トランプ銃撃に使われた ‘AR-15’ ライフルを書いたNONFICTION本が去年(2023年) 発行されていた。
‘The New York Times’ の Sept. 22, 2023付け,‘NONFICTION’ のカテゴリーで
“How a Gun Made for Combat Found Its Way Into Millions of Homes”
「戦闘用に作られた銃がいかにして何百万もの家庭に普及したか」
の見出し記事がありました。
Nonfiction Book “AMERICAN GUN: The True Story of the AR-15” by Cameron McWhirter and Zusha Elinson - のreview 記事です。(By Mike Spies/銃による暴力に焦点を当てた非営利のニュースルーム ‘The Trace’ のシニア・スタッフ・ライター。)
‘AR-15’ の生い立ち,法律との関係,爆発的普及などが書かれています。
下記,拙訳・転載します。
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キャメロン・マクワーター(Cameron McWhirter)とズシャ・エリンソン(Zusha Elinson)による “American Gun” は,‘AR-15’ ライフルの動かしがたい(grim)歴史をありのままに(unvarnished)詳細に語っている。
キャメロン・マクワーターとズシャ・エリンソンが “American Gun” で語るように,悪名高い(infamous) ‘AR-15’ ライフルの物語はフランケンシュタインの物語であり,ユージン・ストーナー(Eugene Stoner)という名の天才発明家が怪物の創造者,ヴィクター・フランケンシュタインを演じている。
大学の学位を持たない「アマチュアのいじくり屋(amateur tinkerer)」だったストーナーは,飽くことのない想像力と工学に対する直感的な才能(intuitive gift)を持ち,レストランのテーブルクロスなど,あらゆるところにデザインをスケッチした。1920年代,カリフォルニア州コーチェラ・バレーで子供だった彼は,父親と一緒に狩りに出かけ,「あらゆる種類の発射物(projectiles of all kinds)」に夢中になった(obsessed)。
しかし,ストーナーは最終的に世界を変えるような兵器を思いついたものの,それがどのような結果をもたらすかは想像(fathom)もつかなかった。彼は,アメリカ兵に可能な限り最も効率的な銃,共産主義者の一団を素早く殺害できる銃を持たせたいと考えていた。彼の偉大な功績とその壊滅的な(devastating)結末(aftermath)の記述は,マクワーターとエリンソンの著書の核心をなしており,歴史物語(narrative history)と独自のルポルタージュの傑作となっている。
朝鮮戦争の頃まで,アメリカ兵は依然として,8発の弾丸を装填し,大きな弾丸を発射する精密兵器(precision weapon)である,非常に(brutally)重いM1ライフルを使用していた。1950年の初期の戦いで,アメリカ軍が北朝鮮の勢力に圧倒された後,このライフルではもはや役に立たないことが明らかになった。
第二次世界大戦中に海兵隊員として従軍したストーナーは,航空機用バルブを製造する企業に入社し,そこで設計エンジニアの指導を受け,一種の見習い制度(apprenticeship)を与えられた。正式な教育を受けていなかったため,訓練を受けた同僚たちよりも創造性が増し,頑固さ(hidebound)がなくなった。
自由時間には,ガレージで不格好な(clunky) M1を改良するミッションに乗り出した。1954年,狡猾な(wily)起業家との偶然の出会いが,「アーマライト(Armalite)」の設立につながった。「アーマライト」は,ストーナーの指揮の下,‘AR-15’ を製造し,軍に採用させようとした銃器メーカーだった。
この速射銃はアルミニウム,グラスファイバー,プラスチックでできており,弾丸を込めない状態で約5 ポンド(≒2.3kg)の重さだった。銃自体の高温ガスで作動する斬新なリロード・システムと,銃を標的に向け続けるための独自のストックを備えていた。半自動と全自動の設定を切り替える(toggle)ことができた。弾丸は小さく,高速で発射された。
著者は,弾丸が人体に当たると「速度が落ち,エネルギーを放出した」と書いている。M1 の大口径弾丸は人をまっすぐに貫通する傾向があったが,‘AR-15’ の弾丸は人体に着弾すると不安定になり,「竜巻のように人体を引き裂き,らせん状に回転しながら(spiraling and tipping)臓器,血管(blood vessels),骨を破壊した(obliterated)。」
この武器の明らかな凶暴性(ferocity)にもかかわらず,「アーマライト」は軍との大型契約を獲得できなかった。1959年,銃器メーカーの「コルト」がストーナーの ‘AR-15’ とガスシステムの製造およびサブライセンス権を獲得した。「コルト」は,軍がM16と呼んだ同型ライフルで幸運に恵まれた。この銃には20発の弾倉が装備されており,1966年に軍は兵士のために40万丁以上の銃を発注した。
“American Gun” は,著者の徹底的な(exhaustive)調査が光る,冷静で正確な言葉で,‘AR-15’ の主な役割は敵をできるだけ迅速に(expeditiously)虐殺することだったと明確に述べている。この銃は民間向けには使用されていなかった。しかし,コルト社は,5発の弾倉を備えた半自動バージョン「スポーター(Sporter)」をハンター向けに販売した。この銃は人気が出ず,同社は年間数千丁しか生産しなかった。しかし,1977年にストーナーの特許が失効すると,状況は一変した。
ウォール・ストリート・ジャーナルの記者,マクワーターとエリンソンは,記事の後半部分を見事なほどの抑制力(restraint)で展開する(unspool);冷酷で悲惨な事実が一つずつ明らかになり,緊張が高まるのがわかる。ドアが破られ,最初の便乗者が通り抜ける。彼らが思い描くのは,被害者ではなく,認識できないほど傷ついた遺体ではなく,金儲けだ。彼らの計算(calculus)には社会的責任は含まれておらず,安価で簡単に大量生産できる兵器のメカニックスだけを考えていた。
1980年代後半,‘AR-15’ はカリフォルニアのギャング抗争や警察との銃撃戦(shootouts)に登場した(showed up)。‘AR-15’ や類似の武器を禁止する全国的な動きが起こり(ensued),この銃器は広く世間の注目を集め,強力な政治的シンボルとなった。1994年,ビル・クリントン大統領は「アサルト・ウェポン禁止法(assault weapons ban)」に署名し,法律として成立させた。
この法律は 10発以上の弾丸を装填できるマガジンも禁止していたが,すでに流通している武器や付属品には適用されなかった。さらに,この法律には 10年間のサンセット条項(sunset clause)が含まれていたが,著者らは,法案の民主党の提案者が立法交渉が始まる前に愚かにもこの条項を追加したと明かしている。この法律は失敗する運命にあっただけでなく,事態を悪化させたことを本書は示している。
著者らのルポの偉業(feats)のひとつは,銃器メーカーの重役や起業家に記録に残る形で率直に(candidly)語ってもらうことだった,これはほとんど前例のない偉業だ。ある記者は,この禁止令についてこう述べた:「彼らがどんな条項を持っていても,私は回避策や対抗策を考え出すだろう」。銃器メーカーは,‘AR-15’ にわずかな改良を加え,銃の性能に影響を与えずに法律の文言を満たした。生産量と需要が急増し,利益も上がった。
Y2K が近づき,社会の崩壊と大混乱(mayhem)への恐怖が広がると,売上は急上昇した。銃器業界の幹部たちは,こうしたパラノイアは簡単に利用できる(exploitable)ことに気付いた:「パニックのときには大儲けできる」と,ある幹部はマクワーターとエリンソンに語った。
別の幹部は,著者らが「不安定な需要(erratic demand)」と呼ぶものを中心に会社の事業戦略を転換した。年間を通じて銃器を製造する代わりに,部品の製造を外注し,必要に応じて注文を調整した。「我々がしたのは組み立てだけだった。」と幹部は語った。「それは良いモデルだった。」
パラノイア市場は9/11以降拡大した。その後,イラクとアフガニスタンでの戦争により,‘AR-15’ はアメリカ人の想像力の中にさらに深く根付いた。これは英雄のライフルであり,銃器メーカーはそれをはっきりと連想させた。著者らは,禁止前の30年間に,業界は ‘AR-15’ スタイルのライフルを40万丁製造したと書いている。
10年間の禁止期間中,その数は90万丁近くにまで増加した。他の銃器の販売が低迷する中,このライフルには「なりたい要素(wannabe factor)」があったと,製造元「シグ・ザウアー(Sig Sauer)」の商業販売責任者は述べ,「人々は特殊部隊員(Special Forces guy)になりたがっている。」と付け加えた。
2004年に禁止令が解除されると,扉が一気に開いた。「プライベート・エクイティ(Private Equity」社の最高経営責任者だった銃愛好家(gun enthusiast)が市場に参入し,「フリーダム・グループ」という会社とともに,‘AR-15’ 型の銃を国中に氾濫させた。
マクワーターとエリンソンは「フリーダム・グループ」から内部文書を入手した。その中には,暴力的なビデオゲームに同社の銃を登場させることを「これらのゲームを体験する次世代にブランドへの好意を植え付ける」ための手段として主張するマーケティング・チームの「極秘」メモが含まれていた。電子メールの中で,ある会社幹部は,この戦略がいかにうまく機能しているかに驚嘆した。
“American Gun” が必然的な結末に向かって突き進むにつれ,目をそらしたくなる。著者らは,2012年にコロラド州オーロラの映画館とサンディ・フック小学校(Sandy Hook Elementary School)で起きた銃乱射事件から,パークランド,ユバルデなど,頻度と致命度(deadliness)が増す銃乱射事件を詳しく述べている。サンディ・フックでは,警察官が小さなトイレに入ったが,自分が見ているものが理解(comprehend)できなかった。「しばらくして,彼はそれが山積みの上に横たわっている小さな男の子の顔だと気づいた。」と著者らは書いている。「何の山だ?彼は下を見た。彼が見ていたのは子供たちの山だった。」
サンディ・フック銃撃事件の葬儀が始まった日,「フリーダム・グループ」の取締役会は緊急会議を開き,同社の ‘AR-15’ ライフルの収益をさらに高める銃身(gun barrel)製造業者の買収を決議した。サンディ・フック銃撃事件は「ひどく恐ろしい大惨事(awful horrific huge tragedy)だった。」と「フリーダム・グループ」の最高経営責任者は後に証言で述べた。「しかし,それが事業の長期的な資本決定に及ぼした影響は,何ら要因ではなかった」
2021年末までに,米国人は2000万丁以上の ‘AR-15’ 型銃を所有しており,わずか25年で50倍に増加した。“American Gun” は,恐怖を利益に変える産業と 増え続ける民間人の死者が良心の呵責をほとんど感じさせない真実を,堂々と描き出している。政策立案者も一般市民も,この本から学ぶことは多い。
AMERICAN GUN: The True Story of the AR-15 | By Cameron McWhirter and Zusha Elinson | 473 pp. | Farrar, Straus & Giroux | $32
(転載了)
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戦闘用兵器として開発された 半自動銃 2,000万丁以上が 民間に存在する事実は 尋常とは言えません。
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