17年前(2009年)に N.Y.Times に掲載された,写真集 “TAKE IVY” に関連したファッション記事を読む。
1965年,当時の「婦人画報社」から発行された,アイビー・リーガーの服装を記録した写真集 “TAKE IVY” の写真を 2008年に 米国のブロガーが スキャンして ウェブサイトに掲示したこともあって 米国内で広く知られるようになり,発売時 ¥500の写真集に千ドルから数千ドルの値がつきました。
そして 2010年,‘powerHouse’ により,英語による復刻版が出版されました。
その間の 2009年,‘N.Y.Times’ が ファッション欄 ‘Dress Codes’ に掲載した “TAKE IVY” に関連する記事を下記,拙訳・転載します。
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The New York Times,Dress Codes
“The All-American Back From Japan”
「日本から帰った オール・アメリカン」
By David Colman,June 17, 2009
既にお気づきの通り,アメリカン・プレッピー・スタイルが再びブームとなっている(come back for another goround)。マドラス・チェック柄の服が至る所にあり,ボタン・ダウン・シャツもどこにでもある。‘Nantucket reds’ - 色褪せたピンクのパンツ - が新たなカーキ・パンツとして注目を集め,スペリーのトップサイダー(Sperry Top-Siders)は,もはや ‘top decks’ より 屋上テラスでよく見かけるようになった。ポロシャツのロゴ(insignia)には,‘Polo pony’ や ‘Lacoste crocodile’ といったお馴染みの動物(critters)が,まるで動物園のように溢れている。
近年,このトレンドはインターネットを通じて新たな局面を迎え,かつてはあまり知られていなかった(obscure)米国ブランドへの関心が復活している(resurgence)。お馴染みの L.L.Beanの duck boots,Brooks Brothersのシャツ,Ray-Banの Wayfarersに加え,Filsonのダッフル・バッグ,Gokeyのブーツ,Aldenのドレス・シューズ,Gitmanのオックスフォード・シャツ,Quoddy Trailのモカシン,Wm. J. Millsのキャンバス・トート・バッグなど,挙げればきりがない。Southwickや Woolrich といった瀕死の(moribund)ブランドが,新しいデザインで復活を遂げている。そして,Thom Browne,Band of Outsiders,Benjamin Bixbyといった小規模ブランド(small houses)から,J. Crew や Ralph Laurenといったメガブランドまで,人気のアメリカン・ファッション・ブランドが,昔ながらの(old-school)スタイルをさらに推し進めている。
As fashion moments go, this is as all-American as it gets, right?
ファッションの瞬間としては、これぞまさにアメリカらしい(all-American)と言えるだろう?
いや,実はそうではない。今日のプレ・パンデミックがこれほど興味深いのは,驚くことに それが非常に日本的だからである。確かにそのスタイルはアメリカにルーツがあるが,今日のプレップ・スタイルの精神,厳格さ(rigor),そして実行力(execution)は,ソニーと同じくらい日本的である。その雰囲気を理解するには(get the drift),林田昭慶が1965年に東部の大学キャンパスで撮影した写真集 “Take Ivy” をざっと眺めるだけで十分だろう。
“Take Ivy” は米国では常に極めて希少であり,ファッション業界関係者(fashion insiders)の間では貴重な宝物(treasure)として,eBayや古書店で1,000ドル以上で取引される(fetch)こともある。しかし,ここ数ヶ月,この本のスキャン画像がオンライン上に次々と出回るようになった。ファッションにこだわるウェブ・サイトやブログ(acontinuouslean.com や thetrad.blogspot.comなど)のネットワークを駆け巡り,プレッピー・スタイルの先見性(prescience)を示すものとして,再び注目を集めている。(アメリカでは,プレッピーという言葉が広く使われるようになったのは,ベストセラーとなった書籍と大ヒット映画 『ある愛の詩(Love Story)』のおかげで1970年になってからであり,プレッピー・スタイルが本格的に花開くのは、ベストセラーとなった『オフィシャル・プレッピー・ハンドブック(Official Preppy Handbook)』が出版された1980年になってからのことである。)
しかし,“Take Ivy” は先見の明(prescient)があったわけではなく,まさに時宜を得た作品だった。依頼主は石津謙介氏で,彼はアイビー・リーグに傾倒したアパレル・ブランド ‘Van Jacket’ の創設者であり,1960年代初頭に日本のティーンエイジャーや若者の間でセンセーションを巻き起こした人物だった。石津氏は,いわばラルフ・ローレンの先駆け(avant la lettre)のような存在だった。
「‘Van look’ と呼んでもよかったかもしれない。」と,‘Engineered Garments’(ヴィンテージのワークウェアを彷彿とさせるブランド)のデザイナー兼創設者であり,リニューアルされた ‘Woolrich Woolen Mills’ (1950年代のニュー・イングランドを彷彿とさせるブランド)のデザイナーでもある鈴木大器は振り返る。彼は,日本での幼少期から “Take Ivy” を覚えており,日本で一般的にアイビー・ルックと呼ばれるスタイルが,‘Levi’s’ や ‘Red Wing’ のブーツといったアメリカ製品への熱狂が加速するにつれ,70年代から80年代にかけて定番になったことを覚えている。1989年,鈴木氏は米国に移住し,ワシントン州の ‘White’s Boots’,ウィスコンシン州の ‘Russell Moccasin’,ミネソタ州の ‘Duluth Pack backpacks’など,新しい米国人デザイナーやあまり知られていないブランドを輸入する大手日本企業で働き始めた。
「面白いことに,この正真正銘の(authentic)アメリカン・スタイル(Americana)は,米国では誰も見向きもしなかった。」と鈴木氏は語る。「しかし,私がそれを米国に持ち帰ると,皆 『わあ,これは本当に素晴らしい!これは何?』って言う。今は違う。今は,ここでも人気が出ている。」
鈴木にはその事情がよくわかる。1999年,インターネットの普及によって,彼が探し出した「メイド・イン・USA」の特別な価値が薄れ始めた頃,彼はヴィンテージのアメリカン・アイテムを現代の好みに合わせてアップデートするというアイデアで,‘Engineered Garments’ を設立した。そして5年間,このブランドは日本国内のみで販売されていた。ここ数年で米国の人々もその魅力に気づき始め,今では ‘Barneys New York’ で大人気となっている。
この米国発の輸出型ビジネス・スタイルは奇妙に聞こえるかもしれないが,決して珍しいものではない。1993年から米国に拠点を置き(そしてアメリカで製造している)日本資本のブランド,‘Post Overalls’ は,今年の春にようやく米国での販売を開始した。1902年に ニュー・ヘイブンで創業し,1986年に日本のファッション大手 樫山に買収された由緒ある(venerable)アイビー・リーグ系アパレル・ブランド(Ivy League clothier),‘J. Press’ は,米国内にマサチューセッツ州ケンブリッジ,ニュー・ヘイブン,ニューヨーク,ワシントンに4店舗を構えているが,日本国内の伊勢丹などの百貨店で販売される米国製J.プレス商品の約6倍の売上を上げている。
日本人のアメリカン・スタイルへの傾倒(penchant for)は,単なる経済的な理由だけではなく,スタイルの問題でもある。かつて日本では考えられなかったような(once unthinkable here),全身(in head-to-toe)アイビー・ルックを着こなす日本人男性も珍しくない - 例えば,ブレザーにネクタイ,チェック柄のショート・パンツに ニーソックスのような。
しかし,トム・ブラウン(Thom Browne) や ‘Band of Outsiders’ のスコット・スターンバーグ(Scott Sternberg)といった,古き良きアメリカン・スタイルに新たな息吹を吹き込む(tinker with)米国人デザイナー(彼らの商品は米国製で,日本でも非常に人気が高い)への熱狂ぶり(zeal)を考えると,こうした極端なスタイルがついに米国でも流行し始めていると言えるだろう。
今月号のGQに掲載された,ボートシューズを愛用する南部出身者のコラムでは,このトレンドを「成り上がり者(arrivistes)がやり過ぎている(going overboard)」と批判している(inveighs)。しかし,どちらのアイビースタイルがより正当(valid)と言えるだろうか?
鈴木氏は,ブラウン氏と初めて会った時のことを鮮明に覚えている,二人ともまだブランドを立ち上げたばかりの頃だった。「彼はグレーのスーツにボタン・ダウン・シャツ,ネクタイ,カシミヤのカーディガン,そしてウィングチップ・シューズを履いていた。」と鈴木氏は振り返る。「『こんなに日本風の着こなしをした米国人を見たのは初めてだ。』 と思ったのを覚えている」。
ブラウン氏は光栄に思っている(flattered)。「素晴らしい。」と彼は言った。「日本人は米国人よりも,完璧なアメリカン・スタイルをよく理解している。彼らは,このアメリカン・ルックが世界中で認識される(identifiable)スタイルであることを理解している。我々はそれを高く評価していと考えるが,実際は彼らほどではない。」
しかし,状況は変わりつつある。少し前までは,男性がドレス・ショーツを小馬鹿にして(scoffed),ましてや仕事に履いていくなど考えられなかった。今では,シアサッカー(seersucker)のスーツ,リボン・ベルト,ホーン・リム(horn-rimmed)の眼鏡と並んで,夏の定番アイテムとなっている。中には,シンプルなボート・シューズ,色褪せたラコステのシャツにジーンズ,あるいはカーキのスーツにマドラス・チェックのネクタイといった,控えめなスタイル(low-key)を好む男性もいるが,ブルーのブレザー,ボタン・ダウン・シャツ,バミューダ・パンツ,ローファーといった本格的な(full-on)ジャパニーズ・プレッピー・スタイルでさえ,着こなす自信があれば格好良く見えるものである。
こうした異文化交流(cross-pollination)は興味深く,同時に不可解(confusing)でもあるが,一見すると(ostensible)異端児のような人々が,由緒ある(holy)タータン・チェックからインスピレーションを得て,それをさらに洗練させてきた(bettering)物語には,輝かしい(august)歴史がある。米国最古のメンズウェア・ブランド(men’s clothier)である ‘Brooks Brothers’ と,名門(venerable)‘Ray-Ban’ は,イタリアの ‘Del Vecchio’ 一門が所有している。‘Love Story’ の著者であるエリック・シーガル(Erich Segal)と,‘The Official Preppy Handbook’ を編纂したリサ・バーンバック(Lisa Birnbach)はユダヤ人であり,‘Band of Outsiders’ のスコット・スターンバーグ(Scott Sternberg)(今週,アメリカ・ファッション・デザイナー協議会のメンズ・ウェア部門で同率1位を獲得)もユダヤ人,そしてもちろん,このスタイルの最も有名な提唱者であるラルフ・ローレン(Ralph Lauren)もユダヤ人である。ちなみに、プレッピー・スタイルを象徴する2つの生地,ギンガム・チェックと シアサッカーは,英国を経由してインドから米国に伝わったものである。
アンドレ・ベンジャミン(André Benjamin),別名アンドレ3000(André 3000)は、アイビー・リーグ風の鮮やかな ‘Benjamin Bixby line’(おそらく真に斬新な視点を持つ唯一のセレブリティ・ライン)のデザイナーである。彼は80年代から90年代初頭にかけてのプレッピー・ブームの真っ只中,アトランタで育った。同級生たちが服や車にお金を使い,ポロシャツを2枚も3枚も重ね着し,フォルクスワーゲン・カブリオレのようなプレッピー・カーに憧れていた(fetishizing)様子を鮮明に覚えている。
「アジア系コミュニティでどのように受け止められているかは分からないが」と彼は言った。「黒人コミュニティでは,常に向上心を持って努力している。ほとんどの黒人の子供たちは大学にすら進学できず,ただひたすら自分の意志でそこへたどり着けることを願うばかりだ。」
「多くの物事と同様に,神話は現実よりも大きく描かれている。WASP(白人アングロサクソン系プロテスタント)のライフスタイル(WASPy lifestyle),親や伝統は魅力的に見えますが,外から見ると全く違った視点が得られる。」 ラルフはそういう出身ではない。要は自分なりのアレンジを加えることだ。」
ベンジャミン氏にとって,かつてのプレッピー・スタイルの魅力は,「WASPらしさ(WASPiness)」ではなく,不安から解放された,気楽で洗練された自由さを暗示する点にあった。それはまるで映画 ‘Love Story’ のWASPロミオ,オリバー・バレット4世(Oliver Barrett IV)のような,特権意識に満ちた(entitled)無邪気さ(naïveté)だった。
「私たちが話しているこのアイビー・リーグ・スタイルの黄金時代 ― ブルー・ブレザー,チノパン(chinos),スウェットシャツ,ツイード・ジャケット - 私が好きなのは,まるで考え抜いたように見えないスタイルだ。気遣っているように見えるけれど,実際は気にしていないように見える。」
もちろん,世界で最もセンスが良く,色彩豊かな服装の持ち主の一人であるベンジャミン氏は,実際には深く考えている。それは彼の服装にも,そして最新のプレッピー・スタイル(prep gear)にも表れている。それがどうしたというのだ?愛には当てはまらないかもしれないが,寄宿学校の生徒なら誰でも知っているように,プレッピー・スタイルとは,決して謝る必要がないことを意味するのだ(preppy means never having to say you’re sorry)。
(転載了)
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‘Love Story’ の台詞,“Love means never having to say you're sorry” をもじって結んでいました。
(日本での映画上映時は 「愛とは決して後悔しないこと」と訳されました。)


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