カテゴリー「書籍・雑誌」の102件の投稿

2025年12月30日 (火)

TIME誌による 2025年 Best Book 10冊

TIME’,Dec.10,2025付け
The 10 Best Books of 2025
下記,拙訳・転載します。

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厳しい一年 ― そして,最近,楽だったと言える一年はいつあっただろうか? ― 本は命綱であり,慰め(balm)であり,心の拠り所 あるいは 立ち直る所となることがある。今年出版された,エンターテイメント性,楽しさ,感動(poignant),そして宝物となる数々のフィクションとノンフィクションの新刊の中で,特に優れた作品は,雑音をかき消すような新鮮な視点と力強い声を提供してくれた。S.A.コスビー(S.A. Cosby)とR.F.クァン(R.F. Kuang)は,文学的なインパクトをスリルのジャンルと融合させた,刺激的な(high-octane)旅へと私たちを誘ってくれた。

ミリアム・トウズ(Miriam Toews)とイーユン・リー(Yiyun Li)は,深刻な個人的な喪失を深く掘り下げ(grave),悲しみの淵からの洞察を提供した。ケイティ・キタムラ(Katie Kitamura)とリリー・キング(Lily King)は,人間関係を顕微鏡で観察し,我々が築く絆(bonds)がどのように,そしてどれほど徹底的に我々を形作るのかを探求した。このリストに収録された本は,現実の,そして想像上の語り手たちが人生最大の試練に立ち向かい,それでも生き抜く姿を描いている。読者が求める,まさにタイムリーで価値あるメッセージと言えるだろう。 2025 年のベスト 10 冊を紹介する。

10. A Truce That Is Not Peace, Miriam Toews
       平和ではない休戦,ミリアム・トウズ

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ミリアム・トウズが20年以上ぶりに発表するノンフィクション作品は,フィクションを前提とした設定から始まる:メキシコで開催される文学フェスティバルに先立ち,彼女は「なぜ書くのか?」という問いについて考えるよう求められる。しかし,イベントのディレクターを納得させる答えを思いつく(conjure)ことがあまりにも難しく,出演がキャンセルされてしまう。この一時的な障害は,実体験の積み重ねであり,後に豊かで長期的なプロジェクトへと発展していく。

本書『平和ではない休戦』では,カナダ出身の著名な作家であるトウズが,幼少期や執筆活動を始めた動機,近親者の死,メノナイト教徒(Mennonite)としての生い立ち,子育てにおける様々な出来事(misadventures),そして人格形成期の出来事を淡々と綴る。皮肉で(wry)胸が締め付けられるような(gutting),そして爽快な(exhilarating)この回想録で,トウズは自身の人生と創作プロセスを光に照らし出し,それらを繋ぐ糸を検証する。

9. King of Ashes, S.A. Cosby
     灰の王,S.A. コスビー

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『黒き荒野の果て(Blacktop Wasteland)』,『頬に哀しみを刻め(Razorblade Tears)』,『すべての罪は血を流す(All the Sinners Bleed)』の著者であり,ここ6年間で最も高く評価されている犯罪小説作家の一人であるS.A.コスビーが,またしても陰惨で(grisly)手に汗握る南部ノワール(Southern noir)小説をお届けする。アトランタ在住のファイナンシャル・アドバイザー,ローマン・カラザース(Roman Carruthers)が,生まれ育ったバージニア州ジェファーソン・ランに戻り,数々の家族の危機に立ち向かう。
父親は悲惨な交通事故に遭い,妹は家業を継ぐプレッシャーに押しつぶされそうになり(buckling),弟は凶悪な(vicious)ギャングに借金を抱えている。ローマンはすぐに,全てが父親の「事故」と関係していることに気づく。そして,幼い頃に失踪した母親に何が起きたのかという謎も,依然として尾を引いている(lingering)。

ローマンの唯一の選択肢は,たとえ途中で間違ったことをしなければならないとしても,自分の仕事のスキルを駆使して家族との関係を回復しようとする。コスビーは ドミノを最も予想外の方法で倒す才能があり,満足感がある(rewarding)と同時にスピード感のあるスリラーを作り上げている。

8. Katabasis, R.F. Kuang
    カタバシス,R.F. クァン

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ケンブリッジ大学分析魔術(Analytic Magick)学科の大学院生2人は,最近亡くなった指導教官の魂を取り戻し,キャリアの見通しを立て直すため,彼を追って死後の世界(afterlife)へと旅立つ。『ポピー・ウォー(The Poppy War)』シリーズ,『バベル(Babel)』,『イエローフェイス(Yellowface)』の著者であり,自身もイェール大学博士課程に在籍するRFクァンは,学界における不均衡な(lopsided)力関係を痛烈に(gleefully)批判する(skewers),ファンタジーな探求物語(quest narrative)を紡ぎ出す。

キャンパスを舞台にしたこの小説では,キャンパスは文字通り地獄と化している。クァンは,ダンテの『神曲(地獄篇)(Inferno)』から,ペンローズの階段(Penrose stairs)といった難解な論理概念まで,あらゆるものを参考にしながら,自らが描く冥界の風景とメカニズムを創造する。そして,必死で競争心に燃える2人の学生を冥界の深淵へと突き落とし,彼らが生者の世界へ戻る道を見つけられるかどうか,そしてその過程で,教科書から得られる以上の価値ある何かを学べるかどうかを試していく。

7. Baldwin: A Love Story, Nicholas Boggs
     ボールドウィン:ある愛の物語、ニコラス・ボッグス

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アメリカで最も著名な作家の一人,ボールドウィンの私生活を親密に描いた 『ボールドウィン:ある愛の物語』は,著者の文学的洞察と,ハーレムの画家ボーフォード・ディラニー(Beauford Delaney),スイスの画家ルシアン・ハッパースベルガー(Lucien Happersberger),フランス人画家ヨラン・カザック(Yoran Cazac)など,数多くの親しい人々との繋がりを探求している。

ニコラス・ボッグスは,この思慮深くテンポの良い伝記を執筆するために数十年を費やし,アーカイブ資料を調査し,さらには,亡くなったと思われていたボールドウィンの生涯において重要な役割を担っていた生存者にインタビューを行った。本書は,ボールドウィンのアイデンティティを探り,作家,旅行者,米国の黒人,そしてロマンチストとして生きた経験が,彼の最も忘れられない作品にどのように影響を与えたかを綿密に読み解くものである。

6. A Marriage at Sea, Sophie Elmhirst
     海での結婚,ソフィー・エルムハースト

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モーリス・ベイリーとマラリン・ベイリー(Maurice and Maralyn Bailey)という夫婦は,冒険に憧れ(hankering),1970年代初頭 船を購入し,英国からニュージーランドへの数年にわたる航海に出た。しかし,その後に待ち受ける過酷な(harrowing)航海に対する備えが全くなかった。出航から9ヶ月後,船はクジラによって沈没し,ベイリー夫妻は太平洋を筏(raft)で漂流することになり,そこで118日間,信じられないほどのストレスにさらされることになる。

英国人ジャーナリスト,ソフィー・エルムハーストは,困難を乗り越えて生き延びた夫婦の実話を語る。彼女は,海難事故の試練と同じくらい,二人の間に繰り広げられた人間関係のドラマに深い関心を寄せる。まるでフィクションのように読める物語の中で,エルムハーストは,マラリンの冷静さ(unflappability)とモーリスの悲観主義(pessimism)を対比させながら,究極の試練に直面する二人のパートナーシップを考察する。

5. Audition, Katie Kitamura
    オーディション,ケイティ・キタムラ

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ケイティ・キタムラの “Audition” は,我々が通常想定する小説の枠組みに当てはまらないため,単純な記述はできない。そして,どれだけ読後感を伝えようと試みても,説明は難しい。キタムラのテーマがパフォーマンスそのもの,つまり,配偶者,親,芸術家,主体(subject)といった,我々が与えられた役割を演じようとし,そしてしばしば失敗する様子であることを考えると,これは当然と言えるだろう。

この小説は,名もなき(unnamed)主人公(protagonist),演劇出演が決まっている人気俳優が,ニューヨークで明らかに年下の男性と緊張感あふれる夕食を共にする場面から始まる。彼女は,自分が男性の恋人,あるいは母親と思われないかと,自分の印象を気にしている。そこに夫が現れ,緊張が高まっていく。この若者は一体誰なのか?キタムラは複数の回答の可能性を探求し,人々が互いにどのように関係を築くことができるのかという限界を探っている。『オーディション』は,スリリングであると同時に謎めいた(enigmatic)作品である。

4. A Guardian and a Thief, Megha Majumdar
     監視人と泥棒,メーガ・マジュムダール

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近未来のコルカタ(Kolkata)では,日常生活が逼迫(strain)しつつある。食料が不足し,暴力はエスカレートしている。マ(Ma)は脱出を決意し,父 ダドゥ(Dadu)と 2歳の娘ミシュティ(Mishti)を連れて出かけようとしている。夫はミシガン州で生活を始めており,マがしなければならないのは,3通のパスポートと気候難民ビザ(climate-refugee visas)を取得し,家族と共に飛行機に乗ることだけだ。

しかし,マがマネージャーとして働くシェルターの誰かが彼女に目を付けていた。家族のことを考えなければならないブーバ(Boomba)は,マのわずかな暮らしを羨ましく思い,食料と現金を盗むために彼女の家に押し入った時,意識せず3人の書類と脱出の希望を奪い去ってしまう。全米図書賞(National Book Award)の最終候補となった “A Burning” の続編で,メーガ・マジュムダールは2つの家族を激動の旅へと誘い,愛の強さに対する道徳の重さを測る。

3. One Day, Everyone Will Have Always Been Against This, Omar El Akkad
     いつか,誰もがこれに反対する日が来るだろう,オマール・エル・アッカド

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ツイートが拡散したことから始まり,この小説は,今年最も議論を巻き起こし,広く称賛された書籍の一つとなって,全米図書賞 - ノンフィクション部門(the National Book Award for Nonfiction)を受賞した。202310月,ジャーナリストで作家のオマール・エル・アッカドはソーシャル・メディアで,107日のハマスによる虐殺に対して イスラエル政府がガザの人々に与えた恐怖について 何も言わない人々を非難した。「いつか安全になり,物事をありのままに呼んでも 個人的な不利益がなくなり,誰かの責任を問うには手遅れになった時,誰もがずっとこれに反対していたことになるだろう。」

この意見は,回想録(memoir)であり論争(polemic)でもある彼の痛烈な(searing)著書に反映されている。この本は,エジプト,カタール,カナダで育ち(upbringing),その後,米国での子育ての経験を織り交ぜ,多くの人々が都合よく 「他者」 と分類する人々の,苦しみに無関心(apathy)である現状を鋭く分析している。 11月に全米図書賞を受賞した際,エル・アッカドは,本書で彼が訴えかけようとしている読者層の多くから本書が熱狂的に受け入れられたことに伴う緊張感について率直に語った:「大量虐殺(genocide)への反応として書かれた本について,祝賀の(celebratory)言葉で考えるのは非常に難しい。」

2. Things in Nature Merely Grow, Yiyun Li
     自然のものはただ育つ(邦題),イーユン・リー

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時に,最も複雑な経験を最もよく伝えるのは,最もシンプルな言葉である。『自然のものはただ育つ』で,イーユン・リーは,明快で鋭い(penetrating)散文(prose)を用いて,極めて個人的な悲劇の物語を語っている。2017年,リーの長男ヴィンセントは16歳で自殺した。7年後,当時19歳だった次男ジェームズも同じように亡くなった。全米図書賞の最終候補にもなったリーの回想録には,ジェームズの死後,彼女が悲しみという概念を拒絶しながらも,その経験と意味をページで掘り下げている様子が描かれている:「私は 『悲しみ(grief)』という言葉に反対する。現代文化では,それは終わりのある過程を意味するように思える。」と彼女は書いている。「そこに早くたどり着けば,早く自分が人生でスポーツマンシップに富んだ人間であることを証明でき,周りの人が気まずく感じることも少なくなるだろう」。リーは,喪失の痛みから立ち直ることに興味がない。彼女はそれを理解しようと努力し(endeavors),それでもなお続けようとする。

1. Heart the Lover, Lily King
    恋人へのハート,リリー・キング

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キャンパスでの三角関係(love triangle)を描いた,ホルモンが溢れる(hormone-fueled)物語として始まり,下品なセックスと英文学専攻の学生たちの刺激的な(heady banter)掛け合い(banter)がアクセントになっている(punctuated)この作品は,やがてはるかに深い意味を持つようになる。リリー・キングの “Heart the Lover” では,ジョーダン(Jordan)(『グレート・ギャツビー』の ‘Jordan Baker’ にちなんで名付けられたニックネーム)は,17世紀文学の授業で2人のスター学生と交流することになって 小説家になるという夢を抱く(toying with)大学生だった。

​​サムとヤシュは親友でありルームメイトでもある。ジョーダンは当初サムと付き合っていたが,本格的な恋の相手はヤシュだった- 彼は 20年以上経った後,落ち着いたジョーダンの生活に再び現れ,彼女の心を切り裂く。
キングの2020年のベストセラー “Writers & Lovers” の姉妹作である “Heart the Lover” は,親密な関係とその永続的な影響を描くキングの才能を如実に示している。ジョーダンとヤシュの関係の発展を描きながら,彼女は,若さゆえの確信(youthful certainty)と,人生と愛において実際に私たちがコントロールできるものがいかに少ないかという認識との間のギャップを明らかにしている(illuminates)。

(転載了)
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2025年12月 5日 (金)

化け物 『トランプ』 を造った フランケンシュタイン博士,人生最大の後悔を語る。(その2)

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トランプ著The Art of the Dealの ゴーストライター,全てを語る

Wikipediaより-

『トランプ自伝 アメリカを変える男』(Trump: The Art of the Deal1987)は,ドナルド・J・トランプと ジャーナリストのトニー・シュウォーツ(Tony Schwartz)が発表した書籍である。回想録とビジネス指南書の要素を備えた本書は初めてトランプ名義で出版された書籍であり,彼の知名度向上のきっかけのひとつとなった。本書は 『ニューヨーク・タイムズ』のベストセラー・リストに48週ランクインし,そのうち13週で1位を獲得した。トランプは本書を自身の最も誇れる業績のひとつであり,聖書に次いで好きな本であると述べている。

シュウォーツは本書を執筆したことを 「間違いなく生涯で最大の後悔」であると述べ,彼と出版者のハワード・カミンスキーの両者はトランプが本書の執筆の実作業には関与していなかったと主張した。トランプは個人的に著者問題について相反する説明をしている。

THE NEW YORKERJuly 18, 2016付けの
Donald Trump’s Ghostwriter Tells All
「ドナルド・トランプのゴーストライター,すべてを語る」
のタイトル記事を 下記,拙訳・転載します。

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(その 1) からの続き-
・・・

シュウォーツはトランプについて,「彼は戦略的に嘘をついた。そのことについて全く良心がなかった。」と述べている。ほとんどの人は 「真実に縛られる」ため,トランプ氏の真実への無関心は 「彼に奇妙なアドバンテージを与えた」という。

シュウォーツによると,事実について問われると,トランプはしばしば主張を二転三転させ,同じことを繰り返し,攻撃的(belligerent)になる傾向があるという。この性質は最近,トランプが白人至上主義のウェブサイトから引用した六芒星を含むヒラリー・クリントンを侮辱する画像をツイッターに投稿した際に露呈した。選挙スタッフは この画像を削除したが,2日後,トランプは怒りを込めてこの画像を擁護し,反ユダヤ主義的な含意はないと主張した。シュウォーツによると,「トランプのうわべだけの虚栄心が問われる」たびに、彼は過剰反応する(overreacts) - これは国家元首として理想的な資質ではない。

シュウォーツは “The Art of the Dealの執筆に着手した際,トランプと真実との曖昧な関係を,受け入れ可能な形で表現する必要があると悟った。そこで巧みな婉曲表現(euphemism)を編み出した。トランプの口調で書きながら,読者にこう説明した。「私は人々の幻想を操る……人々は何かが最大で,最高で,最も壮観だと信じたがる。私はそれを 『真実の誇張(hyperbole)』と呼ぶ。これは無邪気な誇張(exaggeration)であり,非常に効果的な宣伝方法だ」。シュウォーツは現在,この一節を否定している。「欺瞞(Deceit)は決して『無邪気』ではない」と彼は私に語った。さらに,「『真実の誇張(Truthful hyperbole)』というのは言葉の矛盾だ。『嘘だけど,誰が気にするんだ?』と言っているようなものだ」と付け加えた。トランプはこの表現が大好きだったという。

シュウォーツは日記の中で,本の中でトランプ氏の声を受け入れ可能なものにしようと試みた過程を記している。トランプのぶっきらぼうで断続的で,謝罪を一切しない話し方を真似しながら,彼を少年のような魅力で見せるのは,一種の「トリック」だったと彼は書いている。戦略の一つは,トランプがただオフィスで楽しんでいるだけのように見せることだった。「起こったことはどれもあまり深刻に受け止めないようにしている。」とトランプ氏は著書の中で述べている。「本当の興奮は,ゲームをすることにある。」

シュウォーツは日記にこう記している,「トランプは,私が忌み嫌う(abhor)多くのものを体現している:人を蹂躙しようとする姿勢,派手で(gaudy),安っぽく(tacky),とてつもない執着(obsessions),権力と金銭以外の何にも全く興味がない点だ」。今,その文章を読み返しながら,シュウォーツは 「実際のトランプよりもはるかに魅力的な(winning)人物像を作り上げてしまった。」と語る。その一例が,本書の冒頭の一行だ。「私は金のためにやっているのではない(I don’t do it for the money)」とトランプは宣言する。

「私には十分な,必要以上に多くのものがある。私はそれをするためにやっている。取引は私の芸術だ。他の人はキャンバスに美しい絵を描いたり、素晴らしい詩を書いたりする。私は取引,できれば大きな取引をするのが好き。それが私の喜びなのだ」。シュウォーツは今,トランプを献身的な職人として描いたこの描写を笑う。「もちろん,彼は金のためにやっている。」と彼は言った。 「彼の最も深く根源的な欲求の一つは,『俺の方がお前より金持ちだ。』ということを証明することだ。

取引を成立させることが詩の一形態であるという考えについて,シュウォーツは「彼はそんなことは言えなかった - 彼の語彙にさえ存在しない。」と語る。彼は,トランプを突き動かすのは純粋な取引への愛ではなく,「金,賞賛,そして名声」への飽くなき渇望だと考えていた。トランプと一日を過ごし,サーカス芸人が皿を回すように,莫大な費用がかかるプロジェクトを次々と積み上げていく様子を見守ったシュウォーツは,家に帰って妻に「彼は生きたブラック・ホールだ!」とよく言ったものだ。

シュウォーツは,自分が金をもらっているのはトランプの物語を伝えるためであり,自分の物語を伝えるためではないことを自分に言い聞かせていたが,プロジェクトに取り組むほどに,そのことが彼を不安にさせた。日記の中で,彼はトランプと過ごした時間を「疲れ果て(draining)」,「麻痺する(deadening)」ものだったと記している。シュウォーツは,トランプの,注目への欲求は「完全に強迫観念的」であり,大統領選への挑戦もその一部だと語った。「彼は40年間,注目を浴び続けることに成功してきた。」とシュウォーツは語った。タブロイド紙の巨人として数十年を過ごした彼には,「残された道は大統領選への出馬だけだった。世界の皇帝に立候補できるなら,そうするだろう。」

シュウォーツの “The Art of the Dealにおける修辞的な(rhetorically)狙いは,各章でトランプをヒーローとして描くことだった。しかし,トランプの「素晴らしい」とされる取引のいくつかを検証した結果,シュウォーツはトランプを良く見せる術がないケースもあると結論づけた。そのため,彼はトランプに不利な出来事や詳細は省いた。「調査するのは私の仕事だとは思っていなかった。」と彼は言う。

シュウォーツはまた,一部の取引に漂っていた縁故主義(cronyism)の強い匂いを避けようともした。1986年の日記の中で,トランプの最初の成功の一つ,1975年にグランド・セントラル駅に隣接する旧コモドール・ホテル跡地にグランド・ハイアット・ホテルの開発に着手した件について、「全力を尽くして」書くことがいかに困難であったかを述べている。ホテル建設資金を確保するために、トランプは極めて大規模な減税措置を必要としていた。当時,開発業者に減税措置を与える権限を持つ機関の責任者だったリチャード・ラヴィッチ(Richard Ravitch)は,減税措置の付与を拒否した際,トランプが 「あまりにも不機嫌になり,出て行けと言わざるを得なかった」と回想している。

トランプが減税措置を受けたのは,主に市当局がクイーンズで大手不動産開発業者を営んでいた父親のフレッド・トランプから長年にわたり寄付を受けていたためである。 1991年に出版された決定版とも言える著書 “Trump: The Deals and the Downfallの執筆にヴォイス・ニュースの取材記事を寄稿したウェイン・バレットは,「減額措置を生み出したのは,すべてフレッドの政治的コネだった」と述べている。さらにトランプは,この計画に関して市から独占的なオプション権を得ているとライバルたちに信じ込ませたが,実際にはそうではなかった。また,トランプは取引のパートナーであるハイアット・ホテル・チェーンのジェイ・プリツカー(Jay PritzkerCEOを欺いた。

プリツカーはトランプが提示した不利な条件を拒否したが,契約締結時にトランプは,プリツカーがネパールの山中にいて連絡が取れないことを承知の上で,それを強引に押し通した。シュウォーツは日記に,ホテル取引の「ほぼすべて」に「不道徳な側面」があったと記している。しかし,ゴーストライターとして,彼は「非難されるべき(reprehensible)ではないとしても,少なくとも道徳的に疑問のある(morally questionable)」行為を「何とかしようと必死だった(trying hard to find my way around)」。

トランプがシュウォーツに語った数々の作り話(tall tales)には,核心的な(kernel)真実が含まれていたが,トランプを実際よりも賢く見せかけていた。トランプのお気に入りの逸話の一つは,ホリデー・インのオーナー企業を騙してアトランティック・シティのカジノのパートナーになったという話だった。トランプは,建設監督者に自分の所有する空き地を「世界史上最も活発な建設現場」のように見せるよう指示することで、建設の遅延に対する幹部たちの懸念を和らげた(quieted)と主張した。

トランプが著書  “The Art of the Dealで語っているように,ホリデー・インの幹部が現場を訪れた際,多数のダンプカーやブルドーザーが土砂をかき混ぜ,掘ったばかりの穴を埋めていたため,「まるでグランド・クーリー・ダムの建設工事の真っ最中かのようだった」という。この策略(stunt)が取引成立の原動力になったとトランプは主張した。しかし,著書の出版後,トランプのカジノのコンサルタントで,現在は故人のアル・グラスゴー(Al Glasgow)はシュウォーツに 「そんなことはなかった」と語った。トラックは 1台か 2台あったかもしれないが,それを素晴らしい物語にするほどの車両はなかった。

シュウォーツはトランプの威勢のよさ(swagger)をいくらか抑えた(tamped down)が,それでもなお,その威勢のよさは健在だった。‘Random House’ が出版した原稿は,見方によっては,面白く洞察に満ちたもの(insightful)にも,恥知らずなほど自己顕示的なもの(self-aggrandizing)にもなり得た。トランプのアトランティック・シティのホテルで頻繁にボクシング(prizefights)観戦に訪れていたノーマン・メイラー(Norman Mailer)のタイトルを借りれば,この本は「私自身への広告(Advertisements for Myself)」とも言えただろう。

2005年,受賞歴のあるジャーナリストで,現在 ‘Bloomberg View’ の編集長を務めるティモシー・L・オブライエン(Timothy L. O’Brien)は,綿密な(meticulous)調査に基づく伝記 “Trump Nationを出版した(トランプは名誉毀損(libel)で彼を訴えたが,敗訴した)。オブライエンは  “The Art of the Dealを精読し,これは 「ノンフィクションのフィクション作品(nonfiction work of fiction)」と形容するのが最も適切かもしれないと私に語った。シュウォーツが語るトランプの人生は,1983年に低迷していたアメリカン・フットボール・リーグのニュー・ジャージー・ジェネラルズを買収するという失敗作(disastrous)など,いくつかの挫折(setbacks)を正直に描いている。しかしオブライエンは,トランプがこの本を使って,私生活と仕事の両方における人生のほぼすべての出来事を「輝かしい物語(glittering fable)」に変えたと考えている。

The Art of the Dealに出てくる虚偽の中には,些細なものもある。‘Spy’ は,イヴァナが 「トップモデル」であり,チェコ・オリンピックのスキー・チームの補欠選手だったというトランプ氏の主張を覆した(upended)。バレット(Barrett)は,“The Art of the Dealの中で,トランプが父親をスウェーデン人の両親のもと ニュー・ジャージー州で生まれたとしているが,実際にはドイツ人の両親のもとブロンクスで生まれた,と指摘した。(数十年後,トランプはオバマの出自について 大統領はアフリカ生まれの可能性があるという虚偽を広めた。)

The Art of the Dealの中で,トランプは自身を 多くのファンを抱える温厚な家庭人として描いている。彼はイヴァナのセンスと ビジネス・スキルを称賛し,「イヴァナに賭けることはできないと言ったが,彼女は私の考えが正しかったことを証明してくれた。」と述べている。しかし,シュウォーツは トランプとイヴァナの間に温かさやコミュニケーションがほとんど見られなかったことに気づき,後に “The Art of the Dealの執筆中にトランプが 後に2番目の妻になったマーラ・メイプルズ(Marla Maples)と不倫関係になったことを知った。 (彼は1992年にイヴァナと離婚した。)シュウォーツの語った限り,トランプは家族と過ごす時間はほとんどなく,親しい友人もいなかった。

The Art of the Dealの中で,トランプは自身の個人弁護士であるロイ・コーン(Roy Cohn)について,非常に温かい言葉で描写し,「病院のベッドにいて…文字通り,死ぬまで傍らにいてくれるような男」と呼んでいる。1950年代にジョセフ・マッカーシー(Joseph McCarthy)上院議員の悪意ある(vicious)反共産主義運動を支援したコーンは,性同一性障害を隠していた(closeted)。エイズで重症を負った時,トランプに見捨てられたと感じ,「ドナルドが氷水を放尿する(Donald pisses ice water)。」と言った。シュウォーツはトランプについて,「彼は助けてくれる人には好意を抱き,助けてくれない人には敵対する。個人的な感情ではない。彼は取引を重視する(transactional)男で,相手が彼のために何ができるかが全てだった。」と述べている。

バレットによると,“The Art of the Dealで最も誤解を招きやすい点の一つは,トランプが父フレッドからわずかな支援を受けるだけで,ほぼ独力で成功を収めたという点だ。バレットは著書の中で,トランプがかつて 「労働者階級の人間は,私は築き上げてきたものを相続したのではないと知っているからこそ,私を好んでいる。」と発言したことや,“The Art of the Dealの中で裕福な相続人を「幸運な精子クラブ」のメンバーと揶揄していることを指摘している。

トランプが自らをホレイショ・アルジャー風(Horatio Alger figure)に描いたことは、2016年の彼のポピュリスト的支持を支えた(buttressed)。しかし,彼の出自は決して裕福なものではなかった(humble)。中所得者向け不動産の所有に基づくフレッド氏の財産は、華やかなものではなかったものの,相当な額だった:フレッド氏の死から数年後の2003年,トランプと兄弟姉妹は父の不動産保有資産の一部を5億ドルで売却したと報じられている。“The Art of the Dealの中で,トランプは父親を 「私に最も大きな影響を与えた人物」としているが,父親から受けた最大の遺産は「タフさ」の大切さを教えられたことだと述べている。

シュウォーツによると,トランプはそれ以上に 「父親についてはほとんど語らなかった - 自らの成功が父親と何らかの関係があると思われたくなかったのだ。」という。しかし,バレットが調査したところ,父親が息子の経済的,政治的な成功に大きく貢献していた(instrumental)ことが判明した。著書の中でトランプは,29歳で実績のほとんどない自分がグランド・ハイアット・ホテルを買収できたのは 「私のエネルギーと熱意」のおかげだと述べている。しかしバレットによると,父親は買収に必要な多くの契約書に連署(co-sign)しなければならなかったという。

父親はまた,アトランティック・シティでカジノ・オーナーとして事業を始めるためにトランプに750万ドルを貸与した:ある時,トランプが他のローンの返済ができなくなったとき,父親は弁護士を派遣して300万ドル相当の賭博チップを買わせ,彼を乗り切らせようとした。バレットは私にこう語った。「ドナルド自身も賢明な判断を下した,特にトランプ・タワーの敷地確保は。あれはまさに天才的なひらめき(stroke of genius)だった。」 しかし,彼はこうも言った。「彼が自力で成功した(he’s a self-made man)なんていうのは冗談だ。しかし,あの本を “The Art of My Father’s Deals” と名付けるのはできなかったと思う。」

The Art of the Dealによって広められたもう一つの重要な神話は,トランプのビジネス直観(intuitions about business)がほぼ完璧(flawless)だったというものだ。「この本は,彼が失敗しないという思い込みを助長した。」とバレットは述べた。しかし,シュウォーツや世間一般は知らなかった(unbeknown)が,この本が出版された1987年後半までには,トランプはバレットが 「個人的かつ職業的に同時に自己破壊(simultaneous personal and professional self-destruction)」と呼ぶものへと突き進んでいた。

オブライエンも,その後数年間でトランプの人生が崩壊した(unravelled)ことに同意する。イヴァナとの離婚で2500万ドルの損失を被ったと伝えられている。一方,彼はオブライエンが 「手に負えないほどの負債をもたらす狂気の買い物狂い(crazy shopping spree)」と呼ぶものに耽っていた。彼はプラザホテルを購入し、さらにウェストサイドで購入した旧鉄道操車場跡地に「世界一高いビル」を建設する計画を立てていた。 1987年,市当局は彼の超高層ビル建設許可願いを却下したが,“The Art of the Dealの中で,彼はこの失敗を 「待つ余裕はある」という一言で片付けている(brushed off)。オブライエンは 「実際には,彼には待つ余裕がなかった。

彼はメディアに対し,建設費用は300万ドルだと語っていたが,実際は2000万ドルほどだった。」と述べている。トランプはまた,アトランティック・シティに3つ目のカジノ 「タージ・マハル」を建設中で,「史上最大のカジノ」になると約束していた。ニューヨーク,ボストン,ワシントンD.C.を結ぶイースタン航空のシャトルバスを買収し,「トランプ・シャトル」と改名し,巨大ヨット 「トランプ・プリンセス」も購入した。「彼は完全に自己陶酔の渦に巻き込まれていた(He was on a total run of complete and utter self-absorption)。」 とバレットは言い,「今と似ている」と付け加えた。

シュウォーツは,著書執筆当時,「トランプの資産の大部分はカジノにあり,カジノは一つ一つが前よりも成功しているかのように書いていた。しかし,どのカジノも失敗していた。」と述べている。さらに,「彼はただ空回りしていた(spinning)だけだと思う。当時,そう彼が信じることができたとは思わない。彼は毎日何百万ドルも失っていた。きっと恐怖に震えていただろう。」と続けた。

1992年,ジャーナリストのデイビッド・ケイ・ジョンストン(David Cay Johnston)は,カジノに関する著書“Temples of Chanceを出版し,1990年の純資産報告書を引用して トランプの個人資産を評価した。それによると,トランプは債権者に対して,資産価値よりも約3億ドル多い負債を抱えていた。翌年,彼の会社は破産に追い込まれた - これは,後に続く6つの破産事件の最初の事例だった。トランプ流星が墜落した(The Trump meteor had crashed)。

しかし,オブライエンは “The Art of the Dealの中で,「トランプは抜け目なく(shrewdly),臆面もなく(unabashedly),どんな状況でも常に最善を尽くせる比類なき(nonpareil)ディールメーカー,そして今や米国を不況(malaise)から救える(deliver)人物というイメージを作り上げていた。」と私に語った。リアリティ番組のプロデューサー,マーク・バーネット(Mark Burnett)が “The Art of the Dealを読み,それを基にトランプを主演とする新番組 “The Apprenticeを制作することを決めたことで,この理想化された姿は飛躍的に(exponentially)多くの視聴者に届けられたとオブライエンは指摘する。

2004年に初放送された(premièred)この番組の最初のシーズンは,リムジンの後部座席に座るトランプが「私はディールの芸術を極め,トランプという名前を最高級の(the highest-quality)ブランドに変えた。」と豪語する(boasting)シーンで始まる。本の表紙が画面に映し出され,トランプは「師匠(master)」として弟子(apprentice)を探していると説明する。オブライエンは,「“The Apprentice” は,神話創造の極み(mythmaking on steroids)である。本から 番組,そして2016年の選挙キャンペーンまで,すべてが一直線に繋がっている。」と語った。

シュウォーツが “The Art of the Dealを執筆するのに1年余りを要した。1987年の春,彼は原稿をトランプに送り,トランプはすぐに原稿を返送してきた。太い(fat-tipped)マジック・マーカーで赤い線がいくつか引かれていたが,そのほとんどは,リー・アイアコッカ(Lee Iacocca)など,トランプがもはや怒らせたくない権力者(powerful individuals)に対する批判を消したものだった。シュウォーツによると,それ以外はほとんど何も変えなかったという。

トランプとの電話インタビューで,彼は当初シュウォーツについて 「トニーはとても優秀だった。彼は共著者(co-author)だった。」と述べた。しかし,執筆過程に関するシュウォーツの説明を否定した。「彼は本を書かなかった。」とトランプは言った。「私が書いた。私が書いた。それは私の本だった。そして,それはベスト・セラー1位となり,史上最も売れたビジネス書(business books)の一つとなった。史上最も売れたビジネス書だと言う人もいる。」 (そうではない。)ランダム・ハウスの元社長ハワード・カミンスキー(Howard Kaminsky)は笑って言った。「トランプは我々に葉書を書いたことがない!」

トランプは本の宣伝に非常に熱心に取り組んだ。書店を口説き(wooed),次々とテレビに出演した。本の印税の一部を慈善団体に寄付することを公約した。ニュー・ハンプシャー州にもサプライズで訪れ,大統領選への出馬の可能性を示唆してさらなる宣伝効果を狙った。

1987年12月,本の出版から1ヶ月後,トランプはトランプ・タワーのピンク色の大理石のアトリウムで豪華な(extravagant)ブック・パーティーを開催した。建物の外にはクリーグ・ライト(Klieg lights)がレッド・カーペットを照らした。建物内では,ブラック・タイの1000人近くのゲストにシャンパンが振る舞われ,赤い線香花火を振り回す女性たちのパレードによって運び込まれたトランプ・タワーを模した巨大なケーキのスライスが振る舞われた。

ボクシングのプロモーター,ドン・キング(Don King)は床まで届くミンクのコートを着て群衆に挨拶し,コメディアンのジャッキー・メイソン(Jackie Mason)は 「王様と女王様の登場です!」 とドナルドとイヴァナを紹介した。トランプは 少なくとも金儲けの方法を教えようとしたとからかうように言いながらシュウォーツに乾杯した。

翌日,シュウォーツはトランプと電話で話し,さらに教育を受けた。パーティーについて少し話した後,トランプはゴーストライターとして,6桁に上るイベント費用の半額をシュウォーツに支払う必要があると告げた。シュウォーツは唖然とした(dumbfounded)。「二流セレブ900人を接待した費用を私に折半しろと言うのか?」シュウォーツは 実際,トランプを観察していくつかのことを学んでいた。

彼は 数千ドルまで大幅に値下げして支払いに同意し,その後,トランプではなくシュウォーツが選んだ慈善団体に小切手を切ることを約束する手紙をトランプ氏に送った。これはトランプの常套手段(page out of Trump’s playbook)だった。過去7年間,トランプは慈善団体に数百万ドルを寄付すると約束してきたが,ワシントン・ポスト紙の記者たちは,実際に記録された寄付金はわずか1万ドルにとどまり,“The Art of the Dealで得た金を慈善事業に寄付したという直接的な証拠を見つけることはなかった。

パーティー費用の議論から間もなく,トランプはシュウォーツに続編の執筆を持ちかけた。当時,トランプは7桁の契約金を提示されていた。しかし今回は,シュウォーツに提示したのは利益の3分の1だけだった。トランプは 契約金がはるかに高額なため,報酬も高額になるだろうと指摘したのだった。しかし,シュウォーツは断った。深い疎外感(alienated)を感じたシュウォーツは,代わりに人生の意味を探る “What Really Matters” (2012) という本を執筆した。トランプと仕事をした後,シュウォーツは 「むしばまれるような空虚感(gnawing emptiness)」を感じ,「探求者(seeker)」となり,「時代を超越した,より本質的で,より現実的な何かと繋がりたい」と切望するようになったとシュウォーツは記している。

シュウォーツは私に,2016年の “The Art of the Dealの売上による印税の全額を,厳選した慈善団体である全米移民法律センター,ヒューマン・ライツ・ウォッチ,拷問被害者センター,全米移民フォーラム,そしてタヒリ・ジャスティス・センター(Tahirih Justice Center)に寄付する(pledge)ことを決めたと語った。彼は,この行為が自分を免罪する(absolves)とは思っていない。「この罪は一生背負っていくだろう。」と彼は言った。「正す(righting)ことはできない。しかし,‘The Art of the Dealが売れれば売れるほど,トランプが権利を侵害(abridge)しようとしている人々に寄付できるお金が増えるという考えは気に入っている。」

シュウォーツは,彼の発言でトランプが攻撃してくると予想しており,そして その予想は正しかった。シュウォーツが自身を批判し,トランプに投票しない意向を表明したことを知らされたトランプは,「きっと宣伝のためだろう。」と言い放ち,さらに,「オウ,大変な背信行為だ,トニーを金持ちにしたのは私なのに。彼は私に多大な恩義がある。彼がほとんど金を持ってない(didn’t have two cents in his pocket)時に,私は彼を助けた。大変な背信行為だ。彼はそれが自分に良いことと思っているのだろうが,いずれ自分の利益にならないと気づくだろう。」とも言った。

トランプが私との電話を切って数分後,シュウォーツの携帯電話が鳴った。「私に投票しないって聞いた。」とトランプは言った。「ついさっき ‘The New Yorker’ と話したばかりだ。ちなみに,‘The New Yorkerは誰も読んでいない,売れない(failing)雑誌だ。君が私を批判していると聞いた。」

「あなたは大統領選に出馬しようとしているそうだね。」とシュウォーツは言った。 「あなたの言うことには大部分賛同できない。」

「それは君の権利だ,しかし,だったら黙っていればよかった。君は実に不誠実だと思う。私がいなければ,今の君はいない。誰に本を書いてもらうか,私には多くの選択肢があって 君を選んだ。そして,私は 君にとても寛大だった。君が “The Art of the Deal” を使ったスピーチや講演をたくさんしていたことは知っている。君を訴えることもできたが,そうしなかった。」

「私のビジネスは “The Art of the Deal” とは何の関係もない。」
「そうは聞いていない。」

「あなたは アメリカ大統領選に出馬している。これは大きな賭けだ。」
「ああ,そうだな。」と彼は言った。「良い人生を。」 トランプは電話を切った。

シュウォーツは トランプが傷ついた気持ちは理解できるものの,手遅れになる前に声を上げなければならないと感じていた。トランプの 自分に対する怒りについては,「個人的な感情として受け止めていない。なぜなら,実際には彼は個人的な感情でそうしたわけではないから。トランプの世界では,人々は重要ではなく(dispensable),使い捨て(disposable)なのだ。」と述べた。もしトランプが大統領に選出されれば,「彼に投票し,彼が自分たちの利益を代表してくれると信じていた何百万人もの人々は,彼と親しい関係にある人なら誰もが知っていること,つまり,彼が自分たちのことを全く気にかけていないことを知ることになるだろう。」 と警告した。

(転載了)
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2025年12月 4日 (木)

化け物 『トランプ』 を造った フランケンシュタイン博士,人生最大の後悔を語る。(その1)

トランプ著 “The Art of the Deal” の ゴーストライター,全てを語る

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Wikipediaより-
『トランプ自伝 アメリカを変える男』(“Trump: The Art of the Deal”,1987)は,ドナルド・J・トランプと ジャーナリストのトニー・シュウォーツが発表した書籍である。回想録とビジネス指南書の要素を備えた本書は初めてトランプ名義で出版された書籍であり,彼の知名度向上のきっかけのひとつとなった。本書は 『ニューヨーク・タイムズ』のベストセラー・リストに48週ランクインし,そのうち13週で1位を獲得した。トランプは本書を自身の最も誇れる業績のひとつであり,聖書に次いで好きな本であると述べている。

シュウォーツは本書を執筆したことを 「間違いなく生涯で最大の後悔」であると述べ,彼と出版者のハワード・カミンスキーの両者はトランプが本書の執筆の実作業には関与していなかったと主張した。トランプは個人的に著者問題について相反する説明をしている。

これに関連して

THE NEW YORKER’,July 18, 2016付けの
Donald Trump’s Ghostwriter Tells All
「ドナルド・トランプのゴーストライター,すべてを語る」
のタイトル記事を 下記,拙訳・転載します。

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The Art of the Deal” made America see Trump as a charmer with an unfailing knack for business. Tony Schwartz helped create that myth—and regrets it.
The Art of the Deal(トランプ自伝 アメリカを変える男)は,トランプをビジネスにおける確かな才能を持つ魅力的な人物としてアメリカ国民に認識させた。トニー・シュウォーツ(Tony Schwartz)は,この神話の創造に加担し,そしてそれを後悔している。

001h_20251127064901 昨年6月,ニューヨーク州リバーデールの緑豊かな裏道に面したトニー・シュウォーツの広々とした家の外が夕闇に包まれる頃,彼はノート・パソコンを取り出し,その日のビッグ・ニュースを確認した:ドナルド・J・トランプが大統領選への出馬を表明したのだ。シュウォーツは演説のビデオを見ながら,自分自身もその影響を受けていると感じ始めた。

トランプは,五番街のトランプ・タワーのロビーに集まった群衆を前に、自らの資質(qualifications)を説き,「“The Art of the Deal(邦題:トランプ自伝 アメリカを変える男)』 を著したリーダーが必要だ」と述べた。もしそうだとするなら,トランプではなく自分が出馬すべきだとシュウォーツは思った。シュウォーツはツイートでこう綴った。「“The Art of the Deal” を執筆したという理由で,大統領選に出馬を勧めてくれたドナルド・トランプに心から感謝します。」

シュウォーツは,トランプの1987年の画期的な回顧録(breakthrough memoir)のゴーストライターを務め,表紙に共同署名,50万ドルの前金の半分,印税の半分を獲得した。この本は驚異的な成功を収め,タイムズ紙のベスト・セラー・リストに48週間ランクインし,そのうち13週間は1位を獲得した。100万部以上が売れ,数百万ドルの印税を稼いだ。この本はトランプの名声をニューヨーク市をはるかに超えて広め,彼を成功した大物実業家の象徴(tycoon)とした。シュウォーツが当時ライターとして働いていたニューヨークの元編集者兼出版者,エドワード・コスナー(Edward Kosner)は,「トニーが トランプを創造した。彼はフランケンシュタイン博士だ」と述べている。

1985年後半から,シュウォーツはトランプと18ヶ月間を過ごした。彼のオフィスに泊まり込み,彼のヘリコプターに同乗し,会議に同行し,マンハッタンのアパートやフロリダの邸宅で週末を過ごした。その間,シュウォーツはトランプ一家を除けば,誰よりもトランプのことをよく知っていたと感じていた。しかし,ツイートを投稿するまで,シュウォーツは何十年もトランプについて公の場で語っていなかった。

ゴーストライターになることは彼の野望ではなかったし,喜んで次のステップに進んでいた。しかし,新候補者が45分間も演説する様子を録画で見ていた時,彼は奇妙なことに気づいた:数十年もの間,トランプは自分が本を書いたと思い込んでいたようだ。シュウォーツはこう思ったことを覚えている。「就任初日に,しかも簡単に反論できるのに,嘘をついたのなら,彼はどんなことでも嘘をつくだろう。(“If he could lie about that on Day One—when it was so easily refuted—he is likely to lie about anything.)」

トランプの選挙運動が成功する見込みは薄いと思われたため,シュウォーツはあまり心配する必要はないと自分に言い聞かせていた。しかし,トランプが演説の終盤でメキシコ移民を「強姦犯(rapists)」と非難した時,シュウォーツは不安に襲われた。何百時間もトランプを直接観察してきたシュウォーツは,トランプの魅力的な(beguiling)強さと,彼を失墜させる(disqualifying)弱点について,並外れて深い理解を持っていると感じていた。

しかしながら,多くの米国人はトランプを,ビジネスにおける確かな才能(knack)を持つ,魅力的で生意気な(brash)起業家(entrepreneur)と見ていた。これはシュウォーツが作り上げた神話的なイメージだ。「自分の直感を信じることは価値がある。」とトランプは著書の中で述べ,自分が一度も足を踏み入れたことのないホテルを購入して数億ドルの富を築くことになるだろうと付け加えている。

その後数ヶ月,トランプが予想を覆し共和党候補の最有力候補としての地位を確立するにつれ,シュウォーツは真実を明らかにしたい(set straight)という思いを募らせた。彼は以前からジャーナリズムを離れ,コンサルティング会社「エナジー・プロジェクト」を立ち上げていた。同社は従業員の「肉体的,感情的,精神的,そしてスピリチュアル」な士気(morale)を高めることで生産性向上を約束している。フェイスブックなどを顧客とするこの会社は成功を収めており,シュウォーツの同僚たちは彼に政治の争い(fray)には関わらないよう勧めていた。

しかし,トランプ大統領の誕生は彼を恐怖に陥れた。それはトランプのイデオロギーのせいではなかった - シュウォーツは トランプがイデオロギーを持っているとは思っていなかった。問題は トランプの,病的なほど(pathologically)衝動的で(impulsive)自己中心的な性格(personality)だと考えていた。

シュウォーツは トランプに対する懸念(reservations)を記した記事を発表することを考えたが,ためらった。“Art of the Dealというお世辞(flattering)をネタに金儲けしたため,自身の信頼性と動機が疑われることを分かっていたからだ。それでも,選挙戦を見るのは耐え難い苦痛だった(excruciating)。シュウォーツは,もし沈黙(mum)を守りトランプが当選したら,自分を決して許さないと決意した。6月,彼は沈黙を破り,ボズウェル(Boswell:伝記作家)役を演じることで知り合ったトランプについて,初めて率直な(candid)インタビューに応じた。

豚に口紅を塗ったようなものだ(I put lipstick on a pig)。」と彼は言った。「トランプをより広い注目を集め,実際よりも魅力的に見せるような描写に加担してしまったことを深く後悔(sense of remorse)している。」 と彼は続けた。「トランプが勝利し,核兵器のコードを入手すれば,文明の終焉につながる可能性が非常に高いと心から(genuinely)信じている。

もしシュウォーツが今,“The Art of the Dealを執筆していたら,全く異なる内容の本になり,全く異なるタイトルになっていただろうと語る。タイトルを尋ねると,彼は「社会病質者(The Sociopath)」と答えた。

トランプが自伝を書くというアイデアは,トランプやシュウォーツから生じたものではなかった。発端はメディアの大物(magnate),サイ・ニューハウス(Si Newhouse)だった。彼の会社アドバンス・パブリケーションズは当時ランダム・ハウス(Random House)を所有し,現在も同誌の親会社であるコンデ・ナスト(Condé Nastを所有している。「これは間違いなく,そしてほぼ唯一無二の,サイ・ニューハウスのアイデアだった」と,本書の編集者ピーター・オスノス(Peter Osnos)は回想する。コンデ・ナストが所有するGQ誌がトランプの表紙記事を掲載したことで,ニューハウス(Newhouse)は店頭での売り上げが異例の好調さに気づいた。

ニューハウスはこの企画についてトランプに電話をかけ,その後,彼を訪問して議論した。ランダム・ハウスは何度かの会合を重ね,この企画の実現を目指した。ある時,当時ランダム・ハウスを率いていたハワード・カミンスキー(Howard Kaminsky)は,分厚いロシア小説を 征服者の英雄のようなトランプの写真が描かれ,上部には金色のブロック体でトランプの名前が大きく書かれているダミー・カバーで包んだ。カミンスキーは,トランプが模型に満足していたものの,「私の名前をもっと大きくしてほしい。」と一つ提案したことを回想する。50万ドルの前金を確保した後,トランプは契約に署名した。

この頃,当時一流の若手雑誌ライターの一人だったシュウォーツは,トランプ・タワーにあるトランプのオフィスに立ち寄った。シュウォーツは以前にもトランプについて記事を書いていた。1985年,彼はニューヨークで「ドナルド・トランプの異色の物語(A Different Kind of Donald Trump Story)」と題する記事を発表した。その記事では,トランプを聡明な大物実業家(mogul)としてではなく,セントラル・パーク・サウスに購入したビルから家賃統制(rent-controlled)や家賃安定化(rent-stabilized)の対象となっているテナントを追い出そう(evict)として失敗した,不器用な(ham-fisted)悪党(thug)として描いていた。入居者を困らせるためにホームレスをビルに住まわせる計画も含まれていたトランプの試みは,シュウォーツが「失敗の遁走,手探りと失策の茶番劇(fugue of failure, a farce of fumbling and bumbling)」と表現するものとなった。

表紙のポートレートには,ひげを剃らず,不機嫌で,汗でテカテカになったトランプが描かれていた。しかし,シュウォーツが驚いたことに,トランプはその記事を気に入っていた。彼は表紙をオフィスの壁に掛け,金箔押しの便箋にシュワルツ宛てのファン・レターを書いた。「誰もが読んだみたいだ。」と,シュウォーツが保管しているそのレターの中でトランプは熱く語っていた(enthused)。

「ショックだった。」とシュウォーツは私に言った。「トランプは私が今まで会ったどんな人間像にも当てはまらなかった。彼は宣伝に執着していて(obsessed),何を書いても気にしなかった」。彼は続けた。「トランプには二つの立場しかない。卑劣な負け犬(scummy loser)か,嘘つきか,とにかく何であれ,あるいは自分が最高であること。私は最高になった。彼はタフ・ガイだと思われたかったし,表紙を飾るのが大好きだった」。シュウォーツは返信し,「私が長年書いてきた人たちの中で,あなたは間違いなく一番 潔い人(sport)だ。」と書いた。

シュウォーツはさらにインタビューを求め,今度はプレイボーイ誌のインタビューを担当した。しかし,トランプは謎めいた,一言で片言の返答ばかりで,シュワルツは苛立ちを募らせた。「不思議なことに,彼は私の質問に答えてくれなかった。」 とシュウォーツは語った。20分後,トランプは自分について 新しいことを 何も明かしたくない,高額な本の出版契約(lucrative book deal)を結んだばかりで,一番良い素材を取っておく必要があると説明したという。

「どんな本?」とシュウォーツは尋ねた。
「自伝(autobiography)だ。」 とトランプは答えた。

「あなたはまだ38歳だ - まだ自伝なんて書いてないじゃないか!」とシュウォーツは冗談を言った。
「ああ,分かってる。」とトランプは答えた。

「もし僕があなただったら」 とシュウォーツはトランプに言ったことを思い出した。「『“The Art of the Deal” (直訳:取引の芸術)』 という本を書くよ。きっとみんな興味を持つだろう。」
「その通りだ。」 とトランプは同意した。「君は書きたいのか?」

シュウォーツは数週間,この件について熟考した。これはファウスト的な取引(Faustian bargain)になるだろうと覚悟していた。生粋のリベラルであるシュウォーツは,トランプの冷酷で(ruthless)ひたむきな(single-minded)利益追求を決して称賛していなかった。「人生で何度かの,悪魔と高潔な側(the Devil and the higher side)に引き裂かれた時の一つだった。」と彼は語った。マンハッタンのブルジョアで知識階級の家庭に育ち,名門私立学校に通ったものの,同級生の何人かほど裕福ではなかった - そして,多くの同級生とは違い,彼には信託基金(trust fund)もなかった。

「私は恵まれた環境(privileged)で育った。」と彼は言った。「しかし,両親は 『あなたは自分で何とかしなさい』 とはっきり言っていた。」 トランプがこの申し出をした頃,シュウォーツの妻デボラ・パインズは次女を妊娠しており,マンハッタンのアパートの住宅ローン(mortgage)が既に高額だったため,家族が住み続けられるか心配していた。「お金のことを過剰に心配していた。」とシュウォーツは語った。 「お金があれば安全で安心できると思っていた。少なくとも,それが私の正当化(rationalization)だった。」

同時に,トランプの金を受け取ってトランプを代弁すれば(adopted Trump’s voice),ジャーナリストとしてのキャリアに深刻なダメージが与えられることも分かっていた。彼のヒーローは、トム・ウルフ(Tom Wolfe),ジョン・マクフィー(John McPhee),デイヴィッド・ハルバースタム(David Halberstam)といった文芸ノンフィクション(literary nonfiction)作家たちだった。ゴーストライターの仕事は,単調で面白くない仕事(hackwork)だった。しかし,最終的にシュウォーツは金額を提示した。彼はトランプに,前金と本の印税を半分ずつ払ってくれれば,仕事を引き受けると申し出た。

ゴーストライターに対しては異例の気前の良さだった(generous)。タフな交渉人として知られていたトランプは,その場で同意した。「予想外のとんでもない大金(huge windfall)だった。」 とシュウォーツは回想する。「しかし,自分を裏切っていることは分かっていた。文字通り,裏切り(selling out)という言葉は私の仕事ぶりを表すために作られた。」 まもなく,‘SPY’誌は彼を 「元ジャーナリストの トニー・シュウォーツ」と呼ぶようになった。

シュウォーツは “The Art of the Dealを容易な仕事だと考えていた。構成はシンプルだ:トランプが手がけた最大級の不動産取引を6件ほど記録し(chronicle),ビジネスで成功するための決まり文句(bromides)をいくつか並べ,トランプの人生について掘り下げていく。リサーチのため,彼は毎週土曜日の朝にトランプにインタビューする計画を立てていた。

しかし,最初のインタビューは計画通りには進まなかった。トランプが トランプ・タワーの頂上にある(atop)大理石と金箔で覆われた(marble-and-gilt)自宅のアパートを案内した後 ― シュウォーツには ホテルのロビーのようで 人が住んでいないように見えた ― 二人は話し始めた。しかし,シュウォーツが トランプの最も本質的な特徴の一つと考える 「集中力がない(no attention span)」ということによって,議論はすぐに頓挫した(hobbled)。

シュウォーツの記憶によると,当時のトランプは記者たちに概して愛想よく接し(affable),要求に応じて短く,面白おかしくも自惚れた(immodest)発言をしていたという。ニューヨークでのインタビューでも トランプは積極的に話してくれたが,それほど時間や深い考察を必要とするものではなかった。しかし,本のためには,トランプは持続的で思慮深い(thoughtful)回想録(recollections)を シュウォーツに提供する必要があった。

彼はトランプに幼少期について詳しく話してほしいと頼んだ。スーツとネクタイ姿で数分座っただけで,トランプは焦燥し,いらだち始めたbecame impatient and irritable)。シュウォーツの記憶によると,彼は「教室でじっと座っていられない幼稚園児(kindergartner)のように」 そわそわしていた(fidgety)という。シュウォーツが問い詰めても,トランプは幼少期のことをほとんど覚えていないようで,退屈していることを露わにした。シュウォーツの期待をはるかに上回る速さで,トランプはミーティングを終えた。

毎週(week after week),このパターンが繰り返された。シュウォーツはセッションの時間を短くしようと試みたが,トランプの発言は奇妙なほど断片的で(truncated)表面的な(superficial)ものにとどまった。

「トランプについては千変万化の方法(thousand ways from Sunday)で書かれてきたが,彼の本質的な側面は十分に理解されていないようだ。」 とシュウォーツは語った。「人々が書く多くのものに暗黙のうちに表れている(implicit)が,明確に示される(explicit)ことは決してない - 少なくとも,私は見たことがない。つまり,彼自身の自己顕示(self-aggrandizement)以外の話題に数分以上集中し続けることは不可能であり,たとえ集中できたとしても … 。」

シュウォーツは呆れたように首を振り,言葉を詰まらせた(trailed off)。彼は大統領候補としてトランプの集中力の欠如(inability to concentrate)を憂慮すべき点と見ている。「もし彼が 危機管理室(Situation Room)で危機について説明を受けなければならないとしたら,長時間集中し続ける(paying attention over a long period of time)とは想像もできない。」と彼は語った。

最近の電話インタビューでトランプは,むしろ危機において最も重要なスキル,つまり妥協を築ける能力を持っていると語った。発表の中で “The Art of the Dealを強調した(touted)のは,近年の大統領には彼ほどの強靭さと手腕(toughness and finesse)が欠けていると考えているからだと彼は説明した。「中国との貿易赤字を見てくれ。イランとの合意を見てくれ。私は取引で財を成してきた。私はそれをしている。得意としている。それが私のやり方だ。」

しかしシュウォーツは,トランプの集中力のなさ(short attention span)が 「驚くほど(stunning)表面的な知識(superficial knowledge)と,あからさまな無知(plain ignorance)」を生み出していると考えている。「だからこそ,彼は最初の情報源としてテレビを好む。情報は簡単に理解できる(digestible)短い音声で提供される。」と彼は述べた。さらに,「トランプが成人してから本を最後まで(straight through)読んだことがあるとは到底思えない(seriously doubt)。」 と付け加えた。シュウォーツによると,トランプを観察した18ヶ月間,彼の机の上,オフィスのその他の場所,あるいは自宅のアパートで本を見たことなど一度もなかったという。

他のジャーナリストも,トランプの読書への関心のなさに気づいている。5月,FOXニュースのメーガン・ケリー(Megyn Kelly)記者が,聖書と “The Art of the Deal以外で好きな本を挙げるようにトランプに尋ねたところ,トランプは1929年の小説 『西部戦線異状なし(All Quiet on the Western Front)』を挙げた。トランプがこの本を読んでから何年も経っていると疑い,ケリー記者はトランプに 最近読んだ本について尋ねた。

「節(passages)を読み,範囲(areas)を読み,章(chapters)を読む ― 時間がないんだ。」 とトランプは言った。‘The New Republic’紙が最近指摘したように,この姿勢は,最新の書籍を習慣的に読むバラク・オバマや,政治顧問のカール・ローブと激しい読書競争を繰り広げたとされるジョージ・W・ブッシュなど,ほとんどのアメリカ大統領には当てはまらない。

トランプの最初の妻イヴァナ(Ivana)は,トランプがアドルフ・ヒトラーの演説集 “My New Orderをベッド脇の戸棚に保管していたと主張をしたのは有名である。1990年,当時パラマウント社の幹部だったトランプの友人マーティ・デイビス(Marty Davis)が,トランプにこの本を贈ったと ‘Vanity Fair’ のマリー・ブレナーに証言して この話に信憑性(credence)を与えた。

「トランプが興味を持つだろうと思った。」とデイビスは彼女に語った。しかし,ブレナーが トランプにその本について尋ねると,彼はその本をヒトラーの別の著作 “Mein Kampf(我が闘争)だと誤認した。どうやら彼はタイトルすら読んでいなかったようだ。「もし 私がこの演説集を持っていたとしても ― 持っているとは言っていないが ― 決して読まないだろう。」 とトランプはブレナーに語った。

窮地に陥ったシュウォーツは,トランプにさらなる情報を渡すよう仕向ける戦略を考えた。彼は,邪魔が少ないパーム・ビーチにあるトランプの邸宅,マール・ア・ラーゴで週末を過ごす計画を立てた。庭で二人が雑談していると,イヴァナが冷たく(icily)通り過ぎた。シュウォーツが夫の限られた自由時間を奪おうとしていることに明らかに苛立っていた。トランプは再び苛立ちを募らせた。シュウォーツの記憶によると,土曜日の昼食のずっと前から,トランプは「ほとんどかんしゃくを起こした(threw a fit)」という。彼は立ち上がり,これ以上の質問には耐えられないと宣言した。

シュウォーツは部屋に行き,著作権代理人(literary agent)のキャシー・ロビンズに電話をかけ,本の執筆はできないと伝えた(ロビンズは これを認めている)。しかし,ニューヨークに戻る途中、シュウォーツは別の計画を思いついた。トランプの仕事場に付きまとい,さらに重要なことに、オフィスの電話を聞くことで,彼の生活を盗聴する(eavesdropping)というのだ。そうすれば,トランプから長々とした考えを引き出す(extracting)必要はない。シュウォーツがこのアイデアをトランプに 提案すると,トランプは気に入った。

それ以来,ほぼ毎日,シュウォーツはトランプ・タワーのオフィスでトランプから約8 ft離れた場所に座り,トランプの電話回線の内線を聴いた。シュウォーツによると,トランプに電話をかけてきた銀行家,弁護士,証券会社,記者たちは,誰も自分が盗聴されていることに気づいていなかったという。通話は通常 長くは続かず,トランプのアシスタントが会話の切り替えを手伝っていた。トランプが誰かと話している間,アシスタントはよく次の電話の相手を知らせるポスト・イットを持って部屋に入ってきた。

「彼は人を弄んでいた。」 とシュウォーツは回想する。ビジネス・パートナーとの電話では,トランプはお世辞を言ったり,威圧したり(bully),時には怒ったりした(get mad)が,常に計算されたやり方(calculated way)だった。会話が終わる前には,トランプは「最新の成功談を話してくれた。」 とシュウォーツは言う。電話の最後に別れを告げる代わりに,トランプはいつも 「君は最高だ!」と締めくくっていた。トランプがシュウォーツに聞かれるにはプライベートすぎると考えた電話は一つもなかった。「彼は注目されるのが大好きだった。」 とシュウォーツは回想する。「もし30万人が聞いていたら,もっと嬉しかっただろう。」

今年,シュウォーツは,選挙戦後のために,より思慮深く,ニュアンスに富んだドナルド・トランプ像を用意しておかなければならないという意見を耳にした。「そんなものはない。」とシュウォーツは断言する。「プライベートなトランプなど存在しない。」 これは後知恵(hindsight)の問題ではない。“The Art of the Dealを執筆中,シュウォーツは日記をつけ,トランプの個性に驚嘆し,トランプは世間の注目を浴びたいという欲求に突き動かされているように思えたと記している。

 「彼はただ 『​​踏み鳴らす,踏み鳴らす,踏み鳴らす(stomp, stomp, stomp)』 だけだ - 外部から認められたい,もっと大きくなりたい,もっと多くなりたい,といった,特に何の目的もないことを延々と繰り返すだけだ。」と,19861021日に彼は記している。しかし,数日後の日記に彼が記しているように,「トランプがただ憎しみに満ちた人物,あるいはもっとひどい,一面的な ほらふきで描かれるよりも,共感を呼ぶ人物,奇妙なほど(weirdly)共感を呼ぶ人物で描かれる方が,この本ははるかに成功するだろう」。

盗聴によってインタビューの問題は解決したが,新たな問題も生じた。トランプが電話でビジネスについて話しているのを聞いた後,シュウォーツは トランプに短い追加質問をした。そして,取引に関わっている他の人々に電話をかけ,トランプから得た情報を補強しようとした。しかし,彼らの説明はしばしばトランプの話と真っ向から矛盾していた。「嘘をつくのは彼にとって第二の天性(second nature)だ。」とシュウォーツは述べた。「私がこれまで会った誰よりも,トランプにとって 自分がその瞬間に言っていることは何でも真実だ,あるいはある程度真実だ,あるいは少なくとも真実であるべきだと自分に言い聞かせる能力を持っている。

シュウォーツによると,トランプが彼についた嘘はしばしば金銭に関するものだった。「何かにいくら払ったか,所有している建物の価値はいくらか,あるいは実際には破産寸前だったカジノの一つがどれだけの利益を上げていたか,といったことだった」。トランプはマール・アー・ラーゴをたった800万ドルで購入したと自慢したが,近くの海岸線を記録的な額で購入したことは省いていた。ゴシップ欄が チャールズ皇太子が トランプ・タワーのマンション数戸の購入を検討していると誤って報じた後,トランプはその噂の出どころは全く知らないと示唆した (「確かに我々には悪影響はなかった。」 と彼は著書 “The Art of the Dealの中で述べている)。

Village Voice’ の記者ウェイン・バレットは後に,トランプ自身がジャーナリストにこの話を仕込んだことを明らかにした。シュウォーツもトランプがメディアにそのようなトリックを仕掛けているのではないかと疑い,トランプが偽名を使って報道機関に頻繁に電話をかけているという,広まっている噂について尋ねた。トランプはそれを否定しなかった。シュウォーツの記憶によると,トランプはニヤリと笑って「気に入っただろう?」と言ったという。
・・・

(その2)に続く。

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2025年11月25日 (火)

写真集 “Take Ivy”,出版 60年

サイト ‘IVY STYLE’,Oct.12,2025 付けで
On the 60th anniversary of “Take Ivy”’
「“Take Ivy出版 60周年記念によせて」
の見出し記事が掲載されていました。

下記,拙訳・転載します。
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This article is reprinted from the Yale Daily News.

By Zachary Clifton, Staff Reporter

1965年930日,東京の雑誌社が米国の大学8キャンパスのファッションを特集した書籍を出版した。その名も “Take Ivy。写真は写真家の林田昭慶(Teruyoshi Hayashida)によるもので,文章はすべて日本語で書かれており,彼が撮影したキャンパスはアイビー・リーグを構成する各キャンパスを網羅している。ニューヨーク・タイムズ紙は「ファッション・インサイダーの宝庫(treasure of fashion insiders)」と称賛し(hailed),GQ誌は「メンズウェアの先駆的大著(seminal #menswear tome)」と評した(dubbed)。本書には様々な(no shortage of)呼び名が付けられている:「元祖スタイル・バイブル」,「サルトリアル・ケイフェイブ(Sartorial kayfabe)」「日本のベビー・ブーマーのためのアイビー・リーグ・バイブル」など,ファッション用語と聖典(sacred text)の同義語を組み合わせた,ありとあらゆる呼び名が付けられている。

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先週,“Take Ivyは出版60周年を迎え,その遺産は今もフィラデルフィア,プリンストン,ニューヨーク,ニュー・ヘイブン,プロビデンス,ケンブリッジ,イサカ,ハノーバー,そしてその間のあらゆる都市に息づいている。数々の称賛(accolades)や揺るぎない言及を取り去れば,“Take Ivyは写真集である。“Ivy styleが 初めて体系的に(methodically)記録された(chronicled)。林田は日本から渡米し,これらの写真を春に撮影した。ニューヨーク・タイムズ紙の報道によると,写真は数万枚に上る。林田は,ルールと明快さを重んじる好奇心旺盛な日本の読者に,一見複雑に見えるアイビー・リーグ・ファッションのコードをより深く理解してもらいたいと考えた。

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この本には,「イェール大学服装規定20条(Yale University’s 20-Article Dress Code)」が掲載されている。これは,1965年に新入生向けに配布されたガイドラインである。このガイドラインは,学生たちに 「ほとんどの時間を授業や寮で過ごすようになった今,キャンパスではカジュアルな服装(dress casually)で構わない」と安心させていた(reassured)が,デートやレストランではスポーツ・ジャケットとネクタイを着用するよう厳しく(sternly)勧告していた。米国のファッションとカルチャー ライター,W・デイヴィッド・マークス(W. David Marx)は,「アイビー・リーグのワイルド・マドラス・ウェア着用者たちを追って(Stalking the Wild Madras Wearers of the Ivy League)」の中で,“Take Ivyが捉えた学生たちの “Ivy styleについて書いている。「彼らは、マドラス・コットンのブレザー,オックスフォード生地のボタン・ダウン・シャツ,カーキのバミューダ・ショーツ,くたびれた(patinaed)ペニー・ローファーといった,アイビー・リーグの典型的なスタイルの頂点(pinnacle)を極めた服装をしている。」 と書いている。

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ハーバード大学で学び,現在は東京で執筆活動を行っているマ-クスは,“Take Ivyについて簡潔な(succinct)解説を行っている。彼によれば,この本は「中庭(quads)をぶらぶら歩き,ホットドッグを食べ,図書館で期末試験(finals)の勉強をする若い米国人の男性たち」 を描いたものだという。歩き方や勉強の仕方は変わっていない。しかし,学生たちは変わった。今日では,学生の半分は女性で,約10分の1は外国人だ。1960年代のイェール大学の学生ほぼ全員が白人の米国人男性だったは,今では5分の1以下になっている。

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学生たちは見た目こそ違うが,服装はしばしば同じである,特に今は。先月,「ダブルのポロ・カラー,カーゴ・ショーツ,そしてJ.クルー,ラルフ・ローレン,J.プレスといったブランドのブレザーが,近年で最もプレッピーなニューヨーク・ファッション・ウィークを牽引した。」 と,GQ誌のサミュエル・ハインは述べている。60年前にカタログ化されたスタイルが,今なお文化的な意識の最前線に君臨している。「ニューヨーク・ファッション・ウィーク(NYFW)では,誰もがプレッピーになりたがる。」と,最近のGQ誌の記事には書かれている。

What is “Take Ivy” to today’s Yale students?
現代のイェール大学の学生にとって,“Take Ivyとは一体何なのだろうか?

全く知らない学生もいる。しかし,この本が日本の読者に紹介したスタイルを今でも着ている学生もいる。“Take Ivyを知っている学生たちは今でも コピーを所有し,スタイル・ガイドとして活用している。しかし,学生たちは徐々に,そのスタイル・ルールを守ることをやめ(crept away),むしろそれを覆す(subverting)ようになってきている。

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Sunbathing and studying / 日光浴と勉強 

Take Ivyの写真によると,ある晴れた日,モース・カレッジ(Morse College)の外では,上半身裸のイェール大学の学生が,大学とペイン・ホイットニー体育館の間の芝生に寝そべっていた(sprawled out)。キャプションには,この学生が「試験の準備もしながら,必死に(desperately)日焼けした肌を目指していた。」と記されている。おそらくこの写真集の中で最も印象的な(evocative)この写真は,イェール大学で初めて暖かくなった日,輝く太陽が学生たちにニュー・ヘイブンの冬を乗り越えたことを告げる様子を思い起こさせる(conjures)。キャプションにはさらに,「アイビー・リーガーは,成績は良いのに屋内で過ごす時間が長すぎて肌が青白くなっている学生を嫌う(frown upon)。」と書かれている。

その早春の日,ゴンザレスはダーク・レザーのJ.クルーのペニー・ローファー,赤いストライプの入った白いリブ編みのジム・ソックス,そして白いストライプの入った赤いジム・ショーツでソファに座っていた。ゴンザレスはバークレー・カレッジに住んでおり,その校舎カラーは(当然のことながら)赤と白だ。大学のカラーを讃える彼の服装は,「忠誠心(allegiant)」とでも言うべきものだ。ダニエル・カペロ(Daniel Cappello)は,アスーリン(Assouline)社刊行の著書 “The Ivy League” の中で,イェール大学の学生たちを この言葉で形容している。「入学する(matriculating)者も卒業する者も,イェール大学の学生たち(Yalies)は皆,母校(alma mater(*ラテン語))への驚くほど純粋な愛着を抱いている」。カペロは,“Take Ivyで初めて紹介された “Ivy style” の印象を再考している(revisits)。

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「イェール大学の学生たちは,同じように飾り気のない(unaffected),クラシックで無骨な(ruggedness)装いをする傾向がある。いわゆるメイン・ルック(Maine look),つまりスポーティな ‘Patagonia’ のフリースや ‘North Face’ のジャケットで,北東部のさわやかな,しかし身の引き締まるような(brisk)秋をしのぐ。」 と彼は書いている。「海洋性気候のニュー・ヘイブンは,イェール大学を ‘Land’s End’ ルックの自然な生息地としている。ゴンザレスもその真髄を理解している。彼は履き古したペニー・ローファーに,トラウザーズ,あるいはストライプやチェック柄のショート・パンツと,‘Arc’teryx’ や ‘The North Face’ のテクニカル素材のアウターを合わせている。最近では,控えめで鮮やかな,ほとんどバーント・オレンジに近い黄色のレイン・コートが彼の定番(go-to)だ。」

彼は私に “Ivy style” について語ってくれた - それは単に “Take Ivyで紹介されているようなものではなく,ゴンザレスが 「時折」取り入れること(tapping into)を楽しんでいる現代版なのだ。彼はこう言った:「ファッションには,客観的に見て優れているニッチなスタイルがたくさんある。私たちのほとんどは,いくつかのスタイルに惹かれ(gravitate),他のスタイルを捨て去る(leave)。‘Ivy styleは私が憧れ,身につけているスタイルの一つである。しかし,それを完全に自分のものにすることは決してない。」 ゴンザレスのファッションへの衝動は,美学を超えた感情によって和らげられている。彼は,昨年 ‘The Atlantic’ 誌に 「アイビー・リーグはいかにして米国を破壊したか(HOW THE IVY LEAGUE BROKE AMERICA) 」と寄稿したデイビッド・ブルックス(David Brooks)の言葉に同調している。「まとまりのある社会には必ず…優れた人物像がある。

米国では,19世紀後半から1950年代のあるときまで,優れた人物とはニューヨーク市五番街のようなエリート社交界を牛耳っていた,かつてのWASP一家に生まれた男性だった。」 ゴンザレスもニューヨークを故郷としているが,こう語った。「ファッションは超富裕層だけに限定されるべきではない。主流となるものの多くは,労働者階級のグループから生まれることが多い。 ファッションは,異なるグループ間で文化交流や言語を行う最も一般的な形態の 1 つだ。」 その会話にはすべての人が含まれるべきだと彼は考えているが,ルームメイトほど流暢に話せる人はほとんどいない。

Standard Bearer or Wearer? / 旗手か着る者か?

バークレー大学2年生(sophomore)でゴンザレスのルームメイト,グリフィン・サントピエトロ(2028年卒業予定)は,ニュース広告で不朽の名声を博した(immortalized) “Ivy styleを愛好している(has a fondness)。彼は,ニュー・ヘイブンの老舗ブランド,J.プレスにとって「アイコン」のような存在である。J.プレスは1903年の創業以来,米国大統領やノーベル賞受賞者にネイビーのブレザーやシェトランド・セーターを提供してきた。

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作家でもあるサントピエトロは,メイン州出身。現在はコネチカット州在住だが,カペロ(Cappello)の「昔ながらの飾らない無骨さ(unaffected ruggedness)」は今も健在だ。

昨年のイェール大学対ハーバード大学戦― “Take Ivyが 「世界三大大学対抗戦の一つ」と謳う に,サントピエトロは ワックス・コットン(waxed-cotton)の「バブアー(Barbour)ジャケット」,黒のレザー・グローブ,クラシックなネイビーの Y字型セーター,そして日本製のセルビッジ・デニム(selvedge denim)を身につけた。J.プレスのカタログのような雰囲気(aesthetics)の写真をインスタグラムに投稿し,「ハーバード,負けた」 とキャプションを付けた。

確かに,ハーバードは負けた。しかし,サントピエトロの服装は,フットボールの試合が単なる偶然の出来事であるかのように見えた。

彼は私に 「ぎこちなく(awkwardly)フォーマルになりたくなかった。」と言い,モース・カレッジに通うサントピエトロの同級生,サケス・サダナラ(28年卒業予定)も同意見だった。 「奇抜な(crazy)ものを着るのはちょっと気が進まない。」と彼は言った。「その代わりに,普通の定番アイテム(staples)に少しだけセンスを加えたものを着るのが好きだ。」

サダナラは,クローゼットの中で一番のお気に入りは アクネ・ストューディオズ(Acne Studios)の 2021Mだと言っていた。「このパンツには 『個性』 があって,他の黒いリーバイスとは一線を画す」。その『個性』とは,ワイド・ストレートのレッグ,膝から少しフレアになったシルエット,ロング丈,そしてヴィンテージ・ウォッシュによる着古したような風合い(heavily worn-in look)である。

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二人,そしてゴンザレスは,服装にこだわりすぎないという点で意見が一致している。特にサントピエトロは,“Ivy styleが教義化される(become doctrine)ことを嫌う。「説教臭く(didactic)言う必要はない。」と彼は言う。「毎日がベストな服装というわけではない。そうである必要もない。しかし,スウェットパンツとTシャツだけで終わることは絶対にしたくない。自分がどこにいるのか意識しているということを,みんなに知ってもらいた。」

本の限界について,彼はルームメイトと似たような境地に達した。「この時代について語るとき… とても白人中心で,男性中心だ。重要なのは,それを再現することではなく,スタイルの原則を取り入れ,現代風にアレンジすることだ」。彼にとってそれは,「着飾っていながらも機能的」という意味だ。「‘Take Ivy世代の男性たちは,父親のクローゼットに行き,古着を着た最初の世代だ。」

「しかし」 と彼は皮肉を込めて言った(quipped),「彼らは皆,もっとクールに着こなしている。」

サダナラはこう言った: 「昔と比べて,今はずっとフォーマルではない。私にとって ‘Ivy styleは 『法律』ではなく,むしろインスピレーションを得るための場所だ。伝統を尊重しつつ,自分らしさを表現することを両立させている。」

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サダナラ,サントピエトロ,ゴンザレスの3人は,キャンパスでそれぞれのスタイルで注目を集めている。しかし,誰もそれを深刻に捉えていない。

彼らが “Take Ivyをめくり,バークレー・レッドのソファに沈み込み,どういうわけか自分たちを揶揄し,かつ自分たちを擁護するような笑いに浸っている姿を容易に想像できる。その犯人(culprit)は,林田の “Play hard…” (思いっきり遊ぼう)」というセクションだろう。そこには,イェール大学の服装規定を鵜呑みにする(matter-of-factness)ような言葉が添えられている:
「男友達といると,男子学生は酒浸り(drinking sprees)になることがある。たいていは穏やかだが,時には意識を失うほど飲み明かすこともある。」

Take Ivyは,服装や形式ばった装いの下に,アイビー・リーグの大学生活が長きにわたり,スタイル,学問,そして社交の場の喧騒の間で危ういバランスの上に成り立っていたことを証明するものとして,今もなお語り継がれている。60年を経て,時代遅れの社交生活の見せかけ(pretenses)は薄れつつある。しかし,最高のスタイルの慣習は残っている。

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(転載了)
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Take Ivy” が出版された 1965年,私は ファッションとは ほぼ無縁の高校生でした。
因みに 1965年,週刊誌「平凡パンチ」は 50円,“Take Ivy” は 500円 でした。

その後,大学生になり “Take Ivy” を出版した 婦人画報社のファッション月刊誌 ‘MEMS CLUB’ を買うようになって ‘Take Ivy’ の存在を知りました。

米国で “Take Ivyが 広く知られるようになったきっかけは 20085月,スタイル・ブロガー,マイケル・ウィリアムス(Michael Williams)が,Take Ivyを スキャンして数十枚の写真を彼のウェブサイト “A Continuous Lean(継続的な傾き)に掲示したことでした。

2009年617日に,‘The New York Times’ の Fashion & Styleに,The All-American Back From Japanというタイトルの記事が掲載されました。
この記事には 「“Take Ivyは 米国では常に希少で,ファッション関係者の貴重品(treasure)として eBayや 古本屋で 千ドルから数千ドル以上の値が付いている。」とありました。

その後,2010年,ブルックリンの出版社 「パワーハウス(powerHouse)」が,復刻英語版Take Ivyを出版し,世界で 5万部売れ,ネオ・アイヴィー・スタイル(neo-Ivy style)ウェイブの先導的役割を果たし,ラルフ・ローレンと J.クルーの店では,棚に飾られたようです。

この出版前に,またしても The New York Times’ は,Fashion & Style,The Look(新書紹介?)で “Take  Ivy” を取り上げ,「・・・online で 数千ドルで “Take Ivy” が取引されていた。・・・ 来週からは 誰でも 24.95ドルで “Take Ivy” の odd influence(*何と訳すべきか?) を経験できるようになり ・・・」 などと紹介しました。
この 原本の高騰,英語復刻版の出版は 朝日新聞で報道されたような気がします。(記憶,不確か)

関東を離れていた私は,2011年 東京出張の折り,立ち寄った ‘WINE LABEL for SHIPS’ 銀座店(銀座1丁目)で,積んであった 英語版 “Take Ivy” を見かけて購入しました。

面白いのは 写真集 “Take Ivy” は VAN Jacket が企画した映画(ドキュメンタリ・フィルム) “Take Ivy” の 謂わば 副産物(オマケ)だったことです。
米国に行った映画撮影クルーは VAN Jacketの社長 石津謙介の息子で企画部長だった 石津祥介を団長に くろすとしゆき,4人の撮影クルー,通訳兼コーディネーターとして米国に留学経験のある広報部員の計7人に スティル写真撮影の為に カメラマンの林田を加えた8人のメンバーでした。
帰国後 VAN Jacket と関係が深かった ‘MEN’S CLUB’ の発行元の婦人画報社が 林田が撮った写真を見て 写真集を出版することになったようで,撮影隊が帰国するまで,元々の企画には なかったのです。但し,写真集の解説は VAN Jacket および くろすとしゆき が 執筆しました。
この写真集は 半分を VAN Jacket が買い取り,各店に置いたそうです。

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2025年9月17日 (水)

トランプに関する,1期目の大統領職時のノン・フィクション本

2018年に出版された,トランプの1期大統領時代の内幕を記したノン・フィクション “Fear: Trump in the White House” についての 英文 Wikipedia の記事を 本ブログは 2018年に,その最終項 ‘White House response’ のみを転載しました(White House response” to the non-fiction book “FEAR”
が,トランプの実態を知るため,ここでは Wikipedia全文を 拙訳・転載します。

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Wikipedia
Fear: Trump in the White House
「恐怖:ホワイト・ハウスのトランプ」

001_20250606145901 『恐怖:ホワイト・ハウスのトランプ』は,米国人ジャーナリスト,ボブ・ウッドワード(Bob Woodward)によるドナルド・トランプの1期大統領時代のノンフィクションである。2018911日に出版された。ウッドワードは,トランプ政権関係者への数百時間におよぶインタビューに基づいて本書を執筆した。出版社のサイモン&シュスター(Simon & Schuster)は,発売初週に全フォーマットで110万部を売り上げ,同社史上最速の売れ行きを記録したと発表した。

Author  Bob Woodward
Subject Presidency of Donald Trump
Genre   Nonfiction
Published           September 11, 2018
Publisher           Simon & Schuster
Publication place United States
Media type         Print, e-book, audiobook
Pages   448
ISBN     978-1-5011-7551-0 (Hardcover)

Background / 背景

リチャード・ニクソン大統領の辞任につながったウォーターゲート事件(Watergate scandal)の暴露で最もよく知られるボブ・ウッドワードは,ローリング・ストーン誌のライアン・ボルト(Ryan Bort)によって「アメリカ史上最も尊敬され(well-respected),高く評価されているジャーナリストの一人」と評されている。ウッドワードとカール・バーンスタインによるこのスキャンダル報道は,ワシントン・ポスト紙にピューリッツァー賞をもたらし,「史上最も高く評価されているアメリカ調査報道ジャーナリスト(the most heralded U.S. investigative journalists ever)」へと押し上げたと,デイリー・テレグラフ紙のニック・アレン(Nick Allen)は述べている。

ビル・クリントン,ジョージ・W・ブッシュ,バラク・オバマといった米国大統領に関する著書の中で,アレンはウッドワードについて,「執拗かつ系統的な報道(relentless and methodical reporting)」によって,「ホワイト・ハウスの歴代政権の内部事情について,他のどの作家にも匹敵しないほどの詳細な情報を得ている」と評している。BBCニュースのニック・ブライアント(Nick Bryant)は,ウッドワードを「ワシントン最高の年代記編者(chronicler)」,「アメリカで最も信頼されている(trusted)ジャーナリストの一人」,「センセーショニストの対極(the opposite of sensationalist)」と評している。

2013年,ウッドワードとオバマ政権の間で予算削減をめぐる論争が勃発した際,ドナルド・トランプは「ボブ・ウッドワードを攻撃しても罰せられない(get away)のはオバマ政権(ホワイト・ハウス)だけだ。」と発言した。

2018年730日,CNNは匿名の情報筋から,ウッドワードが2018911日にトランプ政権に関する信頼できる情報源に基づいた著書を出版する予定であると報じた。ウッドワードによると,本書のタイトルは,トランプが2016年に別のインタビューで行った「真の力とは,その言葉を使いたいとさえ思わないが,恐怖である。(Real power is, I don't even want to use the word, fear.)」という言葉に基づいているという。

2018年94日付のニューヨーク・タイムズ紙の記事によると,本書は「直接の(firsthand)情報源,同時期の会議メモ,ファイル,文書,そして個人の日記への数百時間におよぶインタビュー」に基づいているという。ウッドワードはインタビューを録音した。ウッドワードの研究助手はエヴリン・ダフィーで,彼女は録音の書き起こしも行った(transcribed)。

この本の編集者はアリス・メイヒュー(Alice Mayhew)である。ボブ・ウッドワードは,アリス・メイヒューが『大統領の陰謀(All the President's Men)』の編集者を務めていた1974年から彼女と仕事をしており,本作は二人の共同執筆作として19冊目になる。メイヒューは「ワシントン・ナラティブ(the Washington Narrative)」というジャンルを広めたことで知られており,ウッドワードは謝辞の中でメイヒューの「本書のコンセプト,ペース,構成,そしてトーンへの素晴らしい取り組み」に感謝している。

Content / 内容

この本は,トランプの多くの側近たち(aides)の経験を詳細に描いている。本書によると,側近たちは署名を阻止するために机から書類を取り除いていたという。ホワイト・ハウス首席補佐官のジョン・F・ケリー(John F. Kelly)はトランプを「馬鹿(idiot)」「錯乱した(unhinged)」と評し,ジェームズ・マティス(James Mattis)国防長官はトランプの理解力は「小学5年生か6年生並み(a fifth or sixth grader)」だと述べ,トランプの元個人弁護士ジョン・M・ダウド(John M. Dowd)はトランプを「クソ嘘つき(a fucking liar)」と呼び,特別検察官の捜査でロバート・モラー(Robert Mueller)特別検察官に証言する(testify)ことに同意するなら「オレンジ色のジャンプ・スーツ」を着ると脅した。

この本によると,トランプは司法長官(attorney general)のジェフ・セッションズ(Jeff Sessions)を「知的障害者(mentally retarded)」と呼び,「愚かな南部人(dumb southerner)」と表現したという。トランプは「誰に対してもこのような言葉を使ったことはない」と否定しているが,2004年の録音テープはこの主張(assertion)を否定している(contradict)。

CNNの編集主幹(editor-at-large)クリス・シリッツァ(Chris Cillizza)は,主流メディアの報道や,ジャーナリストのマイケル・ウルフ(Michael Wolff)の『炎と怒り(Fire and Fury)』,元トランプ側近のオマロサ・マニゴールト・ニューマン(Omarosa Manigault Newman)の ‘Unhinged’ などの2018年の他の書籍と比べて, “Fear” は似たようなストーリーを描いていると述べた。それは,トランプ政権は「混沌とし,機能不全に陥り、準備不足のホワイト・ハウス(chaotic, dysfunctional, ill-prepared White House)」を抱えており,そのホワイト・ハウスは「仕事に絶望的に無能な男だが,実際どれほど絶望的に無能であるかを全く理解できない(a man hopelessly out of his depth in the job, but entirely incapable of understanding how desperately out of depth he actually is)」トランプによって率いられているというストーリーだ。

2017年4月のカーン・シェイクン化学兵器攻撃(Khan Shaykhun chemical attack)後に,注目すべき事件が発生したと報じられている。ウッドワードによると、ジム・マティス国防長官は,トランプのシリアのアサド大統領暗殺命令を無視したという。トランプ大統領は「殺してやる! 突入しろ。奴らを全員殺してやる!(Let’s fucking kill him! Let’s go in. Let’s kill the fucking lot of them)」と発言したと報じられている。トランプは2018年,この計画は「検討すらされていなかった」と述べ,その本は嘘だと主張したが,2020年には前言を翻し,自身は賛成していたがマティス長官は反対していたと述べた。

Reception / 受け取り 

White House response / ホワイト・ハウスの反応

2018年8月初旬,トランプはウッドワードに,原稿が既に完成していた後にこの本について電話をかけた。トランプはウッドワードに言った:「私は君にはとてもオープンだ。君は常に公平だと思っている。」と語り,二人とも本の執筆前にインタビューを受けるべきだったという意見を述べた。

トランプは当初,ウッドワードが彼にインタビューを希望していることを誰からも知らされていなかったと主張し,側近が「話すのを恐れていた」か「忙しかった」ためだと説明していた。しかし,電話の後半でトランプは,共和党のリンジー・グラハム(Lindsey Graham)上院議員が ウッドワードがインタビューを希望していることを「すぐに」伝えたことを認めた。

ウッドワードはトランプに対し,この本は「世界,そしてあなたの政権,そしてあなた自身に対する厳しい視点(a tough look at the world and your administration and you)」だが,「事実に基づいた(factual)」,「正確な(accurate)」ものだと伝えた。トランプは,この本は「否定的で(negative)」,「悪い(bad)」,「非常に不正確な」ものだと結論付け,「正確なのは,大統領として私以上に優れた仕事をした人はいないということだ」からと述べている。

9月初旬に複数の報道機関が本書の抜粋(excerpts)を掲載した後,トランプは “Fear” は「またしても駄作(just another bad book)」であり,ウッドワードが「信頼性に多くの問題がある彼は特定の書き方をしたがった私は彼と話したことは一度もない」と主張した。トランプはまた,本書に出てくる話を「捏造(made up)」と呼び,出版の「タイミング」からウッドワードが民主党の「工作員(operative)」ではないかと疑問を呈した。

一方,ホワイト・ハウス報道官のサラ・ハッカビー・サンダース(Sarah Huckabee Sanders)は,本書には「捏造された物語に過ぎない(nothing more than fabricated stories)」と述べた声明を発表した。さらに,ケリーは,トランプ氏を「馬鹿」と呼んだという本書の主張を否定し,マティスはトランプが登場する箇所を「フィクション」と呼び,彼が大統領を軽蔑したり敬意を欠いたりするなどという主張を否定した。

Book sales / 売上

この本は出版初週に110万部以上を売り上げ,サイモン&シュスター社史上最速の売れ行きを記録した。発売時には ニューヨーク・タイムズのベスト・セラー・リストで1位を獲得した。

Reviews / 書評

本書は概ね好評(positive reviews)を博した。レビュー集約サイト ‘Book Marks’ によると,批評家の14%が本書を「絶賛(rave)」し,50%が「肯定的」,21%が「賛否両論(mixed)」の感想をそれぞれ表明した。さらに14%の批評家は,14件のレビューをサンプルとして本書を「酷評(panned)」した。

ガーディアン紙のロイド・グリーン(Lloyd Green)は,“Fear” を「ホワイト・ハウスの腐敗と堕落を冷静に分析した必読の書(another sober, must-read dissection of corruption and rot at the White House)」と評し,ウッドワードが過去にリチャード・ニクソン大統領について報じた記事の再現だと評した。グリーンは全体として,“Fear” を「事実は豊富だが,誇張表現(hyperventilation)は少ない」,「身の毛もよだつような(chilling)」物語だと評した。

NPRのロン・エルヴィング(Ron Elving)は,“Fear” はこれまでで「ホワイト・ハウスを垣間見る上で,他に類を見ない最高の作品」であり,トランプとその「大統領としての破滅的な(devastating)姿は,告発(indictment)としか言いようがない。」と評した。しかし,エルヴィングは、トランプ支持者の一部が「このトランプ描写はあまりにも受け入れ難く,信じられない思いを抱くだろう。そして,彼らの失望の矛先はトランプではなくウッドワードに向けられるだろう。」と予想している。エルヴィングはまた,ウッドワードの情報源を匿名にするという決定は,「ウッドワードの主張の重大さ」を考えると,読者が記事の真実性に抱く信頼を損なっているとも主張している。

(転載了)
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「馬鹿(idiot)」で「錯乱(unhinged)」していて 理解力は「小学5年生か6年生並み(a fifth or sixth grader)」で 1期目を過ごしても トランプは 2期目を迎えることができました。
何を信じた有権者が トランプを選んだのか- 不思議です。

本書の著者 ボブ・ウッドワードは 映画「大統領の陰謀」(All the President's Men1976)で ロバート・レッドフォード(‘Robert Redford1936~ )が演じました。(同僚記者 カール・バーンスタインを演じたのはダスティン・ホフマン(Dustin Hoffman’, 1937~ )でした。)

この映画で記憶に残るウッドワードの台詞 -
If you go to bed at night and there's no snow on the ground, and you wake up and there's snow on the ground … you can say it snowed during the night, although you didn't see it.
「寝るとき雪が積もってなくて,起きて雪が積もっていれば,雪が降っているのを見てなくとも 夜中に雪が降ったと言える。」

この台詞は 2007年から2009年にかけて夫候補3人を毒殺した(更に4人に毒殺の疑いがある)罪で有罪判決(死刑)を受けた首都圏連続不審死事件における木嶋 佳苗(現死刑囚)に対する裁判での検察側論告で引用され,「状況証拠だけでも犯行を立証できる」と強調しました。

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2025年6月19日 (木)

トランプの姪が書いた暴露本 “Too Much and Never Enough”

トランプを書いた本は たくさんありますが,臨床心理学者である,トランプの姪が書いた本は トランプが育った家庭と,彼が 如何にして 現在の メンタル・ヘルス異常を身に付けたかなど分って 興味深いものがあります。

英文Wikipedia の “Too Much and Never Enough” を下記,拙訳・転載します。
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001_20250608181501Too Much and Never Enough : How My Family Created the World's Most Dangerous Man” (直訳 「多すぎて決して足りない:私の家族がいかにして世界で最も危険な男を生み出したか」,邦題 「世界で最も危険な男 『トランプ家の暗部』 を姪が告発」)は,米国の心理学者メアリー・L・トランプ(Mary L. Trump)が,叔父であるドナルド・トランプ大統領とその家族について書いた暴露本(tell-all book)である。2020714日にサイモン&シュスター(Simon & Schuster)社から出版された。本書はトランプ家の力関係を内側から描き,金銭取引の詳細を明らかにしている。その中には,著者が匿名の情報源として叔父の脱税疑惑を暴露したことも含まれている。トランプ家は出版差し止めを求めて訴訟を起こしたが,出版延期は認められなかった。

Author Mary L. Trump
LanguageEnglish
Subject Donald Trump and his family
PublishedJuly 14, 2020
PublisherSimon & Schuster
Publication place  United States
Pages  240
ISBN   978-1982141462 (hardcover)

Background / 背景

この本の著者である臨床心理学者(clinical psychologist)のメアリー・L・トランプは,フレッド・トランプ・ジュニアの娘であり,フレッド・トランプ・シニアの孫娘である。彼女は大学院生にトラウマ,精神病理学(psychopathology),発達心理学(developmental psychology)の分野で指導を行ってきた。また,ストーカー被害者に関する論文を執筆し,統合失調症(schizophrenia)の研究を行い,著名な医学書 『診断:統合失調症(the prominent medical manual Diagnosis: Schizophrenia)』の一部を執筆した。彼女の父親は1981年,アルコール依存症による心臓発作で42歳で亡くなった。

1999年にフレッド・シニアが亡くなった後,メアリーと弟のフレッド3世は,フレッド・シニアが認知症(dementia)を患っており,遺言はフレッド・シニアの他の子供たちであるドナルド,マリアンヌ,ロバートによって「詐欺と不当な影響によって」取得されたと主張し,遺言検認裁判所で祖父の遺言に異議を唱えた。1週間後,ドナルド,マリアンヌ,ロバートは,脳性麻痺によるてんかん発作を患っていたフレッド3世の当時18ヶ月の息子ウィリアムの健康保険を打ち切った。

ニューヨーク・デイリー・ニュースのインタビューで,メアリーは「叔父と叔母は恥じるべきだ。しかし,彼らは恥じていないはずだ。」と述べた。訴訟は和解し,ウィリアムの健康保険は復活した。 ドナルドは2016年に自身の行動について,「彼らが訴訟を起こし,私は怒っていた。」と説明した。

叔父の大統領選挙運動後,メアリー・トランプはニューヨーク・タイムズ紙と連絡を取り,匿名の情報源としてトランプ家の税務書類一式を提供した。これらの書類は,デイビッド・バーストウ,スザンヌ・クレイグ,ラス・ビュートナーによる2018年の記事でトランプによる財務不正を詳細に解説し,著者らはピューリッツァー賞(説明報道部門:Explanatory Reporting)を受賞した。

バーストウはメアリー・トランプにゴーストライターとして本を執筆しないかと持ちかけた。彼は彼女をエージェントのアンドリュー・ワイリーに紹介し,ワイリーは彼女に数百万ドルの前払い金を提示した。この事実を知ったクレイグとビュートナーは激怒し,タイムズ紙の編集者はバーストウの執筆を禁じた。彼の関与はタイムズ紙の倫理規定に違反すると判断したからだ。メアリー・トランプは最終的にWMEWilliam Morris Endeavor)のジェイ・マンデルと協力し,本の出版権をオークションで 「サイモン&シュスター」に売却した。

Synopsis / 概略

002_20250608181501 本書は時系列の伝記形式(chronological biography)をとっている; ドナルド・トランプを中心としつつも,メアリー・トランプはトランプ家の他の家族にも重点的に焦点を当て,彼らの相互関係(mutual dynamics)や金銭取引(financial dealings)に光を当てている。臨床心理学者としての知見を活かし,著者はドナルドを分析する背景として,家族内部の仕組みを明らかにしようと試みていますが、あからさまな診断(outright diagnosis)は避けている。

第一部:「残酷さが核心(The Cruelty Is the Point)」では,著者は一家の家長(patriarch)であるフレッド・トランプ・シニアの性格を描写し,彼が子供たちにどのような永続的な影響を与えてきたかを明らかにしようと(elucidate)試みている。家族の記憶に基づき,メアリーは 自身の利益のために周囲の人々を利用し,虐待(abuse)しようとしたフレッド・シニアを「高機能社会病質者(high-functioning sociopath)」と診断した(diagnoses)。ドナルドは,兄のフレッド・ジュニアが父親から絶えず批判されているのを見て,悲しみ,弱さ,優しさを表に出さないように,フレッド・シニアの態度や行動を真似ていた。

メアリーは,フレッドの残酷な影響によって,ドナルドは感情表現の幅が狭まっていたと述べている。彼等の母親のメアリーは,骨粗鬆症(osteoporosis)と,フレッドによる彼女と子供たちへの頻繁な暴言(verbal abuse)の影響により,子供たちの成長期(formative years)において「身体的にも精神的にも障害を抱えた(physically and mentally challenged)」従順な(subservient)妻だったとされている。後年,彼女はメアリーに,ドナルドが13歳で陸軍学校に送られたときはホッとした(relieved)と打ち明けた。その時点で彼はメアリーに対して好戦的(belligerent)になり,反抗的(disobedient)になり始めていたからだ。

2部:「間違った道(The Wrong Side of the Tracks)」では,著者はドナルドの初期のキャリアを時系列順に描いている(chronicles)。フレッド・シニアは,自身のビジネス手腕(business acumen)に見合うだけの名声を得ることはできなかったため,ドナルドにトランプ・オーガニゼーションの対外的な顔(public face)を任せ,自身は政界やその他のビジネス界のコネを駆使して実務を担うことに満足していたと,著者は指摘している。一方,フレッド・ジュニアは,大型住宅プロジェクトの破綻を不当に自分のせいだと責め立てられた後,長男である自分が脇に追いやられ,ドナルドが優先されるようになったことに気づき,家業を離れて,商業パイロットの道を選んだ。

トランプ一家全員がフレッド・ジュニアの選んだ職業を常に中傷(denigration)したことが,1970年代の彼のアルコール依存症などの問題に苦しみ,航空業界でのキャリアと結婚生活の両方が破綻する原因となった。フレッド・トランプ・ジュニアは1981年,家族から離れた病院で心臓発作のため42歳で亡くなった。両親は病院からフレッド・ジュニアの死を知らせる電話を自宅で待っており,ドナルドは地元の映画館で映画を見ていた。

3部: 「煙と鏡(Smoke and Mirrors)」では,フレッド・シニアの影響力が低下する(waned)につれ,ドナルド・トランプが父親から得た知識と人脈なしに事業運営に苦戦した様子を詳細に描写している。メアリーは,ドナルドを無能な(inept)ビジネスマンとして描写し,仲間たちは彼の悪名を資産と見なし,その仮面を剥がそうとしなかったために,体裁を保つことができただけだとしています。そのため,ドナルドは一時,債権者と月額45万ドルの手当の交渉を強いられた。

メアリーはまた,1999年のフレッド・シニアの死後,家族が彼女に背を向け,彼女と兄の健康保険を打ち切ったことで,兄の息子ウィリアムの人生が不安定になったことにも焦点を当てている。メアリーは,ウィリアムの健康保険を復活させる代わりに,家族経営の会社における彼女のパートナーシップを残りの家族に買収させることで和解を決意した。これは,現在では彼女が理解しているように,大幅に過小評価された価格だった。彼女は,ピューリッツァー賞を受賞したニューヨーク・タイムズの調査で匿名の情報源として活動することで,最終的に家族の富の真の価値を知った。

4部: 「史上最悪の投資(The Worst Investment Ever Made)」では,ドナルド・トランプがアメリカ合衆国大統領選の選挙戦を成功させた時期について,著者の見解が述べられている。メアリーは心理学者としての経験を再び持ち出し,祖父フレッド・シニアがより多くの権力者との直結関係を築き,ドナルドの最悪の本能が彼らの,それぞれの欲求を満たすように仕向けたと主張している。彼女は,叔父の心理的能力が幼い頃に父親によって完全に発達することを強制的に阻止されたため,彼はより有能な国内外の権力者による操作に非常に脆弱な(susceptible)ままであると指摘している。

Allegations / 疑惑

本書には,メアリーがトランプ一族の機密税務文書をニューヨーク・タイムズに提供した経緯が記されている。タイムズ紙はこれを受け,ドナルドが詐欺行為を行ったと非難した。また,ドナルドが1990年代に自身の経営難の事業を穴埋めするために,父親の不動産事業から約41300万ドルを流用したと報じている。本書ではまた,ドナルドが自分のために 友人のジョー・シャピロにSAT受験を依頼し,金銭を支払ったとも非難している。メアリーは本書の中で,ドナルドとフレッド・シニアが彼女の父親をないがしろにし,アルコール依存症による死の一因となったこと,そして後にフレッド・シニアがアルツハイマー病を発症した際に ドナルドがフレッド・シニアを軽蔑し,無視したことを述べている。

Release of tape recordings / 録音テープの公開

2020年822日,メアリーは,ロナルド・レーガン大統領と ビル・クリントン大統領によって司法官に任命された元連邦判事である,ドナルドの妹の叔母マリアンヌ・トランプ・バリー(Maryanne Trump Barry)との会話の録音テープを公開した。録音テープにおけるバリーの発言は,メアリーの著書で主張されている多くの点を裏付けている。メアリーが録音テープを作成した理由は,祖父から相続した財産の分配が,資産総額を著しく過小評価していたことの証拠を集めるためだった。録音テープの中で,バリーは,ドナルドの移民政策によって子供が親から引き離されたことに憤りを表明し,彼の宗教的支持者たち(religious supporters)の思いやりのなさ(lack of compassion)を非難し,彼の残酷さと偽善(phoniness)を嘆いている(laments)。録音テープは,ドナルドが 自分のために 友人に大学入試を受けさせるために金を支払ったというメアリーの主張の根拠がバリーであったことを明らかにしている。

Promotion / プロモーション

本書は トランプに関して国内外で注目を集め,数多くのメディアで紹介された:‘The Rachel Maddow Show, The Beat with Ari Melber, This Week with George Stephanopoulos, The View, Frontline, Cuomo Prime Time, Democracy Now!, The Late Show with Stephen Colbert, カナダの‘CTV News, オーストラリアの‘60 Minutes’,英国の‘Channel 4 News’,‘Sky News,アイルランドの ‘The Late Late Show on RTÉ One’ そして スカンジナビアの‘Skavlan talk show’ など。.

Release / 出版

サイモン&シュスターは当初、2020811日の発売日を設定していたが、デイリー・ビースト紙に独占取材を行い、同紙は615日に本書に関する記事を掲載した。2日後、本書はAmazonのベストセラー・リストで5位にランクインしました。記事への反響を受け、同社は出版日を728日に前倒しした。

7月6日、サイモン&シュスター(Simon & Schuster)は「高い需要と並外れた関心(high demand and extraordinary interest)」により,Amazonで ベストセラー1位 “The Room Where It Happened” を抜いたので,出版日を714日に前倒しすると発表した。2020717日,サイモン&シュスターは,出版日までに95万部以上の予約注文がとれたと発表した。これは同社にとって新記録だった。 “Too Much and Never Enough” は発売初週に135万部を売り上げた。

Legal efforts to stop publication / 出版阻止に向けた法的措置

The Daily Beast’ によると、ドナルド・トランプは メアリーに対して法的措置を取る可能性について言及した。トランプは‘Axios’に対し,メアリーは以前 「あらゆることを網羅する」 「非常に強力な」秘密保持契約(NDAnon-disclosure agreement)に署名しており,そのため「本を書くことは許可されていない。」と述べた。

ロバート・トランプは623日,メアリーの秘密保持契約(NDA)を理由に,出版差し止めを求める仮差し止め命令と暫定的差止命令の取得を求めて訴訟を起こした。625日の審理で、ニューヨーク市クイーンズ郡後見裁判所のピーター・J・ケリー判事は、管轄権の欠如を理由に訴訟を棄却した。

ロバートはこの訴訟をダッチェス郡のニューヨーク州最高裁判所(一般裁判所)に持ち込み、630日,ハル・B・グリーンウォルド判事は本の出版を一時的に差し止める命令を下し,本の出版を恒久的に差し止めるべきかどうかを決定するための審理を710日に設定した。

ニューヨーク州控訴裁判所(appellate justice)のアラン・D・シャインクマン判事は71日,下級裁判所の判決を覆し,サイモン&シュスターはNDAの当事者ではなく,憲法修正第1条に基づき事前抑制および出版前差止命令の対象ではないと判断し,710日の審理を待つ間,サイモン&シュスターは本の出版を進めることができると判決を下した。メアリーは書籍の販売活動を差し止められ、メアリーがNDAに違反したかどうかは未解決のままとなった。202072日,メアリーは、和解契約における資産の「評価額が不正であった」など,様々な理由から和解契約のNDA条項に拘束されないと主張する宣誓供述書を提出した。

7月13日,グリーンウォルド判事は,サイモン&シュスター社が本書の出版を継続する権利を認める判決を下し,メアリーは 既に「大量に出版・頒布されている」本書の出版差し止めを命じることは「意味不明(moot)」であり,サイモン&シュスター社との契約に基づき出版を差し止めることができなかったと判断した。

判事はまた,ロバートが提訴したにもかかわらず,本書が主に彼の弟で社長のドナルドに焦点を当てていることも,訴訟の根拠が弱いことを示唆した。ロバートはメアリーに対し金銭的損害賠償を求めることも考えられたが,判決時点では彼がそうするつもりだったかどうかは不明だった。ロバートは1ヶ月後の815日に亡くなった。

Reception / 反響

本書は概ね好評を博した。批評家たちは,メアリー・トランプが臨床心理学のバックグラウンドと家族史に関する知識の両方を活かし,トランプに関する暴露本のジャンル(tell-all genre)において傑出した作品(standout work)を生み出したことを称賛した。ニューヨーク・タイムズのジェニファー・サライ(Jennifer Szalai)は著者の勇気と決意を称賛し,本書を 「苦痛から書かれ,人を傷つけることが意図された(written from written from pain and is designed to hurt)」と書いたが メアリーは後半を否定した。

これは痛みから書かれ,傷つけるように書かれた本である,・・・ 心理学者が使う幼少期の愛着や人格障害の用語は忘れてください; メアリーが 「ドナルドを倒す(to take Donald down)」必要性について話すとき,彼女は家族が本当に理解できる唯一の言葉を話し始める。

Jennifer Szalai, The New York Times, July 2020

ロサンゼルス・タイムズ紙は本書をトランプ大統領に関する他の著作と比較し,著者が共感的な手法(empathetic manner)でこの問題にアプローチしていることが,独自の視点を生み出していると述べている。アトランティック誌のミーガン・ガーバーも,ドナルド・トランプが同様に有害な(toxic)家族関係を国家の舞台に持ち込むことを許したというメアリーの指摘に同意している。

タイムズ紙のデイビッド・アーロンヴィッチは,本書は主にフレッド・トランプ・シニアの伝記であると指摘し,ドナルドを決定的に形作ることによって,この老練な家長(patriarch)の存在が現代政治史に何らかの形で大きな影を落としていると考えている。マッシャブル(Mashable)のクリス・テイラーはより批判的で,著者は大まかな主張を展開しながらも、時に矛盾している点がある(contradicting)と指摘している。

(転載了)
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2025年6月13日 (金)

6月9日に亡くなった フレデリック・フォーサイスの生涯

BBC電子版は,69日 に亡くなったフレデリック・フォーサイスの死亡記事と共に,彼の生涯に関する記事を610日に掲載していました。

BBCJune 10, 2025付け
Frederick Forsyth: Life as a thriller writer, fighter pilot, journalist and spy
「フレデリック・フォーサイス:スリラー作家,戦闘機パイロット,ジャーナリスト,スパイとしての人生」
のタイトル記事を下記,拙訳・転載します。

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86歳で亡くなったフレデリック・フォーサイスは,綿密な(meticulously)調査に基づいたスリラー小説を執筆し,数百万部を売り上げた。
元戦闘機パイロット,ジャーナリスト,そしてスパイであった彼の著書の多くは,自身の経験に基づいている。
彼は,物語の電光石火のスピード(lightning pace)を損なうこと(detracting)なく,複雑な(intricate)技術的詳細を物語に織り込んでいた。
彼の調査はしばしば当局を困惑させ,彼が暴露した怪しい戦術(shady tactics)のいくつかは,現実のスパイ活動(espionage)で実際に使用されていたことを認めざるを得なかった。

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フレデリック・マッカーシー・フォーサイス(Frederick McCarthy Forsyth)は1938825日,ケント州アシュフォード(Ashford, Kent)に生まれた。
毛皮商人の一人っ子として生まれた彼は,孤独を冒険物語に没頭すること(immersing)で乗り越えた。
彼のお気に入りの作品にはジョン・バカン(John Buchan)やH・ライダー・ハガード(H Rider Haggard)の作品があったが,フォーサイスはアーネスト・ヘミングウェイの闘牛士に関する小説『午後の死(Death in the Afternoon)』が特に好きだった。
彼は闘牛にすっかり魅了され(captivated),17歳の時にスペインへ渡り,ケープを使った練習を始めた。

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彼は実際に闘牛をしたことはなかった。その代わりに,グラナダ大学で5ヶ月間過ごした後,英国空軍の兵役に就くために帰国した。
長年パイロットになることを夢見ていたフォーサイスは,デ・ハビランド・ヴァンパイア・ジェット機(de Havilland Vampire jets)を操縦するために年齢を偽った。

1958年,彼はイースタン・デイリー・プレス(the Eastern Daily Press)紙に地元記者として入社した。3年後,ロイター通信社(the Reuters news agency)に移った。

トンブリッジ・スクール(Tonbridge School)在学中,フォーサイスは外国語の分野で優秀な成績を収めたが,それ以外はあまり目立ったことはなかった。
フランス語,ドイツ語,スペイン語,ロシア語に堪能な(fluent)彼は,まさに生まれながらの外国特派員(foreign correspondent)だった。

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パリに赴任した彼は,秘密軍事機構(OASthe Organisation de l'Armee Secrete)のメンバーによるフランス大統領シャルル・ド・ゴール暗殺未遂事件(assassination attempts)に関する数々の記事を取材した。
元軍人たちは,多くの同志がアルジェリア民族主義者との戦いで命を落とした後,ド・ゴールがアルジェリアに独立を認める決定を下したことに憤慨していた。
フォーサイスはOASを「白人植民地主義者でありネオ・ファシスト(white colonialists and neo-fascists)」と呼んだ。
そして,もし彼らが本当にド・ゴールを暗殺したいのであれば,プロの暗殺者を雇うしかないと彼は考えた。

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フォーサイスは1965年にBBCに入局した。
2年後,彼はビアフラ南東部の分離独立(secession)に続く内戦を取材するため,ナイジェリアに派遣された。
戦闘が予想以上に長引いたため,フォーサイスは滞在取材の許可を求めた。彼の自伝によると,BBCは「この戦争を取材するのは我々の方針ではない。」 と彼に告げたという。
「報道のマネジメントの匂いがした。」と彼は言った。「報道のマネジメントは嫌いだ。」
彼は仕事を辞め,その後2年間,フリーランスの記者として戦争の取材を続けた。

彼は自身の経験を 『ビアフラ物語(The Biafra Story)』 にまとめ(chronicled),1969年に出版した。後に彼は,ナイジェリア滞在中にMI6で働き始め,その関係は20年間続いたと述べている。

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彼はまた,多くの傭兵(mercenaries)と親しくなり,偽造パスポートの入手方法,銃の入手方法,敵の首を折る方法などを教えられた。
こうしたあらゆる手口は,ド・ゴール大統領暗殺未遂事件を描いた 『ジャッカルの日(The Day of the Jackal)』 に盛り込まれ,彼は自宅のアパート(bedsit)で古いタイプライターを使ってわずか35日間で書き上げた(pounded out)。
彼は出版に向けて何ヶ月も努力したが,何度も(a string of)拒否された。

「まず第一に(for starters),ド・ゴールはまだ生きていた。」 と彼は言った。「だから読者は既に,1963年を舞台にした架空の暗殺計画が成功しないことを知っていた。」

最終的に,ある出版社がリスクを冒して少量の印刷を実施,一時 「暗殺者のマニュアル(an assassin's manual)」と評されたこの本は,まず英国で,そして米国で売れ行きが好調になった。

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『ジャッカルの日』は,後にフォーサイス・スリラーの伝統的な特徴となる要素を如実に示していた。事実とフィクションを織り交ぜ,実在の人物や出来事を頻繁に用いたのだ。
ジャッカルが教会の墓地で発見された子供の死体の名前を使って英国のパスポートを偽造するという行為は,電子データベースや照合技術が発達する以前の時代においては,全くもって実行可能なものだった。
この物語は1973年に映画化され,エドワード・フォックスが正体不明の銃撃犯役で主演を務め,数々の賞を受賞した。

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フォーサイスはその後,『オデッサ・ファイル(The Odessa File)』で成功を収めた。これは,元SS隊員の秘密結社「オデッサ」に守られた「リガの屠殺者(Butcher of Riga)」の異名を持つ悪名高いナチス兵士,エドゥアルト・ロシュマンを追跡しようとするドイツ人記者の物語である。
フォーサイスは調査の一環として,南アフリカの武器商人を装ってハンブルクへ渡った。「彼らの世界に潜入することに成功し,かなり誇らしい気持ちになった。」と彼は後に語っている。
「私が知らなかったのは,(その人物が)私たちと会った直後に書店の前を通ったことだ。すると,そこに 『ジャッカルの日』が置いてあって,裏表紙には私の大きな写真が載っていた。」

この本の映像化によって,真の「リガの屠殺者」の身元が判明した。彼はアルゼンチンに住んでいた。近所の人が地元の映画館でこの映画を見に行ったことがきっかけだった。彼はアルゼンチン当局に逮捕されたが,保釈中に(skipped bai)パラグアイに逃亡した。
この本には,1944年にスイスに輸出されたナチスの金塊についても触れられていた。出版から25年後,ユダヤ人世界会議(the Jewish World Congress)がこの一節を発見し,最終的に10億ポンド相当の金塊を発見した。

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サンデー・タイムズ紙によると,フォーサイスの3作目の小説 『戦争の犬たち(The Dogs of War)』 は,アフリカでクーデターを組織した経験に基づいている。
同紙は,フォーサイスが1972年に赤道ギニア(Equatorial Guinea)大統領を追放する(oust)計画を練り上げ,20万ドルを投じてボートを雇い,ヨーロッパとアフリカの有力な兵士を集めたと報じている。
計画は失敗に終わったと言われている。準備が破綻し,兵士たちは目的地から3000マイル離れたカナリア諸島でスペイン警察に阻止されたためだった。

次に 『悪魔の選択(Devil's Alternative” が出版された。この作品で描かれる英国初の女性首相,ジョーン・カーペンターは,フォーサイスが深く尊敬する政治家マーガレット・サッチャーをモデルにしている。彼女は後に,実名でフォーサイスの小説4作品に登場している。

1982年には伝記小説(biography)へと展開し,“Emeka” が出版された。これは,フォーサイスの友人で,ビアフラが短期間独立していた時代に国家元首を務めたチュクウェメカ・オドゥメグ・オジュクウ大佐(Col Chukwuemeka Odumegwu Ojukwu)の生涯を描いた作品である。

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1984年,彼は『第四の核(The Fourth Protocol)』で再び小説に取り組んだ:これは,英国総選挙に影響を与え,極左労働党政権を樹立しようとするソ連の陰謀を描いた複雑な物語である。
この本はサー・マイケル・ケイン(Sir Michael Caine)に多大な感銘を与え,フォーサイスを説得して映画化許可を得て,ベテラン俳優ケインがピアース・ブロスナンと共演した。

1980年代後半,フォーサイスは最初の妻で元モデルのキャロル・カニンガム(Carole Cunningham)と別れ,女優フェイ・ダナウェイ(Faye Dunaway)と並んで写真に撮られた。

1991年に出版された 『ネゴシエイター(The Negotiator)』 はその後も人気を博し,型破りながらも優秀なMI6エージェントを描いた『騙し屋(The Deceiver)』はBBCでミニ・シリーズ化された。

フォーサイスはその後も2本のスリラー作品 『神の拳(The Fist of God)』 と 『イコン(Icon)』を手掛けた後,『マンハッタンの怪人(The Phantom of Manhattan)』 で突如として方向転換(abrupt detour)を図った:これはミュージカルとして成功を収めた『オペラ座の怪人(the Phantom of the Opera)』の続編として書かれた。
この作品は大ヒットとはならなかったが,2010年,アンドリュー・ロイド・ウェバー(Andrew Lloyd Webber)が『マンハッタンの怪人』の要素を取り入れ,『オペラ座の怪人』の続編となるミュージカル『ラブ・ネバー・ダイズ(Love Never Dies)』を制作した。

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2作目の短編小説集 『戦士たちの挽歌(The Veteran)』も賛否両論の評価を受けたが,フォーサイスは2003年の政治スリラー 『アヴェンジャー(Avenger)』,そして3年後の 『アフガンの男(The Afghan)』で持ち前のスタイルで復活を遂げた。『アフガンの男』は、以前の『神の拳Fist of God)』と関連のある作品だった。

この頃には,フォーサイスは ブロードキャスター,そして政治評論家(political pundit)としての名声を確立していた。
彼はBBCの時事討論番組(topical debate programme)‘Question Time’ に,政治的スペクトルの右派として頻繁にゲスト出演していた。
熱心な(committedEU懐疑論者(Eurosceptic)である彼は,かつて同番組でテッド・ヒース(Ted Heath)元首相を論破した(derailed)ことがある - ヒース元首相は,英国の金準備をフランクフルトに移管することに同意する文書に署名したことを否定した(denials)にもかかわらず,実際には署名していたことを証明したのだ。

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70歳を過ぎると,執筆ペースは鈍り始めた。

2010年に出版された 『コブラ(The Cobra)』では,『アヴェンジャー(Avenger)』の登場人物の一部が再登場した。

2013年には,『キル・リスト(The Kill List)』を出版した。これは,若いイスラム教徒に連続殺人を勧めるオンライン動画を投稿していた ‘The Preacher’ と呼ばれるイスラム教狂信者(Muslim fanatic)を軸にした,テンポの速い物語である。

彼はすべての著書をタイプライターで執筆し,インターネットをリサーチに利用することを拒否した。
皮肉なことに,2018年に出版された18作目の小説 『ザ・フォックス(The Fox)』 は,才能あるコンピューター・ハッカーを描いたスパイ・スリラーだった。
フォーサイスはこの作品を最後の作品とすることを発表したが,2024年に2番目の妻サンディが亡くなった後,自主リタイア(self-imposed retirement)から復帰した(came out)。

彼は新たな冒険小説を執筆中だと言い,抽選(raffle)で登場人物に自分の名前をつけるチャンスをプレゼントする企画まで提案した。

1970年代に映画化権を2万ポンドで売却したフォーサイスは,昨年 ‘Sky’ でテレビ用にリメイクされたエディ・レッドメイン(Eddie Redmayne)版『ジャッカルの日』の著作権料を一切受け取らなかった。

ギニア・ビサウ(Guinea-Bissau)への旅行中に感染症(infection)にかかり,危うく足を失う(cost)ところだったため,80代半ばにして(well into),彼はとっくの昔に世界の僻地(fng parts)への調査旅行をやめることに同意していた。

「ジャーナリズムって,ちょっと麻薬みたいなものだ。」と彼は認めた。「あの本能(instinct)は永遠に消えないと思う。」
彼の人生をスリラー小説と同じくらい充実させ,刺激的なものにしたのは,まさにこの本能だった。

(転載了)
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私の,氏の作品 読破計画は 2015年に終了したので,2018年の『ザ・フォックス(The Fox)』を まだ読んでいません。 

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2025年6月 5日 (木)

未来の歴史家を悩ますであろう,トランプに関する書籍

トランプに関して書かれた多くの書籍から 1冊の紹介を 英文Wikipedia で読んでみました。
下記,拙訳・転載します。

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Confidence Man: The Making of Donald Trump and the Breaking of America
「コンフィデンス・マン: ドナルド・トランプの誕生と米国の破綻」

著者 Maggie Haberman(マギー・ハバーマン)
      1973年1030日生まれ。米国人ジャーナリスト。‘The New York Times’ のホワイト・ハウス特派員,‘CNN’ の政治アナリスト。以前は,‘the New York Post’,‘the New York Daily News’,‘Politico’ で政治記者として勤務していた。これらの紙面でドナルド・トランプについて執筆し,‘The New York Times’ で 彼の選挙運動,初代大統領時代を取材して著名人となった。

ジャンル            non-fiction
出版社               Penguin Press
発行日               October 4, 2022
ページ数            608
ISBN               978-0-593-29734-6

Content / 内容

001_20250528125501 本書の前半は,大統領選への立候補以前のトランプの経歴を扱っている。ショーン・ウィレンツ(Sean Wilentz)は,本書が「1970年代後半から80年代にかけてのニューヨークの,ペテン師(hustlers),ギャング(mobsters),政治ボス(political bosses),おべっか使いの(compliant)検察官,タブロイド紙のスキャンダル屋(tabloid scandalmongers)が渦巻く半地下の社会におけるトランプ氏の台頭(ascent)に特に重点を置いている。」と述べている。

本書は、エド・コッホ(Ed Koch),ジョージ・スタインブレナー(George Steinbrenner),ロジャー・ストーン(Roger Stone),ルパート・マードック(Rupert Murdoch),ロジャー・エイルズ(Roger Ailes),ルディ・ジュリアーニ(Rudy Giuliani),ロバート・モーゲンソー(Robert Morgenthau),そして特に彼の師(mentor)であるロイ・コーン(Roy Cohn)といった当時の著名人とのトランプ氏の親密な関係を描いている。ジョー・クライン(Joe Klein)によると,ハバーマンは「トランプが最初の妻イヴァナとの離婚を,ゴシップコラムニストのリズ・スミス(Liz Smith)とシンディ・アダムス(Cindy Adams)という2人の間で争わせ(gin),‘the New York Daily News’ で 12日間連続で報道されるに至った経緯を描いている」という。

ハバーマンは,トランプを子供っぽく,おべっかに弱く(easily influenced by flattery),些細なことに執着し(obsessed with trivialities),細部にこだわらず,助言を軽視する人物として描いている。そのため,行政府(executive branch)は「大統領の気まぐれ(whims)や気分(moods),そして敵味方についての考え方に左右され」,大統領は「国全体を自分の気分や感情に反応させるように方向転換させていた。」としている。ハバーマンは,トランプを「脆弱な自尊心(fragile ego)をいじめ衝動(bullying impulse)で覆い隠した,ナルシストでドラマを求める人物(drama-seeker)」だと結論づけている。

Critical reception / 批評家の反応

Slate’ 誌の評論家ローラ・ミラー(Laura Miller)は次のように結論づけている:「『コンフィデンス・マン』が読者に提供するものは,出版前の宣伝文句の多くが説明しているように,長年トランプを取材し,トランプを形作ったニューヨーク出身の記者による,トランプ自身の詳細な肖像である。その結果,単なるスクープの羅列ではなく,米国政治を変革した人物の肖像を描いた,権威ある伝記となっている。」

The Guardian’ 紙の書評家ピーター・コンラッド(Peter Conrad)は次のように書いている:「ハバーマンの著書は,出版前にマスコミに徹底的にリークされたスクープ満載(chockablock)だが,他の競合本と一線を画しているのは,トランプの人格と,彼の私的な悪癖(vices)が公の脅威(menaces)へと転じた経緯に対する洞察力(perceptiveness)だ。悩める精神科医として,ハバーマンはトランプの初期の人生を診断的に検証している。そこには既に彼の狂気(manias)と自己妄想(self-delusions)があからさまに(blatantly)表れていた。」

エリック・アルターマン(Eric Alterman)は ‘The American Prospect’ 紙の書評で,本書の質の高さに驚きを表明した:「しかし,なんと(lo and behold)『コンフィデンス・マン:ドナルド・トランプの誕生とアメリカの破綻』は,嬉しい驚きだった。これは単に未来の歴史家にとっての一次資料であるだけでなく,ショーン・ウィレンツ(Sean Wilentz)とジョー・クライン(Joe Klein)がそれぞれ書評で指摘しているように,文脈に沿って報告されたトランプの台頭の物語は,トランプ氏を理解する(make sense of)上で実際に役立ち,彼がいかにして共和党と主流メディアの両方を意のままに操った(bent)かを示している。」

ショーン・ウィレンツ(Sean Wilentz)は ‘The Washington Post’ 紙の書評で,本書を「我々の最高指導者を描いた,他に類を見ないほど啓蒙的な(illuminating)肖像」と評し,次のように付け加えた:「後世の歴史家たちは,トランプが国家権力の座に上り詰めたことに頭を悩ませるだろう(puzzle over)。
最も優れた歴史家は,ハバーマンの著書から,1970年代初頭からニューヨークを席巻した(overtook)社会,文化,政治,メディア,そして道徳の崩壊がなければ,トランプの台頭はどれも不可能だったことを学ぶだろう。信頼されていた機関の失態(fiasco)が,トランプというウイルス(Trumpian virus)の蔓延を許し,その蔓延を食い止めるあらゆる手段を講じず,その荒廃(devastation)から利益を得,助長し,さらにはそれを称賛したのだ。」

ジョー・クライン(Joe Klein)は ‘The New York Times’ 紙で本書を書評し,次のように結論づけた:「確かに,本書には多くの新発見(revelations)がある。しかし,本書は報道性(newsbreaks)よりも,トランプの人格に関する質の高い考察によってより注目に値する。今後何年にもわたり,米国史上最も厄介な(vexing)大統領に関する一次資料となるだろう。」

ハバーマンは,本書によって初めて明らかになる情報を 出版まで意図的に(deliberately)伏せていた(withheld)と主張する一部の報道関係者から批判された。特に批判者たちは,トランプが2020年の大統領選挙に敗れた後もホワイト・ハウスを去ることを拒否したと描写されている箇所を指摘した。この詳細は,‘CNN’ が20229月の出版直前に本書の抜粋(excerpt)を入手するまで公表されていなかった。

ハバーマンと ‘the New York Times’ の関係者は,この件やその他の出来事が実際に起こったことを,トランプが大統領を退任し,2度目の弾劾裁判(impeachment trial)が終了するまで確認できなかったとして,ハバーマンの決定を擁護した。

(転載了)
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将来 米国が健全な国であるなら,この本を読んで 何故 この男が 大統領になったのか,あるいは なれたのか,理解するのが難しいという書評があるようです。
ショーン・ウィレンツ(Sean Wilentz)の ‘The Washington Post’ 紙の書評 「信頼されていた機関の失態(fiasco)が,トランプというウイルス(Trumpian virus)の蔓延を許し,その蔓延を食い止めるあらゆる手段を講じず,その荒廃(devastation)から利益を得,助長し,さらにはそれを称賛したのだ。」

 

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2025年5月29日 (木)

2017年に出版された,トランプのメンタル・ヘルスに関する本

常人の考えを超えた言動を貫く トランプ大統領を,米国の精神科医や心理学者は どう捉えているのかを調べると,1期目の大統領職の時代に 出版された本がありました。
題して “The Dangerous Case of Donald Trump”(ドナルド・トランプの危険な症例)。

この本を紹介する 英文Wikipediaを 読んでみました。
下記,拙訳・転載します。

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ドナルド・トランプの危険な症例

001_20250527193601 『ドナルド・トランプの危険な症例』 は,法医学精神科医(forensic psychiatrist)のバンディ・X・リー(Bandy X. Lee)が編集した2017年の書籍で,27人の精神科医(psychiatrists),心理学者(psychologists),その他のメンタル・ヘルス専門家によるエッセイが収録され,ドナルド・トランプ米大統領の精神状態が「国家と個人の幸福(nation and individual well being」 に及ぼす「明白かつ差し迫った危険(clear and present danger)」(*映画「今そこにある危機」(1994)の原題と同じ)について論じている。第2版では,エッセイが追加され,改訂・拡充された。リーは,本書はあくまで公共サービス(public service)であり,利益相反(conflict of interest)を回避するため,印税はすべて公共の利益のために寄付されたと述べている。

Synopsis / 概要

著者らは,トランプの精神状態(mental health)が米国民の精神状態に影響を及ぼし,彼の危険な病理(pathology)によって,国が戦争に巻き込まれ(involving),民主主義そのものが損なわれるという重大な(grave)リスクに晒されていると主張している。

その結果,著者らは,トランプの大統領就任は,米国の精神科医が警鐘を鳴らすことを許容するだけでなく,義務付ける緊急事態を呈していると主張している。精神科医が公人(public figures)を直接診察することなく専門的な意見を述べることは倫理に反する(unethical)とする「米国精神医学会のゴールドウォーター・ルール」(the American Psychiatric Association's Goldwater rule)に精神科医が違反していると繰り返し非難されているものの,著者らは,危険性を指摘し評価を求めることと診断(diagnosis)は異なると主張している。
著者らは,米国精神医学会(the American Psychiatric Association)が専門的規範(professional norms)や基準を変えていると批判し,政治的圧力の下で合理的な倫理ガイドラインを言論統制法(gag rule)に変えてしまうのは危険だと主張している。

Reception / 反応

スタンフォード大学ロビンソン・アメリカ史教授エステル・フリードマン(Estelle Freedman)は,この本について次のように述べている:

この洞察に満ちた(insightful)コレクションは,専門家が過去にファシスト指導者や不安定な(unstable)政治家にどのように対応してきたかという歴史的認識に基づいている。差し迫った(imminent)危険に対する「警告義務(duty to warn)」に照らし,公務員のメンタルヘルスに関する発言を抑制する(restraining)倫理性について,米国の精神医学(psychiatry)が再評価した(reassessed)重要な転換点を記録した貴重な一次資料(primary source)である。

医学と法律の専門家が,トランプの行動に関する診断(diagnoses)を思慮深く評価し,政治候補者を精査し(scrutinize),クライアントの不安に対処し,社会構造に及ぼす「トランプ効果」を評価する方法を鋭く(astutely)探究している。

バートン・スウェイム(Barton Swaim)はウォール・ストリート・ジャーナル紙でこの本を評して,「著者らの診断が異なるということは,精神医学の分野,あるいはこの本の価値に大きな信頼を与えるものではない。」と書き,エッセイの著者らは「偏執的(paranoid)」と思われると書いた。

ニューヨーカー誌のジーニー・サック・ガーセン(Jeannie Suk Gersen)によると,「トランプの精神状態をめぐっては奇妙な総意が形成されつつあるようだ。」と述べており,その中にはトランプの大統領としての適性(fitness)を疑う民主党員や共和党員も含まれている。

2017年9月に ‘Salon’ に再掲載されたブログ記事で,ジャーナリストのビル・モイヤーズ(Bill Moyers)は「今秋出版される書籍の中で,『ドナルド・トランプの危険な症例』 ほど緊急性,重要性,そして物議を醸すものはないだろう。」と記した。ロバート・ジェイ・リフトン(Robert Jay Lifton)とのインタビューで,モイヤーズは トランプが「反駁の余地のない(irrefutable)証拠に反する,ますます(increasingly)奇妙な(bizarre)発言をしている。」と述べた。

リフトンは 「彼は現実と明確に接触していないが,それが真の(bona fide)妄想(delusion)と言えるかどうかは確かではない。」と述べた。例えば,トランプがバラク・オバマ前大統領はケニア生まれだと主張した際,「彼はその嘘を巧みに扱っていた(manipulating)だけでなく,間違いなく部分的にはそれを信じていた。」とリフトンは述べた。

カルロス・ロサダ(Carlos Lozada)はワシントン・ポスト紙で,多くの政治家や評論家がトランプを「狂っている(crazy)」と呼んだり,彼の精神状態を疑ったりしていると記した。本書では,精神衛生の専門家たちがその主張を検証し,「トランプ氏のように精神的に不安定な人物に,大統領の生殺与奪の権限(life-and-death powers)を委ねる(entrusted)べきではない。」と結論づけている。

ロサダは,これらの結論は「説得力がある(compelling)」 としながらも,うつ病(depression)などの精神疾患を抱えた大統領が効果的な場合もあれば,精神疾患のない大統領が危険な場合もあると述べている。ロサダは後に,この本を2017年に読んだ「最も大胆な(most daring)」本として挙げている。

2022年9月,それぞれ,ニューヨーク・タイムズ紙とニューヨーカー誌の記者ピーター・ベイカー(Peter Baker)とスーザン・グラッサー(Susan Glasser)が著した著書 『ザ・ディバイダー:ホワイト・ハウスのトランプ,2017-2021The Divider: Trump in the White House, 2017–2021)』 は,ジョン・F・ケリー(John F. Kelly)が20177月から20191月までトランプ大統領の首席補佐官(chief of staff)を務めていた際に,この本を密かに購入していたと報じた。この本のためにケリーにインタビューした著者らによると,ケリーは,不安定で(insecure),自己中心的で(egotistical),病的な嘘つき(pathological liar)だと考えていたトランプに対処する上で,この本が役立つと考えていたという。
(転載了)
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002_20250527203901

メンタル・ヘルスを疑われるトランプが 2期目を務めています。

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2025年1月26日 (日)

読みたくなる本- “World War II at Sea:A Global History”

OXFORD UNIVERSITY PRESS’ が 14 June 2018 に出版した,第二次世界大戦の海軍(海戦)を中心にまとめた歴史書 “World War II at Sea:A Global History”(Craig L. Symonds著,Hardcover 770 pages)です。
OXFORD UNIVERSITY PRESS’ のサイトに紹介記事があったので読んでみました。
下記,拙訳・転載します。
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001_20241230101201Overview】(概説)

第二次世界大戦の海事史を初めて世界規模の物語形式(narrative account)で解説
1930年のロンドン会議から 1945年の東京湾での降伏まで,世界の海軍の一貫した(cohesive)年代記(chronology)を提示
100枚を超える写真と 23枚の地図を掲載

Description】(記述)

Lincoln and His Admirals(リンカーンとその提督たち)’(リンカーン賞受賞),‘The Battle of Midway(ミッドウェー海戦)’(‘Military History Quarterly’(軍事史季刊誌)の年間最優秀作品賞),‘Operation Neptune(ネプチューン作戦)’(海軍文学/サミュエル・エリオット・モリソン賞受賞)の著者であるクレイグ・L・シモンズ(Craig L. Symonds)は,現在活躍する最も優れた海軍史家(naval historians)の一人としての地位を確立している。
World War II at Sea(海上における第二次世界大戦)” は,彼の最高傑作(crowning achievement)である:1939年から1945年までの世界の海域における海軍の戦いとその交戦国(belligerents)すべてを網羅した物語である。

シモンズは,1930年のロンドン会議から始め,ヨーロッパで再び紛争が勃発し,各国の海軍が互いに対抗するようになり,10年も経たないうちに海軍戦争(naval warfare)に対するいかなる制限も無意味になったことを示している。
World War II at Sea” は,世界的な視点(global perspective)を提供し,主要な交戦(engagements)と人物に焦点を当て,それらの規模と相互関係を明らかにする:スカパ・フロー(Scapa Flow)への Uボート攻撃と大西洋の戦い;ダンケルクからの「奇跡の」撤退とノールウェーのフィヨルドの支配をめぐる激戦(pitched battles);戦争開始時に世界第4位の海軍であったムッソリーニのイタリア王立海軍(Regia Marina)と,太平洋における機動部隊(the Kidö Butai)と日本海軍の優位;真珠湾とミッドウェー;1942年のロシア海軍の苦戦とトゥーロン(Toulon)でのフランス艦隊の自沈;北アフリカ,次いでノルマンディーへの上陸などである。
ここには,自称(self-proclaimed)「海軍の男(Navy men)」であるフランクリン・ルーズベルト(FDR)大統領とチャーチル,他に カール・デーニッツ,フランソワ・ダルラン,アーネスト・キング,山本五十六,エーリッヒ・レーダー,イニーゴ・カンピオーニ,ルイ・マウントバッテン,ウィリアム・ハルゼーといった著名な海軍指導者たち,そして,小規模な攻撃や陸海空共同作戦(amphibious operations)から史上最大の艦隊まで,歴史上最大の海戦で命を危険にさらし,命を落としたあらゆる国籍の何十万人もの水兵と士官たちもいる。

第二次世界大戦は海軍作戦が中心だったと主張する人は多い;それがなぜ,どのように起こったのかを示した人はほとんどいない。シモンズは,正確さと物語の力強さを組み合わせ,海上(および海中)での大規模戦争の仕組みを巧みに解明するだけでなく,戦争そのものの性質に関する知恵も提供している。

Table of Contents

プロローグ:ロンドン,1930

Ⅰ部 ヨーロッパ戦争
1. Unterseebooten(潜水艦:U-ボート)
2. Panzerschiffen(甲鉄艦)
3. Norway(ノールウェー)
4. France Falls(フランス陥落)
5. The Regia Marina(イタリア海軍)
6. The War on Trade, I(貿易戦争,Ⅰ)
7. The Bismarck(ビスマルク)

II部 THE WAR WIDENS(戦争拡大)
8. The Rising Sun(日出ずる国)
9. A Two Ocean Navy(二つの海軍)
10. Infamy(悪名)
11. Rampage(猛威)
12. The War on Trade, II(貿易戦争,Ⅱ)

III部 WATERSHED(分岐点)
13. Stemming the Tide(流れ阻止)
14. Two Beleaguered Islands(苦境の二島)
15. A Two Ocean War(二つに大洋戦)
16. The Tipping Point(転換点)
17. The War on Trade, III(貿易戦争,Ⅲ)

IV部 ALLIED COUNTERATTACK(連合軍の反撃)
18. Airplanes and Convoys(飛行機と車列)
19. Husky(ハスキー)
20. Twilight of Two Navies(二つの海軍の黄昏)
21. Breaking the Shield(シールド破壊)
22. Large Slow Target(大きく,ゆっくりした目標)

V部 RECKONING(報い)
23. D-Day
24. Seeking the Decisive Battle(決戦を求めて)
25. Leyte Gulf(レイテ湾)
26. The Noose Tightens(包囲網締め付け)
27. Denouement(結末)

エピローグ:東京湾,1945

Afterword(後記)

Author Information】(著者情報)

クレイグ L. シモンズ(Craig L. Symonds)は,米国海軍戦争大学のアーネスト J. キング海洋史名誉教授(King Distinguished Professor of Maritime History)であり,米国海軍兵学校(the U.S. Naval Academy)の名誉教授(Professor Emeritus)でもある。同校では 30 年間教鞭をとり,学科長を務めた。

Reviews and Awards】(書評と賞)

Well-written and often original narrative... a very accessible operational and strategic history. - Eric Grove, The Times Literary Supplement
うまく書かれ,しばしば独創的な物語... 非常にわかりやすい作戦上および戦略上の歴史。 - エリック・グローブ,タイムズ文芸付録

Any reader, whether general or specialist, can pick it up, become immersed in its flowing narrative and energetic prose, and come away with a good general understanding of the war at sea, and the central importance of the maritime dimension to the Anglo-American victory in the West. - Nick Hewitt, Military History
一般読者でも専門家でも,誰でもこの本を手に取り,その流れるような物語と力強い文章に浸り,海戦の全般的な理解と,西洋における英米の勝利における海上側面の重要性を理解できる。 - ニック・ヒューイット,軍事史

This truly monumental work really does what it says on the label ... A military work of the first order. - Steve Craggs, Northern Echo
この真に記念碑的な作品は,まさにラベルに書かれている通りの成果を上げている... 第一級の軍事作品である。 - スティーブ・クラッグス,ノーザン・エコー紙

Craig L. Symonds has produced a magisterial volume covering the conflict at sea... The multi-award winning Professor Symonds has shown why he is one of the world's leading naval historians in this book... Highly recommended for those who want to know why the sea was so important from 1939 to 1945 and to undertstand the mechanics behind naval operations. - Paul Donnelley
クレイグ・L・シモンズは,海上での抗争を扱った堂々たる一冊を出版した... 数々の賞を受賞したシモンズ教授は,この本で,なぜ彼が世界有数の海軍史家の一人であるかを証明した... 1939年から1945年にかけて海がなぜそれほど重要だったのかを知りたい方,海軍作戦の背後にあるメカニズムを理解したい方に,強くお勧めする。 - ポール・ドネリー

In World War II at Sea, Mr. Symonds does for the naval struggle what Martin Gilbert did for the conflict on land in his The Second World War. A thoroughly enjoyable read, World War II at Sea sweeps its glass across the worlds oceans and deftly recounts battles that shaped the course of history's greatest war. - Wall Street Journal
World War II at Sea” で,シモンズ氏は,マーティン・ギルバートが『第二次世界大戦』で陸上の抗争にしたことと同じことを,海戦に施している。非常に楽しい読み物である “World War II at Sea” は,世界の海を映し出し,歴史上最大の戦争の行方を決定づけた戦いを巧みに物語っている。 - ウォール・ストリート・ジャーナル紙

Craig Symonds is a seaman and historian of the first order. His telling of this Navy Saga is as vast as the oceans themselves and as gloriously detailed as were the battles for them. - Tom Hanks
クレイグ・シモンズは一流の船員であり歴史家である。彼が語るこの海軍の物語は,海そのものと同じくらい広大で,海戦と同じくらい見事に詳細である。 - トム・ハンクス

A scholarly yet extremely accessible work that will be of value to anyone interested in World War II; this will likely be a new standard on the topic. - Library Journal
学術的でありながら非常に読みやすい作品で,第二次世界大戦に関心のある人にとって価値のあるものとなるだろう;おそらくこのトピックに関する新しい基準となるだろう。 - ライブラリー・ジャーナル誌

Sweeping, majestic, and brilliant are the words that come to mind reading World War II at Sea by distinguished naval historian Craig Symonds. This will be the definitive single volume treatment of the enormously critical naval contributions to winning World War II. - Admiral James Stavridis, USN (Ret), Supreme Allied Commander at NATO 2009-2013, Dean of The Fletcher School of Law and Diplomacy, Tufts University
著名な海軍史家クレイグ・シモンズ著の “World War II at Sea” を読んで思い浮かぶのは,壮大,荘厳,そして素晴らしいという言葉である。これは,第二次世界大戦の勝利に大きく貢献した海軍の貢献を一冊の本にまとめた決定版となるだろう。 - ジェームズ・スタブリディス海軍大将(退役),NATO 最高連合軍司令官(2009~2013年),タフツ大学フレッチャー法律外交学部長

World War II at Sea somehow manages to distill this entire naval history into a single volume without missing a beat. How Craig Symonds accomplished this while keeping the story interesting and the narrative engaging is a fine feat. This book is a treat! - John Prados, author of Islands of Destiny: The Solomons Campaign and the Eclipse of the Rising Sun
World War II at Sea” は,この海軍史全体を,まったくの無駄なく 1冊にまとめ上げている。クレイグ・シモンズが,ストーリーを面白く,物語を魅力的にしながらこれを成し遂げたのは,素晴らしい偉業である。この本は素晴らしい! - ジョン・プラドス,“Islands of Destiny: The Solomons Campaign and the Eclipse of the Rising Sun”(運命の島々:ソロモン諸島の戦いと日出ずる国の失墜)の著者

Craig L. Symonds's World War at Sea is a wonderfully ample and invaluable single-volume naval history of the all-hands-on-deck 1939 to 1945 global conflict. All major naval engagements are concisely and brilliantly recounted here. And there are fine assessments of military leaders like Ernest King and Isoroku Yamamoto. My admiration for this book is boundless! - Douglas Brinkley, Professor of History, Rice University, co-author of Driven Patriot: The Life and Times of James Forrestal
クレイグ・L・シモンズの “World War at Sea” は,1939年から1945年まで全世界が参加した世界規模の戦争について,1巻で非常に充実した貴重な海軍史を記した本である。主要な海軍の戦闘はすべて簡潔かつ見事に記述されている。また,アーネスト・キングや山本五十六などの軍指導者に対する優れた評価も含まれている。この本に対する私の賞賛は限りない! - ダグラス・ブリンクリー,ライス大学歴史学教授,“Driven Patriot: The Life and Times of James Forrestal”(駆り立てられた愛国者:ジェームズ・フォレスタルの生涯と時代)の共著者

Readers will welcome this fine account from a highly qualified guide... A solid storyteller and naval scholar, Symonds mixes politics, strategy, sea battle fireworks, technical details, and personal anecdotes to deliver one of the better single-volume histories of the naval portion of WWII. - Kirkus
読者は,非常に有能なガイドによるこの素晴らしい物語を受け入れるだろう... 堅実なストーリーテラーであり海軍学者でもあるシモンズは,政治,戦略,海戦の華々しい展開,技術的詳細,個人的な逸話を織り交ぜて,第二次世界大戦の海軍部分に関する優れた一冊の歴史書の 1冊を刊行した。 - カーカス

World War II at Sea is an effective, well-written account of the war above, on, and below the oceans that draws on both classic and very recent writing to synthesize a single narrative of the entire conflictno small feat. Even experienced readers will find valuable insights about participants, such as Finland and Italy, that are generally neglected. For anyone seeking a one-stop-shop, up-to-date naval history of the period, World War II at Sea is the book to read. - America in WWII
“World War II at Sea” は,海上,海面,海中の戦争に関する効果的でうまく書かれた記述で,古典的な記述とごく最近の記述の両方を利用して,戦争全体の 1つの物語をまとめている。これは決して小さな偉業ではない。経験豊富な読者でさえ,フィンランドやイタリアなど,一般的に無視されている参戦国に関する貴重な洞察を見つけるだろう。この時代の最新の海軍史をワン・ストップで探している人なら,“World War II at Sea” は読むべき本である。 - “America in WWII
(転載了)
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翻訳されてないようです。

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