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2025年6月19日 (木)

トランプの姪が書いた暴露本 “Too Much and Never Enough”

トランプを書いた本は たくさんありますが,臨床心理学者である,トランプの姪が書いた本は トランプが育った家庭と,彼が 如何にして 現在の メンタル・ヘルス異常を身に付けたかなど分って 興味深いものがあります。

英文Wikipedia の “Too Much and Never Enough” を下記,拙訳・転載します。
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001_20250608181501Too Much and Never Enough : How My Family Created the World's Most Dangerous Man” (直訳 「多すぎて決して足りない:私の家族がいかにして世界で最も危険な男を生み出したか」,邦題 「世界で最も危険な男 『トランプ家の暗部』 を姪が告発」)は,米国の心理学者メアリー・L・トランプ(Mary L. Trump)が,叔父であるドナルド・トランプ大統領とその家族について書いた暴露本(tell-all book)である。2020714日にサイモン&シュスター(Simon & Schuster)社から出版された。本書はトランプ家の力関係を内側から描き,金銭取引の詳細を明らかにしている。その中には,著者が匿名の情報源として叔父の脱税疑惑を暴露したことも含まれている。トランプ家は出版差し止めを求めて訴訟を起こしたが,出版延期は認められなかった。

Author Mary L. Trump
LanguageEnglish
Subject Donald Trump and his family
PublishedJuly 14, 2020
PublisherSimon & Schuster
Publication place  United States
Pages  240
ISBN   978-1982141462 (hardcover)

Background / 背景

この本の著者である臨床心理学者(clinical psychologist)のメアリー・L・トランプは,フレッド・トランプ・ジュニアの娘であり,フレッド・トランプ・シニアの孫娘である。彼女は大学院生にトラウマ,精神病理学(psychopathology),発達心理学(developmental psychology)の分野で指導を行ってきた。また,ストーカー被害者に関する論文を執筆し,統合失調症(schizophrenia)の研究を行い,著名な医学書 『診断:統合失調症(the prominent medical manual Diagnosis: Schizophrenia)』の一部を執筆した。彼女の父親は1981年,アルコール依存症による心臓発作で42歳で亡くなった。

1999年にフレッド・シニアが亡くなった後,メアリーと弟のフレッド3世は,フレッド・シニアが認知症(dementia)を患っており,遺言はフレッド・シニアの他の子供たちであるドナルド,マリアンヌ,ロバートによって「詐欺と不当な影響によって」取得されたと主張し,遺言検認裁判所で祖父の遺言に異議を唱えた。1週間後,ドナルド,マリアンヌ,ロバートは,脳性麻痺によるてんかん発作を患っていたフレッド3世の当時18ヶ月の息子ウィリアムの健康保険を打ち切った。

ニューヨーク・デイリー・ニュースのインタビューで,メアリーは「叔父と叔母は恥じるべきだ。しかし,彼らは恥じていないはずだ。」と述べた。訴訟は和解し,ウィリアムの健康保険は復活した。 ドナルドは2016年に自身の行動について,「彼らが訴訟を起こし,私は怒っていた。」と説明した。

叔父の大統領選挙運動後,メアリー・トランプはニューヨーク・タイムズ紙と連絡を取り,匿名の情報源としてトランプ家の税務書類一式を提供した。これらの書類は,デイビッド・バーストウ,スザンヌ・クレイグ,ラス・ビュートナーによる2018年の記事でトランプによる財務不正を詳細に解説し,著者らはピューリッツァー賞(説明報道部門:Explanatory Reporting)を受賞した。

バーストウはメアリー・トランプにゴーストライターとして本を執筆しないかと持ちかけた。彼は彼女をエージェントのアンドリュー・ワイリーに紹介し,ワイリーは彼女に数百万ドルの前払い金を提示した。この事実を知ったクレイグとビュートナーは激怒し,タイムズ紙の編集者はバーストウの執筆を禁じた。彼の関与はタイムズ紙の倫理規定に違反すると判断したからだ。メアリー・トランプは最終的にWMEWilliam Morris Endeavor)のジェイ・マンデルと協力し,本の出版権をオークションで 「サイモン&シュスター」に売却した。

Synopsis / 概略

002_20250608181501 本書は時系列の伝記形式(chronological biography)をとっている; ドナルド・トランプを中心としつつも,メアリー・トランプはトランプ家の他の家族にも重点的に焦点を当て,彼らの相互関係(mutual dynamics)や金銭取引(financial dealings)に光を当てている。臨床心理学者としての知見を活かし,著者はドナルドを分析する背景として,家族内部の仕組みを明らかにしようと試みていますが、あからさまな診断(outright diagnosis)は避けている。

第一部:「残酷さが核心(The Cruelty Is the Point)」では,著者は一家の家長(patriarch)であるフレッド・トランプ・シニアの性格を描写し,彼が子供たちにどのような永続的な影響を与えてきたかを明らかにしようと(elucidate)試みている。家族の記憶に基づき,メアリーは 自身の利益のために周囲の人々を利用し,虐待(abuse)しようとしたフレッド・シニアを「高機能社会病質者(high-functioning sociopath)」と診断した(diagnoses)。ドナルドは,兄のフレッド・ジュニアが父親から絶えず批判されているのを見て,悲しみ,弱さ,優しさを表に出さないように,フレッド・シニアの態度や行動を真似ていた。

メアリーは,フレッドの残酷な影響によって,ドナルドは感情表現の幅が狭まっていたと述べている。彼等の母親のメアリーは,骨粗鬆症(osteoporosis)と,フレッドによる彼女と子供たちへの頻繁な暴言(verbal abuse)の影響により,子供たちの成長期(formative years)において「身体的にも精神的にも障害を抱えた(physically and mentally challenged)」従順な(subservient)妻だったとされている。後年,彼女はメアリーに,ドナルドが13歳で陸軍学校に送られたときはホッとした(relieved)と打ち明けた。その時点で彼はメアリーに対して好戦的(belligerent)になり,反抗的(disobedient)になり始めていたからだ。

2部:「間違った道(The Wrong Side of the Tracks)」では,著者はドナルドの初期のキャリアを時系列順に描いている(chronicles)。フレッド・シニアは,自身のビジネス手腕(business acumen)に見合うだけの名声を得ることはできなかったため,ドナルドにトランプ・オーガニゼーションの対外的な顔(public face)を任せ,自身は政界やその他のビジネス界のコネを駆使して実務を担うことに満足していたと,著者は指摘している。一方,フレッド・ジュニアは,大型住宅プロジェクトの破綻を不当に自分のせいだと責め立てられた後,長男である自分が脇に追いやられ,ドナルドが優先されるようになったことに気づき,家業を離れて,商業パイロットの道を選んだ。

トランプ一家全員がフレッド・ジュニアの選んだ職業を常に中傷(denigration)したことが,1970年代の彼のアルコール依存症などの問題に苦しみ,航空業界でのキャリアと結婚生活の両方が破綻する原因となった。フレッド・トランプ・ジュニアは1981年,家族から離れた病院で心臓発作のため42歳で亡くなった。両親は病院からフレッド・ジュニアの死を知らせる電話を自宅で待っており,ドナルドは地元の映画館で映画を見ていた。

3部: 「煙と鏡(Smoke and Mirrors)」では,フレッド・シニアの影響力が低下する(waned)につれ,ドナルド・トランプが父親から得た知識と人脈なしに事業運営に苦戦した様子を詳細に描写している。メアリーは,ドナルドを無能な(inept)ビジネスマンとして描写し,仲間たちは彼の悪名を資産と見なし,その仮面を剥がそうとしなかったために,体裁を保つことができただけだとしています。そのため,ドナルドは一時,債権者と月額45万ドルの手当の交渉を強いられた。

メアリーはまた,1999年のフレッド・シニアの死後,家族が彼女に背を向け,彼女と兄の健康保険を打ち切ったことで,兄の息子ウィリアムの人生が不安定になったことにも焦点を当てている。メアリーは,ウィリアムの健康保険を復活させる代わりに,家族経営の会社における彼女のパートナーシップを残りの家族に買収させることで和解を決意した。これは,現在では彼女が理解しているように,大幅に過小評価された価格だった。彼女は,ピューリッツァー賞を受賞したニューヨーク・タイムズの調査で匿名の情報源として活動することで,最終的に家族の富の真の価値を知った。

4部: 「史上最悪の投資(The Worst Investment Ever Made)」では,ドナルド・トランプがアメリカ合衆国大統領選の選挙戦を成功させた時期について,著者の見解が述べられている。メアリーは心理学者としての経験を再び持ち出し,祖父フレッド・シニアがより多くの権力者との直結関係を築き,ドナルドの最悪の本能が彼らの,それぞれの欲求を満たすように仕向けたと主張している。彼女は,叔父の心理的能力が幼い頃に父親によって完全に発達することを強制的に阻止されたため,彼はより有能な国内外の権力者による操作に非常に脆弱な(susceptible)ままであると指摘している。

Allegations / 疑惑

本書には,メアリーがトランプ一族の機密税務文書をニューヨーク・タイムズに提供した経緯が記されている。タイムズ紙はこれを受け,ドナルドが詐欺行為を行ったと非難した。また,ドナルドが1990年代に自身の経営難の事業を穴埋めするために,父親の不動産事業から約41300万ドルを流用したと報じている。本書ではまた,ドナルドが自分のために 友人のジョー・シャピロにSAT受験を依頼し,金銭を支払ったとも非難している。メアリーは本書の中で,ドナルドとフレッド・シニアが彼女の父親をないがしろにし,アルコール依存症による死の一因となったこと,そして後にフレッド・シニアがアルツハイマー病を発症した際に ドナルドがフレッド・シニアを軽蔑し,無視したことを述べている。

Release of tape recordings / 録音テープの公開

2020年822日,メアリーは,ロナルド・レーガン大統領と ビル・クリントン大統領によって司法官に任命された元連邦判事である,ドナルドの妹の叔母マリアンヌ・トランプ・バリー(Maryanne Trump Barry)との会話の録音テープを公開した。録音テープにおけるバリーの発言は,メアリーの著書で主張されている多くの点を裏付けている。メアリーが録音テープを作成した理由は,祖父から相続した財産の分配が,資産総額を著しく過小評価していたことの証拠を集めるためだった。録音テープの中で,バリーは,ドナルドの移民政策によって子供が親から引き離されたことに憤りを表明し,彼の宗教的支持者たち(religious supporters)の思いやりのなさ(lack of compassion)を非難し,彼の残酷さと偽善(phoniness)を嘆いている(laments)。録音テープは,ドナルドが 自分のために 友人に大学入試を受けさせるために金を支払ったというメアリーの主張の根拠がバリーであったことを明らかにしている。

Promotion / プロモーション

本書は トランプに関して国内外で注目を集め,数多くのメディアで紹介された:‘The Rachel Maddow Show, The Beat with Ari Melber, This Week with George Stephanopoulos, The View, Frontline, Cuomo Prime Time, Democracy Now!, The Late Show with Stephen Colbert, カナダの‘CTV News, オーストラリアの‘60 Minutes’,英国の‘Channel 4 News’,‘Sky News,アイルランドの ‘The Late Late Show on RTÉ One’ そして スカンジナビアの‘Skavlan talk show’ など。.

Release / 出版

サイモン&シュスターは当初、2020811日の発売日を設定していたが、デイリー・ビースト紙に独占取材を行い、同紙は615日に本書に関する記事を掲載した。2日後、本書はAmazonのベストセラー・リストで5位にランクインしました。記事への反響を受け、同社は出版日を728日に前倒しした。

7月6日、サイモン&シュスター(Simon & Schuster)は「高い需要と並外れた関心(high demand and extraordinary interest)」により,Amazonで ベストセラー1位 “The Room Where It Happened” を抜いたので,出版日を714日に前倒しすると発表した。2020717日,サイモン&シュスターは,出版日までに95万部以上の予約注文がとれたと発表した。これは同社にとって新記録だった。 “Too Much and Never Enough” は発売初週に135万部を売り上げた。

Legal efforts to stop publication / 出版阻止に向けた法的措置

The Daily Beast’ によると、ドナルド・トランプは メアリーに対して法的措置を取る可能性について言及した。トランプは‘Axios’に対し,メアリーは以前 「あらゆることを網羅する」 「非常に強力な」秘密保持契約(NDAnon-disclosure agreement)に署名しており,そのため「本を書くことは許可されていない。」と述べた。

ロバート・トランプは623日,メアリーの秘密保持契約(NDA)を理由に,出版差し止めを求める仮差し止め命令と暫定的差止命令の取得を求めて訴訟を起こした。625日の審理で、ニューヨーク市クイーンズ郡後見裁判所のピーター・J・ケリー判事は、管轄権の欠如を理由に訴訟を棄却した。

ロバートはこの訴訟をダッチェス郡のニューヨーク州最高裁判所(一般裁判所)に持ち込み、630日,ハル・B・グリーンウォルド判事は本の出版を一時的に差し止める命令を下し,本の出版を恒久的に差し止めるべきかどうかを決定するための審理を710日に設定した。

ニューヨーク州控訴裁判所(appellate justice)のアラン・D・シャインクマン判事は71日,下級裁判所の判決を覆し,サイモン&シュスターはNDAの当事者ではなく,憲法修正第1条に基づき事前抑制および出版前差止命令の対象ではないと判断し,710日の審理を待つ間,サイモン&シュスターは本の出版を進めることができると判決を下した。メアリーは書籍の販売活動を差し止められ、メアリーがNDAに違反したかどうかは未解決のままとなった。202072日,メアリーは、和解契約における資産の「評価額が不正であった」など,様々な理由から和解契約のNDA条項に拘束されないと主張する宣誓供述書を提出した。

7月13日,グリーンウォルド判事は,サイモン&シュスター社が本書の出版を継続する権利を認める判決を下し,メアリーは 既に「大量に出版・頒布されている」本書の出版差し止めを命じることは「意味不明(moot)」であり,サイモン&シュスター社との契約に基づき出版を差し止めることができなかったと判断した。

判事はまた,ロバートが提訴したにもかかわらず,本書が主に彼の弟で社長のドナルドに焦点を当てていることも,訴訟の根拠が弱いことを示唆した。ロバートはメアリーに対し金銭的損害賠償を求めることも考えられたが,判決時点では彼がそうするつもりだったかどうかは不明だった。ロバートは1ヶ月後の815日に亡くなった。

Reception / 反響

本書は概ね好評を博した。批評家たちは,メアリー・トランプが臨床心理学のバックグラウンドと家族史に関する知識の両方を活かし,トランプに関する暴露本のジャンル(tell-all genre)において傑出した作品(standout work)を生み出したことを称賛した。ニューヨーク・タイムズのジェニファー・サライ(Jennifer Szalai)は著者の勇気と決意を称賛し,本書を 「苦痛から書かれ,人を傷つけることが意図された(written from written from pain and is designed to hurt)」と書いたが メアリーは後半を否定した。

これは痛みから書かれ,傷つけるように書かれた本である,・・・ 心理学者が使う幼少期の愛着や人格障害の用語は忘れてください; メアリーが 「ドナルドを倒す(to take Donald down)」必要性について話すとき,彼女は家族が本当に理解できる唯一の言葉を話し始める。

Jennifer Szalai, The New York Times, July 2020

ロサンゼルス・タイムズ紙は本書をトランプ大統領に関する他の著作と比較し,著者が共感的な手法(empathetic manner)でこの問題にアプローチしていることが,独自の視点を生み出していると述べている。アトランティック誌のミーガン・ガーバーも,ドナルド・トランプが同様に有害な(toxic)家族関係を国家の舞台に持ち込むことを許したというメアリーの指摘に同意している。

タイムズ紙のデイビッド・アーロンヴィッチは,本書は主にフレッド・トランプ・シニアの伝記であると指摘し,ドナルドを決定的に形作ることによって,この老練な家長(patriarch)の存在が現代政治史に何らかの形で大きな影を落としていると考えている。マッシャブル(Mashable)のクリス・テイラーはより批判的で,著者は大まかな主張を展開しながらも、時に矛盾している点がある(contradicting)と指摘している。

(転載了)
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2025年6月13日 (金)

6月9日に亡くなった フレデリック・フォーサイスの生涯

BBC電子版は,69日 に亡くなったフレデリック・フォーサイスの死亡記事と共に,彼の生涯に関する記事を610日に掲載していました。

BBCJune 10, 2025付け
Frederick Forsyth: Life as a thriller writer, fighter pilot, journalist and spy
「フレデリック・フォーサイス:スリラー作家,戦闘機パイロット,ジャーナリスト,スパイとしての人生」
のタイトル記事を下記,拙訳・転載します。

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86歳で亡くなったフレデリック・フォーサイスは,綿密な(meticulously)調査に基づいたスリラー小説を執筆し,数百万部を売り上げた。
元戦闘機パイロット,ジャーナリスト,そしてスパイであった彼の著書の多くは,自身の経験に基づいている。
彼は,物語の電光石火のスピード(lightning pace)を損なうこと(detracting)なく,複雑な(intricate)技術的詳細を物語に織り込んでいた。
彼の調査はしばしば当局を困惑させ,彼が暴露した怪しい戦術(shady tactics)のいくつかは,現実のスパイ活動(espionage)で実際に使用されていたことを認めざるを得なかった。

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フレデリック・マッカーシー・フォーサイス(Frederick McCarthy Forsyth)は1938825日,ケント州アシュフォード(Ashford, Kent)に生まれた。
毛皮商人の一人っ子として生まれた彼は,孤独を冒険物語に没頭すること(immersing)で乗り越えた。
彼のお気に入りの作品にはジョン・バカン(John Buchan)やH・ライダー・ハガード(H Rider Haggard)の作品があったが,フォーサイスはアーネスト・ヘミングウェイの闘牛士に関する小説『午後の死(Death in the Afternoon)』が特に好きだった。
彼は闘牛にすっかり魅了され(captivated),17歳の時にスペインへ渡り,ケープを使った練習を始めた。

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彼は実際に闘牛をしたことはなかった。その代わりに,グラナダ大学で5ヶ月間過ごした後,英国空軍の兵役に就くために帰国した。
長年パイロットになることを夢見ていたフォーサイスは,デ・ハビランド・ヴァンパイア・ジェット機(de Havilland Vampire jets)を操縦するために年齢を偽った。

1958年,彼はイースタン・デイリー・プレス(the Eastern Daily Press)紙に地元記者として入社した。3年後,ロイター通信社(the Reuters news agency)に移った。

トンブリッジ・スクール(Tonbridge School)在学中,フォーサイスは外国語の分野で優秀な成績を収めたが,それ以外はあまり目立ったことはなかった。
フランス語,ドイツ語,スペイン語,ロシア語に堪能な(fluent)彼は,まさに生まれながらの外国特派員(foreign correspondent)だった。

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パリに赴任した彼は,秘密軍事機構(OASthe Organisation de l'Armee Secrete)のメンバーによるフランス大統領シャルル・ド・ゴール暗殺未遂事件(assassination attempts)に関する数々の記事を取材した。
元軍人たちは,多くの同志がアルジェリア民族主義者との戦いで命を落とした後,ド・ゴールがアルジェリアに独立を認める決定を下したことに憤慨していた。
フォーサイスはOASを「白人植民地主義者でありネオ・ファシスト(white colonialists and neo-fascists)」と呼んだ。
そして,もし彼らが本当にド・ゴールを暗殺したいのであれば,プロの暗殺者を雇うしかないと彼は考えた。

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フォーサイスは1965年にBBCに入局した。
2年後,彼はビアフラ南東部の分離独立(secession)に続く内戦を取材するため,ナイジェリアに派遣された。
戦闘が予想以上に長引いたため,フォーサイスは滞在取材の許可を求めた。彼の自伝によると,BBCは「この戦争を取材するのは我々の方針ではない。」 と彼に告げたという。
「報道のマネジメントの匂いがした。」と彼は言った。「報道のマネジメントは嫌いだ。」
彼は仕事を辞め,その後2年間,フリーランスの記者として戦争の取材を続けた。

彼は自身の経験を 『ビアフラ物語(The Biafra Story)』 にまとめ(chronicled),1969年に出版した。後に彼は,ナイジェリア滞在中にMI6で働き始め,その関係は20年間続いたと述べている。

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彼はまた,多くの傭兵(mercenaries)と親しくなり,偽造パスポートの入手方法,銃の入手方法,敵の首を折る方法などを教えられた。
こうしたあらゆる手口は,ド・ゴール大統領暗殺未遂事件を描いた 『ジャッカルの日(The Day of the Jackal)』 に盛り込まれ,彼は自宅のアパート(bedsit)で古いタイプライターを使ってわずか35日間で書き上げた(pounded out)。
彼は出版に向けて何ヶ月も努力したが,何度も(a string of)拒否された。

「まず第一に(for starters),ド・ゴールはまだ生きていた。」 と彼は言った。「だから読者は既に,1963年を舞台にした架空の暗殺計画が成功しないことを知っていた。」

最終的に,ある出版社がリスクを冒して少量の印刷を実施,一時 「暗殺者のマニュアル(an assassin's manual)」と評されたこの本は,まず英国で,そして米国で売れ行きが好調になった。

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『ジャッカルの日』は,後にフォーサイス・スリラーの伝統的な特徴となる要素を如実に示していた。事実とフィクションを織り交ぜ,実在の人物や出来事を頻繁に用いたのだ。
ジャッカルが教会の墓地で発見された子供の死体の名前を使って英国のパスポートを偽造するという行為は,電子データベースや照合技術が発達する以前の時代においては,全くもって実行可能なものだった。
この物語は1973年に映画化され,エドワード・フォックスが正体不明の銃撃犯役で主演を務め,数々の賞を受賞した。

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フォーサイスはその後,『オデッサ・ファイル(The Odessa File)』で成功を収めた。これは,元SS隊員の秘密結社「オデッサ」に守られた「リガの屠殺者(Butcher of Riga)」の異名を持つ悪名高いナチス兵士,エドゥアルト・ロシュマンを追跡しようとするドイツ人記者の物語である。
フォーサイスは調査の一環として,南アフリカの武器商人を装ってハンブルクへ渡った。「彼らの世界に潜入することに成功し,かなり誇らしい気持ちになった。」と彼は後に語っている。
「私が知らなかったのは,(その人物が)私たちと会った直後に書店の前を通ったことだ。すると,そこに 『ジャッカルの日』が置いてあって,裏表紙には私の大きな写真が載っていた。」

この本の映像化によって,真の「リガの屠殺者」の身元が判明した。彼はアルゼンチンに住んでいた。近所の人が地元の映画館でこの映画を見に行ったことがきっかけだった。彼はアルゼンチン当局に逮捕されたが,保釈中に(skipped bai)パラグアイに逃亡した。
この本には,1944年にスイスに輸出されたナチスの金塊についても触れられていた。出版から25年後,ユダヤ人世界会議(the Jewish World Congress)がこの一節を発見し,最終的に10億ポンド相当の金塊を発見した。

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サンデー・タイムズ紙によると,フォーサイスの3作目の小説 『戦争の犬たち(The Dogs of War)』 は,アフリカでクーデターを組織した経験に基づいている。
同紙は,フォーサイスが1972年に赤道ギニア(Equatorial Guinea)大統領を追放する(oust)計画を練り上げ,20万ドルを投じてボートを雇い,ヨーロッパとアフリカの有力な兵士を集めたと報じている。
計画は失敗に終わったと言われている。準備が破綻し,兵士たちは目的地から3000マイル離れたカナリア諸島でスペイン警察に阻止されたためだった。

次に 『悪魔の選択(Devil's Alternative” が出版された。この作品で描かれる英国初の女性首相,ジョーン・カーペンターは,フォーサイスが深く尊敬する政治家マーガレット・サッチャーをモデルにしている。彼女は後に,実名でフォーサイスの小説4作品に登場している。

1982年には伝記小説(biography)へと展開し,“Emeka” が出版された。これは,フォーサイスの友人で,ビアフラが短期間独立していた時代に国家元首を務めたチュクウェメカ・オドゥメグ・オジュクウ大佐(Col Chukwuemeka Odumegwu Ojukwu)の生涯を描いた作品である。

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1984年,彼は『第四の核(The Fourth Protocol)』で再び小説に取り組んだ:これは,英国総選挙に影響を与え,極左労働党政権を樹立しようとするソ連の陰謀を描いた複雑な物語である。
この本はサー・マイケル・ケイン(Sir Michael Caine)に多大な感銘を与え,フォーサイスを説得して映画化許可を得て,ベテラン俳優ケインがピアース・ブロスナンと共演した。

1980年代後半,フォーサイスは最初の妻で元モデルのキャロル・カニンガム(Carole Cunningham)と別れ,女優フェイ・ダナウェイ(Faye Dunaway)と並んで写真に撮られた。

1991年に出版された 『ネゴシエイター(The Negotiator)』 はその後も人気を博し,型破りながらも優秀なMI6エージェントを描いた『騙し屋(The Deceiver)』はBBCでミニ・シリーズ化された。

フォーサイスはその後も2本のスリラー作品 『神の拳(The Fist of God)』 と 『イコン(Icon)』を手掛けた後,『マンハッタンの怪人(The Phantom of Manhattan)』 で突如として方向転換(abrupt detour)を図った:これはミュージカルとして成功を収めた『オペラ座の怪人(the Phantom of the Opera)』の続編として書かれた。
この作品は大ヒットとはならなかったが,2010年,アンドリュー・ロイド・ウェバー(Andrew Lloyd Webber)が『マンハッタンの怪人』の要素を取り入れ,『オペラ座の怪人』の続編となるミュージカル『ラブ・ネバー・ダイズ(Love Never Dies)』を制作した。

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2作目の短編小説集 『戦士たちの挽歌(The Veteran)』も賛否両論の評価を受けたが,フォーサイスは2003年の政治スリラー 『アヴェンジャー(Avenger)』,そして3年後の 『アフガンの男(The Afghan)』で持ち前のスタイルで復活を遂げた。『アフガンの男』は、以前の『神の拳Fist of God)』と関連のある作品だった。

この頃には,フォーサイスは ブロードキャスター,そして政治評論家(political pundit)としての名声を確立していた。
彼はBBCの時事討論番組(topical debate programme)‘Question Time’ に,政治的スペクトルの右派として頻繁にゲスト出演していた。
熱心な(committedEU懐疑論者(Eurosceptic)である彼は,かつて同番組でテッド・ヒース(Ted Heath)元首相を論破した(derailed)ことがある - ヒース元首相は,英国の金準備をフランクフルトに移管することに同意する文書に署名したことを否定した(denials)にもかかわらず,実際には署名していたことを証明したのだ。

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70歳を過ぎると,執筆ペースは鈍り始めた。

2010年に出版された 『コブラ(The Cobra)』では,『アヴェンジャー(Avenger)』の登場人物の一部が再登場した。

2013年には,『キル・リスト(The Kill List)』を出版した。これは,若いイスラム教徒に連続殺人を勧めるオンライン動画を投稿していた ‘The Preacher’ と呼ばれるイスラム教狂信者(Muslim fanatic)を軸にした,テンポの速い物語である。

彼はすべての著書をタイプライターで執筆し,インターネットをリサーチに利用することを拒否した。
皮肉なことに,2018年に出版された18作目の小説 『ザ・フォックス(The Fox)』 は,才能あるコンピューター・ハッカーを描いたスパイ・スリラーだった。
フォーサイスはこの作品を最後の作品とすることを発表したが,2024年に2番目の妻サンディが亡くなった後,自主リタイア(self-imposed retirement)から復帰した(came out)。

彼は新たな冒険小説を執筆中だと言い,抽選(raffle)で登場人物に自分の名前をつけるチャンスをプレゼントする企画まで提案した。

1970年代に映画化権を2万ポンドで売却したフォーサイスは,昨年 ‘Sky’ でテレビ用にリメイクされたエディ・レッドメイン(Eddie Redmayne)版『ジャッカルの日』の著作権料を一切受け取らなかった。

ギニア・ビサウ(Guinea-Bissau)への旅行中に感染症(infection)にかかり,危うく足を失う(cost)ところだったため,80代半ばにして(well into),彼はとっくの昔に世界の僻地(fng parts)への調査旅行をやめることに同意していた。

「ジャーナリズムって,ちょっと麻薬みたいなものだ。」と彼は認めた。「あの本能(instinct)は永遠に消えないと思う。」
彼の人生をスリラー小説と同じくらい充実させ,刺激的なものにしたのは,まさにこの本能だった。

(転載了)
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私の,氏の作品 読破計画は 2015年に終了したので,2018年の『ザ・フォックス(The Fox)』を まだ読んでいません。 

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2025年6月 5日 (木)

未来の歴史家を悩ますであろう,トランプに関する書籍

トランプに関して書かれた多くの書籍から 1冊の紹介を 英文Wikipedia で読んでみました。
下記,拙訳・転載します。

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Confidence Man: The Making of Donald Trump and the Breaking of America
「コンフィデンス・マン: ドナルド・トランプの誕生と米国の破綻」

著者 Maggie Haberman(マギー・ハバーマン)
      1973年1030日生まれ。米国人ジャーナリスト。‘The New York Times’ のホワイト・ハウス特派員,‘CNN’ の政治アナリスト。以前は,‘the New York Post’,‘the New York Daily News’,‘Politico’ で政治記者として勤務していた。これらの紙面でドナルド・トランプについて執筆し,‘The New York Times’ で 彼の選挙運動,初代大統領時代を取材して著名人となった。

ジャンル            non-fiction
出版社               Penguin Press
発行日               October 4, 2022
ページ数            608
ISBN               978-0-593-29734-6

Content / 内容

001_20250528125501 本書の前半は,大統領選への立候補以前のトランプの経歴を扱っている。ショーン・ウィレンツ(Sean Wilentz)は,本書が「1970年代後半から80年代にかけてのニューヨークの,ペテン師(hustlers),ギャング(mobsters),政治ボス(political bosses),おべっか使いの(compliant)検察官,タブロイド紙のスキャンダル屋(tabloid scandalmongers)が渦巻く半地下の社会におけるトランプ氏の台頭(ascent)に特に重点を置いている。」と述べている。

本書は、エド・コッホ(Ed Koch),ジョージ・スタインブレナー(George Steinbrenner),ロジャー・ストーン(Roger Stone),ルパート・マードック(Rupert Murdoch),ロジャー・エイルズ(Roger Ailes),ルディ・ジュリアーニ(Rudy Giuliani),ロバート・モーゲンソー(Robert Morgenthau),そして特に彼の師(mentor)であるロイ・コーン(Roy Cohn)といった当時の著名人とのトランプ氏の親密な関係を描いている。ジョー・クライン(Joe Klein)によると,ハバーマンは「トランプが最初の妻イヴァナとの離婚を,ゴシップコラムニストのリズ・スミス(Liz Smith)とシンディ・アダムス(Cindy Adams)という2人の間で争わせ(gin),‘the New York Daily News’ で 12日間連続で報道されるに至った経緯を描いている」という。

ハバーマンは,トランプを子供っぽく,おべっかに弱く(easily influenced by flattery),些細なことに執着し(obsessed with trivialities),細部にこだわらず,助言を軽視する人物として描いている。そのため,行政府(executive branch)は「大統領の気まぐれ(whims)や気分(moods),そして敵味方についての考え方に左右され」,大統領は「国全体を自分の気分や感情に反応させるように方向転換させていた。」としている。ハバーマンは,トランプを「脆弱な自尊心(fragile ego)をいじめ衝動(bullying impulse)で覆い隠した,ナルシストでドラマを求める人物(drama-seeker)」だと結論づけている。

Critical reception / 批評家の反応

Slate’ 誌の評論家ローラ・ミラー(Laura Miller)は次のように結論づけている:「『コンフィデンス・マン』が読者に提供するものは,出版前の宣伝文句の多くが説明しているように,長年トランプを取材し,トランプを形作ったニューヨーク出身の記者による,トランプ自身の詳細な肖像である。その結果,単なるスクープの羅列ではなく,米国政治を変革した人物の肖像を描いた,権威ある伝記となっている。」

The Guardian’ 紙の書評家ピーター・コンラッド(Peter Conrad)は次のように書いている:「ハバーマンの著書は,出版前にマスコミに徹底的にリークされたスクープ満載(chockablock)だが,他の競合本と一線を画しているのは,トランプの人格と,彼の私的な悪癖(vices)が公の脅威(menaces)へと転じた経緯に対する洞察力(perceptiveness)だ。悩める精神科医として,ハバーマンはトランプの初期の人生を診断的に検証している。そこには既に彼の狂気(manias)と自己妄想(self-delusions)があからさまに(blatantly)表れていた。」

エリック・アルターマン(Eric Alterman)は ‘The American Prospect’ 紙の書評で,本書の質の高さに驚きを表明した:「しかし,なんと(lo and behold)『コンフィデンス・マン:ドナルド・トランプの誕生とアメリカの破綻』は,嬉しい驚きだった。これは単に未来の歴史家にとっての一次資料であるだけでなく,ショーン・ウィレンツ(Sean Wilentz)とジョー・クライン(Joe Klein)がそれぞれ書評で指摘しているように,文脈に沿って報告されたトランプの台頭の物語は,トランプ氏を理解する(make sense of)上で実際に役立ち,彼がいかにして共和党と主流メディアの両方を意のままに操った(bent)かを示している。」

ショーン・ウィレンツ(Sean Wilentz)は ‘The Washington Post’ 紙の書評で,本書を「我々の最高指導者を描いた,他に類を見ないほど啓蒙的な(illuminating)肖像」と評し,次のように付け加えた:「後世の歴史家たちは,トランプが国家権力の座に上り詰めたことに頭を悩ませるだろう(puzzle over)。
最も優れた歴史家は,ハバーマンの著書から,1970年代初頭からニューヨークを席巻した(overtook)社会,文化,政治,メディア,そして道徳の崩壊がなければ,トランプの台頭はどれも不可能だったことを学ぶだろう。信頼されていた機関の失態(fiasco)が,トランプというウイルス(Trumpian virus)の蔓延を許し,その蔓延を食い止めるあらゆる手段を講じず,その荒廃(devastation)から利益を得,助長し,さらにはそれを称賛したのだ。」

ジョー・クライン(Joe Klein)は ‘The New York Times’ 紙で本書を書評し,次のように結論づけた:「確かに,本書には多くの新発見(revelations)がある。しかし,本書は報道性(newsbreaks)よりも,トランプの人格に関する質の高い考察によってより注目に値する。今後何年にもわたり,米国史上最も厄介な(vexing)大統領に関する一次資料となるだろう。」

ハバーマンは,本書によって初めて明らかになる情報を 出版まで意図的に(deliberately)伏せていた(withheld)と主張する一部の報道関係者から批判された。特に批判者たちは,トランプが2020年の大統領選挙に敗れた後もホワイト・ハウスを去ることを拒否したと描写されている箇所を指摘した。この詳細は,‘CNN’ が20229月の出版直前に本書の抜粋(excerpt)を入手するまで公表されていなかった。

ハバーマンと ‘the New York Times’ の関係者は,この件やその他の出来事が実際に起こったことを,トランプが大統領を退任し,2度目の弾劾裁判(impeachment trial)が終了するまで確認できなかったとして,ハバーマンの決定を擁護した。

(転載了)
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将来 米国が健全な国であるなら,この本を読んで 何故 この男が 大統領になったのか,あるいは なれたのか,理解するのが難しいという書評があるようです。
ショーン・ウィレンツ(Sean Wilentz)の ‘The Washington Post’ 紙の書評 「信頼されていた機関の失態(fiasco)が,トランプというウイルス(Trumpian virus)の蔓延を許し,その蔓延を食い止めるあらゆる手段を講じず,その荒廃(devastation)から利益を得,助長し,さらにはそれを称賛したのだ。」

 

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2025年5月29日 (木)

2017年に出版された,トランプのメンタル・ヘルスに関する本

常人の考えを超えた言動を貫く トランプ大統領を,米国の精神科医や心理学者は どう捉えているのかを調べると,1期目の大統領職の時代に 出版された本がありました。
題して “The Dangerous Case of Donald Trump”(ドナルド・トランプの危険な症例)。

この本を紹介する 英文Wikipediaを 読んでみました。
下記,拙訳・転載します。

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ドナルド・トランプの危険な症例

001_20250527193601 『ドナルド・トランプの危険な症例』 は,法医学精神科医(forensic psychiatrist)のバンディ・X・リー(Bandy X. Lee)が編集した2017年の書籍で,27人の精神科医(psychiatrists),心理学者(psychologists),その他のメンタル・ヘルス専門家によるエッセイが収録され,ドナルド・トランプ米大統領の精神状態が「国家と個人の幸福(nation and individual well being」 に及ぼす「明白かつ差し迫った危険(clear and present danger)」(*映画「今そこにある危機」(1994)の原題と同じ)について論じている。第2版では,エッセイが追加され,改訂・拡充された。リーは,本書はあくまで公共サービス(public service)であり,利益相反(conflict of interest)を回避するため,印税はすべて公共の利益のために寄付されたと述べている。

Synopsis / 概要

著者らは,トランプの精神状態(mental health)が米国民の精神状態に影響を及ぼし,彼の危険な病理(pathology)によって,国が戦争に巻き込まれ(involving),民主主義そのものが損なわれるという重大な(grave)リスクに晒されていると主張している。

その結果,著者らは,トランプの大統領就任は,米国の精神科医が警鐘を鳴らすことを許容するだけでなく,義務付ける緊急事態を呈していると主張している。精神科医が公人(public figures)を直接診察することなく専門的な意見を述べることは倫理に反する(unethical)とする「米国精神医学会のゴールドウォーター・ルール」(the American Psychiatric Association's Goldwater rule)に精神科医が違反していると繰り返し非難されているものの,著者らは,危険性を指摘し評価を求めることと診断(diagnosis)は異なると主張している。
著者らは,米国精神医学会(the American Psychiatric Association)が専門的規範(professional norms)や基準を変えていると批判し,政治的圧力の下で合理的な倫理ガイドラインを言論統制法(gag rule)に変えてしまうのは危険だと主張している。

Reception / 反応

スタンフォード大学ロビンソン・アメリカ史教授エステル・フリードマン(Estelle Freedman)は,この本について次のように述べている:

この洞察に満ちた(insightful)コレクションは,専門家が過去にファシスト指導者や不安定な(unstable)政治家にどのように対応してきたかという歴史的認識に基づいている。差し迫った(imminent)危険に対する「警告義務(duty to warn)」に照らし,公務員のメンタルヘルスに関する発言を抑制する(restraining)倫理性について,米国の精神医学(psychiatry)が再評価した(reassessed)重要な転換点を記録した貴重な一次資料(primary source)である。

医学と法律の専門家が,トランプの行動に関する診断(diagnoses)を思慮深く評価し,政治候補者を精査し(scrutinize),クライアントの不安に対処し,社会構造に及ぼす「トランプ効果」を評価する方法を鋭く(astutely)探究している。

バートン・スウェイム(Barton Swaim)はウォール・ストリート・ジャーナル紙でこの本を評して,「著者らの診断が異なるということは,精神医学の分野,あるいはこの本の価値に大きな信頼を与えるものではない。」と書き,エッセイの著者らは「偏執的(paranoid)」と思われると書いた。

ニューヨーカー誌のジーニー・サック・ガーセン(Jeannie Suk Gersen)によると,「トランプの精神状態をめぐっては奇妙な総意が形成されつつあるようだ。」と述べており,その中にはトランプの大統領としての適性(fitness)を疑う民主党員や共和党員も含まれている。

2017年9月に ‘Salon’ に再掲載されたブログ記事で,ジャーナリストのビル・モイヤーズ(Bill Moyers)は「今秋出版される書籍の中で,『ドナルド・トランプの危険な症例』 ほど緊急性,重要性,そして物議を醸すものはないだろう。」と記した。ロバート・ジェイ・リフトン(Robert Jay Lifton)とのインタビューで,モイヤーズは トランプが「反駁の余地のない(irrefutable)証拠に反する,ますます(increasingly)奇妙な(bizarre)発言をしている。」と述べた。

リフトンは 「彼は現実と明確に接触していないが,それが真の(bona fide)妄想(delusion)と言えるかどうかは確かではない。」と述べた。例えば,トランプがバラク・オバマ前大統領はケニア生まれだと主張した際,「彼はその嘘を巧みに扱っていた(manipulating)だけでなく,間違いなく部分的にはそれを信じていた。」とリフトンは述べた。

カルロス・ロサダ(Carlos Lozada)はワシントン・ポスト紙で,多くの政治家や評論家がトランプを「狂っている(crazy)」と呼んだり,彼の精神状態を疑ったりしていると記した。本書では,精神衛生の専門家たちがその主張を検証し,「トランプ氏のように精神的に不安定な人物に,大統領の生殺与奪の権限(life-and-death powers)を委ねる(entrusted)べきではない。」と結論づけている。

ロサダは,これらの結論は「説得力がある(compelling)」 としながらも,うつ病(depression)などの精神疾患を抱えた大統領が効果的な場合もあれば,精神疾患のない大統領が危険な場合もあると述べている。ロサダは後に,この本を2017年に読んだ「最も大胆な(most daring)」本として挙げている。

2022年9月,それぞれ,ニューヨーク・タイムズ紙とニューヨーカー誌の記者ピーター・ベイカー(Peter Baker)とスーザン・グラッサー(Susan Glasser)が著した著書 『ザ・ディバイダー:ホワイト・ハウスのトランプ,2017-2021The Divider: Trump in the White House, 2017–2021)』 は,ジョン・F・ケリー(John F. Kelly)が20177月から20191月までトランプ大統領の首席補佐官(chief of staff)を務めていた際に,この本を密かに購入していたと報じた。この本のためにケリーにインタビューした著者らによると,ケリーは,不安定で(insecure),自己中心的で(egotistical),病的な嘘つき(pathological liar)だと考えていたトランプに対処する上で,この本が役立つと考えていたという。
(転載了)
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メンタル・ヘルスを疑われるトランプが 2期目を務めています。

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2025年1月26日 (日)

読みたくなる本- “World War II at Sea:A Global History”

OXFORD UNIVERSITY PRESS’ が 14 June 2018 に出版した,第二次世界大戦の海軍(海戦)を中心にまとめた歴史書 “World War II at Sea:A Global History”(Craig L. Symonds著,Hardcover 770 pages)です。
OXFORD UNIVERSITY PRESS’ のサイトに紹介記事があったので読んでみました。
下記,拙訳・転載します。
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001_20241230101201Overview】(概説)

第二次世界大戦の海事史を初めて世界規模の物語形式(narrative account)で解説
1930年のロンドン会議から 1945年の東京湾での降伏まで,世界の海軍の一貫した(cohesive)年代記(chronology)を提示
100枚を超える写真と 23枚の地図を掲載

Description】(記述)

Lincoln and His Admirals(リンカーンとその提督たち)’(リンカーン賞受賞),‘The Battle of Midway(ミッドウェー海戦)’(‘Military History Quarterly’(軍事史季刊誌)の年間最優秀作品賞),‘Operation Neptune(ネプチューン作戦)’(海軍文学/サミュエル・エリオット・モリソン賞受賞)の著者であるクレイグ・L・シモンズ(Craig L. Symonds)は,現在活躍する最も優れた海軍史家(naval historians)の一人としての地位を確立している。
World War II at Sea(海上における第二次世界大戦)” は,彼の最高傑作(crowning achievement)である:1939年から1945年までの世界の海域における海軍の戦いとその交戦国(belligerents)すべてを網羅した物語である。

シモンズは,1930年のロンドン会議から始め,ヨーロッパで再び紛争が勃発し,各国の海軍が互いに対抗するようになり,10年も経たないうちに海軍戦争(naval warfare)に対するいかなる制限も無意味になったことを示している。
World War II at Sea” は,世界的な視点(global perspective)を提供し,主要な交戦(engagements)と人物に焦点を当て,それらの規模と相互関係を明らかにする:スカパ・フロー(Scapa Flow)への Uボート攻撃と大西洋の戦い;ダンケルクからの「奇跡の」撤退とノールウェーのフィヨルドの支配をめぐる激戦(pitched battles);戦争開始時に世界第4位の海軍であったムッソリーニのイタリア王立海軍(Regia Marina)と,太平洋における機動部隊(the Kidö Butai)と日本海軍の優位;真珠湾とミッドウェー;1942年のロシア海軍の苦戦とトゥーロン(Toulon)でのフランス艦隊の自沈;北アフリカ,次いでノルマンディーへの上陸などである。
ここには,自称(self-proclaimed)「海軍の男(Navy men)」であるフランクリン・ルーズベルト(FDR)大統領とチャーチル,他に カール・デーニッツ,フランソワ・ダルラン,アーネスト・キング,山本五十六,エーリッヒ・レーダー,イニーゴ・カンピオーニ,ルイ・マウントバッテン,ウィリアム・ハルゼーといった著名な海軍指導者たち,そして,小規模な攻撃や陸海空共同作戦(amphibious operations)から史上最大の艦隊まで,歴史上最大の海戦で命を危険にさらし,命を落としたあらゆる国籍の何十万人もの水兵と士官たちもいる。

第二次世界大戦は海軍作戦が中心だったと主張する人は多い;それがなぜ,どのように起こったのかを示した人はほとんどいない。シモンズは,正確さと物語の力強さを組み合わせ,海上(および海中)での大規模戦争の仕組みを巧みに解明するだけでなく,戦争そのものの性質に関する知恵も提供している。

Table of Contents

プロローグ:ロンドン,1930

Ⅰ部 ヨーロッパ戦争
1. Unterseebooten(潜水艦:U-ボート)
2. Panzerschiffen(甲鉄艦)
3. Norway(ノールウェー)
4. France Falls(フランス陥落)
5. The Regia Marina(イタリア海軍)
6. The War on Trade, I(貿易戦争,Ⅰ)
7. The Bismarck(ビスマルク)

II部 THE WAR WIDENS(戦争拡大)
8. The Rising Sun(日出ずる国)
9. A Two Ocean Navy(二つの海軍)
10. Infamy(悪名)
11. Rampage(猛威)
12. The War on Trade, II(貿易戦争,Ⅱ)

III部 WATERSHED(分岐点)
13. Stemming the Tide(流れ阻止)
14. Two Beleaguered Islands(苦境の二島)
15. A Two Ocean War(二つに大洋戦)
16. The Tipping Point(転換点)
17. The War on Trade, III(貿易戦争,Ⅲ)

IV部 ALLIED COUNTERATTACK(連合軍の反撃)
18. Airplanes and Convoys(飛行機と車列)
19. Husky(ハスキー)
20. Twilight of Two Navies(二つの海軍の黄昏)
21. Breaking the Shield(シールド破壊)
22. Large Slow Target(大きく,ゆっくりした目標)

V部 RECKONING(報い)
23. D-Day
24. Seeking the Decisive Battle(決戦を求めて)
25. Leyte Gulf(レイテ湾)
26. The Noose Tightens(包囲網締め付け)
27. Denouement(結末)

エピローグ:東京湾,1945

Afterword(後記)

Author Information】(著者情報)

クレイグ L. シモンズ(Craig L. Symonds)は,米国海軍戦争大学のアーネスト J. キング海洋史名誉教授(King Distinguished Professor of Maritime History)であり,米国海軍兵学校(the U.S. Naval Academy)の名誉教授(Professor Emeritus)でもある。同校では 30 年間教鞭をとり,学科長を務めた。

Reviews and Awards】(書評と賞)

Well-written and often original narrative... a very accessible operational and strategic history. - Eric Grove, The Times Literary Supplement
うまく書かれ,しばしば独創的な物語... 非常にわかりやすい作戦上および戦略上の歴史。 - エリック・グローブ,タイムズ文芸付録

Any reader, whether general or specialist, can pick it up, become immersed in its flowing narrative and energetic prose, and come away with a good general understanding of the war at sea, and the central importance of the maritime dimension to the Anglo-American victory in the West. - Nick Hewitt, Military History
一般読者でも専門家でも,誰でもこの本を手に取り,その流れるような物語と力強い文章に浸り,海戦の全般的な理解と,西洋における英米の勝利における海上側面の重要性を理解できる。 - ニック・ヒューイット,軍事史

This truly monumental work really does what it says on the label ... A military work of the first order. - Steve Craggs, Northern Echo
この真に記念碑的な作品は,まさにラベルに書かれている通りの成果を上げている... 第一級の軍事作品である。 - スティーブ・クラッグス,ノーザン・エコー紙

Craig L. Symonds has produced a magisterial volume covering the conflict at sea... The multi-award winning Professor Symonds has shown why he is one of the world's leading naval historians in this book... Highly recommended for those who want to know why the sea was so important from 1939 to 1945 and to undertstand the mechanics behind naval operations. - Paul Donnelley
クレイグ・L・シモンズは,海上での抗争を扱った堂々たる一冊を出版した... 数々の賞を受賞したシモンズ教授は,この本で,なぜ彼が世界有数の海軍史家の一人であるかを証明した... 1939年から1945年にかけて海がなぜそれほど重要だったのかを知りたい方,海軍作戦の背後にあるメカニズムを理解したい方に,強くお勧めする。 - ポール・ドネリー

In World War II at Sea, Mr. Symonds does for the naval struggle what Martin Gilbert did for the conflict on land in his The Second World War. A thoroughly enjoyable read, World War II at Sea sweeps its glass across the worlds oceans and deftly recounts battles that shaped the course of history's greatest war. - Wall Street Journal
World War II at Sea” で,シモンズ氏は,マーティン・ギルバートが『第二次世界大戦』で陸上の抗争にしたことと同じことを,海戦に施している。非常に楽しい読み物である “World War II at Sea” は,世界の海を映し出し,歴史上最大の戦争の行方を決定づけた戦いを巧みに物語っている。 - ウォール・ストリート・ジャーナル紙

Craig Symonds is a seaman and historian of the first order. His telling of this Navy Saga is as vast as the oceans themselves and as gloriously detailed as were the battles for them. - Tom Hanks
クレイグ・シモンズは一流の船員であり歴史家である。彼が語るこの海軍の物語は,海そのものと同じくらい広大で,海戦と同じくらい見事に詳細である。 - トム・ハンクス

A scholarly yet extremely accessible work that will be of value to anyone interested in World War II; this will likely be a new standard on the topic. - Library Journal
学術的でありながら非常に読みやすい作品で,第二次世界大戦に関心のある人にとって価値のあるものとなるだろう;おそらくこのトピックに関する新しい基準となるだろう。 - ライブラリー・ジャーナル誌

Sweeping, majestic, and brilliant are the words that come to mind reading World War II at Sea by distinguished naval historian Craig Symonds. This will be the definitive single volume treatment of the enormously critical naval contributions to winning World War II. - Admiral James Stavridis, USN (Ret), Supreme Allied Commander at NATO 2009-2013, Dean of The Fletcher School of Law and Diplomacy, Tufts University
著名な海軍史家クレイグ・シモンズ著の “World War II at Sea” を読んで思い浮かぶのは,壮大,荘厳,そして素晴らしいという言葉である。これは,第二次世界大戦の勝利に大きく貢献した海軍の貢献を一冊の本にまとめた決定版となるだろう。 - ジェームズ・スタブリディス海軍大将(退役),NATO 最高連合軍司令官(2009~2013年),タフツ大学フレッチャー法律外交学部長

World War II at Sea somehow manages to distill this entire naval history into a single volume without missing a beat. How Craig Symonds accomplished this while keeping the story interesting and the narrative engaging is a fine feat. This book is a treat! - John Prados, author of Islands of Destiny: The Solomons Campaign and the Eclipse of the Rising Sun
World War II at Sea” は,この海軍史全体を,まったくの無駄なく 1冊にまとめ上げている。クレイグ・シモンズが,ストーリーを面白く,物語を魅力的にしながらこれを成し遂げたのは,素晴らしい偉業である。この本は素晴らしい! - ジョン・プラドス,“Islands of Destiny: The Solomons Campaign and the Eclipse of the Rising Sun”(運命の島々:ソロモン諸島の戦いと日出ずる国の失墜)の著者

Craig L. Symonds's World War at Sea is a wonderfully ample and invaluable single-volume naval history of the all-hands-on-deck 1939 to 1945 global conflict. All major naval engagements are concisely and brilliantly recounted here. And there are fine assessments of military leaders like Ernest King and Isoroku Yamamoto. My admiration for this book is boundless! - Douglas Brinkley, Professor of History, Rice University, co-author of Driven Patriot: The Life and Times of James Forrestal
クレイグ・L・シモンズの “World War at Sea” は,1939年から1945年まで全世界が参加した世界規模の戦争について,1巻で非常に充実した貴重な海軍史を記した本である。主要な海軍の戦闘はすべて簡潔かつ見事に記述されている。また,アーネスト・キングや山本五十六などの軍指導者に対する優れた評価も含まれている。この本に対する私の賞賛は限りない! - ダグラス・ブリンクリー,ライス大学歴史学教授,“Driven Patriot: The Life and Times of James Forrestal”(駆り立てられた愛国者:ジェームズ・フォレスタルの生涯と時代)の共著者

Readers will welcome this fine account from a highly qualified guide... A solid storyteller and naval scholar, Symonds mixes politics, strategy, sea battle fireworks, technical details, and personal anecdotes to deliver one of the better single-volume histories of the naval portion of WWII. - Kirkus
読者は,非常に有能なガイドによるこの素晴らしい物語を受け入れるだろう... 堅実なストーリーテラーであり海軍学者でもあるシモンズは,政治,戦略,海戦の華々しい展開,技術的詳細,個人的な逸話を織り交ぜて,第二次世界大戦の海軍部分に関する優れた一冊の歴史書の 1冊を刊行した。 - カーカス

World War II at Sea is an effective, well-written account of the war above, on, and below the oceans that draws on both classic and very recent writing to synthesize a single narrative of the entire conflictno small feat. Even experienced readers will find valuable insights about participants, such as Finland and Italy, that are generally neglected. For anyone seeking a one-stop-shop, up-to-date naval history of the period, World War II at Sea is the book to read. - America in WWII
“World War II at Sea” は,海上,海面,海中の戦争に関する効果的でうまく書かれた記述で,古典的な記述とごく最近の記述の両方を利用して,戦争全体の 1つの物語をまとめている。これは決して小さな偉業ではない。経験豊富な読者でさえ,フィンランドやイタリアなど,一般的に無視されている参戦国に関する貴重な洞察を見つけるだろう。この時代の最新の海軍史をワン・ストップで探している人なら,“World War II at Sea” は読むべき本である。 - “America in WWII
(転載了)
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翻訳されてないようです。

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2024年7月28日 (日)

トランプ銃撃に使われた ‘AR-15’ ライフルを書いたNONFICTION本が去年(2023年) 発行されていた。

The New York Times’ の Sept. 22, 2023付け,‘NONFICTION’ のカテゴリーで
How a Gun Made for Combat Found Its Way Into Millions of Homes
「戦闘用に作られた銃がいかにして何百万もの家庭に普及したか」
の見出し記事がありました。

Nonfiction BookAMERICAN GUN: The True Story of the AR-15by Cameron McWhirter and Zusha  Elinson - のreview 記事です。(By Mike Spies/銃による暴力に焦点を当てた非営利のニュースルーム ‘The Trace’ のシニア・スタッフ・ライター。)

AR-15’ の生い立ち,法律との関係,爆発的普及などが書かれています。

下記,拙訳・転載します。
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キャメロン・マクワーター(Cameron McWhirter)とズシャ・エリンソン(Zusha Elinson)による “American Gun” は,‘AR-15’ ライフルの動かしがたい(grim)歴史をありのままに(unvarnished)詳細に語っている。

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キャメロン・マクワーターとズシャ・エリンソンが “American Gunで語るように,悪名高い(infamous) ‘AR-15ライフルの物語はフランケンシュタインの物語であり,ユージン・ストーナー(Eugene Stoner)という名の天才発明家が怪物の創造者,ヴィクター・フランケンシュタインを演じている。

大学の学位を持たない「アマチュアのいじくり屋(amateur tinkerer)」だったストーナーは,飽くことのない想像力と工学に対する直感的な才能(intuitive gift)を持ち,レストランのテーブルクロスなど,あらゆるところにデザインをスケッチした。1920年代,カリフォルニア州コーチェラ・バレーで子供だった彼は,父親と一緒に狩りに出かけ,「あらゆる種類の発射物(projectiles of all kinds)」に夢中になった(obsessed)。

しかし,ストーナーは最終的に世界を変えるような兵器を思いついたものの,それがどのような結果をもたらすかは想像(fathom)もつかなかった。彼は,アメリカ兵に可能な限り最も効率的な銃,共産主義者の一団を素早く殺害できる銃を持たせたいと考えていた。彼の偉大な功績とその壊滅的な(devastating)結末(aftermath)の記述は,マクワーターとエリンソンの著書の核心をなしており,歴史物語(narrative history)と独自のルポルタージュの傑作となっている。

朝鮮戦争の頃まで,アメリカ兵は依然として,8発の弾丸を装填し,大きな弾丸を発射する精密兵器(precision weapon)である,非常に(brutally)重いM1ライフルを使用していた。1950年の初期の戦いで,アメリカ軍が北朝鮮の勢力に圧倒された後,このライフルではもはや役に立たないことが明らかになった。

第二次世界大戦中に海兵隊員として従軍したストーナーは,航空機用バルブを製造する企業に入社し,そこで設計エンジニアの指導を受け,一種の見習い制度(apprenticeship)を与えられた。正式な教育を受けていなかったため,訓練を受けた同僚たちよりも創造性が増し,頑固さ(hidebound)がなくなった。
自由時間には,ガレージで不格好な(clunkyM1を改良するミッションに乗り出した。1954年,狡猾な(wily)起業家との偶然の出会いが,「アーマライト(Armalite)」の設立につながった。「アーマライト」は,ストーナーの指揮の下,‘AR-15’ を製造し,軍に採用させようとした銃器メーカーだった。

この速射銃はアルミニウム,グラスファイバー,プラスチックでできており,弾丸を込めない状態で約5 ポンド(≒2.3kg)の重さだった。銃自体の高温ガスで作動する斬新なリロード・システムと,銃を標的に向け続けるための独自のストックを備えていた。半自動と全自動の設定を切り替える(toggle)ことができた。弾丸は小さく,高速で発射された。

著者は,弾丸が人体に当たると「速度が落ち,エネルギーを放出した」と書いている。M1 の大口径弾丸は人をまっすぐに貫通する傾向があったが,‘AR-15の弾丸は人体に着弾すると不安定になり,「竜巻のように人体を引き裂き,らせん状に回転しながら(spiraling and tipping)臓器,血管(blood vessels),骨を破壊した(obliterated)。」

この武器の明らかな凶暴性(ferocity)にもかかわらず,「アーマライト」は軍との大型契約を獲得できなかった。1959年,銃器メーカーの「コルト」がストーナーの ‘AR-15’ とガスシステムの製造およびサブライセンス権を獲得した。「コルト」は,軍がM16と呼んだ同型ライフルで幸運に恵まれた。この銃には20発の弾倉が装備されており,1966年に軍は兵士のために40万丁以上の銃を発注した。

American Gunは,著者の徹底的な(exhaustive)調査が光る,冷静で正確な言葉で,‘AR-15の主な役割は敵をできるだけ迅速に(expeditiously)虐殺することだったと明確に述べている。この銃は民間向けには使用されていなかった。しかし,コルト社は,5発の弾倉を備えた半自動バージョン「スポーター(Sporter)」をハンター向けに販売した。この銃は人気が出ず,同社は年間数千丁しか生産しなかった。しかし,1977年にストーナーの特許が失効すると,状況は一変した。

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ウォール・ストリート・ジャーナルの記者,マクワーターとエリンソンは,記事の後半部分を見事なほどの抑制力(restraint)で展開する(unspool);冷酷で悲惨な事実が一つずつ明らかになり,緊張が高まるのがわかる。ドアが破られ,最初の便乗者が通り抜ける。彼らが思い描くのは,被害者ではなく,認識できないほど傷ついた遺体ではなく,金儲けだ。彼らの計算(calculus)には社会的責任は含まれておらず,安価で簡単に大量生産できる兵器のメカニックスだけを考えていた。

1980年代後半,‘AR-15はカリフォルニアのギャング抗争や警察との銃撃戦(shootouts)に登場した(showed up)。‘AR-15や類似の武器を禁止する全国的な動きが起こり(ensued),この銃器は広く世間の注目を集め,強力な政治的シンボルとなった。1994年,ビル・クリントン大統領は「アサルト・ウェポン禁止法(assault weapons ban)」に署名し,法律として成立させた。
この法律は 10発以上の弾丸を装填できるマガジンも禁止していたが,すでに流通している武器や付属品には適用されなかった。さらに,この法律には 10年間のサンセット条項(sunset clause)が含まれていたが,著者らは,法案の民主党の提案者が立法交渉が始まる前に愚かにもこの条項を追加したと明かしている。この法律は失敗する運命にあっただけでなく,事態を悪化させたことを本書は示している。

著者らのルポの偉業(feats)のひとつは,銃器メーカーの重役や起業家に記録に残る形で率直に(candidly)語ってもらうことだった,これはほとんど前例のない偉業だ。ある記者は,この禁止令についてこう述べた:「彼らがどんな条項を持っていても,私は回避策や対抗策を考え出すだろう」。銃器メーカーは,‘AR-15’ にわずかな改良を加え,銃の性能に影響を与えずに法律の文言を満たした。生産量と需要が急増し,利益も上がった。

Y2K が近づき,社会の崩壊と大混乱(mayhem)への恐怖が広がると,売上は急上昇した。銃器業界の幹部たちは,こうしたパラノイアは簡単に利用できる(exploitable)ことに気付いた:「パニックのときには大儲けできる」と,ある幹部はマクワーターとエリンソンに語った。
別の幹部は,著者らが「不安定な需要(erratic demand)」と呼ぶものを中心に会社の事業戦略を転換した。年間を通じて銃器を製造する代わりに,部品の製造を外注し,必要に応じて注文を調整した。「我々がしたのは組み立てだけだった。」と幹部は語った。「それは良いモデルだった。」

パラノイア市場は9/11以降拡大した。その後,イラクとアフガニスタンでの戦争により,‘AR-15’ はアメリカ人の想像力の中にさらに深く根付いた。これは英雄のライフルであり,銃器メーカーはそれをはっきりと連想させた。著者らは,禁止前の30年間に,業界は ‘AR-15’ スタイルのライフルを40万丁製造したと書いている。
10年間の禁止期間中,その数は90万丁近くにまで増加した。他の銃器の販売が低迷する中,このライフルには「なりたい要素(wannabe factor)」があったと,製造元「シグ・ザウアー(Sig Sauer)」の商業販売責任者は述べ,「人々は特殊部隊員(Special Forces guy)になりたがっている。」と付け加えた。

2004年に禁止令が解除されると,扉が一気に開いた。「プライベート・エクイティ(Private Equity」社の最高経営責任者だった銃愛好家(gun enthusiast)が市場に参入し,「フリーダム・グループ」という会社とともに,‘AR-15型の銃を国中に氾濫させた。

マクワーターとエリンソンは「フリーダム・グループ」から内部文書を入手した。その中には,暴力的なビデオゲームに同社の銃を登場させることを「これらのゲームを体験する次世代にブランドへの好意を植え付ける」ための手段として主張するマーケティング・チームの「極秘」メモが含まれていた。電子メールの中で,ある会社幹部は,この戦略がいかにうまく機能しているかに驚嘆した。

American Gunが必然的な結末に向かって突き進むにつれ,目をそらしたくなる。著者らは,2012年にコロラド州オーロラの映画館とサンディ・フック小学校(Sandy Hook Elementary School)で起きた銃乱射事件から,パークランド,ユバルデなど,頻度と致命度(deadliness)が増す銃乱射事件を詳しく述べている。サンディ・フックでは,警察官が小さなトイレに入ったが,自分が見ているものが理解(comprehend)できなかった。「しばらくして,彼はそれが山積みの上に横たわっている小さな男の子の顔だと気づいた。」と著者らは書いている。「何の山だ?彼は下を見た。彼が見ていたのは子供たちの山だった。」

サンディ・フック銃撃事件の葬儀が始まった日,「フリーダム・グループ」の取締役会は緊急会議を開き,同社の ‘AR-15’ ライフルの収益をさらに高める銃身(gun barrel)製造業者の買収を決議した。サンディ・フック銃撃事件は「ひどく恐ろしい大惨事(awful horrific huge tragedy)だった。」と「フリーダム・グループ」の最高経営責任者は後に証言で述べた。「しかし,それが事業の長期的な資本決定に及ぼした影響は,何ら要因ではなかった」

2021年末までに,米国人は2000万丁以上の ‘AR-15型銃を所有しており,わずか25年で50倍に増加した。“American Gunは,恐怖を利益に変える産業と 増え続ける民間人の死者が良心の呵責をほとんど感じさせない真実を,堂々と描き出している。政策立案者も一般市民も,この本から学ぶことは多い。

AMERICAN GUN: The True Story of the AR-15 | By Cameron McWhirter and Zusha Elinson | 473 pp. | Farrar, Straus & Giroux | $32

(転載了)
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戦闘用兵器として開発された 半自動銃 2,000万丁以上が 民間に存在する事実は 尋常とは言えません。

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2024年7月19日 (金)

ニューヨーク・タイムズが選んだ 2023年のベスト・ブックス 10冊

The New York TimesNov. 28, 2023付けで  “The 10 Best Books of 2023を発表しました。
選出はThe staff of The New York Times Book Review’ によるもので 2023年の 傑出した(standout)フィクションとノン・フィクションを5冊ずつ選んでいます。

下記,拙訳・転載します。
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毎年,春から数ヶ月かけて,我々は机に届く最も素晴らしい本について議論する。愛する家族,我々を夢中にさせるノンフィクションの物語,忘れられない架空の世界など。そのすべては,その年の最高の本を決めるという一つの目標に向かっている。

議論は白熱する。我々は議論し,説得し,そして(何よりも)最後の最後まで悩み(agonize),投票で10冊の本(フィクション5冊,ノンフィクション5冊)にたどり着く。

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Here they are, the 10 Best Books of 2023.
以下が2023年のベスト10冊である。

【FICTION】

The Bee Sting, by Paul Murray
「ビー・スティング」ポール・マレー著

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マレーは,危機に取り組む(grappling)アイルランドの家族を描いた悲喜劇(tragicomic tale) “The Bee Sting” で華々しく(triumphant)復帰を果たした。バーンズ家(ディッキー,イメルダ,キャス,PJ)は裕福なアイルランドの一族だが,2008年の金融危機以降,財産が急落し(plummet)始める。
しかし,この共通の苦難に加えて,4人全員がそれぞれに悪魔(demons)と戦っている:長く隠していた秘密の再浮上(re-emergence),脅迫(blackmail),過去の恋人の死,厄介な(vexing)友人同士の敵対関係(frenemy),心配な(worrisome)インターネットの文通相手などだ。この小説は,孤立を深めるバーンズ家の物語を織り合わせたものだが,マレーが織り成す全体的なタペストリーは,荒廃(desolation)ではなく希望だ。この本は,周囲の世界が崩壊する(crumbles)中でも,ある家族の信じられないほどの愛と回復力(resilience)を紹介する(showcases)本だ。

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Chain-Gang All-Stars, by Nana Kwame Adjei-Brenyah
「チェイン・ギャング・オール・スターズ」 ナナ・クワメ・アジェイ=ブレニヤー著

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死刑囚たち(death-row inmates)が自由を得るためにテレビで決闘するというディストピア風刺(dystopian satire)の,アジェイ=ブレニャーのデビュー小説は,2018年の短編集 “Friday Black” に続くもので,読者を熱心な観客に引き込み,リングサイドに座る血に飢えた(bloodthirsty)ファンの共犯者(complicit)としてしまう。
「この本を読んで,私が嘲笑されていると認識している世界のこれらの部分について笑ったのと同じくらい,もっと認識を減らせばよかったとも思った。」と,ギリ・ネイサンはレビューで書いている。「『チェイン・ギャング・オールスターズ』の米国は,ばかげた(absurd)点まで鋭くなっているが,我々の米国と似ている」。お互いと自由のどちらかを選ばざるを得ない2人のトップ選手の悲痛なラブ・ストーリーの中で,格闘シーンは非常によく書かれており,これほど病んだ世界を受け入れるのがいかに簡単であるかを示している。

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Eastbound, by Maylis de Kerangal
「イーストバウンド」 メイリス・ド・ケランガル著

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デ・ケランガルの短く叙情的な小説は,2012年にフランスで初版が出版され,ジェシカ・ムーアが新たに翻訳したもので,アリオチャ(Aliocha)という名の若いロシア人徴集兵(conscript)が他の兵士たちと一緒にシベリア横断列車に乗る様子を描いている。雰囲気は暗い(grim)。乱闘(brawl)の後,周囲の状況に動揺したアリオチャは脱走(desert)を決意し,そうすることで,民間人の乗客であるフランス人女性と不安定な同盟を結ぶことになる。
​​彼らの荒涼とした環境デ・ケランガルはシベリアの風景を「手袋が裏返しになったような,生々しく,荒々しく,空虚な(raw, wild, empty)世界」と表現しているは,危険度をさらに高めるだけだ。「この広大な土地と列車内での存在の不安定さは,人間のつながりの重要性を強調する」と,私たちの評論家ケン・カルフスは書いている。「戦時中,このつながりは解放(liberation)と救済(salvation)をもたらすかもしれない。」

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The Fraud, by Zadie Smith
「ザ・フラウド」 ゼイディー・スミス著

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被告(defendant)が貴族(nobleman)を装った(impersonating)として告発された19世紀の有名な(celebrated)刑事裁判を基にしたスミスの小説は,ロンドンとイギリスの田舎の広大で鋭い一面(panoply)を描き,時代の社会的論争を少数の登場人物にうまく位置づけている。その中でも特に重要なのは,裁判を熱心に(avidly)追う未亡人のスコットランド人家政婦と,原告(claimant)の代理として証言する(testifies)元奴隷のジャマイカ人使用人だ。
スミスは小説家であると同時に有能な批評家でもあり,家政婦の雇い主である,かつては人気作家でディケンズの良きライバルだった人物を通じて,誰の物語が語られ、誰の物語が無視されているかを振り返りながら、当時の文学文化を風刺する機会を十分に見つけている。「いつものように,時が経つにつれてロンドンそのものとつながっていく(contiguous)ゼイディー・スミスの心の中にいるのは楽しいことだ。」とカラン・マハジャン(Karan Mahajan)はレビューで書いている。「ディケンズは死んだかもしれないが,ありがたいことにスミスは生きている。」

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North Woods, by Daniel Mason
「ノース・ウッズ」 ダニエル・メイソン著

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メイソンの野心的で万華鏡のような(kaleidoscopic)小説は,読者をマサチューセッツ州西部の荒野にある家の入口(threshold)に導き,300年,400ページ近くにわたってその世界に先導する(ushers)。手紙,詩,歌詞,日記,医療記録,不動産物件リスト,ビンテージ植物イラスト,そして通常は小説のページには綴じられないさまざまな一時的な資料が散りばめられた(interspersed)セクションで,植民地時代から現代に至るまで,その地の住民を知ることができる。
リンゴ農家,奴隷制度廃止論者(abolitionist),裕福な製造業者がいる。甲虫のつがい。風景画家。幽霊。彼らの人生 (と死) は,一時的に交差するが,大部分はまばゆいばかりのデコパージュで重なり合っている。その間ずっと,自然界は,長い間苦しみ,時には破壊的な存在として見守っている。メイソンは,あなたが好きなだけ滞在し、好きなように過ごすことを勧めてくれる、最高に(consummate)親切なホストである。

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NONFICTION

The Best Minds, by Jonathan Rosen
「ベスト・マインズ」 ジョナサン・ローゼン著

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本書は,著者とマイケル・ラウダー(Michael Laudor)の長年の友情を,ソファに釘付けにするような形で詳細に再現したものである。ラウダーは,最初はイェール大学ロー・スクールの卒業生として統合失調症(schizophrenia)の偏見をなくした(destigmatizing)ことで話題となり,その後,妊娠中の恋人を包丁で刺殺したことで話題となり,その後,厳重警備の精神病院に送られた。

切り抜き(clips),裁判所や警察の記録,法律や医学の研究,インタビュー,日記,ラウダーの熱のこもった文章(自身の本の企画書を含む)を参考に,ローゼンは,才気と狂気の間の曖昧な(porous)境界線,施設からの退所(deinstitutionalization)によって生じる複雑な政策上の問題,そしてコミュニティの倫理的義務(ethical obligations)について検証している。“The Best Minds” は,長い治療の苦労(slog)よりも利益,手っ取り早い解決策,ハッピーエンドを優先する社会に対する、思慮深く構成され、豊富な情報源に基づいた告発(indictment)である。

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Bottoms Up and the Devil Laughs, by Kerry Howley
「ボトムズ・アップ・アンド・デビル・ラフ」 ケリー・ハウリー著

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国家安全保障国家(the national security state)とそれに巻き込まれた(entangled)人々についてのハウリーの記述には,作り話家(fabulists),真実を語る人,戦闘員,内部告発者(whistle-blowers)などが含まれている。中心にいるのは,国家安全保障局(the National Security Agency)の契約労働者で,スパイ法(the Espionage Act)に基づき,‘The Intercept’ に機密情報を漏らした罪で有罪判決を受け,63ヶ月の懲役刑を宣告されたリアリティ・ウィナー (Reality Winner)「本名だが,今は忘れよう」) である。
プライバシーとデジタル監視に関するハウリーの探求は,最終的に陰謀論者(conspiracy theorists)と ‘QAnonの荒地へと彼女を導く。それは驚くべき、そして必然的なストーリー展開である;もちろん,闇の国家(deep state)を巡る旅は,彼女をウサギの穴へと導くだろう。その結果,この本は,心を奪われる,ダークなユーモアがあり,あらゆる意味で分類不能な(unclassifiable)本になった。

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Fire Weather, by John Vaillant
「ファイア・ウェザー」 ジョン・ヴァイヤン著

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2016年,カナダのアルバータ州フォート・マクマレー(Fort McMurray)で猛烈な山火事が発生。時宜を得た “Fire Weather” で,ヴァイヤンは,火災がどのように始まり,どのように拡大し,どのような被害をもたらしたか,そしてこの大惨事につながった一連の要因について詳しく述べている。消防士,石油労働者,気象学者,保険査定士などが紹介されている。
しかし,ここでの真の主人公(protagonist)は,手に負えない恐ろしい力であり,飽くなき欲望を持つ火災そのものである。この本は,現実のスリラーであると同時に,何が起こったのか,そして気候が変化しても人間は変化しないのに,なぜ火災が何度も繰り返し起こるのかを瞬間ごとに記録したものである。

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Master Slave Husband Wife, by Ilyon Woo
「マスター・スレイブ・ハズバンド・ワイフ」 イリョン・ウー著

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1848年,ジョージア州の奴隷夫婦,エレンとウィリアム・クラフトは,病弱な若い白人農園主とその男性奴隷に変装して(disguised)北へ大胆に逃亡した。エレンは裕福な御曹司(scion)に変装し,ストーブパイプ帽をかぶり,濃い緑色の眼鏡をかけ,読み書きができない(illiteracy)のを隠すために右腕を吊っていた。あり得ないことだが,危機一髪(close calls)の場面や断固たる(determined)奴隷捕獲者たちにもかかわらず,クラフト夫妻は逃亡に成功し,イギリスで奴隷制度廃止論者の講演会を回り,旅の記録を一般向けに執筆した。
米国の有力な奴隷制度廃止論者が「この国の歴史上最もスリリングなものの1つ」と評した彼らの物語は,それだけでも注目に値する。しかし,クラフト夫妻の逃亡を小説のような詳細さで描き出す(conjures)ウーの没入感あふれる(immersive)描写は,調査,物語の話術(storytelling),共感、洞察力(insight)の功績(feat)でもある。

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Some People Need Killing, by Patricia Evangelista
「サム・ピープル・ニード・キリング」 パトリシア・エヴァンジェリスタ著

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この力強い本は,主にロドリゴ・ドゥテルテがフィリピン大統領を務め、超法規的殺人(略してEJKextrajudicial killings)という殺人キャンペーンを展開した2016年から2022年までの年を扱っている。このような殺人が頻繁に行われるようになったため,当時 独立系ニュースサイト「ラップラー(Rappler)」の記者だったエヴァンジェリスタのようなジャーナリストは,コンピューターにフォルダーを保存し,日付ではなく死亡時刻で整理していた。
エヴァンジェリスタは,回想録の親密な暴露とフィリピンの歴史のより大きな文脈を提供しながら,言語にも細心の注意を払っている。それは彼女が作家だからというだけではない。言語は,コミュニケーション,否定,脅迫,甘言(cajole)に使用できる。言語は嘘を広めることもできるが,真実を語ることもできる。

(転載了)
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日本語に翻訳された本はないようです。

この記事を読んで 最も感じたことは 使われている単語に 私には 馴染みのない,難しいものが多いこと,おそらく教養に関係しているのでしょう。

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2024年5月 3日 (金)

有名な小説の書き出しは-

GQ UK’ の ‘Culture’,Mar.5,2024付けに
First impressions count – these opening lines are the best in literary history
「第一印象は重要これらの書き出しは文学史上最高」
のタイトル記事がありました。

人生の折り返しは とっくに過ぎていますが,後学のため読んでみました。
下記,拙訳・転載します。
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サリー・ルーニー(Sally Rooney)の次の小説の冒頭は外れたしかし,それは偉大な小説に匹敵するか?

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第一印象は非常に重要である。この意味では,芸術も人生と何ら変わらない-小説における最高の書き出しは,読むのを止めさせることなく 読者の注意を引きつける。場合によっては,すぐに小説の雰囲気に引き込まれてしまうことがある。時には予期せぬ角度から開始することもある。そしてそれらのいくつかは,あらゆる文学の中で最も有名な引用にある。

しかし,この書き出しはどうだろうか? 「この若者は魅力的に見えなかった。葬儀の時のあのスーツ。歯に矯正器具を付けていて,思春期の若者のこの上ない不快感を覚える。(Didn’t seem fair on the young lad. That suit at the funeral. With the braces on his teeth, the supreme discomfort of the adolescent.)」 これらは,サリー・ルーニーの 4 作目の小説 “Intermezzo” からのものである。彼女の本の周りではそのような過剰表現(hype)があり,彼女の出版社は,まるで映画の予告編のように書き出しから最後までからかっていた(teased)。

ページに掲載されるかどうかを確認するには,9 月にリリースされるまで待つ必要がある。なぜなら,それが素晴らしい冒頭のセリフのもう一つの特徴だからだ:つまり,そこから生まれる期待は,その後の展開によって満たされなければならない。ここではその中から最高のものをいくつか紹介する。

Mrs Dalloway by Virginia Woolf
ダロウェイ夫人/ヴァージニア・ウルフ

Mrs. Dalloway said she would buy the flowers herself.
ダロウェイ夫人は自分で花を買うと言った。

For Lucy had her work cut out for her. The doors would be taken off their hinges; Rumpelmayer's men were coming. And then, thought Clarissa Dalloway, what a morning – fresh as if issued to children on a beach.
なしにろ,ルーシーは,あれもこれもで手いっぱいなのだから。ドアは蝶番から外されるだろう;ランペルメイアーの男達が直しにやって来るから。それにしても,とクラリッサ・ダロウェイは思った,なんとすてきな朝だろう―まるで浜辺にいる子供らに降り注ぐように新鮮だ。
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ヴァージニア・ウルフのモダニズムの傑作は,裕福な(well-to-do)ロンドンの主婦が主催する盛大なパーティーの日に続く。 オープニングでは,ウルフが登場人物たちの頭の中をくねくねと進み(wriggles),彼らの意識の流れが思考から思考へとどのように流れていく(darts)かを示す様子がすぐに確立される。

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A Tale of Two Cities by Charles Dickens
二都物語/チャールズ・ディケンズ

It was the best of times, it was the worst of times, it was the age of wisdom, it was the age of foolishness, it was the epoch of belief, it was the epoch of incredulity, it was the season of Light, it was the season of Darkness, it was the spring of hope, it was the winter of despair, we had everything before us, we had nothing before us, we were all going direct to Heaven, we were all going direct the other way – in short, the period was so far like the present period, that some of its noisiest authorities insisted on its being received, for good or for evil, in the superlative degree of comparison only.
それは最高の時代であり,最悪の時代だった。知恵の時代であり,愚かさの時代だった。信念の時代であり,不信の時代だった。光の季節であり,暗闇の季節だった。希望の春であり,絶望の冬だった。我々の前に全てがあり,我々の前に何もなかった。我々は皆,真っすぐに天国を目指しており,また一路その逆を歩んでいるかのようだった ― 要するに,この時代は現代とあまりにも似ており,最もうるさい権威者の一部は,良くも悪くも,この時代を最上級の比較においてのみ受け入れようと主張した。

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非常に分厚い(chunky)小説の非常に分厚い書き出しの文。チャールズ・ディケンズは決して内気で隠居しているわけではないが,『二都物語』の冒頭 ― フランス革命時の二都市はロンドンとパリだった -を見れば,この広範囲に広がった(sprawling)本が大文字Ecapital-E)のすべてについての物語であることが明らかだ。

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Anna Karenina by Leo Tolstoy
アンナ・カレーニア/レフ・トルストイ

Happy families are all alike; every unhappy family is unhappy in its own way.
幸福な家庭は みな似ている;不幸な家庭はいずれもそれぞれに不幸なものである

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最も有名な書き出しの 1つであるこの一文は,社会理論を提示しているが,同時に約束も提供している:これから我々は,非常に不幸な - そして非常に特異な不幸な - 家族についての物語を読み始める。 その後に起こるのは,アンナ・カレーニナとヴロンスキー伯爵の間のもつれた(tangled),運命の愛の関係である。

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Midnight’s Children by Salman Rushdie
真夜中の子供たち/サルマン・ラシュディ

I was born in the city of Bombay… once upon a time. No, that won’t do, there’s no getting away from the date: I was born in Doctor Narlikar’s Nursing Home on August 15th, 1947. And the time? The time matters, too. Well then: at night. No, it’s important to be more… On the stroke of midnight, as a matter of fact. Clock-hands joined palms in respectful greeting as I came. Oh, spell it out, spell it out: at the precise instant of India’s arrival at independence, I tumbled forth into the world.
私はボンベイ市で生まれた ・・・ 昔々のこと。いやそれじゃだめだ,日付から逃れるわけにはいかない:ナルリカル医師の産院で 1947815日に生まれた。何時に? 時間も重要だ。そう:夜だ。いや,もっと正確であることが重要だ ・・・ えー,実は真夜中かっきりだった。時計の針が恭しく手を合わせて私の誕生を迎えてくれた。ほう、もっと書くなら:つまり,まさにインド独立達成の瞬間に,私は世界に転げ落ちた。

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『真夜中の子供たち』は,現存する英国で最も偉大な作家の一人であるサルマン・ラシュディの最高の小説かもしれない - 2008年に,ブッカー賞の最初の40年間で最高のブッカー賞受賞作に選ばれた。書き出しの段落ですぐに,サリーム・シナイの声が我々を惹きつける。サリーム・シナイはとりとめのない(meandering)語り手で,英国からインドが独立して最初の1時間に生まれた他のすべての子供たちと同様、テレパシー能力を持っている。

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Pride and Prejudice by Jane Austen
高慢と偏見/ジェイン・オースティン

It is a truth universally acknowledged, that a single man in possession of a good fortune, must be in want of a wife.
裕福で独身の男が,妻を望んでいるにちがいない,というのは 普遍的に認められる真実である。

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非常に有名で,オンラインでもよく取りざたされているが,史上最高の古典ロマンスの 1つである『高慢と偏見』をまさに期待するだろう。この広く認められた真実に続くことは,全体的により複雑で イライラさせる(nail-biting)が,最終的にはすべてうまくいく。

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Trainspotting by Irvine Welsh
トレインスポッティング/アーヴィン・ウェルシュ

The sweat wis lashing oafay Sick Boy; he wis trembling. Ah wis jist sitting thair, focusing oan the telly, tryin no tae notice the cunt. He wis bringing me doon. Ah tried tae keep ma attention oan the Jean–Claude Van Damme video.
シック・ボーイの額から,汗が滝のように流れ落ちていた;震えている。俺はひたすらテレビを見つめ,やつに気づかないふりをした。こいつにはうんざりだ。俺は,ジャン=クロード・ヴァン・ダムのビデオのことだけに注意を向けようとした。

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罵り(swearing),ヘロインの禁断症状(withdrawal symptoms),そして強烈なスコットランド訛り - 初めて見たときから,『トレインスポッティング』がどのようなものかを正確に知る。 顔を殴り,これらのページに正確に何が含まれるかを明確な言葉で教えてくれる書き出しの1つ。映画化では違う方向に進んだが,同様に良かった。

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Moby-Dick by Herman Melville
白鯨/ハーマン・メルヴィル

Call me Ishmael.
私をイシュマエルと呼びなさい。

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最初の文はわずか 3単語だが,『白鯨』は大きい:大きな魚 (ここで話しているのがマッコウクジラ(sperm whale)なので,厳密には哺乳類) を題材とした壮大な小説である。我々のナレーターであるイシュマエルは,名ばかりの(titular)鯨とその不倶戴天の敵(sworn enemy)であるエイハブ船長よりも脇役だが,途中でいくつかの哲学的な脱線(digressions)を伴いながら,物語を語るのは彼である。

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Invisible Man by Ralph Ellison
見えない人間/ラルフ・エリソン

I am an invisible man. No, I am not a spook like those who haunted Edgar Allan Poe; nor am I one of your Hollywood-movie ectoplasms. I am a man of substance, of flesh and bone, fiber and liquids – and I might even be said to possess a mind. I am invisible, understand, simply because people refuse to see me.
私は目に見えない人間だ。いや,私はエドガー・アラン・ポーにつきまとった人々のような幽霊ではない; 私はハリウッド映画の心霊体の一人でもない。私は物質,肉と骨、繊維と液体を持つ人間であり,精神を持っているとさえ言えるかもしれない。私が目に見えないのは,単に人々が私を見ることを拒否しているからと理解している。

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『見えない人間』は 20世紀の偉大な小説の 1つであり,米国黒人体験を微妙に実験的に扱った作品である。その書き出しでは,人々があなたの存在を受け入れることを拒否した場合,あなたは物理的には見えるが,社会的には見えなくなるという中心的な前提(premise)が提示されている。これらの最初の文は,その後に続く物語を反映している:ファンタジー色を帯びているが,非常に政治的である。

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Bridget Jones’s Diary by Helen Fielding
ブリジット・ジョーンズの日記/ヘレン・フィールディング

January: An Exceptionally Bad Start. Sunday 1 January. 129 lbs (but post-Christmas), alcohol units 14 (but effectively covers 2 days as 4 hours of party was on New Year), cigarettes 22, calories 5424.
1月:非常に悪いスタート。 11日 日曜日。 体重129ポンド(ただしクリスマス後),アルコール単位 14(ただし,新年はパーティー4時間だったので実質2日分),タバコ22本,カロリー 5424

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1996年,ヘレン・フィールディングは,神経質で(neurotic)独身の 30代のブリジット・ジョーンズを世界に紹介した。彼女は生活と愛における功績をひるむことなく詳細に記録している。最初の日記の書き出しで,彼女はこれからも続けようと思っていることを始める。

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The Bell Jar by Sylvia Plath
ベル・ジャー/シルヴィア・プラス

It was a queer, sultry summer, the summer they electrocuted the Rosenbergs, and I didn’t know what I was doing in New York.
奇妙で蒸し暑い夏,彼らがローゼンバーグ一家を感電死させた夏で,私はニューヨークで何をしていたのかわからなかった。

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シルヴィア・プラスの『ベル・ジャー』の書き出しは,うだるような(oppressive)暑さ,早すぎる死,そして目的のなさといった深い不安感を即座に引き起こす。小説が進むにつれて,この最初の文はますます意味を帯びてくる。

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Metamorphosis by Franz Kafka
変身/フランツ・カフカ

As Gregor Samsa awoke one morning from uneasy dreams he found himself transformed in his bed into a gigantic insect.
ある朝,グレーゴル・ザムザがなにか気がかりな夢から目をさまし,自分がベッドの中で 巨大な虫に変わっていることに気付いた。

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フランツ・カフカの不穏な短編小説の最初の一行は,パロディの題材になるほどよく知られているが,文脈を踏まえて読むと,本当に心に響く。人間が虫になるという要点を的確に捉えていると同時に,適切に説明されることのない「不安な夢(uneasy dreams)」についての少しぞっとするような言及も加え,物語の不気味な(uncanny)謎の雰囲気を保っている。

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Fear and Loathing in Las Vegas by Hunter S Thompson
ラスベガスをやっつけろ/ハンター・S・トンプソン

We were somewhere around Barstow on the edge of the desert when the drugs began to take hold. I remember saying something like “I feel a bit lightheaded; maybe you should drive…” And suddenly there was a terrible roar all around us and the sky was full of what looked like huge bats, all swooping and screeching and diving around the car, which was going about a hundred miles an hour with the top down to Las Vegas. And a voice was screaming “Holy Jesus! What are these goddamn animals?”
麻薬が蔓延し始めたとき,私たちは砂漠の端にあるバーストーあたりのどこかにいた。「ちょっと頭がくらくらする;車に乗ったほうがいいかもしれない」みたいなことを言ったのを覚えている。 そして突然,私たちの周りで恐ろしい轟音が鳴り響き,空は巨大なコウモリのようなものでいっぱいになり,すべてが急降下し,金切り声を上げ,ラスベガスまでトップで 時速約100マイルで走っている車の周りに飛び込んだ。そして声が「聖なるイエスよ!このいまいましい動物は何ですか?」と叫んでいた。

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ハンター・S・トンプソンの気の狂った(gonzo)小説は,作者と同じくらい突飛な(outlandish)作品であるが,恐るべき薬物摂取の描写がトンプソン自身をモデルにしていることを考えると,何の驚きもない。これは最初の段落で紹介されたテーマである:幻覚によるコウモリが急降下し始めると,我々はとんでもない事態に陥ることがわかる。

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(転載了)
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アーヴィン・ウェルシュの『トレインスポッティング』は スコットランド訛りそのままの文章なので 翻訳不能で,文献を参考にしました。

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2024年4月 3日 (水)

“Japan’s Holocaust” が出版された。

櫻井よしこさんが そのXでー
2次大戦まで日本は3,000万人を殺害したというとんでもない大嘘を書いた本が3月に出版予定です。『Japan’s Holocaust』で,ナチスのユダヤ人大虐殺は600万人,3,000万人はなんと5倍です。あまりのでたらめさ。日本政府と日本人全員が徹底的に反論すべきです。」と書いています。
これに対して 作者 リッグ氏は-
はっきり言わせてもらうと,この櫻井という人はバカなのか。彼女はハワイ大学に通っていたということなら,英語を話せる人なので,ワシントンD.C.の国立公文書館に行って,証拠を見てくることをお勧めする。彼女は大日本帝国の犠牲者を否定する偏屈者だ。」と語り,櫻井氏と対談をしたいと申し出ている-
と伝えられています。

Amazon のこの本の広告で,その内容を次のように書いています。
(以下,拙訳します。)
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Japan's Holocaust: History of Imperial Japan's Mass Murder and Rape During World War II
「日本のホロコースト:第二次世界大戦中の大日本帝国による大量殺人と強姦の歴史」
Paperback – March 19, 2024
by Bryan Mark Rigg Ph.D. (Author), Andrew Roberts (Foreword)

001_20240401160901 「日本のホロコースト」は,1927年から 1945年の太平洋戦争およびアジア戦争中の日本の大量殺人と性犯罪を包括的に調査したものである。

「日本のホロコースト」は,5ヶ国の 18以上の研究施設で行われた研究を組み合わせて,1927年から 1945年までの大日本帝国のアジアと太平洋全域での軍拡と無謀な(reckless)作戦中の残虐行為(atrocities)を調査します。 この本は,日本がヒトラーのナチス・ドイツよりもはるかに多くの人々を虐殺して(slaughtering),少なくとも3,000万人の命を奪った(claimed)ことを確認するための,最新の学問と新しい一次研究をまとめたものである。

「日本のホロコースト」は,裕仁天皇が軍団(legions)が犯した残虐行為を知っていただけでなく,実際に彼らに命令したことを示している。南京レイプ(the Rape of Nanking)や他の多くの事件で示されたように,彼らが最も堕落した(depraved)人間の想像の域を超えたとき,彼は彼らを止めるために何もしなかった。「日本のホロコースト」は,南京レイプがアジア戦争中の独立した出来事ではなく,むしろ1927年から1945年までのアジアと太平洋におけるすべての作戦において日本がどのように行動したかを代表するものであったことを,痛ましく詳細に(painful detail)記録する。

この時期,大量殺人(mass murder),強姦,経済搾取(economic exploitation)が日本の手口(modus operandi)であり,ヒトラーの親衛隊 ‘Death’s Head outfits’(頭蓋骨服)がその残虐行為を隠蔽しようとしたのに対し,裕仁の軍団はその残虐行為を大々的に熱狂的に(fanfare and enthusiasm)公然と行った。 さらに,ドイツは第二次世界大戦後,自らの犯罪を償い(atone),その記録を残すために多くのことを行ってきたのに対し,日本は犯罪に対する賠償(reparations)と戦時中の過去について国民に教育する努力において全く恥ずべきこと(disgraceful)を行ってきた。 驚くべきことに(shockingly,日本は概して犯罪者と戦時中の過去を美化(glorify)し続けている。

About the author
ABOUT BRYAN

002_20240401160801 ブライアン・マーク・リッグは『ヒトラーのユダヤ人兵士(Hitler’s Jewish Soldiers)』の著者であり,この作品は軍事史部門でウィリアム・E・コルビー賞(the William E. Colby Award)を受賞し,NBC-TVの‘Dateline’ で特集され,11カ国語に翻訳されている。彼はまた,『ヒトラーのユダヤ人兵士の生涯: 第三帝国のために戦ったユダヤ系男性の語られない物語(Hitler’s Jewish Soldiers: Untold Tales of Men of Jewish Descent Who Fought for the Third Reich)』と『ヒトラーの兵士に救われたラビ(The Rabbi Saved by Hitler's Soldiers)』の著者でもある。

(転載了)
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By Wikipedia

ブライアン・マーク・リッグ(1971316日生)は,米国の作家,軍事史家,講演者。
イェール大学で歴史学の学士号を取得,ケンブリッジ大学の大学院で1997年に修士号を,2002年に博士号を取得している。米海兵隊で士官としての勤務した経験もある元軍人。
(略)
リッグ氏は著作に加えて,米国陸軍大学,南メソジスト大学,ウェスト・ポイントの陸軍士官学校など,いくつかの大学で歴史学の教授としても働いている。彼は,CNNNPR,ニューヨーク・タイムズなどのさまざまなメディアに頻繁に寄稿してきた。
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広島と長崎の原子爆弾による死者は 合計 約21万人で,多くは非戦闘員です。
3,000
万人に較べれば 大したことはない,ということでしょう。

日本語版の出版は未定のようですが,現代の日本人は この本(に書かれたこと)をどのように評価すべきでしょうか。
事実が証明された資料に基づく反論が期待されます。

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2024年2月26日 (月)

“AMETORA” という本の名前は “American Traditional” から-

「メンズウェア」と「テーラリング」に関する真相を伝えるサイトSamTalksStyle
REVIEWED – AMETORA: HOW JAPAN SAVED AMERICAN STYLE, BY W. DAVID MARX
「書評AMETORA: 日本はいかにしてアメリカン・スタイルを救ったか,W. デヴィッド・マークス著」
というタイトルの記事がありました。

下記,拙訳・転載します。
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One of the best clothing related reads I’ve had this year.
今年読んだ衣料品関連の読書の中で最高のものの 1 つ。

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 特定のスタイルの称賛と,鋭く(incisive)正確な(accurate)歴史をうまく融合させた本に出会うことはまれである。
通常,どちらか一方のみ得る。
前者は 手に負えず(unwieldy)コーヒー・テーブルの本として終わることが多く,後者は退屈(dull)で陰鬱な(dreary)結果になることがよくある。
AMETORA’ はどちらの結末(fates)にも遭わない。

マルクスは ‘AMETORAの物語を第二次世界大戦後,日本のアイビー・スタイル・ムーブメントがどのように始まったかの歴史を,今はなき ‘VAN Jacketや ‘MEN’S CLUBなどの雑誌に関わった人々のレンズを通して語る。

日本のこのムーブメントの指導者たちが,米国人がそれを採用した方法とは逆の方法で,どのようにしてこのスタイルを広めなければならなかったのかを発見するのは,非常に興味深いものだった。
日本では,それは厳格なルールに基づいて教えられなければならず,米国人は単純に規則の評判の悪い(louche)拒否としてそれを行った。

表紙とタイトルから,特にアイビーに焦点を当てていることがわかるが,すぐにこの本が単なる日本のアイビー・スタイル以上のものを網羅している(encompasses)ことがわかった。
その代わりに,マルクスは日本のアイビーの物語を出発点として,日本のファッションがどのようにしてさらに大きくなったのかを語る。 

ストーリーの残りの部分をネタバレするつもりはないが,取り上げられている他のトピックの概要をいくつか説明しよう:

日本のデニムはいかにして米国の模倣から世界で最も評価されるデニムになったのか
ロックンロール?
この国がどのようにしてコム・デ・ギャルソンや高田賢三などのオール・スター・デザイナーズ・ハウスを輩出するホットスポットになったのか
日本がストリートウェアの中心地(hub)となった経緯 

マルクスの文体と流れはよく考えられており,ストーリーはテンポよく,全体を通して魅力的である。そう,このファッション史はページをめくるようなものなのだ。
200ページを少し超えるくらいで,かなり多くの情報がかなり短い中に詰め込まれている。 

物語は数十年に及び,最後のページでは現在の日本(この本の場合は2015年)のファッションの立ち位置についてコメントしている。

あらゆる時代の素晴らしい写真がいくつか含まれているが,この本がコーヒー・テーブル・ブックになるのではなく,小さな物理的なサイズで出版されたことをうれしく思う。
寝る前に本を読むのが好きな私としては,ベッドで寝ながら読めるのが嬉しい。このジャンルのほとんどの本では,このような贅沢はできない。

この本のプレゼンテーション,編集,物理的な在庫はしっかりしている。表紙は古い本を彷彿とさせる質感があり,良い感じだ。ページの状態は良好で,最も重要なことは,スペルや文法の間違いがどこにも見つからないことである。

AMETORA” には何の欠点も見つからなかった。
素晴らしい本で,一読の価値がある。

(転載了)
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この本の紹介サイトに書かれている文が下記です:

日本と米国のスタイルの相互作用(cross pollination),ヴィンテージ,デニム,アイビー,ロッカー,ミリテリアについてすべてを知りたい人のための完全なオタク・バイブル(nerd bible)。それに加えて,そのすべてを支えている人々,デザイナー,ショップ,メーカー。 『ポパイ』や『メンズ・ファイル』と一緒にぜひお持ちください。 本書は新しいあとがきを加えた新装版である。

 「最近の典型的な『アメリカン』の衣料品をよく見てみると,中に日本のラベルがあることに驚くかもしれない。高級デニムからオックスフォードのボタン・ダウンに至るまで,日本人デザイナーは「アメトラ」,または「アメリカン・トラディショナル」として知られる古典的な米国のスタイルを取り入れている。-そしてそれをユニクロ,鎌倉シャツ,エビス(Evisu),キャピタル(Kapital)などの企業にとって巨大なビジネスに変えた。

この現象は,日本と米国のファッションの間の長い対話の一部であり,実際,現代米国のワードローブの基本的なアイテムや伝統の多くは,米国のファッションを儀式化して(ritualized)保存してきた日本の消費者とファッション専門家(cognoscente)の管理(stewardship)のおかげで,今日も健在である。

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『アメトラ』では,文化史家の W. デヴィッド・マークスが,過去 150年にわたる日本人のアメリカ・ファッションの同化を追跡し,日本の流行の仕掛け人(trendsetters)や起業家がどのようにして米国のスタイルを模倣し,適応し,輸入し,最終的に完成させ,その過程で日本の文化だけでなく,私たち自身のものである文化を劇的に再形成したかを示している。」

(転載了)
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