黒澤映画を 米国映画関係者が語る。
男性総合誌 GQ の米国電子版GQ-US の Culture,August 21, 2025付け
“Where to Start With Akira Kurosawa”
「黒澤明作品はどこから始めようか」
の見出し記事を 下記,拙訳・転載します。
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Bill Hader, director Oliver Hermanus and other Kurosawa enthusiasts pick must-see and deep-cut films by the Japanese master who inspired Spielberg, Lucas, and Spike Lee’s ‘Highest 2 Lowest.’
ビル・ヘイダー,オリバー・ハーマナス監督,そして他の黒澤ファンが,スピルバーグ,ルーカス,そしてスパイク・リーの『天国と地獄(Highest 2 Lowest)』にインスピレーションを与えた日本の巨匠,黒澤明の必見作品と奥深い作品を選ぶ。
スパイク・リー(Spike Lee)監督の話題作『天国と地獄(Highest 2 Lowest)』が劇場で大ヒット上映中。今こそ,本作の原作となった1963年の『天国と地獄(High and Low)』を手がけた日本の巨匠,黒澤明監督を改めて見つめ直す,あるいは深く知る(get acquainted with)絶好の機会だ。
巨匠の50年にわたるキャリアは第二次世界大戦中に始まり,90年代初頭まで続いた;彼の一連の作品(body of work)はアクション大作(『七人の侍』)から刑事モノ(police procedurals)(『天国と地獄』),ヒューマニズムドラマ(『生きる』)まで多岐にわたり,その質は多様性に富みながらも揺るぎない一貫性(unwaveringly consistent)を保っている。
「黒澤はサムライ映画というジャンルを高め,アクション映画製作を革新した。シェイクスピア,ロシアの古典,そしてアメリカのパルプ小説を翻案し,戦後日本の激動の(tumultuous)街を,高揚感から絶望(uplift to despair)まで幅広い感情を交えて描いた」と,映画評論家のデニス・リム(Dennis Lim)は2009年,黒澤生誕100周年(Kurosawa’s centenary)を記念してロサンゼルス・タイムズ紙に寄稿したエッセイで述べている。「しかし,彼の映画に一貫して貫かれていたのは英雄主義の原理だった。それは漠然とした理想(vaporous idea)ではなく,生き方であり,英雄的な行動が必ずしも報われず,許されることさえない世界における,個人の主体性(individual agency)と責任の自覚だった。」
東京生まれの黒澤監督は,西洋で重要かつ永続的な成功を収めた最初のアジア人映画監督でもあり,『羅生門(Rashomon)』は1951年のヴェネツィア国際映画祭で金獅子賞を受賞し,『乱(Ran)』は1986年のアカデミー賞で監督賞にノミネートされた。 1990年,黒澤明監督にアカデミー生涯功労賞(Academy Award for Lifetime Achievement)を授与したジョージ・ルーカスとスティーブン・スピルバーグは,彼を「存命の映画監督の中で最も偉大な人物」であり,「このメディアで活躍した数少ない真の先見者(visionaries)の一人」と称した。
GQ誌は,リムを含む4人の “Kurosawa heads”(黒澤マニア) に,巨匠の幅広い作品の中から特におすすめの作品について尋ねた。「本当に難しい質問だ。」と,フィルム・フォーラムのレパートリー・プログラマー(repertory programmer),ブルース・ゴールドスタイン(Bruce Goldstein)はインタビューの中で語った。「史上最高の映画体験と言える作品が3,4本ある。」
Bill Hader(ビル・ヘイダー)
Creator and star of HBO’s Barry(クリエーター,HBO局「バリー」主演)
俳優,コメディアン,そして監督として活躍する彼が初めて黒澤明監督の作品に出会ったのは,1980年代後半,11歳の時,ケーブル・テレビの映画チャンネル ‘Cinemax’ でのことだった。「80年代後半から90年代初頭にかけて,‘Cinemax’ には ‘Video Vanguard’ というコーナーがあって,そこではフェデリコ・フェリーニ監督の『8 1/2』やジャン・コクトー監督の『美女と野獣(Beauty and the Beast)』といったアートハウス映画(arthouse films)が放送されていた。」と彼は語る。そしてついに『羅生門(Rashomon)』を観て,黒澤明監督の作品との生涯にわたる恋(lifelong love affair)が始まった。
「彼の映画は,映画製作のあらゆる側面が10点満点だ。」と彼は言う。「彼は真の劇作家(dramatist)だ。脚本(screenplays)を見ればそれが分かる。彼の映画は,物語の語り方,それぞれのシーンが次のシーンにどのように繋がっていくのかを研究するためだけに,何度も何度も見返せる。すべてのシーンに目的があり,理由もなくそこにいるキャラクターは一人もいない。登場人物全員 そして全てが 後で再び登場する… 映画をミュートにして観ても,シーンで何が起こっているのか理解できる。」
最初に観るべき作品:「難しい(tough)質問だ。一つだけ選ぶのは難しい。犯罪が好きなら『天国と地獄(High and Low)』,アクションが好きなら『用心棒(Yojimbo)』か『七人の侍(Seven Samurai)』。ただ良いドラマ(good drama)が好きなら『羅生門』,『生きる(Ikiru)』,『酔いどれ天使(Drunken Angel)』,『野良犬(Stray Dog)』だね。」
しかし,ヘイダー監督の個人的なお気に入りは『生きる』だ。「あの映画は素晴らしい(marvel)。」と彼は言う。「感傷的な映画ではないところが本当に素晴らしいと思う。あの映画をとてつもなく感傷的にするのは簡単だっただろう。」
次に観たいもの:『赤ひげ(Red Beard)』と『デルス・ウザーラ(Dersu Uzala)』。「『赤ひげ』は素晴らしい映画だと思うが,最初に観るのはおすすめしない。彼が70年代に制作したロシア映画『デルス・ウザーラ』は美しい作品だ。基本的には冒険物語である。」
Dennis Lim(デニス・リム)
Artistic director of the New York Film Festival(ニューヨーク映画祭の芸術監督)
リムは初めて黒澤明監督の作品を観たときのことをはっきりと覚えていない。しかし,それは記憶に残らなかったからではなく,むしろ,彼の映画人生(moviegoing life)において,黒澤監督の作品群が深く関わっているため,黒澤監督は常にそこに存在していたように感じるのだ。「黒澤監督は間違いなく,私が最初に発見したアートシアター系の映画監督(arthouse filmmakers)の一人だ。」とリムは言う。「1980年代後半から90年代初頭,ティーンエイジャーの頃,VHSで観て,その後はレパートリー上映(repertory screenings)で観た。」
「黒澤監督の作品は,ほとんどの作品が入手可能な点で珍しいかもしれない。」と,インタビュー当時は今年のニューヨーク映画祭の準備で忙しかったリムは言う。「彼は,再発見される必要に迫られた時期がなかった。常に20世紀映画界の巨匠(titans)であり、主要人物(major figures)の一人だった。」
最初に観るべき作品:『羅生門』。 彼は実に様々なタイプの映画を制作しているので,象徴的な(emblematic)作品を挙げるのは少し難しい。もちろん,サムライ映画やその翻案,そして戦後の現代日本を描いた作品も作った。しかし,『羅生門』という言葉が語彙に加わったのは,それなりの理由があると思う。彼のフィルモグラフィーへの素晴らしい入り口だと思う。おそらく,映画自体が様々な入り口を提供しているからだろう。『羅生門』は彼の代表作の一つである。
その後のおすすめ:『野良犬』。 「あの作品はずっと好きだった。あの時代の映画,40年代の『酔いどれ天使』,『野良犬』などは,ネオリアリズムと同時代的(contemporaneous)雰囲気があって面白いと思う。これらの,ほとんど低俗で(pulpy),陰気な(noirish)映画を通して,戦後直後の東京の雰囲気を真に感じることができる。そういう作品も入門編としていいと思う。古典には古典というだけの理由があるのだが,彼は長いキャリアを通して,驚くほど高いレベルの映画制作を続けた監督である。」
Oliver Hermanus(オリヴァー・ハーマナス)
Filmmaker behind this fall’s History of Sound and the 2022 Kurosawa remake Living
(今秋公開の ‘History of Sound’ と2022年公開の黒澤明のリメイク版『生きる(Living)』の監督
南アフリカ出身のこの映画監督が初めて黒澤明監督に出会ったのは,映画学校1年生の,1950年,サイコ・スリラー映画『羅生門』を観る課題を与えられた時だった。「映画学校に行くと,いつも『あなたは黒澤派?それとも小津派?』と訊かれたものだ。」とハーマナスは言う。
彼は常に小津派だと自認していたが(「彼はこの作品をよりヒューマニズム的なものにした」),警察小説とフラッシュ・バックを融合させた家族ドラマ『天国と地獄』を観て,最終的に黒澤明監督に傾倒した。ハーマナス自身の国際的なブレイクは,黒澤監督の名作映画によって実現した。2022年に,『生きる(Ikiru)』をリメイクし,オスカー候補のビル・ナイ(Bill Nighy)を起用したドラマ『生きる(Living)』を制作した。
最初に観るべき作品:『七人の侍』。 「ぜひ,隅々まで体験してください。彼のスタイルの基本だと思う- 寓話(allegorical),名誉(honor),勇気(valor),侍,暴力。彼はまさに全力で取り組んでいる(He's kind of firing on all cylinders there.)。彼がやること全てを,あの映画の中でやっている。あのトーン(tonality),あのビジュアル,あのスケール感は、本当に刺激的でした。スピルバーグ,スコセッシ,コッポラといった70年代の若いアメリカの映画監督たちにインスピレーションを与えた理由がよく分かる。」
ディープ・カットのおすすめ:『夢(Dreams)』。「非常に野心的な作品である。第三の場所にいる映画監督。プレイステーションの広告を覚えているだろうか?プレイステーションが持っていた,もう一つの場所というアイデアだった。多くの映画を作り続けてきた中で,第三の場所に到達し,誰も到達したことのない悟りを開いた境地にたどり着いた映画監督はごくわずかだと思う。まるで『夢』が黒澤明監督がそこに到達した時のように感じる。」
Bruce Goldstein(ブルース・ゴールドスタイン)
Repertory programmer of Film Forum and founder of Rialto Pictures
(フィルム・フォーラムのレパートリー・プログラマーであり,‘Rialto Pictures’ の創設者)
ニューヨークのアートハウス・シアター ‘Film Forum’ では,夏の間中,「黒澤明監督4K」プログラムを開催し,監督作品の中でも特に影響力のある全作品(oeuvre)を上映している。例年スーパーヒーローもののポップコーン映画が主流のこのシーズンだが,予想に反して(against all odds)多くの上映作品が完売し,ニューヨークで夏のトップ・シネマ・イベントの一つとなっている。
このシリーズの制作者ゴールドスタインは,最近友人から聞いた話をこう語ってくれた:「彼が映画館にいた時,後ろで二人の男が話しているのが聞こえた。一人がもう一人に『この間,『七人の侍』を見たんだ』と言った。するともう一人が『どうだった?』と訊くと,『あまり好きじゃなかった』と答えた。『どこで見た?』と訊かれ,『iPhoneで。』と答えた」。ゴールドスタインは,‘Film Forum’ や,1997年に共同設立した配給会社 ‘Rialto Pictures’ での活動を通して,まさにこの問題を解決しようと尽力している。「テレビでこれらの映画を観ても,劇場で観たときのような迫力はない」。
まず観るべき作品:『七人の侍』。これ以上素晴らしい映画体験はないと思う。しょっちゅう訊かれる。『一番好きな映画は? 史上最高の映画は?』って。そんなくだらない質問ばかり。一体どう答えればいいんだ? 一番好きじゃない映画は『市民ケーン(Citizen Kane)』だ。
スケール,想像力,視覚的な興奮,そして感動のすべてにおいて,『七人の侍』にはかなわない。何度も何度も観たけど,本当に素晴らしい。4時間もあるのに,彼はそれをずっと持続する。『七人の侍』には無駄な(superfluous)ショットが一つもない。最高の叙事詩の一つだ。コメディであり,人間性と慈悲,戦争と暴力の結末を描いた作品 - 本当にたくさんの要素が詰まっている。
その後 観る映画:『野良犬』と『酔いどれ天使』。彼が作った2本のフィルム・ノワールが好きだ。彼の雰囲気に対する感覚は信じられないほどだ。彼は音響時代の最高の映像監督(visual director)だ,ヒッチコックやデヴィッド・リーンに匹敵するかもしれない。彼らは視覚的な言語で語り合ったが,後の監督たちは必ずしもそうではなかった。それに,黒澤は元々画家だったので,基本的にすべてのショットが絵画のようなものである。
(転載了)
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「七人の侍」をスクリーンで観たことがあるか 思い出そうとしました。
1954年の公開時は 小学校入学前で 観ていないことは間違いありません。
が,大人になって 一度 リバイバル上映時に 観たような気がします。
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