ウィンブルドンの “All-White Dress Code”
英国版GQ の電子版 ‘GQ-UK’,July 6, 2026付け
“Why does everyone wear white at Wimbledon?”
「なぜウィンブルドンでは誰もが白を身につけるのか?」
の見出し記事を 下記,拙訳・転載します。
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150 years on, and tennis' strictest dress code is still going strong
150年を経て,今もテニス界で最も厳しいドレス・コードは健在
一年で最も素晴らしい季節がやってきた:ウィンブルドン選手権の開幕である。今後1週間ほど,世界屈指のテニス選手たちがロンドン南西部に集結し,センター・コートでのドラマや「悪役」的(villainy)な振る舞い,そして過去の例からすれば素晴らしいメンズ・ファッションを披露してくれることだろう。テニス界には4つのグランド・スラム(四大大会)があるが,選手たちがまるで高級なガーデン・パーティーに出席するかのような装いを求められるのは,この大会だけである。
全豪オープンが大胆な色使いを全面的に取り入れ,全仏オープンが比較的リラックスしたスタイルを許容し,全米オープンに至っては選手が少々奇抜な格好(a bit mad)をすることをむしろ推奨しているのに対し,ウィンブルドンは今なお,スポーツ界で最も厳しいドレス・コードの一つである 「オール・ホワイト(全身白)」のルールを堅持している。これは大会の最も有名な伝統の一つであるが,最も誤解されているルールの一つでもある。そこで,このルールの由来や実際の内容,そしてなぜウィンブルドンがこの伝統を守り続けている(refuses to let it go)のかについて解説する。
What is Wimbledon's all-white dress code?
ウィンブルドンの「オール・ホワイト」のドレス・コードとは,何か?
簡単に言えば,ウィンブルドンに出場する選手は,ほぼ全身白のウェアを着用することが義務付けられている。その対象は多岐にわたり,シャツ,ショートパンツ,スカート,ドレス,靴下,帽子,リストバンド,そしてシューズに至るまで,目に見えるものは基本的にすべてこの規定の対象となる。新しいデザインや色使いのウェアで個性をアピールすることの多い他のテニス大会とは異なり,ウィンブルドンでは徹底してシンプルさ(super pared-back)が追求されている。
その結果,この大会は他の主要なスポーツ・イベントとは全く異なる雰囲気を醸し出している - 鮮やかなピンク色のサッカー・シューズなどが登場するワールド・カップなどと比較すると,その違いは際立っている。
But… why? / しかし,なぜ?
そのルールを理解するには,ヴィクトリア朝時代まで遡る必要がある。19世紀後半にローン・テニスが人気を博し始めた頃,この競技は主に英国の上流階級の人々に親しまれていた。当時,特に社交の場(social settings)において,目に見える形で汗をかくこと(perspiration,i.e. sweating)は「品位に欠ける(improper)」と見なされていた。濃い色の生地に比べて白い衣類の方が汗染み(sweat marks)が目立ちにくいと考えられていたため,こうした活動には白いウェアが好んで選ばれるようになった。
1877年に史上初のウィンブルドン選手権が開催された時点で,白はすでにこの競技における定番の(go-to)ウェアとなっていた。それから数十年の間に,この伝統は大会のアイデンティティと深く結びついていく(intertwined)ことになった。
Is the dress code still the same?
ドレス・コードは今も同じか?
その通り!実は,現代のルールは多くの人が想像するよりもかなり厳しいものになっている。ウィンブルドンは単に「白を基調としたウェア」を求めているわけではない。大会の公式規定では,選手は「ほぼ全身白」のウェアを着用しなければならないと定められている。では,オフ・ホワイトやクリーム色,あるいはアイボリーならどうだろうか?残念ながら,それらは認められていない。
色付きの縁取り(トリム)の使用は厳しく制限され,ロゴは目立たないもの(discreet)である必要があり,細かな部分まで厳しくチェックされる。これまでに,大会の基準を満たさないシューズやアンダーショーツ,アクセサリーの変更を求められた選手は少なくない。例えば,ニック・キリオスは赤いウェアを着用したことで,5桁(数万ドル規模)の罰金を科されたこともあった(これについては後述)。
とはいえ,時代に合わせてルールも少しずつ変化している。2023年には,快適さや実用性に関する懸念の声を受け,女子選手が濃い色のアンダーショーツを着用することが認められると発表された。
Why does Ralph Lauren outfit Wimbledon?
なぜ ラルフ・ローレンがウィンブルドンのウェアを手がけているのか?
もちろん,ウィンブルドンの「オール・ホワイト(全身白)」は 選手だけの話ではない。ラルフ・ローレンは2006年以来,同大会の公式アウトフィッター(ウェア提供者)を務め,審判員やボール・パーソン,コート上の役員たちのユニフォームを制作してきた。これは現代のスポーツ界における最も息の長いパートナーシップの一つであり,これほど相性の良い組み合わせは他に考えられないだろう。
そもそもラルフ・ローレンは,プレッピーなアメリカン・スポーツウェアや,清潔感のあるオックスフォード・シャツ,、そしてカントリー・クラブの雰囲気をベースにその名声を築いてきた。ウィンブルドンは生粋の英国の大会だが,両者の世界観は驚くほど見事に調和している。
Which players have broken Wimbledon's dress code?
ウィンブルドンのドレス・コードに違反した選手は?
「単色(白)」を基本とするルールでありながら,実際にはかなりの数の物議を醸してきた。有名な例として,アンドレ・アガシが1980年代後半から90年代初頭にかけて数年間ウィンブルドンへの出場を見送ったことが挙げられるが,その理由の一つは,同大会の伝統的な方針を好まなかったことにあった。2013年には,ロジャー・フェデラーがオレンジ色のソール(靴底)のシューズを履き替えるよう求められた。
より最近の例では,2022年にニック・キリオスが赤色のジョーダン・ブランドのキャップを着用し,約£12,000の罰金を科された。また2023年には,ヤニック・シナーが自身のために特別に制作されたグッチのダッフルバッグを携えて会場入りした。一見するとウィンブルドン側が即座に禁止しそうな代物だったが,意外なことに,事前に大会関係者から特別な承認を得ていた。
Why does Wimbledon still enforce the all-white rule?
ウィンブルドンは なぜ今もなお全身白のルールを徹底しているのだろうか?
当然の疑問は,「なぜ150年近くも続くドレス・コードを今もなお維持しているのか?」ということだろう。それは,いつしか全身白のルールが実用性から外れ,ウィンブルドンのアイデンティティの一部となったからである。アスリートがパーソナル・ブランドの構築を奨励され,派手な色(louder colours)を身にまとい,あらゆる登場シーンをファッションの瞬間に変えようとする時代にあって,ウィンブルドンは他とは一線を画している。
それがウィンブルドンの独自性である。会場の向こう側からでも,ロゴやスコアボード,選手の顔さえ見なくても,ウィンブルドンの写真だとすぐに分かる。そして,皆が同じ色調で統一されているため,視線は自然と他の部分へと移る。ポロ・シャツのカットやショーツのドレープ,スニーカーのディテールなど,色そのものよりも細部に目が行くようになる。
好き嫌いは別として,全身白のルールはプロ・スポーツ界において,数少ない真にユニークなドレス・コードの一つと言えるだろう。最初は汗染みを隠すための方法だったのかもしれないが,1世紀半後に,はるかに大きなものへと発展した。
(転載了)
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