トランプの姪が書いた暴露本 “Too Much and Never Enough”
トランプを書いた本は たくさんありますが,臨床心理学者である,トランプの姪が書いた本は トランプが育った家庭と,彼が 如何にして 現在の メンタル・ヘルス異常を身に付けたかなど分って 興味深いものがあります。
英文Wikipedia の “Too Much and Never Enough” を下記,拙訳・転載します。
********************** “Too Much and Never Enough : How My Family Created the World's Most Dangerous Man” (直訳 「多すぎて決して足りない:私の家族がいかにして世界で最も危険な男を生み出したか」,邦題 「世界で最も危険な男 『トランプ家の暗部』 を姪が告発」)は,米国の心理学者メアリー・L・トランプ(Mary L. Trump)が,叔父であるドナルド・トランプ大統領とその家族について書いた暴露本(tell-all book)である。2020年7月14日にサイモン&シュスター(Simon & Schuster)社から出版された。本書はトランプ家の力関係を内側から描き,金銭取引の詳細を明らかにしている。その中には,著者が匿名の情報源として叔父の脱税疑惑を暴露したことも含まれている。トランプ家は出版差し止めを求めて訴訟を起こしたが,出版延期は認められなかった。
Author: Mary L. Trump
Language: English
Subject: Donald Trump and his family
Published: July 14, 2020
Publisher: Simon & Schuster
Publication place: United States
Pages: 240
ISBN: 978-1982141462 (hardcover)
Background / 背景
この本の著者である臨床心理学者(clinical psychologist)のメアリー・L・トランプは,フレッド・トランプ・ジュニアの娘であり,フレッド・トランプ・シニアの孫娘である。彼女は大学院生にトラウマ,精神病理学(psychopathology),発達心理学(developmental psychology)の分野で指導を行ってきた。また,ストーカー被害者に関する論文を執筆し,統合失調症(schizophrenia)の研究を行い,著名な医学書 『診断:統合失調症(the prominent medical manual Diagnosis: Schizophrenia)』の一部を執筆した。彼女の父親は1981年,アルコール依存症による心臓発作で42歳で亡くなった。
1999年にフレッド・シニアが亡くなった後,メアリーと弟のフレッド3世は,フレッド・シニアが認知症(dementia)を患っており,遺言はフレッド・シニアの他の子供たちであるドナルド,マリアンヌ,ロバートによって「詐欺と不当な影響によって」取得されたと主張し,遺言検認裁判所で祖父の遺言に異議を唱えた。1週間後,ドナルド,マリアンヌ,ロバートは,脳性麻痺によるてんかん発作を患っていたフレッド3世の当時18ヶ月の息子ウィリアムの健康保険を打ち切った。
ニューヨーク・デイリー・ニュースのインタビューで,メアリーは「叔父と叔母は恥じるべきだ。しかし,彼らは恥じていないはずだ。」と述べた。訴訟は和解し,ウィリアムの健康保険は復活した。 ドナルドは2016年に自身の行動について,「彼らが訴訟を起こし,私は怒っていた。」と説明した。
叔父の大統領選挙運動後,メアリー・トランプはニューヨーク・タイムズ紙と連絡を取り,匿名の情報源としてトランプ家の税務書類一式を提供した。これらの書類は,デイビッド・バーストウ,スザンヌ・クレイグ,ラス・ビュートナーによる2018年の記事でトランプによる財務不正を詳細に解説し,著者らはピューリッツァー賞(説明報道部門:Explanatory Reporting)を受賞した。
バーストウはメアリー・トランプにゴーストライターとして本を執筆しないかと持ちかけた。彼は彼女をエージェントのアンドリュー・ワイリーに紹介し,ワイリーは彼女に数百万ドルの前払い金を提示した。この事実を知ったクレイグとビュートナーは激怒し,タイムズ紙の編集者はバーストウの執筆を禁じた。彼の関与はタイムズ紙の倫理規定に違反すると判断したからだ。メアリー・トランプは最終的にWME(William Morris Endeavor)のジェイ・マンデルと協力し,本の出版権をオークションで 「サイモン&シュスター」に売却した。
Synopsis / 概略
本書は時系列の伝記形式(chronological biography)をとっている; ドナルド・トランプを中心としつつも,メアリー・トランプはトランプ家の他の家族にも重点的に焦点を当て,彼らの相互関係(mutual dynamics)や金銭取引(financial dealings)に光を当てている。臨床心理学者としての知見を活かし,著者はドナルドを分析する背景として,家族内部の仕組みを明らかにしようと試みていますが、あからさまな診断(outright diagnosis)は避けている。
第一部:「残酷さが核心(The Cruelty Is the Point)」では,著者は一家の家長(patriarch)であるフレッド・トランプ・シニアの性格を描写し,彼が子供たちにどのような永続的な影響を与えてきたかを明らかにしようと(elucidate)試みている。家族の記憶に基づき,メアリーは 自身の利益のために周囲の人々を利用し,虐待(abuse)しようとしたフレッド・シニアを「高機能社会病質者(high-functioning sociopath)」と診断した(diagnoses)。ドナルドは,兄のフレッド・ジュニアが父親から絶えず批判されているのを見て,悲しみ,弱さ,優しさを表に出さないように,フレッド・シニアの態度や行動を真似ていた。
メアリーは,フレッドの残酷な影響によって,ドナルドは感情表現の幅が狭まっていたと述べている。彼等の母親のメアリーは,骨粗鬆症(osteoporosis)と,フレッドによる彼女と子供たちへの頻繁な暴言(verbal abuse)の影響により,子供たちの成長期(formative years)において「身体的にも精神的にも障害を抱えた(physically and mentally challenged)」従順な(subservient)妻だったとされている。後年,彼女はメアリーに,ドナルドが13歳で陸軍学校に送られたときはホッとした(relieved)と打ち明けた。その時点で彼はメアリーに対して好戦的(belligerent)になり,反抗的(disobedient)になり始めていたからだ。
第2部:「間違った道(The Wrong Side of the Tracks)」では,著者はドナルドの初期のキャリアを時系列順に描いている(chronicles)。フレッド・シニアは,自身のビジネス手腕(business acumen)に見合うだけの名声を得ることはできなかったため,ドナルドにトランプ・オーガニゼーションの対外的な顔(public face)を任せ,自身は政界やその他のビジネス界のコネを駆使して実務を担うことに満足していたと,著者は指摘している。一方,フレッド・ジュニアは,大型住宅プロジェクトの破綻を不当に自分のせいだと責め立てられた後,長男である自分が脇に追いやられ,ドナルドが優先されるようになったことに気づき,家業を離れて,商業パイロットの道を選んだ。
トランプ一家全員がフレッド・ジュニアの選んだ職業を常に中傷(denigration)したことが,1970年代の彼のアルコール依存症などの問題に苦しみ,航空業界でのキャリアと結婚生活の両方が破綻する原因となった。フレッド・トランプ・ジュニアは1981年,家族から離れた病院で心臓発作のため42歳で亡くなった。両親は病院からフレッド・ジュニアの死を知らせる電話を自宅で待っており,ドナルドは地元の映画館で映画を見ていた。
第3部: 「煙と鏡(Smoke and Mirrors)」では,フレッド・シニアの影響力が低下する(waned)につれ,ドナルド・トランプが父親から得た知識と人脈なしに事業運営に苦戦した様子を詳細に描写している。メアリーは,ドナルドを無能な(inept)ビジネスマンとして描写し,仲間たちは彼の悪名を資産と見なし,その仮面を剥がそうとしなかったために,体裁を保つことができただけだとしています。そのため,ドナルドは一時,債権者と月額45万ドルの手当の交渉を強いられた。
メアリーはまた,1999年のフレッド・シニアの死後,家族が彼女に背を向け,彼女と兄の健康保険を打ち切ったことで,兄の息子ウィリアムの人生が不安定になったことにも焦点を当てている。メアリーは,ウィリアムの健康保険を復活させる代わりに,家族経営の会社における彼女のパートナーシップを残りの家族に買収させることで和解を決意した。これは,現在では彼女が理解しているように,大幅に過小評価された価格だった。彼女は,ピューリッツァー賞を受賞したニューヨーク・タイムズの調査で匿名の情報源として活動することで,最終的に家族の富の真の価値を知った。
第4部: 「史上最悪の投資(The Worst Investment Ever Made)」では,ドナルド・トランプがアメリカ合衆国大統領選の選挙戦を成功させた時期について,著者の見解が述べられている。メアリーは心理学者としての経験を再び持ち出し,祖父フレッド・シニアがより多くの権力者との直結関係を築き,ドナルドの最悪の本能が彼らの,それぞれの欲求を満たすように仕向けたと主張している。彼女は,叔父の心理的能力が幼い頃に父親によって完全に発達することを強制的に阻止されたため,彼はより有能な国内外の権力者による操作に非常に脆弱な(susceptible)ままであると指摘している。
Allegations / 疑惑
本書には,メアリーがトランプ一族の機密税務文書をニューヨーク・タイムズに提供した経緯が記されている。タイムズ紙はこれを受け,ドナルドが詐欺行為を行ったと非難した。また,ドナルドが1990年代に自身の経営難の事業を穴埋めするために,父親の不動産事業から約4億1300万ドルを流用したと報じている。本書ではまた,ドナルドが自分のために 友人のジョー・シャピロにSAT受験を依頼し,金銭を支払ったとも非難している。メアリーは本書の中で,ドナルドとフレッド・シニアが彼女の父親をないがしろにし,アルコール依存症による死の一因となったこと,そして後にフレッド・シニアがアルツハイマー病を発症した際に ドナルドがフレッド・シニアを軽蔑し,無視したことを述べている。
Release of tape recordings / 録音テープの公開
2020年8月22日,メアリーは,ロナルド・レーガン大統領と ビル・クリントン大統領によって司法官に任命された元連邦判事である,ドナルドの妹の叔母マリアンヌ・トランプ・バリー(Maryanne Trump Barry)との会話の録音テープを公開した。録音テープにおけるバリーの発言は,メアリーの著書で主張されている多くの点を裏付けている。メアリーが録音テープを作成した理由は,祖父から相続した財産の分配が,資産総額を著しく過小評価していたことの証拠を集めるためだった。録音テープの中で,バリーは,ドナルドの移民政策によって子供が親から引き離されたことに憤りを表明し,彼の宗教的支持者たち(religious supporters)の思いやりのなさ(lack of compassion)を非難し,彼の残酷さと偽善(phoniness)を嘆いている(laments)。録音テープは,ドナルドが 自分のために 友人に大学入試を受けさせるために金を支払ったというメアリーの主張の根拠がバリーであったことを明らかにしている。
Promotion / プロモーション
本書は トランプに関して国内外で注目を集め,数多くのメディアで紹介された:‘The Rachel Maddow Show’, ‘The Beat with Ari Melber’, ‘This Week with George Stephanopoulos’, ‘The View, Frontline’, ‘Cuomo Prime Time’, ‘Democracy Now!’, ‘The Late Show with Stephen Colbert’, カナダの‘CTV News’, オーストラリアの‘60 Minutes’,英国の‘Channel 4 News’,‘Sky News’,アイルランドの ‘The Late Late Show on RTÉ One’ そして スカンジナビアの‘Skavlan talk show’ など。.
Release / 出版
サイモン&シュスターは当初、2020年8月11日の発売日を設定していたが、デイリー・ビースト紙に独占取材を行い、同紙は6月15日に本書に関する記事を掲載した。2日後、本書はAmazonのベストセラー・リストで5位にランクインしました。記事への反響を受け、同社は出版日を7月28日に前倒しした。
7月6日、サイモン&シュスター(Simon & Schuster)は「高い需要と並外れた関心(high demand and extraordinary interest)」により,Amazonで ベストセラー1位 “The Room Where It Happened” を抜いたので,出版日を7月14日に前倒しすると発表した。2020年7月17日,サイモン&シュスターは,出版日までに95万部以上の予約注文がとれたと発表した。これは同社にとって新記録だった。 “Too Much and Never Enough” は発売初週に135万部を売り上げた。
Legal efforts to stop publication / 出版阻止に向けた法的措置
‘The Daily Beast’ によると、ドナルド・トランプは メアリーに対して法的措置を取る可能性について言及した。トランプは‘Axios’に対し,メアリーは以前 「あらゆることを網羅する」 「非常に強力な」秘密保持契約(NDA:non-disclosure agreement)に署名しており,そのため「本を書くことは許可されていない。」と述べた。
ロバート・トランプは6月23日,メアリーの秘密保持契約(NDA)を理由に,出版差し止めを求める仮差し止め命令と暫定的差止命令の取得を求めて訴訟を起こした。6月25日の審理で、ニューヨーク市クイーンズ郡後見裁判所のピーター・J・ケリー判事は、管轄権の欠如を理由に訴訟を棄却した。
ロバートはこの訴訟をダッチェス郡のニューヨーク州最高裁判所(一般裁判所)に持ち込み、6月30日,ハル・B・グリーンウォルド判事は本の出版を一時的に差し止める命令を下し,本の出版を恒久的に差し止めるべきかどうかを決定するための審理を7月10日に設定した。
ニューヨーク州控訴裁判所(appellate justice)のアラン・D・シャインクマン判事は7月1日,下級裁判所の判決を覆し,サイモン&シュスターはNDAの当事者ではなく,憲法修正第1条に基づき事前抑制および出版前差止命令の対象ではないと判断し,7月10日の審理を待つ間,サイモン&シュスターは本の出版を進めることができると判決を下した。メアリーは書籍の販売活動を差し止められ、メアリーがNDAに違反したかどうかは未解決のままとなった。2020年7月2日,メアリーは、和解契約における資産の「評価額が不正であった」など,様々な理由から和解契約のNDA条項に拘束されないと主張する宣誓供述書を提出した。
7月13日,グリーンウォルド判事は,サイモン&シュスター社が本書の出版を継続する権利を認める判決を下し,メアリーは 既に「大量に出版・頒布されている」本書の出版差し止めを命じることは「意味不明(moot)」であり,サイモン&シュスター社との契約に基づき出版を差し止めることができなかったと判断した。
判事はまた,ロバートが提訴したにもかかわらず,本書が主に彼の弟で社長のドナルドに焦点を当てていることも,訴訟の根拠が弱いことを示唆した。ロバートはメアリーに対し金銭的損害賠償を求めることも考えられたが,判決時点では彼がそうするつもりだったかどうかは不明だった。ロバートは1ヶ月後の8月15日に亡くなった。
Reception / 反響
本書は概ね好評を博した。批評家たちは,メアリー・トランプが臨床心理学のバックグラウンドと家族史に関する知識の両方を活かし,トランプに関する暴露本のジャンル(tell-all genre)において傑出した作品(standout work)を生み出したことを称賛した。ニューヨーク・タイムズのジェニファー・サライ(Jennifer Szalai)は著者の勇気と決意を称賛し,本書を 「苦痛から書かれ,人を傷つけることが意図された(written from written from pain and is designed to hurt)」と書いたが メアリーは後半を否定した。
これは痛みから書かれ,傷つけるように書かれた本である,・・・ 心理学者が使う幼少期の愛着や人格障害の用語は忘れてください; メアリーが 「ドナルドを倒す(to take Donald down)」必要性について話すとき,彼女は家族が本当に理解できる唯一の言葉を話し始める。
— Jennifer Szalai, The New York Times, July 2020
ロサンゼルス・タイムズ紙は本書をトランプ大統領に関する他の著作と比較し,著者が共感的な手法(empathetic manner)でこの問題にアプローチしていることが,独自の視点を生み出していると述べている。アトランティック誌のミーガン・ガーバーも,ドナルド・トランプが同様に有害な(toxic)家族関係を国家の舞台に持ち込むことを許したというメアリーの指摘に同意している。
タイムズ紙のデイビッド・アーロンヴィッチは,本書は主にフレッド・トランプ・シニアの伝記であると指摘し,ドナルドを決定的に形作ることによって,この老練な家長(patriarch)の存在が現代政治史に何らかの形で大きな影を落としていると考えている。マッシャブル(Mashable)のクリス・テイラーはより批判的で,著者は大まかな主張を展開しながらも、時に矛盾している点がある(contradicting)と指摘している。
(転載了)
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