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2025年10月 4日 (土)

トランプが ノーベル平和賞を受賞できない理由

まもなく(1010日) ノーベル賞受賞者が発表されます。
あらゆる手段を駆使して 平和賞を切望するトランプが 落選することは ほぼ間違いないようです。その理由はー,というより 受賞する理由がないと言う方が正確でしょうが ― 。

The Guardian’,Sept.8,2025 付け Opinion
Need I list all the reasons why Trump shouldn’t get a Nobel peace prize?
「トランプが ノーベル平和賞を受賞すべきでない理由を全て列挙する必要があるだろうか?」
の見出し記事を 下記 拙訳・転載します。

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Trump has been an enabler of war, famine, disease and death
トランプは戦争,飢餓,病気,そして死を助長してきた

ドナルド・トランプがノーベル平和賞を脅迫的に(thuggish)勝ち取ろうとしたとしても,委員会が彼を受賞拒否する理由にはならない。彼が受賞資格を明らかに(patently)失っていることを示す(render),より本質的な根拠(substantial grounds)は数多くある。

トランプが世界で最も称賛されるべきではない(the least deserving)人物の一人である理由は数多くあるが,中でも米国国際開発庁(USAIDthe United States Agency for International Development)を単独で(single-handedly)破壊したことは特筆すべき点である。USAIDは数億人の人々を飢餓と病気から救い,世界中で民主主義と法の支配を推進してきた。120日の就任式当日(inauguration day)に発せられた大統領令の中で,トランプはUSAIDを 「米国の国益に反し,多くの場合 米国の価値観に反する」 と中傷し(slandered),USAID職員は「世界平和を不安定化させている(destabilize)」と主張した。

この悪意ある(malice)行為だけでも,トランプを最長のリストから消し去るのに十分だろう。

締め切り前に名前が提出されたかどうかに関わらず,ノーベル平和賞に最もふさわしい候補は明らかにUSAIDだ。1961年,ジョン・F・ケネディ政権下で設立されて以来,USAIDは国際保健,食料安全保障,教育,民主的開発に関する広範なプログラムを支援してきた。これらのプログラムは,不安定さと貧困の根本原因に取り組むことで,トランプが破壊するまでの64年間,より自由で平和で繁栄した世界を推進してきた。

原則として,トランプをはじめとする関係者が賞獲得を目指して組織的に行動することは,何ら恥ずべきことではない。しかし,トランプのロビー活動は,彼自身の多くの側面と同様に,かつては存在しなかった紛争を助長する歪んだ国家運営と,カルト的な崇拝への飽くなき欲求(unquenchable need)によって汚されている(stained)。

ベンヤミン・ネタニヤフをはじめとする多くの世界の指導者は,トランプの要請(behest)による指名を支持する書簡を送付しており,皮肉にも(cynically),それが自らの邪悪で好戦的な目的に便乗する(curry favor)ことになるだろうと計算している。トランプは,パキスタンとの最近の軍事紛争を「解決した(solved)」のは 自分であるという嘘を根拠に,インドのナレンドラ・モディ首相に書簡を送付するよう個人的に圧力をかけた。
モディはこの不適切な要請に反発した。モディが虚偽の声明の提出を拒否した後,トランプはインドに 50%の関税を課し,モディは中国の懐柔工作に遭った。このような意図的な(willfully)破壊行為に対して,国際的な賞は存在しない。

トランプの側近たち(closest aides)が彼を最良の候補者だと称賛する賛辞(encomiums)は,権威主義体制の永遠の特徴である追従の(sycophancy)兆候である。歴史的パターンに倣い,個人崇拝における追従(obsequiousness)は,誠実さ,事実,そして証拠に取って代わる。

トランプは率直な助言者(forthright counsel)を罰し,粛清し,予め決められた結果を得るために偽造または歪曲されていない事実に基づく情報や専門家の情報を抑圧し,医学,環境,エネルギーに関する科学的手法から得られた証拠を否定する。

8月の閣議で,トランプの万能国際代表(all-purpose international representative)であるスティーブン・ウィトコフが,このおべっか使いのような(unctuous)卑屈さ(servility)を完璧に表現した。「私が望むことはただ一つ」と彼は言った。「ノーベル委員会がまとまって,このノーベル賞が話題になって以来,あなたが最高の候補者だと認識してくれることだ。」

ウィトコフの称賛の表現は,1962年の映画 『クライシス・オブ・アメリカ(The Manchurian Candidate)』で,北朝鮮の捕虜として洗脳されたフランク・シナトラ演じるベン・マルコ少佐の台詞を不気味に彷彿とさせる(reminiscent)。
彼は,共産主義者と米国極右勢力のために政治的暗殺者としてプログラムされた,同じ部隊の陸軍軍曹への称賛を何度も繰り返す。「レイモンド・ショーは,私が今まで出会った中で最も親切で,勇敢で,温かく,素晴らしい人間だ。」 とマルコ少佐は語る。映画の中で,ショーは洗脳された仲間の兵士たちの証言に基づき,議会名誉勲章を授与される。

「私が何をしても,彼らは諦めないだろう。私はそのために政治活動しているわけではない。」とトランプは述べた。彼は,彼へのノーベル平和賞授与に向けた動きは自然発生的なもの(spontaneous)だったと示唆し,「そう思っている人はたくさんいる。」と述べた。ネタニヤフ首相が提出した推薦状を受け取った際,トランプは 「彼らは私にノーベル平和賞を与えることは決してないだろう。私はそれに値する。」と述べた。

しかし,トランプが裏で操作して候補者指名を促さなかったという滑稽な偽善(ludicrous hypocrisy)も,彼に賞を授与しない決定的な理由にはならない。

まだ授与されていない賞をもらえなかったことに対するトランプ氏の憤り(rancor)は,リアリティ番組「アプレンティス(The Apprentice)」でエミー賞をもらえなかったことに対する憤り(resentment)と全く同じだ。彼は長年,「受賞すべきだった。」,「エミー賞を騙し取られた。」,「エミー賞なんて政治だ。」,「詐欺だ。」,「無意味だ。」とわめき散らしていた(ranted)。

そして,エミー賞の時と同じように,2020年の大統領選挙は「不正操作された」と主張し,民主的な選挙結果を覆すための反乱を組織した。彼が不当に受賞を阻まれた一連の出来事の連鎖の中に,今度はノーベル賞が加わった。空欄を埋めてみろ。

トランプがノーベル賞を切望しているのは,バラク・オバマが受賞したことへの怒りも反映している。ノーベル賞をめぐるトランプのオバマへの敵意は,オバマの悪意に満ちた出生地疑惑キャンペーンを展開したことが始まりだった。「“Affirmative actionだ。不正だ」,「彼はなぜ受賞したのか理解していない」,「もし私がオバマという名前だったら,10秒でノーベル賞をもらえていただろう。」とトランプは述べた。

トランプが攻撃的な発言によって 米国とノルウェーの間に不必要に生み出した外交的・政治的摩擦も,委員会の判断に影響を与える決定的な問題ではないはずだ。2018年,トランプは 「なぜアフリカ出身の人たちをここに呼びたいんだ?あそこはクソみたいな国ばかりだノルウェー出身の人をもっと増やすべきだ。」と述べた。この発言はノルウェー全土で反感を買った。「ノルウェーを代表して:感謝はするが,結構だ(thanks, but no thanks)。」とノルウェー保守党のある政治家はツイートした。

トランプ大統領が最近,ノルウェーに課した15%の関税は,わずかな貿易赤字にもかかわらず,同国の漁業に打撃を与えた。再生可能エネルギーに対するトランプの反感(antipathy)は,風力発電業界全体を混乱に陥れ,ニューヨーク沖で風力発電プロジェクトを進めていたノルウェー国営エネルギー会社エクイノール社に約10億ドルの損失をもたらした。7月には,トランプはNATO前事務総長であるノルウェーのイェンス・ストルテンベルグ財務大臣に「唐突に(out of the blue)」電話した。「彼はノーベル賞を欲しがり - 関税について議論した。」 とノルウェーの新聞は報じた。しかし,これらの不快で不愉快,そして悪意に満ちた行動が トランプの受賞を決定づけるものではない。

彼にノーベル賞を授与しない理由は,はるかに根本的で明白である(salient)。彼がノーベル賞にふさわしくない(disqualification)のは,彼が根っからの嘘つき(inveterate liar)で,あからさまなペテン師(transparent faker)で,無能な策略家(bungling schemer)だからではない。それは,平和賞が考え出される以前の人類の時代のために刻まれた,より適切(germane)かつ危険な他の基準を彼が満たしているということである。

トランプは大統領に復帰してわずか数ヶ月で,世界中に戦争,飢饉,疫病,そして死の先駆者(harbinger)となった。彼を裁くべき基準は,ヨハネの黙示録(the Book of Revelation)(618節)に記されている,黙示録の四騎士(Four Horsemen of the Apocalypse)の出現である。

トランプは,それら恐ろしい(dreaded)破滅の象徴すべてに乗っている,あるいは乗ろうとしている。しかし,それらは輝かしい平和の到来,新しい天と新しい地を予言するものではなく,悔い改めのための清めの時を予言するものでもなく,むしろ大虐殺(carnage),それに続く独裁政治,そして終わりのない疫病(plagues)を予言するものである。

具体的には,聖書の教えに反して,トランプは戦争を助長してきた。その行動によって,ネタニヤフ首相によるガザ地区の民族浄化と破壊を目的とした攻撃的な戦争を支持してきたのだ。178億ドルの軍事支援に条件を付けることを拒否したことで,トランプはネタニヤフ首相がイスラエル軍と情報機関の指導部からの戦争継続・拡大の勧告を無視することを可能にした。

トランプは,米国がガザを「引き継ぎ」,「所有」し,「中東のリビエラ」にすることを提唱している。この組織は,米国主導の信託統治,大規模建設プロジェクトへの民間投資,そしてパレスチナ人の「自発的な」移住を通じて利益を生み出すことになる。

​​トランプはホワイト・ハウスで,「ガザ再建・経済加速・変革トラスト」(通称「グレート・トラスト」)と呼ばれる計画について会合を開いた。この計画は,「ガザ・トランプ・リビエラ・アンド・アイランド」と「イーロン・マスク製造地区(Elon Musk Manufacturing Zone)」を建設し,パレスチナ人に移住費用として$5,000を支払うことを想定している。この計画では,トランプは憲法の報酬条項(emoluments clause)に違反し,個人的に利益を得ることになる。

ウクライナ問題に関して,トランプは当初,ウラジーミル・プーチン大統領が従わない場合は新たな制裁を科すという欧州の停戦提案に同意した。しかし,アラスカでの首脳会談でプーチンと対面するや否や,トランプはプーチン大統領側につくことに決めた。
その結果,ロシアによるウクライナの民間施設への爆撃,そしてキーフの欧州連合本部への爆撃が激化した。トランプによる停戦提案の骨抜きは,プーチン大統領への賞賛と敬意(admiration and deference)を示す最新の姿勢だった。

トランプのホワイト・ハウスは,NATO加盟国であるデンマークの半独立地域であるグリーンランドを軍事的に制圧する可能性を「排除しない(not rule out)」と述べた。一方,デンマークは, トランプがホワイト・ハウスに近い政治家をグリーンランドに派遣し,米国によるグリーンランド制圧を扇動し,同国での米軍作戦の可能性に備えていると報じている。828日,デンマーク外相は米国外交官を召喚し,トランプ政権による秘密裏の影響力行使に警告を発した。

トランプは繰り返しパナマ運河地帯の領有権を主張し,軍事力を用いて制圧すると脅迫してきた。これらの脅迫は,パナマ政府に対し,‘Trump Organization’ が同地域で脱税しているとされる資産に対する課税を減額または免除するよう圧力をかけるためだったとみられる。

2017年,ロイター通信とNBCニュースの共同調査で,パナマ・シティにある トランプ・オーシャン・クラブ・インターナショナル・ホテルとタワー(Trump Ocean Club International hotel and tower)が,麻薬密売(narcotics trafficking)のための国際的なマネー・ロンダリング ‘Narco-a-Lago’の隠れ蓑だったと報じられた。トランプ・オーガニゼーションは,その部署内での活動については一切責任を負わないと主張した。

トランプはまた,NATO加盟国であるカナダ全土をアメリカ合衆国が占領し,一つの国家として併合すべきだと主張し続けている。ホワイト・ハウスは,この目的のために軍事力行使の可能性を排除(rule out)していない。

6月21日,トランプは,フォルドゥ(Fordow),ナタンズ(Natanz),エスファハーン(Isfahan)などのイラン核施設への奇襲的かつ組織的な(coordinated)空爆作戦「ミッドナイト・ハンマー作戦」を発令した。この作戦では,B-2爆撃機がフォルドゥ施設に大型貫通爆弾(MOPmassive ordnance penetrator),「バンカー・バスター(bunker buster)」爆弾を投下し,他の施設には他の兵器を投下した。国防情報局長官(director of the Defense Intelligence Agency)のジェフリー・クルーズ中将は,トランプが誇っていたようにイランの核能力は「壊滅(obliterated)」していないという予備的な情報評価を報告したが,即座に(summarily)解任された。

トランプは,アゼルバイジャンとアルメニアが平和条約調印式のためにホワイト・ハウスに集まった後,両国間の和平合意を仲介した(brokered)と主張した。しかし,両政府はその後,これはトランプの平和賞獲得キャンペーンを支援するための宣伝活動(publicity stunt)であり,実際には和平合意は締結されなかったことを認めた。

インドとパキスタンの和平合意を仲介したというトランプの主張は,受賞への自身の資格(credentials)を誇示する(burnish)ための,またしても策略(stunt)に過ぎなかった。モディに冷淡に扱われる(snubbed)と,トランプはそれを制裁関税発動の口実(pretext)に利用した。ルワンダとコンゴ民主共和国の和平合意を仲介し,ルワンダ軍をコンゴ民主共和国から撤退させたという主張も同様に虚偽だった。ルワンダが支配するM23反乱軍(rebels)は依然としてコンゴ民主共和国に留まり,7月に14の村で虐殺を犯しており,和平合意は作り話である。

トランプはまた,ネタニヤフ政権によるガザ住民に対する飢餓キャンペーンを容認し,ネタニヤフ首相の飢餓計画(starvation project)に対する免責(impunity)を認める一方で,国連の米国代表に対し,ガザの飢餓は「人為的な危機(man-made crisis)」であり国際法に違反しているという安全保障理事会の他の14ヶ国すべてによる声明に署名しないよう命じた。

スーダンでも大規模な飢饉が猛威を振るっている。これは,米国の同盟国であるアラブ首長国連邦(UAE)が同国で展開している代理戦争(proxy war)に大きく関連している。トランプがUSAID(米国国際開発庁)の全面的解体の一環として,USAIDの救援活動を全面停止することを決定したことで,スーダンの飢饉はさらに深刻化した(acute)。

その結果,緊急食料支援キッチン(emergency food kitchens)の80%以上が閉鎖された。ノルウェー難民評議会(NRCthe Norwegian Refugee Council)と国際救援委員会(IRCthe International Rescue Committee)は,資金削減が飢餓と疾病による死を直接的に引き起こしていると述べている。NRCは,対策を怠ったこと(inaction)でスーダンの危機が 「計り知れないほど(beyond measure)」悪化したと警告した。

トランプによるUSAID(米国国際開発庁)終了の決定は,飢饉の条件を作り出すだけでなく,2030年までに世界で1,400万人以上の予防可能な死をもたらす可能性があると,英国の医学誌ランセット誌に20257月掲載された権威ある研究論文は指摘している ー 「驚くべき数の予防可能な死(a staggering number of avoidable deaths)」。

報告書によると,「USAIDへの資金提供は,HIV/エイズ(2,550万人)による死亡率の65%減少,マラリア(800万人)による死亡率の51%減少,顧みられない熱帯病(890万人)による死亡率の50%減少と関連している」 と述べられており,その他にも多くの疾病で顕著な減少が見られた。しかし,トランプはこれらのプログラムをすべて廃止した。

国内では,トランプは国立衛生研究所(NIHthe National Institutes for Health)と疾病対策センター(CDCthe Centers for Disease Control)を骨抜きにし(eviscerated),ハーバード大学への,がんなどの疾患に関する研究費も含まれる連邦資金26億ドルを差し止めた(withheld)。

ワクチン接種に反対する半自動小銃で武装した男がアトランタのCDC本部に150発の銃弾を発射し,警察官を殺害した事件後,トランプは全くの沈黙を守った。彼は銃規制に断固反対してきたが,銃はほぼ例外なく,学校での大量殺人,銃乱射事件,暴力犯罪に利用される武器である。

「わたしが見ていると,青白い馬が目の前にいた。その乗り手の名は死であった。」と ヨハネの黙示録には記されている。

投稿者 シドニー・ブルメンソール(Sidney Blumenthal): ビル・クリントンとヒラリー・クリントンの元上級顧問。エイブラハム・リンカーンの政治人生に関する全5巻の予定のうち,3冊: “A Self-Made Man”,“Wrestling With His Angel”,“All the Powers of Earth” を出版した。ガーディアン紙US版のコラムニスト。

(転載了)
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選考委員全員が 正気を失わない限り,トランプにノーベル平和賞はあり得ないようです。

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