量が肉として使われるという仮定に基づく推定値だが,実際にはさまざまな加工要因によりそうならない可能性がある。
日本は現在,日本が国際捕鯨委員会(IWC)に加盟し,調査を隠れみの(veil)にして2010年に大規模捕鯨を行っていた際に起きた事件をめぐり,ポール・ワトソンの国内法廷への引き渡しを求めている。
ワトソンは南極海で日本の捕鯨船「昭南丸2」に悪臭爆弾(stink bombs)を投げるよう乗組員に命じたとされる(allegedly)。日本政府は,同船の操業を妨害し,乗組員の安全を危険にさらしたとして同容疑者を告発している。
ワトソンが国際法に違反する(run-in with)のは今回が初めてではないが,現在の状況は特に不安定だ(precarious)。日本に引き渡された場合,ワトソン(73歳)は最長15年の懲役刑に処される可能性があるからだ。
アムネスティ・インターナショナル(Amnesty International)とヒューマン・ライツ・ウォッチ(Human Rights Watch)は日本の刑務所の環境を非人道的(inhumane)と評しており,ワトソンに深刻な健康リスクをもたらす(pose)可能性があるため,社会的関心(public concern)は大きい。
日本は2018年12月にIWCとその捕鯨誓約(whaling commitments)から脱退し,自国の領海内で商業捕鯨を再開できた。
哲学者のピーター・シンガー(Peter Singer)とパオラ・カヴァリエリ(Paola Cavalieri)は,「捕鯨は国際法(international law)に違反しているため,ワトソンの捕鯨反対の行動は正当化できる」と考えている。
しかし,その点は依然として議論の余地がある。これらの国の捕鯨活動は違法(outlawed)ではないが,多くの国や保護団体は,それがIWCのクジラの個体群を保護する取り組みを台無しにしている(undermine)と主張している。
Japan’s whaling history/日本の捕鯨の歴史
ワトソンのケースは,環境保護活動と国家利益の対立を浮き彫りにしている。特に日本のような,捕鯨が「文化遺産」の一部として擁護されている国ではそうだ。
しかし,日本に関しては文化遺産という概念自体が議論の的となっている。
実際,第二次世界大戦前,鯨肉は日本の食生活では一般的ではなかった。日本が本格的な捕鯨を始めたのは,第二次世界大戦中に日本の農業基盤が破壊されてからである。
日本では深刻な食糧不足に陥っていたため,米進駐軍はタンパク質不足の解決策として捕鯨を奨励し,1940年代後半から1950年代にかけて日本では鯨肉の消費が急増した。
2013年,国際動物福祉基金(the International Fund for Animal Welfare)は徹底的な調査を行い,捕鯨は「多額の補助金がなければ存続できない不採算事業(unprofitable business)であり,ますます縮小し高齢化する市場に対応している(caters)」と結論付けた。
日本捕鯨協会(the Japan Whaling Association)によると,「日本の捕鯨産業はもはや必要ではなく,政府は沿岸地域にとってより持続可能な活動としてホエール・ウォッチングを推進すべきだ」とのことだ。
シー・シェパード・フランス代表のラミヤ・エセムラリは,日本は復讐を企んでいる(out for)と主張する。
実際,ワトソンは2014年にハーグの国際司法裁判所で日本が有罪判決を受ける上で大きな役割を果たした。同裁判所では,日本は南極海での調査を装った(masquerading)捕鯨活動を停止するよう命じられた。
ワトソンの弁護士ジュリー・ステージは,弁護側は「ワトソンの行動中に負傷したと日本側が主張する乗組員が,悪臭爆弾が投げ込まれた時には現場にいなかったことを証明するビデオを持っている」と述べている。
“Denmark is in a difficult place”/「デンマークは困難な状況にある」
月曜日,刑務所で行われたインタビューで,ワトソンはAFPに対し「デンマークは非常に困難な状況にある」と語った。
「彼らは まず第一に人権を声高に主張しているので,私を送還することはできない。」と述べ,日本の司法制度は「中世的(medieval)」だと付け加えた。
「私は何もしていないし,たとえやったとしても,デンマークでは1,500デンマーク・クローネの刑で,懲役刑にもならない。一方,日本は私に15年の刑を言い渡そうとしている。」
海を見下ろす現代的な灰色の刑務所の独房から,ワトソンは窓の外を通り過ぎる鯨や氷山を眺めているという。
「1974年,私の目標は捕鯨を根絶することだった。死ぬ前にそれを実現したいと思っている。」
ワトソンは,自分と仲間の活動家たちは「抗議団体ではない」と主張し,時折自分に対して使われる「エコテロリスト(ecoterrorist)」という表現を否定した。
むしろ,彼は自分と同僚を,海が保護されることを保証する「執行機関(enforcement organisation)」と表現している,と彼は語った。
「私は積極的な非暴力介入(non-violence interference)を行っている。」と彼は語った。
「積極的と非暴力の間に矛盾はない。それは,鯨を殺そうとしている人からナイフを奪おうとするが,彼らを傷つけないことを意味する。」
「私は一線を越えないし,誰かを傷つけりこともない。」
A test of principles/原則の試練
この事件は外交問題となっただけでなく,デンマークの法的原則と国際的公約の試練にもなった。日本はデンマークと正式な犯罪人引き渡し条約を結んでおらず,手続きがさらに複雑になっているからだ。
デンマークのラース・ロッケ・ラスムセン(Lars Løkke Rasmussen)外務大臣は ‘Politiken’ に対し,デンマークは最近,英国ヘッジ・ファンド・トレーダーのサンジェイ・シャーをドバイからデンマークに引き渡し,裁判にかけることができたことで,犯罪人引き渡し制度の恩恵を受けたと語った。シャーは,95億デンマーク・クローネの詐欺で国家を欺いたとして告発されている。
デンマークが選択肢を検討している間,さまざまな反対派と支持派がワトソンについて発言している。
フェロー諸島の政治家シュルズル・スカールは,デンマークのメディア ‘Jyllands-Posten’ に,ワトソンは「暴力的な男」として扱われ,拘留されるべきだと述べた。
ノルウェーのジャーナリスト,ゲオルグ・ブリヒフェルトは,「ミンク鯨の狩猟は最も環境に優しく,ノルウェーのヘラジカ狩りや他の国の狩猟と比較できる。」と述べている。
しかし,ブリジット・バルドー,ジェームズ・キャメロン,フランスのエマニュエル・マクロン大統領など,多くの国際的な有名人や政治家がワトソンの引き渡しに公然と反対している。
ワトソンが9月4日に再審理に臨む中,世界は注目している。AFP通信によると,ワトソンは少なくとも9月5日までは拘留され,判決が下される。
密猟者(poachers)と海賊の物語は,デンマークが立場を表明しなければならない興味深い議論を巻き起こすだろう。
この決定は,国際的な環境保護活動と捕鯨の将来に大きな影響(implications)を及ぼす可能性がある。
(転載了)
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決定は どうなったでしょう?
国際司法裁判所が日本に対して 南氷洋での捕鯨を禁止するように命じたのは 2014年,ワトソンへの逮捕状に対する事件が発生したのは 2010年です。
4日,裁判所は 10月2日までの勾留延長を決めたようです。
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